公営プール「露出の多い水着」をめぐるトラブル 権利を主張するだけでは解決しにくい側面も

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多くの人の目に触れる新たな公共空間といえるネットでは、AIによって肌色を検出し、一定の割合を超えた露出の服装をした画像や動画を検索結果から除外したり、SNSでは自動的に閲覧不可にするのが当たり前となっている。露出過多を理由にした自動削除でトラブルになったという話はあまり聞かないが、リアルの公共空間で露出過多について注意すると、「本人の自由」という主張と衝突しトラブルになる例が増えているという。ライターの宮添優氏が、公営プール運営に携わる人たちが直面する、自分勝手を権利と主張し一般利用者の安心安全を脅かす人たちの存在についてレポートする。
【写真】係員の注意に耳を傾けてほしい * * * 埼玉県営公園のプールで開催予定になっていた水着撮影会について、2023年6月、管理する埼玉県公園緑地協会が撮影会を実施する団体に中止要請をしたことが話題になった。この中止要請は一部について、いったん取り下げられたが、その後「マイクロビキニの禁止」「過激とみなされるポーズの禁止」など暫定的な条件が改めて明示され、9月以降に実施予定の撮影会に適用されるという。公共の施設で過激なイベントが行われようとしていたことに人々は驚き、寸前で止められたことに安堵の声が広がったが、各地のプール運営に携わる現場からは「あれほど極端ではないが……」との別の懸念の声も聞こえてくる。「被害」をたびたび訴える常連客「プール内で盗撮された、ジロジロ見られたと訴える女性客は、年々増えている印象です。コロナが落ち着き、通常営業なった今年もやはり多い。実際、盗撮などの迷惑行為で警察に通報する機会も少なくないですが、中にはあえてトラブルになるような行動を起こす人もいます」 こう話すのは千葉県内の市営プール勤務・金田良彦さん(仮名・40代)。盗撮や痴漢など、女性を狙う卑劣な犯罪は許されないが、こうした被害が増えるのと比例して、本当に痴漢や盗撮被害に遭ったのか疑わしいような人々の「訴え」も寄せられるのだという。「露出が極めて多い水着を着た女性客の集団が、混み合うプールサイドで隣にいた中年男性客の集団とトラブルになっていました。駆けつけると、女性達が盗撮やセクハラの被害を訴えていましたが、実は女性客の集団、混み合うプール内でたびたび男性を相手に被害を受けたと大騒ぎして、たびたびトラブルを起こすことで知られた人たちでした。彼女たちは、そうやって騒いで周囲から人を遠ざけることで、混み合った園内で自分たちのスペースを確保しているんです」(金田さん) 盗撮された、セクハラだと指摘された男性側も反論し、警察沙汰になったことは2度3度ではない。しかし毎回、盗撮やジロジロ見た、など訴えのような内容を示す証拠は確認できず、互いへの聞き取りが終わると、男性客は不満な顔で退場し、女性客達は「定位置」に戻っていくのだという。「似たような女性客は年代を問わずにいらっしゃいます。プールサイドでトップレスになっているのに、注意しにいくと悲鳴を上げられてセクハラ呼ばわりする女性、周囲に中高生がいるのに更衣室でないところで急に素っ裸になって水着に着替える女性などです。相手が男性ならビシッと注意できますが、女性は難しい。男性スタッフならなおさらです」(金田さん) こうした女性にまつわるトラブルに介入しやすくするため、若い女性スタッフも増員した。ところが、似たような迷惑客は減るどころか増えていると金田さんは表情を曇らせる。ついには男性客からは「ここは女のための施設か」と捨て台詞を吐かれるような事態にまで発展しているが、現状を打開する具体的な手立ては「思いつかない」とうなだれる。「権利といわれればそうかもしれません。でも、気まずそうに横を通り過ぎる小さな子連れのお客さんや、中高生の集団などを見かけると、せっかく楽しかったはずなのに、気分を台無しにされているのが気の毒でかわいそうです」過激な水着の男性客による迷惑行為 東京都内の公営プール管理人・宮崎洋美さん(仮名・50代)は、冒頭で触れた「水着撮影会の中止」騒動を見て、胸をなで下ろした。