総額2兆円!巨額のマイナンバー予算を懐に納める「巨大企業」の実名 現場は「手入力デスマーチ」のさなか

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

一度走り出したら、立ち止まることも間違いを認めることもできず、破滅まで突き進む-。そんな日本の悪しき性が、また鎌首をもたげている。くり返される失敗の深層には、この国の宿痾があった。
〈該当する資格がありません〉
マイナンバーカードを端末にかざすと、そんなエラーが表示された。持ち主はパニックだ。
「どうなってるの? 保険適用じゃなくなるの?」
困惑する患者をなだめ、すぐさま役所に問い合わせる-大阪府の北原医院では、マイナンバーカードを保険証として使えるようにするシステムを導入した今春から、こんな光景がたびたびくり広げられている。同院の井上美佐院長が語る。
「エラーが出る原因は、大きく分けて2つ。マイナンバーカードに記されている名前の漢字や住所といった情報が、保険証にある登録内容と合致せずハネられてしまうケースと、結婚・離婚などで苗字が変わったり、勤務先が変わって社会保険から国民健康保険に切り替わったけれど、役所の側の情報更新が追いついていないケースです」
Photo by gettyimages
呆れたのは、地元の自治体に問い合わせた際、こう言われたことだ。
「役所で使っているパソコンが古くて、その患者さんの名前の漢字を正しく表示できない。申し訳ないが、今まで通り紙の保険証を持って来てもらってください」
岸田政権は来年’24年の秋をめどに「保険証の廃止」そして「マイナンバーカードへの完全移行」を強行しようとしている。だが、こんな体たらくではとうてい不可能だろう。井上氏が続ける。
「紙の保険証がなくなってマイナ保険証だけになれば、エラーが出た人が健康保険に加入しているかどうか、簡単にはわからなくなるでしょう。患者さんに『被保険者資格の確認がとれないので、とりあえず診療費を10割払ってください』なんて言ったら、揉めごとになるに決まっています」
これまで「住民票をコンビニで発行できる」「マイナポイントがもらえる」という程度だったマイナンバーカードの使い道を、いきなり急拡大させる。そんな拙速な判断を政府が下したせいで、大混乱が起きていることはご存知の通りだ。
宮崎県では7月、県の職員が、障害者の持つ療育手帳のデータをマイナンバーと関連づける「紐付け」作業中に、パソコン上の個人情報を1行ズレた状態でコピーし、2336名の県民に別人のマイナンバーが関連づけられる事故が起きた。
このミスは、たった一人の職員が長時間作業にあたっていたために起きたと言われる。各地の役所も、同じような極限状況だ。千葉県の某中規模自治体の幹部が明かす。
Photo by gettyimages
「マイナンバー関連の作業はコロナワクチン接種と同様、国は指示するだけで、実務は自治体や関係機関に丸投げです。
日本人の名前や住所は表記がまちまちで、漢字・カナ・異体字が交じっているため、目視で書き写して何度も確認しないといけない。何万人分ものデータをくり返しチェックするわけですが、秘密を守るために、認証の済んだ少人数のスタッフが作業せざるを得ません」
目を血走らせながら、来る日も来る日も手作業で膨大なデータの入力・確認に明け暮れる-こうした現状は行政の現場でデスマーチ(死の行進)と言われている。
自治体だけではない。マイナ保険証のトラブルは、約4000万人の健康保険のデータを管理する全国健康保険協会、通称「協会けんぽ」の内部でもデスマーチが常態化しているために起きているのだ。8月16日には、同協会の加入者40万人分の保険情報とマイナンバーが紐付けできていないことが判明した。保険証関連のエラーは、週に数千件にのぼる。
「制度の発足当初、保険証を完全にマイナンバーカードで代替するなんて計画はなかった。河野太郎デジタル大臣が去年の10月、ほとんど思いつきで言い出した話で、我々は国の行き当たりばったりに振り回される日々です」(前出・自治体幹部)
’16年の導入から7年が過ぎ、日本はいま「マイナンバー敗戦」に突き進んでいる。その恐るべき実態を見ていこう。
Photo by gettyimages
「健康保険、年金、運転免許、介護保険と、これまで日本では複数の『番号制度』がバラバラに運用されてきました。マイナンバーは当初、’03年から稼働している住民基本台帳ネットワークシステム、いわゆる『住基ネット』レベルの情報とだけ連携するという話でしたが、後付けで他の諸制度とも連携することになった。
マイナンバーを導入すれば、並立する制度を一つにスッキリまとめられるのではないかと思うかもしれませんが、実態は逆です。日本の公的システムは増改築を繰り返して巨大化した旅館のように、複雑怪奇な構造になりつつある」(ITジャーナリストの佃均氏)
これまでマイナンバーのシステム構築、ほかの行政サービスとの紐付け、カード発行・交付、マイナポイントをはじめとする普及促進策などの諸政策に費やされた予算は、2兆円を超える。
中でも、巨額の費用が渡っているのが「5大ベンダー(=ITシステム開発会社)」と呼ばれる企業群だ。富士通、日立製作所、NTTデータ、NEC、日本IBMの5社で、日本の行政をシステム面から牛耳る存在である。神奈川県の某自治体の元首長が証言する。
「今春にも、マイナカードを使ってコンビニで住民票を発行したら他人のものが出てくるトラブルがありましたが、原因は富士通の子会社『富士通Japan』が開発したシステムの不備でした。
とりわけ富士通は日本の自治体に最も食い込んでいて、各地の役所のサーバー室の管理を請け負ったり、社員を送り込んだりして、自分たち以外は公共システムをいじれないようにする。機器やシステムを維持管理する利権さえ確保すれば、あとは安泰ですからね。この構造が非効率な仕事の温床になっている」
Photo by gettyimages
何十万人、何百万人もの個人情報を扱う行政のITシステムは、いわば巨大な「バーチャル書庫」のようなものだ。しかし、道路やホールのように目に見えるわけではないから、そこにムダと非効率、寡占・独占があっても批判されづらい。
国民の目が届かないところで、まるで平成期に談合で槍玉に上がった建設業界とそっくりな、「もたれ合い」の構造が温存されてきたのである。
「週刊現代」2023年8月26日・9月2日合併号より
なぜこんな「怪物」ともいえる制度は生まれてしまったのか。後編記事まさに「誰得」なマイナンバー制度、政治家がゴリ押すウラにある「あまりに不幸な日本の未来予想図」に続く。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。