病死、孤独死から水死まで「遺体修復師」の仕事とは「生前とかけはなれた姿で、火葬するのではなく…」

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遺体を特殊技術を用いて修復するプロフェッショナル集団がいる。東京・足立区にある「有限会社統美」は遺体を保全し特殊修復を施すことで、故人の時間を少し戻し、生前の姿をよみがえらせるという。不慮の事故や事件、自死、孤独死、病死などで、大きく遺体が損傷してしまった故人であってもだ。
【画像】病死、孤独死から水死まで、大きく損傷したご遺体も生前に近い姿に…遺体修復師が使用する「道具」を見る(全8枚)
同社の代表取締役でもある染谷幸宏さんと、取締役・角田智恵美さんに「遺体修復師」の仕事について話をうかがった。(全3回の1回目/続きを読む)
代表取締役・染谷幸宏さん、取締役・角田智恵美さん 文藝春秋(撮影:松本輝一)
◆◆◆
――恥ずかしながら、遺体の特殊修復という仕事があることを知りませんでした。基本的なことから教えていただきたいのですが、遺体の特殊修復とはどのようなことをされるのでしょうか?
染谷 事故や事件、自死、孤独死、病死など、思いもよらない状態で亡くなられた故人さまを、生前のお姿に近づけるのが特殊修復です。たとえば、交通事故などで損傷が激しく欠損がある場合には、高度な形成処置を行います。
また、長い闘病生活でお顔が痩せてしまった場合などはシリコン処置をするなど、生前の元気なときの写真と見合わせながら、その人らしい自然な表情、お姿に出来る限り近づけます。私が主に防腐処置や形成を担当し、角田が主に形成後の修復メイクを担当しています。
喪失による深い悲しみを「グリーフ」というのですが、ご遺体が生前のお姿とかけ離れていると、残されたご遺族はきちんと向き合うことができないままお別れをすることになりますし、自らを責めてしまうかもしれない。グリーフをケアするために、特殊修復というプロセスがあるんですね。
「特殊修復」を始めた理由角田 統美の事業内容は「納棺業」になります。納棺師は、湯灌(ゆかん)師とも言われるのですが、納棺の際、ドライアイスなどでご遺体の腐敗の進行を抑える、含み綿などで表情を整える、死化粧をする、帷子など旅立ちの衣装にお召し替えする、ご遺体を入浴させ洗浄や清拭でお清めをする……こうした業務の中に、私たちは「特殊修復」を設けています。――映画『おくりびと』は納棺師の物語ですが、統美さんも納棺師になると。「納棺業」の中に、遺体の特殊修復があるというのは一般的なのでしょうか?染谷 私たちが「統美」を創業したときは、「特殊修復」をうたう納棺業者は少なかったと思います。ご遺体を入浴させ、洗浄や清拭でお清めをすることを「湯灌の儀」と呼ぶのですが、もともとは大阪が発祥と言われています。東京で始まったのは、今から30年ほど前なので、「湯灌の儀」自体、東京ではあまり知られていないことかもしれません。――統美さんの創業は1999年です。まだ、「湯灌の儀」が一般的ではない中で、どうして遺体の特殊修復というさらに深い領域まで手掛けようと?染谷 私も角田も以前は「納棺業」を専門とする別の会社で働いていました。しかし、ご遺体をきれいにしてほしいという依頼があるのに、お引き受けできないケースを何度も経験するうちに、自分たちが理想とする「湯灌」を提供できる会社を作りたいと思うようになりました。二人で独立して、あらたに立ち上げた会社が統美になります。遺族からの依頼の届き方――統美さんは、納棺業を専門とする会社……ということは、葬儀社とは違うわけですよね。となると、特殊修復の依頼というのは、葬儀社から届くのでしょうか?