宮崎さんが勤務する公営プールでも過激な水着を着た人をめぐる迷惑行為が横行し、客には個別に注意を促してきたが、客から「権利」とか「自由」などと言われて、結局は見過ごすしかできなかったと振り返る。「女性で過激な水着を着られる方が、毎回やってきては不特定の男性客から見られた、盗撮されたと仰るので、せめて水着を控えめにしてくださいとお願いしたことがありました。しかし、どんな水着を着ようと自由、露出度の基準を教えろと凄まれてしまいました」(宮崎さん) 似たような自分勝手な論理を振りかざすのは、何も女性だけではない。露出度の高い水着を着た男性客らの存在も、宮崎さん達を大いに悩ませる。「陰部だけがギリギリ隠れているようなきわどい水着や、おしりが完全に出てしまっているような小さな水着を履いてやってくる男性客がいます。プールにも入らずウロウロしたり、わざと露出部を客に見せつけるように寝転んだりして、お客さんからクレームが入るんです」(宮崎さん) 以前なら、こうした男性客達は注意を受ければ退散するか、水着の上にタオルをまくなどしてくれていたが、最近は違う傾向があるという。「どんな水着を着ようと自由だし、権利だと仰います。セクハラですと指摘しても、それは個人の自由だとか、LGBTQの話を持ち出して、人権感覚が遅れているとまで言われる。みんなが自分勝手な自由を主張し、まわりに迷惑をかけているようにしか思えません。でも、権利だとか自由と言われると、もはや私たちもわからないし、権利を強く主張する人たちに詰め寄られるのが何よりも恐ろしくて、閉口するしかないんですよ」(宮崎さん) 人々が持つ自由、そして権利の尊さは言うまでも無い。だが、その自由には他人を不愉快にさせたり傷をつけることまでは当然含まれないし、また、権利を持っていても、他人の権利を侵してまで自分の権利を強引に優先させることも、社会においては許されていない。その権利を行使したいのであれば、公営プールではない場所で、そういった目的の同好の友と楽しめば良いだけ。その言動を不快に思う人たちがいることが簡単に想定できるのに、それでも権利を主張し続けるのは、もはや嫌がらせだ。 同様のトラブルが続けば、もはや個人の自由や権利が制限される未来がやってくることは誰の目にも明らかだ。自由や権利と言った言葉が乱用され、すでに言葉の持つ意味が薄れていってしまっているようにすら思えるのだ。
* * * 埼玉県営公園のプールで開催予定になっていた水着撮影会について、2023年6月、管理する埼玉県公園緑地協会が撮影会を実施する団体に中止要請をしたことが話題になった。この中止要請は一部について、いったん取り下げられたが、その後「マイクロビキニの禁止」「過激とみなされるポーズの禁止」など暫定的な条件が改めて明示され、9月以降に実施予定の撮影会に適用されるという。公共の施設で過激なイベントが行われようとしていたことに人々は驚き、寸前で止められたことに安堵の声が広がったが、各地のプール運営に携わる現場からは「あれほど極端ではないが……」との別の懸念の声も聞こえてくる。
「プール内で盗撮された、ジロジロ見られたと訴える女性客は、年々増えている印象です。コロナが落ち着き、通常営業なった今年もやはり多い。実際、盗撮などの迷惑行為で警察に通報する機会も少なくないですが、中にはあえてトラブルになるような行動を起こす人もいます」
こう話すのは千葉県内の市営プール勤務・金田良彦さん(仮名・40代)。盗撮や痴漢など、女性を狙う卑劣な犯罪は許されないが、こうした被害が増えるのと比例して、本当に痴漢や盗撮被害に遭ったのか疑わしいような人々の「訴え」も寄せられるのだという。
「露出が極めて多い水着を着た女性客の集団が、混み合うプールサイドで隣にいた中年男性客の集団とトラブルになっていました。駆けつけると、女性達が盗撮やセクハラの被害を訴えていましたが、実は女性客の集団、混み合うプール内でたびたび男性を相手に被害を受けたと大騒ぎして、たびたびトラブルを起こすことで知られた人たちでした。彼女たちは、そうやって騒いで周囲から人を遠ざけることで、混み合った園内で自分たちのスペースを確保しているんです」(金田さん)
