「国会議員の“バカンス”に4億円の税金が」「VIPルームに観劇チケットまで…」 驚くべき「アテンド」の内容とは?

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永田町の夏の風物詩ともいえる“国会議員の海外視察”がコロナ禍を経て4年ぶりに復活した。花の都パリで浮かれる姿が早速炎上した折も折、本誌(「週刊新潮」)は外務省が公的地位にある者に対して行うアテンド、すなわち「便宜供与」の詳細をつかんだ。その驚くべき中身とは。
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【写真6枚】今井絵理子の移動車を運転する「ハシケン」 髪を伸ばし、かつて不倫が報じられたときとは印象が異なる 円安・物価高で海外旅行は高くつくようになったが、国会議員は気楽なものだ。 自民党女性局長(22日付けで辞任)の松川るい参院議員(52)が今井絵理子参院議員(39)らと出かけたフランスのパリ視察は、まさにその象徴。両氏が花の都で撮ったお気楽な写真をSNSに投稿すると“浮かれすぎ”“自費で行け”と非難の声が噴出した。

今井絵理子参院議員 松川氏などは名所で決めたおどけたポーズが命取りとなって“エッフェル姉さん”なる、甚だ不名誉なあだ名まで頂戴している。 もっとも、公私混同ぶりを指摘されたのは、彼女たちだけではない。 今年1月、岸田文雄総理(66)の長男・翔太郎氏(32)が、総理秘書官として父の欧州・北米5カ国訪問に同行。その際、公用車を使って翔太郎氏がロンドンやパリの観光名所を巡り、土産物を買いあさっていたことが本誌報道で明るみに出た。 政府は、この“公用車ショッピング”に関して、「個人の観光動機による行動は一切なかった」 などと釈明。買い物は公務の一環だったと言い逃れようとしたものの、批判の続報が各メディアから相次ぎ、今に続く政権の支持率低下を招いたのだった。厳格化をアピールしているが…「こうした件が容認されないのは感情論としても当然のことといえますが、実はそれ以上の問題が横たわっているんです」 そう語るのは、さる政府関係者である。「2019年4月、当時外相だった河野太郎氏(60)が、議員の外遊における“新ルール”を策定しました。それはあくまで外見上は、公と私を今後きっちり区別する、と厳格化をアピールする形になっています」 河野大臣名義で作成された政府の内部文書は、その名も「国会議員の公務による外国訪問に対する便宜供与」。要は、議員が公務で外国を訪れる際の、外務省(および現地公館)によるアテンドに関するルールを定めたものである。 国会議員は、通常国会会期中でも大型連休になると海外出張に行くことが多く、閉会後はこれまた夏休みに大挙して海外視察に訪れるのが久しく通例となっている。 しかし、衆参両院派遣の出張や視察は税金が原資であり、常に国民の冷ややかな視線を浴びてきた。だから訪問先での公私を峻別する、というわけだ。 当時、読売新聞(19年4月17日付夕刊)は、次のように報じている。〈外務省は今月27日からの10連休を前に、海外を訪れる国会議員に対する現地の在外公館の支援を軽減するための新たなルールを衆参両院事務局に通知した。便宜供与の対象を1週間前までに依頼があった公務に限り、現地の大使や総領事による空港出迎えは原則として行わないとした〉“抜け穴”的な規定が 先の政府関係者が言う。「文書の中に、こんな一節があります。『公的用務で外国を訪問する場合でも、休日等に私的目的で地方や市内の観光地の視察を行う場合には、公用車の配車や館員による同行は、原則として実施できません』。これに従うならば、在外公館は、やって来た議員の私的行動には便宜を図らなくても構わない、ということになります」 ところが、と続けて、「これにあわせて衆参両院の事務局あてに、外務省の官房総務課が作成した文書があります。実はそちらにこそ、現状の問題を解くカギが隠されている。『国会議員の公務による外国訪問に対する便宜供与に係るガイドライン』という、河野外相が策定したものと区別がつきにくい代物ですが、そこには公私混同を今後も認めるかのごとき“抜け穴”的な規定が連綿と記されているのです」 例えば、政府関係者の話に基づくと、こんなくだりがあるそうだ。〈(国会議員が)公的用務の合間に、市内視察・買物等を組み込む場合には〉 と前置きし、〈公的用務の急な日程変更等に柔軟に対応できるようにするとの観点及び在外公館として便宜供与を円滑に遂行するとの観点からも、公用車を継続的に配車し、派遣員を含む館員が同行することは、常識的な範囲内であれば差し支えない〉 何のことはない。