角田 そうなります。葬儀社がご遺体と対峙して遺体修復が必要と判断した場合に「遺体修復を専門に行う業者がいます。どうされますか?」とご遺族に案内します。「具体的にどのように修復していくのか」など疑問を持たれた場合は、私たちが直にご説明させていただきます。ただし、私たちとご遺族が金銭的なやり取りを直接することはありません。葬儀というのは、あくまで葬儀社が執り行うことなので。――なるほど。一昨年、私も父を亡くした際に、香典返しやお花などはすべて葬儀社を介して行いました。納棺(湯灌)も葬儀の一部となるため同様であると。染谷 はい。葬儀社は葬儀をプロデュースする存在です。さまざまな業種と連携を図りながら葬儀を執り行う。その中の一つに湯灌があって、ご遺体の修復もあるということになります。水死のご遺体の修復も――現在、湯灌に対応する納棺業者というのはどれほどあるのでしょうか?染谷 都内では20社ほどあると思います。ただ、私どもの特長は、24時間最大30名の故人さまを安置できる施設を有していることです。私どもを含めた遺体修復師が防腐処置を行うので、ご遺体を長時間安定した状態で保つことも可能です。そのため高度な特殊修復が可能になります。――その点が気になっていました。創業された当時、特殊修復をうたう同業他社はいなかった。その中で、どのように特殊修復の技術を向上させていったのでしょうか?角田 今から18年ほど前に海外の防腐技術を導入しました。海外ではドライアイスを使わない代わりに、防腐処置を施している。そのことを知り、染谷が海外にわたって視察し、以後、防腐技術を勉強するようになりました。 それまでは水死のご遺体を修復するケースであれば、ある程度修復しても水分が上がってきてしまい、腹水がご遺体から出てきてしまうことに悩まされていました。そのため、綿花を入れたり出したりして、お腹をマッサージしながら腹水を出すといったことをしていたのですが、やはりそれでも止まらない。 しかし、防腐処置が向上してからは、そうした事態を回避できるようになり、ご遺体の安置時間を延ばせるだけでなく、技術も向上していきました。生前とかけはなれた姿で、火葬するのではなく…――ほぼ独学で技術を向上させていったわけですか。角田 何もないところからのスタートですよね。たとえば、電車に飛び込まれて亡くなられた故人さまがいらしたのですが、激しく欠損されていました。なんとか欠損しているところをカバーできないかと考えるのですが、当時は専用のワックスなどもありません。透明で色付けがしやすく、それなりに固い素材はないかと考え、メンタームリップで形成したり、試行錯誤を繰り返しながら、今にいたっています。染谷 生前とかけはなれた姿のまま火葬してしまうのではなく、最後にもう一度大切な人に会うための選択肢を作れないかという思いですよね。誰かが亡くなったとき、その方の人生に関わった人たちがきちんとお別れできる場を設けることが、葬儀の本当の意味ではないかと思うんです。ご遺族に安心感を抱いてほしい、その思いが私たちのイノベーションにつながっていきました。修復依頼は年間で100件以上――先ほど、納棺業務は葬儀全体の枝葉であると。ということは、統美さんは修復を手掛けた後、その葬儀に立ち会うことはないということですか?染谷 そうなります。私たちの役割は、ご遺体を修復することですから、弊社の安置所から旅立たれてからは、葬儀社の管轄になります。ただ、お手直しなどにはお伺いしております。 また、私たちはご遺族が故人さまと対面されている際も立ち会いません。ですが、「ありがとうございました」とお声をかけてくれるご遺族の方も多く、対面されたご遺族の方の表情を見ると、私たちもこの仕事をやっていて良かったなと思います。