盗撮された、セクハラだと指摘された男性側も反論し、警察沙汰になったことは2度3度ではない。しかし毎回、盗撮やジロジロ見た、など訴えのような内容を示す証拠は確認できず、互いへの聞き取りが終わると、男性客は不満な顔で退場し、女性客達は「定位置」に戻っていくのだという。
「似たような女性客は年代を問わずにいらっしゃいます。プールサイドでトップレスになっているのに、注意しにいくと悲鳴を上げられてセクハラ呼ばわりする女性、周囲に中高生がいるのに更衣室でないところで急に素っ裸になって水着に着替える女性などです。相手が男性ならビシッと注意できますが、女性は難しい。男性スタッフならなおさらです」(金田さん)
こうした女性にまつわるトラブルに介入しやすくするため、若い女性スタッフも増員した。ところが、似たような迷惑客は減るどころか増えていると金田さんは表情を曇らせる。ついには男性客からは「ここは女のための施設か」と捨て台詞を吐かれるような事態にまで発展しているが、現状を打開する具体的な手立ては「思いつかない」とうなだれる。
「権利といわれればそうかもしれません。でも、気まずそうに横を通り過ぎる小さな子連れのお客さんや、中高生の集団などを見かけると、せっかく楽しかったはずなのに、気分を台無しにされているのが気の毒でかわいそうです」
東京都内の公営プール管理人・宮崎洋美さん(仮名・50代)は、冒頭で触れた「水着撮影会の中止」騒動を見て、胸をなで下ろした。宮崎さんが勤務する公営プールでも過激な水着を着た人をめぐる迷惑行為が横行し、客には個別に注意を促してきたが、客から「権利」とか「自由」などと言われて、結局は見過ごすしかできなかったと振り返る。
「女性で過激な水着を着られる方が、毎回やってきては不特定の男性客から見られた、盗撮されたと仰るので、せめて水着を控えめにしてくださいとお願いしたことがありました。しかし、どんな水着を着ようと自由、露出度の基準を教えろと凄まれてしまいました」(宮崎さん)
似たような自分勝手な論理を振りかざすのは、何も女性だけではない。露出度の高い水着を着た男性客らの存在も、宮崎さん達を大いに悩ませる。
「陰部だけがギリギリ隠れているようなきわどい水着や、おしりが完全に出てしまっているような小さな水着を履いてやってくる男性客がいます。プールにも入らずウロウロしたり、わざと露出部を客に見せつけるように寝転んだりして、お客さんからクレームが入るんです」(宮崎さん)
以前なら、こうした男性客達は注意を受ければ退散するか、水着の上にタオルをまくなどしてくれていたが、最近は違う傾向があるという。
「どんな水着を着ようと自由だし、権利だと仰います。セクハラですと指摘しても、それは個人の自由だとか、LGBTQの話を持ち出して、人権感覚が遅れているとまで言われる。みんなが自分勝手な自由を主張し、まわりに迷惑をかけているようにしか思えません。でも、権利だとか自由と言われると、もはや私たちもわからないし、権利を強く主張する人たちに詰め寄られるのが何よりも恐ろしくて、閉口するしかないんですよ」(宮崎さん)
人々が持つ自由、そして権利の尊さは言うまでも無い。だが、その自由には他人を不愉快にさせたり傷をつけることまでは当然含まれないし、また、権利を持っていても、他人の権利を侵してまで自分の権利を強引に優先させることも、社会においては許されていない。その権利を行使したいのであれば、公営プールではない場所で、そういった目的の同好の友と楽しめば良いだけ。その言動を不快に思う人たちがいることが簡単に想定できるのに、それでも権利を主張し続けるのは、もはや嫌がらせだ。
同様のトラブルが続けば、もはや個人の自由や権利が制限される未来がやってくることは誰の目にも明らかだ。自由や権利と言った言葉が乱用され、すでに言葉の持つ意味が薄れていってしまっているようにすら思えるのだ。

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