公務の間に私用が挟まっている形なら、諸般「円滑に」進めるために公用車を使い、在外公館員を使役していい、と宣(のたま)っているのである。上っ面の改革 国会議員向けに「外遊先で休日に私的な行動を取る場合はアテンドしません」と説明しつつ、ガイドラインと称する現実の運用方法を示した文書では「公務の合間の私用という態ならOKです」とこっそり耳打ち。議員の特権へのお墨付きが裏で与えられていたのだから、翔太郎氏が公用車で堂々、安心して買い物に興じたのも無理はない。 上っ面の改革ばかりで実効性は置き去り――。今回垣間見えたこうした欺瞞(ぎまん)もまた、河野流と言うべきか。 目下担当大臣を務めるデジタル庁でも何かにつけ改革を謳い、その実、ロクな成果もないどころか混乱ばかりを招来している姿と重なって見える。配偶者も家族も秘書も 先の政府関係者いわく、「ガイドラインには他にも『本邦での手配が困難な借り上げ車の予約、ガイドの手配、観劇等のチケットの手配等については、館務に支障のない範囲で、在外公館にて手配しても差し支えない』と記されています。空港での有料のVIPルームの使用についても『真に必要な場合に限る』としながら、事実上受け入れる格好になっているのです」 驚くべきは、恩恵に浴することができる者を、ご丁寧に議員以外にもわざわざ広げて定義していること。「ガイドラインによれば、同行秘書だけではなく、配偶者や家族、支援者についても『国会議員と同一行動を取る限りは』として『可能な範囲で、空港送迎・用務先への配車への同乗等に配慮することとする』。これも、実態として全面容認の形です」文字通りの“上級国民” 外務省は念の入ったことに、便宜供与の対象者を七つに区分しているという。「最上位が『AA』で、これは皇族や総理、閣僚、衆参両院議長など。続く『BB』は両院副議長や閣僚経験者、公党の党首が含まれます。国会議員は上から3番目の『CC』という区分ながら、宿泊先の予約や確保から空港送迎、車の手配、通訳までじつにさまざまな便宜を受けられます。一方、例えば地方公務員や国際機関の邦人職員は下から2番目の『DD』に位置付けられ、空港送迎、車の手配、通訳などのサービスは受けられません」 そして一般の民間人。こちらは「TT」という、七つの区分の最下位で、「在外公館からは、基本的に一切の便宜を受けることができません」 国会議員やその家族らは、これぞ文字通りの“上級国民”というわけなのだ。96名を超える議員がバカンスに とまれ、こうした在外公館による手厚い取り計らいをあてこんで、今夏も永田町のセンセイ方はバカンスへと飛び立った。政府派遣、党派遣を除く、衆参両院の派遣に限ってもその数、実に96を数える。行き先は一見、欧州、北米、東南アジアとさまざまだが、「外遊先で一番人気がある行先は、やはりヨーロッパですね」 とは、政治アナリストの伊藤惇夫氏だ。理由は説明の必要もあるまい。「議会外交一班」というのがある。「政治経済事情等調査」と称してはいるが、観光以外にさして用向きもなさそうなモナコに“パンツ高木”の異名を取る自民党の高木毅国対委員長や緊急事態宣言下に銀座で豪遊していた“銀座3兄弟”の田野瀬太道議員らが足を延ばしているのがいい例だ。「得られるものなどない」 伊藤氏が続ける。「私が民主党の事務局長などとして永田町にいた頃も、夏が近づくと議員が集まり、今年はどこの国に行くかを話し合って、その後に理由付けを考えていましたね。でも、そういう外遊はほとんど意味がありません。たとえばフランスならば、夏はバカンスシーズンですよ。“公用”で訪ねたところで関係者とアポは取りづらく、得られるものなどない」 かつて日本テレビに在籍した政治ジャーナリストの青山和弘氏もこう語る。「その昔、女性による“接待”を在外公館の職員に要望する議員もいたそうです。しかし最近は、議員や同行する配偶者の買い物ツアーのアテンドや、高級レストランの手配がもっぱら職員の負担になっていると耳にします。私が支局長を務めた米国ワシントンの日本大使館には“バッグならこの店、靴ならあの店、和食ならここで、中華ならあそこ”などといった具合にリストが用意されていました」カジノに連れていけ 当事者の声にも耳を傾けてみよう。「日本・カナダ友好議員連盟」の一員としてカナダに赴く自民党・衛藤征士郎衆院議員(82)は、「一日中、向こうの議員団と議論する。観光名所などを訪れる時間もないよ」 冒頭に挙げた松川氏らのパリ研修との「違い」については、こう主張。「エッフェル塔を観に行ったっていいんだよ。問題は、その研修の中身。女性局がどうだったかは知らないが、私たちの議連は外務省だったり厚労省だったりの担当者から、今回のカナダ訪問に先立ってレクを受けたりもしていますよ」 便宜供与に関しては、「向こうの議連とテーマごとの会議をやるから(外務省や現地公館の)職員には通訳もしてもらいます。