――年間、どれくらいの特殊修復の依頼があるのでしょう?染谷 年間で100件以上はあります。さまざまな死因がありますので、ご遺体の状況によって特殊修復をどこまで施すか、金額的に内容も変わってきます。また、闘病されていたご本人はそのまま火葬することを希望していても、ご家族が「どうしても元気だったころの顔に修復してほしい」というご依頼もあります。ご葬儀の際に、いろいろな方にお顔を見ていただく必要があると。――社会的に立場のある方だったんでしょうね。染谷 そういったケースもあります。弔問で訪れた方が手を合わせられる状態にしてほしいというように、ご遺体の修復にはさまざまな事情があるんです。角田 極力、ご遺族のご要望に応えられるように修復します。生前の故人さまの好みを大切にしてメイクも行います。火葬してお体がなくなったら、もう二度と会えないわけですから、ご遺体に向き合ってきちんとお別れできる状態にしてお渡ししたいというのが、私たちの思いですね。電車に飛びこんで自死…遺族の切実な願い――わかります。最期の表情を見た瞬間に、あらゆる記憶が上書きされる感覚がありました。染谷 私たちが伝えたいのは、高い技術を持っているということではなくて、大切な方がどんな状況で亡くなったとしてもあきらめないでほしいということです。 先にもお話ししましたが、電車に飛びこんで自死された方のご遺体を修復したことがありました。やはり損傷がかなりひどく、ご遺族は「対面しないで火葬したほうがいい」と病院や警察で言われたそうなんです。それでも「なんとかお別れができませんか。ここ(統美)しかないんです」と、私の手を握りながら訴えかけられて。私たちが何とかするしかない、と思いました。ご遺族の気持ちに応えたいという思いがある限り、遺体修復師の仕事に限界はないと思っているんです。〈「お釈迦様のような体勢で凍ったご遺体をなんとか納棺してほしい」と…「遺体修復師」が向き合ってきた“難題の数々”〉へ続く(我妻 弘崇)
角田 統美の事業内容は「納棺業」になります。納棺師は、湯灌(ゆかん)師とも言われるのですが、納棺の際、ドライアイスなどでご遺体の腐敗の進行を抑える、含み綿などで表情を整える、死化粧をする、帷子など旅立ちの衣装にお召し替えする、ご遺体を入浴させ洗浄や清拭でお清めをする……こうした業務の中に、私たちは「特殊修復」を設けています。
――映画『おくりびと』は納棺師の物語ですが、統美さんも納棺師になると。「納棺業」の中に、遺体の特殊修復があるというのは一般的なのでしょうか?
染谷 私たちが「統美」を創業したときは、「特殊修復」をうたう納棺業者は少なかったと思います。ご遺体を入浴させ、洗浄や清拭でお清めをすることを「湯灌の儀」と呼ぶのですが、もともとは大阪が発祥と言われています。東京で始まったのは、今から30年ほど前なので、「湯灌の儀」自体、東京ではあまり知られていないことかもしれません。
――統美さんの創業は1999年です。まだ、「湯灌の儀」が一般的ではない中で、どうして遺体の特殊修復というさらに深い領域まで手掛けようと?
染谷 私も角田も以前は「納棺業」を専門とする別の会社で働いていました。しかし、ご遺体をきれいにしてほしいという依頼があるのに、お引き受けできないケースを何度も経験するうちに、自分たちが理想とする「湯灌」を提供できる会社を作りたいと思うようになりました。二人で独立して、あらたに立ち上げた会社が統美になります。
――統美さんは、納棺業を専門とする会社……ということは、葬儀社とは違うわけですよね。となると、特殊修復の依頼というのは、葬儀社から届くのでしょうか?