それは公務員として当然のことではないか」 さてここで、元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏は、こんな話を披露する。「私が便宜供与をしたうち、国会議員で一人だけ例外的にとてもひどい人がいました。細川護煕政権の時のことで、当時の新生党所属のある議員が“モスクワにカジノがあるなんて聞いてなかった。そういう一番重要なことを外務省はどうして説明しないのか”と怒り始め、カジノに連れて行けと言い出したのです」 やむなく佐藤氏は、議員をご希望先へ誘(いざな)ったが、「その議員は賭けに負け続けまして、やがて“金が足りない”と言うわけです。さらに“大使館は貸し付けはしているのか”などと聞いてくる。あまりにうるさいので大使館の総括参事官に相談したところ“裏金がある。そこから3千ドル貸そう”ということになりました。その後、金は返ってきましたが、思い出の中でも一番ひどいものですね」 外務省に長く身を置いた人物ならではの見解も。「議員側にも問題はありますが、一方、大使館の幹部や中堅職員の中でも、幹部候補生たるキャリア組には過剰接待をしたがる傾向が見られます。なぜか。将来有望と見込んだ政治家と縁を結んで歓心を買う場として、便宜供与が一番いい機会だからです」4億円もの税金がバカンスに 得をするのは何も国会議員やその身内に限らない。私心を胸に秘めて接遇する公務員の側にも恩恵を享受できるチャンスがあるというわけだ。 しかし、繰り返すがそれらはすべて、税金を元手に行われているという事実を忘れてはならない。 予算額を両院に質すと、「今年度分の議員の派遣旅費(外国旅費)として約2億7100万円が計上されています」(衆院事務局)「参議院は令和5年度の議員の外国旅費として1億2665万円を計上しています」(参院事務局) つまりは今年度、実に総額約4億円もの血税が議員たちのバカンスに費やされることになるのである。 しかも、在外公館の職員たちの人件費まで含めれば、その額はさらに膨らむ。 前出の政府関係者があきれて言う。「議員たちには調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)として毎月100万円が支給されています。せめてそれで渡航費用などを賄えばいいものを、議員側にそんな考えや事態改善への動きは皆無です。いわゆるアゴアシ付きであるうえに、在外公館から通訳まで付く。いいご身分と言うほかありません」 上級国民としてのうまみを知った者に、その果実を手放せということ自体、土台無理な相談である。「週刊新潮」2023年8月31日号 掲載
円安・物価高で海外旅行は高くつくようになったが、国会議員は気楽なものだ。
自民党女性局長(22日付けで辞任)の松川るい参院議員(52)が今井絵理子参院議員(39)らと出かけたフランスのパリ視察は、まさにその象徴。両氏が花の都で撮ったお気楽な写真をSNSに投稿すると“浮かれすぎ”“自費で行け”と非難の声が噴出した。
松川氏などは名所で決めたおどけたポーズが命取りとなって“エッフェル姉さん”なる、甚だ不名誉なあだ名まで頂戴している。
もっとも、公私混同ぶりを指摘されたのは、彼女たちだけではない。
今年1月、岸田文雄総理(66)の長男・翔太郎氏(32)が、総理秘書官として父の欧州・北米5カ国訪問に同行。その際、公用車を使って翔太郎氏がロンドンやパリの観光名所を巡り、土産物を買いあさっていたことが本誌報道で明るみに出た。
政府は、この“公用車ショッピング”に関して、
「個人の観光動機による行動は一切なかった」
などと釈明。買い物は公務の一環だったと言い逃れようとしたものの、批判の続報が各メディアから相次ぎ、今に続く政権の支持率低下を招いたのだった。
「こうした件が容認されないのは感情論としても当然のことといえますが、実はそれ以上の問題が横たわっているんです」
そう語るのは、さる政府関係者である。
「2019年4月、当時外相だった河野太郎氏(60)が、議員の外遊における“新ルール”を策定しました。それはあくまで外見上は、公と私を今後きっちり区別する、と厳格化をアピールする形になっています」
河野大臣名義で作成された政府の内部文書は、その名も「国会議員の公務による外国訪問に対する便宜供与」。要は、議員が公務で外国を訪れる際の、外務省(および現地公館)によるアテンドに関するルールを定めたものである。
国会議員は、通常国会会期中でも大型連休になると海外出張に行くことが多く、閉会後はこれまた夏休みに大挙して海外視察に訪れるのが久しく通例となっている。
しかし、衆参両院派遣の出張や視察は税金が原資であり、常に国民の冷ややかな視線を浴びてきた。だから訪問先での公私を峻別する、というわけだ。
当時、読売新聞(19年4月17日付夕刊)は、次のように報じている。
〈外務省は今月27日からの10連休を前に、海外を訪れる国会議員に対する現地の在外公館の支援を軽減するための新たなルールを衆参両院事務局に通知した。便宜供与の対象を1週間前までに依頼があった公務に限り、現地の大使や総領事による空港出迎えは原則として行わないとした〉
先の政府関係者が言う。
「文書の中に、こんな一節があります。『公的用務で外国を訪問する場合でも、休日等に私的目的で地方や市内の観光地の視察を行う場合には、公用車の配車や館員による同行は、原則として実施できません』。これに従うならば、在外公館は、やって来た議員の私的行動には便宜を図らなくても構わない、ということになります」
ところが、と続けて、
「これにあわせて衆参両院の事務局あてに、外務省の官房総務課が作成した文書があります。実はそちらにこそ、現状の問題を解くカギが隠されている。『国会議員の公務による外国訪問に対する便宜供与に係るガイドライン』という、河野外相が策定したものと区別がつきにくい代物ですが、そこには公私混同を今後も認めるかのごとき“抜け穴”的な規定が連綿と記されているのです」
例えば、政府関係者の話に基づくと、こんなくだりがあるそうだ。
〈(国会議員が)公的用務の合間に、市内視察・買物等を組み込む場合には〉
と前置きし、
〈公的用務の急な日程変更等に柔軟に対応できるようにするとの観点及び在外公館として便宜供与を円滑に遂行するとの観点からも、公用車を継続的に配車し、派遣員を含む館員が同行することは、常識的な範囲内であれば差し支えない〉
何のことはない。公務の間に私用が挟まっている形なら、諸般「円滑に」進めるために公用車を使い、在外公館員を使役していい、と宣(のたま)っているのである。
国会議員向けに「外遊先で休日に私的な行動を取る場合はアテンドしません」と説明しつつ、ガイドラインと称する現実の運用方法を示した文書では「公務の合間の私用という態ならOKです」とこっそり耳打ち。議員の特権へのお墨付きが裏で与えられていたのだから、翔太郎氏が公用車で堂々、安心して買い物に興じたのも無理はない。
上っ面の改革ばかりで実効性は置き去り――。今回垣間見えたこうした欺瞞(ぎまん)もまた、河野流と言うべきか。
目下担当大臣を務めるデジタル庁でも何かにつけ改革を謳い、その実、ロクな成果もないどころか混乱ばかりを招来している姿と重なって見える。
先の政府関係者いわく、
「ガイドラインには他にも『本邦での手配が困難な借り上げ車の予約、ガイドの手配、観劇等のチケットの手配等については、館務に支障のない範囲で、在外公館にて手配しても差し支えない』と記されています。空港での有料のVIPルームの使用についても『真に必要な場合に限る』としながら、事実上受け入れる格好になっているのです」
驚くべきは、恩恵に浴することができる者を、ご丁寧に議員以外にもわざわざ広げて定義していること。
「ガイドラインによれば、同行秘書だけではなく、配偶者や家族、支援者についても『国会議員と同一行動を取る限りは』として『可能な範囲で、空港送迎・用務先への配車への同乗等に配慮することとする』。これも、実態として全面容認の形です」
外務省は念の入ったことに、便宜供与の対象者を七つに区分しているという。
「最上位が『AA』で、これは皇族や総理、閣僚、衆参両院議長など。続く『BB』は両院副議長や閣僚経験者、公党の党首が含まれます。国会議員は上から3番目の『CC』という区分ながら、宿泊先の予約や確保から空港送迎、車の手配、通訳までじつにさまざまな便宜を受けられます。一方、例えば地方公務員や国際機関の邦人職員は下から2番目の『DD』に位置付けられ、空港送迎、車の手配、通訳などのサービスは受けられません」
そして一般の民間人。こちらは「TT」という、七つの区分の最下位で、
「在外公館からは、基本的に一切の便宜を受けることができません」
国会議員やその家族らは、これぞ文字通りの“上級国民”というわけなのだ。
とまれ、こうした在外公館による手厚い取り計らいをあてこんで、今夏も永田町のセンセイ方はバカンスへと飛び立った。政府派遣、党派遣を除く、衆参両院の派遣に限ってもその数、実に96を数える。行き先は一見、欧州、北米、東南アジアとさまざまだが、
「外遊先で一番人気がある行先は、やはりヨーロッパですね」