角田 そうなります。葬儀社がご遺体と対峙して遺体修復が必要と判断した場合に「遺体修復を専門に行う業者がいます。どうされますか?」とご遺族に案内します。「具体的にどのように修復していくのか」など疑問を持たれた場合は、私たちが直にご説明させていただきます。ただし、私たちとご遺族が金銭的なやり取りを直接することはありません。葬儀というのは、あくまで葬儀社が執り行うことなので。
――なるほど。一昨年、私も父を亡くした際に、香典返しやお花などはすべて葬儀社を介して行いました。納棺(湯灌)も葬儀の一部となるため同様であると。染谷 はい。葬儀社は葬儀をプロデュースする存在です。さまざまな業種と連携を図りながら葬儀を執り行う。その中の一つに湯灌があって、ご遺体の修復もあるということになります。水死のご遺体の修復も――現在、湯灌に対応する納棺業者というのはどれほどあるのでしょうか?染谷 都内では20社ほどあると思います。ただ、私どもの特長は、24時間最大30名の故人さまを安置できる施設を有していることです。私どもを含めた遺体修復師が防腐処置を行うので、ご遺体を長時間安定した状態で保つことも可能です。そのため高度な特殊修復が可能になります。――その点が気になっていました。創業された当時、特殊修復をうたう同業他社はいなかった。その中で、どのように特殊修復の技術を向上させていったのでしょうか?角田 今から18年ほど前に海外の防腐技術を導入しました。海外ではドライアイスを使わない代わりに、防腐処置を施している。そのことを知り、染谷が海外にわたって視察し、以後、防腐技術を勉強するようになりました。 それまでは水死のご遺体を修復するケースであれば、ある程度修復しても水分が上がってきてしまい、腹水がご遺体から出てきてしまうことに悩まされていました。そのため、綿花を入れたり出したりして、お腹をマッサージしながら腹水を出すといったことをしていたのですが、やはりそれでも止まらない。 しかし、防腐処置が向上してからは、そうした事態を回避できるようになり、ご遺体の安置時間を延ばせるだけでなく、技術も向上していきました。生前とかけはなれた姿で、火葬するのではなく…――ほぼ独学で技術を向上させていったわけですか。角田 何もないところからのスタートですよね。たとえば、電車に飛び込まれて亡くなられた故人さまがいらしたのですが、激しく欠損されていました。なんとか欠損しているところをカバーできないかと考えるのですが、当時は専用のワックスなどもありません。透明で色付けがしやすく、それなりに固い素材はないかと考え、メンタームリップで形成したり、試行錯誤を繰り返しながら、今にいたっています。染谷 生前とかけはなれた姿のまま火葬してしまうのではなく、最後にもう一度大切な人に会うための選択肢を作れないかという思いですよね。誰かが亡くなったとき、その方の人生に関わった人たちがきちんとお別れできる場を設けることが、葬儀の本当の意味ではないかと思うんです。ご遺族に安心感を抱いてほしい、その思いが私たちのイノベーションにつながっていきました。修復依頼は年間で100件以上――先ほど、納棺業務は葬儀全体の枝葉であると。ということは、統美さんは修復を手掛けた後、その葬儀に立ち会うことはないということですか?染谷 そうなります。私たちの役割は、ご遺体を修復することですから、弊社の安置所から旅立たれてからは、葬儀社の管轄になります。ただ、お手直しなどにはお伺いしております。 また、私たちはご遺族が故人さまと対面されている際も立ち会いません。ですが、「ありがとうございました」とお声をかけてくれるご遺族の方も多く、対面されたご遺族の方の表情を見ると、私たちもこの仕事をやっていて良かったなと思います。――年間、どれくらいの特殊修復の依頼があるのでしょう?染谷 年間で100件以上はあります。さまざまな死因がありますので、ご遺体の状況によって特殊修復をどこまで施すか、金額的に内容も変わってきます。また、闘病されていたご本人はそのまま火葬することを希望していても、ご家族が「どうしても元気だったころの顔に修復してほしい」というご依頼もあります。ご葬儀の際に、いろいろな方にお顔を見ていただく必要があると。――社会的に立場のある方だったんでしょうね。染谷 そういったケースもあります。