とは、政治アナリストの伊藤惇夫氏だ。理由は説明の必要もあるまい。「議会外交一班」というのがある。「政治経済事情等調査」と称してはいるが、観光以外にさして用向きもなさそうなモナコに“パンツ高木”の異名を取る自民党の高木毅国対委員長や緊急事態宣言下に銀座で豪遊していた“銀座3兄弟”の田野瀬太道議員らが足を延ばしているのがいい例だ。
伊藤氏が続ける。
「私が民主党の事務局長などとして永田町にいた頃も、夏が近づくと議員が集まり、今年はどこの国に行くかを話し合って、その後に理由付けを考えていましたね。でも、そういう外遊はほとんど意味がありません。たとえばフランスならば、夏はバカンスシーズンですよ。“公用”で訪ねたところで関係者とアポは取りづらく、得られるものなどない」
かつて日本テレビに在籍した政治ジャーナリストの青山和弘氏もこう語る。
「その昔、女性による“接待”を在外公館の職員に要望する議員もいたそうです。しかし最近は、議員や同行する配偶者の買い物ツアーのアテンドや、高級レストランの手配がもっぱら職員の負担になっていると耳にします。私が支局長を務めた米国ワシントンの日本大使館には“バッグならこの店、靴ならあの店、和食ならここで、中華ならあそこ”などといった具合にリストが用意されていました」
当事者の声にも耳を傾けてみよう。「日本・カナダ友好議員連盟」の一員としてカナダに赴く自民党・衛藤征士郎衆院議員(82)は、
「一日中、向こうの議員団と議論する。観光名所などを訪れる時間もないよ」
冒頭に挙げた松川氏らのパリ研修との「違い」については、こう主張。
「エッフェル塔を観に行ったっていいんだよ。問題は、その研修の中身。女性局がどうだったかは知らないが、私たちの議連は外務省だったり厚労省だったりの担当者から、今回のカナダ訪問に先立ってレクを受けたりもしていますよ」
便宜供与に関しては、
「向こうの議連とテーマごとの会議をやるから(外務省や現地公館の)職員には通訳もしてもらいます。それは公務員として当然のことではないか」
さてここで、元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏は、こんな話を披露する。
「私が便宜供与をしたうち、国会議員で一人だけ例外的にとてもひどい人がいました。細川護煕政権の時のことで、当時の新生党所属のある議員が“モスクワにカジノがあるなんて聞いてなかった。そういう一番重要なことを外務省はどうして説明しないのか”と怒り始め、カジノに連れて行けと言い出したのです」
やむなく佐藤氏は、議員をご希望先へ誘(いざな)ったが、
「その議員は賭けに負け続けまして、やがて“金が足りない”と言うわけです。さらに“大使館は貸し付けはしているのか”などと聞いてくる。あまりにうるさいので大使館の総括参事官に相談したところ“裏金がある。そこから3千ドル貸そう”ということになりました。その後、金は返ってきましたが、思い出の中でも一番ひどいものですね」
外務省に長く身を置いた人物ならではの見解も。
「議員側にも問題はありますが、一方、大使館の幹部や中堅職員の中でも、幹部候補生たるキャリア組には過剰接待をしたがる傾向が見られます。なぜか。将来有望と見込んだ政治家と縁を結んで歓心を買う場として、便宜供与が一番いい機会だからです」
得をするのは何も国会議員やその身内に限らない。私心を胸に秘めて接遇する公務員の側にも恩恵を享受できるチャンスがあるというわけだ。
しかし、繰り返すがそれらはすべて、税金を元手に行われているという事実を忘れてはならない。
予算額を両院に質すと、
「今年度分の議員の派遣旅費(外国旅費)として約2億7100万円が計上されています」(衆院事務局)
「参議院は令和5年度の議員の外国旅費として1億2665万円を計上しています」(参院事務局)
つまりは今年度、実に総額約4億円もの血税が議員たちのバカンスに費やされることになるのである。
しかも、在外公館の職員たちの人件費まで含めれば、その額はさらに膨らむ。
前出の政府関係者があきれて言う。
「議員たちには調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)として毎月100万円が支給されています。せめてそれで渡航費用などを賄えばいいものを、議員側にそんな考えや事態改善への動きは皆無です。いわゆるアゴアシ付きであるうえに、在外公館から通訳まで付く。いいご身分と言うほかありません」
上級国民としてのうまみを知った者に、その果実を手放せということ自体、土台無理な相談である。
「週刊新潮」2023年8月31日号 掲載

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