弔問で訪れた方が手を合わせられる状態にしてほしいというように、ご遺体の修復にはさまざまな事情があるんです。角田 極力、ご遺族のご要望に応えられるように修復します。生前の故人さまの好みを大切にしてメイクも行います。火葬してお体がなくなったら、もう二度と会えないわけですから、ご遺体に向き合ってきちんとお別れできる状態にしてお渡ししたいというのが、私たちの思いですね。電車に飛びこんで自死…遺族の切実な願い――わかります。最期の表情を見た瞬間に、あらゆる記憶が上書きされる感覚がありました。染谷 私たちが伝えたいのは、高い技術を持っているということではなくて、大切な方がどんな状況で亡くなったとしてもあきらめないでほしいということです。 先にもお話ししましたが、電車に飛びこんで自死された方のご遺体を修復したことがありました。やはり損傷がかなりひどく、ご遺族は「対面しないで火葬したほうがいい」と病院や警察で言われたそうなんです。それでも「なんとかお別れができませんか。ここ(統美)しかないんです」と、私の手を握りながら訴えかけられて。私たちが何とかするしかない、と思いました。ご遺族の気持ちに応えたいという思いがある限り、遺体修復師の仕事に限界はないと思っているんです。〈「お釈迦様のような体勢で凍ったご遺体をなんとか納棺してほしい」と…「遺体修復師」が向き合ってきた“難題の数々”〉へ続く(我妻 弘崇)
――なるほど。一昨年、私も父を亡くした際に、香典返しやお花などはすべて葬儀社を介して行いました。納棺(湯灌)も葬儀の一部となるため同様であると。
染谷 はい。葬儀社は葬儀をプロデュースする存在です。さまざまな業種と連携を図りながら葬儀を執り行う。その中の一つに湯灌があって、ご遺体の修復もあるということになります。
――現在、湯灌に対応する納棺業者というのはどれほどあるのでしょうか?
染谷 都内では20社ほどあると思います。ただ、私どもの特長は、24時間最大30名の故人さまを安置できる施設を有していることです。私どもを含めた遺体修復師が防腐処置を行うので、ご遺体を長時間安定した状態で保つことも可能です。そのため高度な特殊修復が可能になります。
――その点が気になっていました。創業された当時、特殊修復をうたう同業他社はいなかった。その中で、どのように特殊修復の技術を向上させていったのでしょうか?
角田 今から18年ほど前に海外の防腐技術を導入しました。海外ではドライアイスを使わない代わりに、防腐処置を施している。そのことを知り、染谷が海外にわたって視察し、以後、防腐技術を勉強するようになりました。
それまでは水死のご遺体を修復するケースであれば、ある程度修復しても水分が上がってきてしまい、腹水がご遺体から出てきてしまうことに悩まされていました。そのため、綿花を入れたり出したりして、お腹をマッサージしながら腹水を出すといったことをしていたのですが、やはりそれでも止まらない。
しかし、防腐処置が向上してからは、そうした事態を回避できるようになり、ご遺体の安置時間を延ばせるだけでなく、技術も向上していきました。
生前とかけはなれた姿で、火葬するのではなく…――ほぼ独学で技術を向上させていったわけですか。角田 何もないところからのスタートですよね。たとえば、電車に飛び込まれて亡くなられた故人さまがいらしたのですが、激しく欠損されていました。なんとか欠損しているところをカバーできないかと考えるのですが、当時は専用のワックスなどもありません。透明で色付けがしやすく、それなりに固い素材はないかと考え、メンタームリップで形成したり、試行錯誤を繰り返しながら、今にいたっています。染谷 生前とかけはなれた姿のまま火葬してしまうのではなく、最後にもう一度大切な人に会うための選択肢を作れないかという思いですよね。誰かが亡くなったとき、その方の人生に関わった人たちがきちんとお別れできる場を設けることが、葬儀の本当の意味ではないかと思うんです。ご遺族に安心感を抱いてほしい、その思いが私たちのイノベーションにつながっていきました。修復依頼は年間で100件以上――先ほど、納棺業務は葬儀全体の枝葉であると。ということは、統美さんは修復を手掛けた後、その葬儀に立ち会うことはないということですか?染谷 そうなります。私たちの役割は、ご遺体を修復することですから、弊社の安置所から旅立たれてからは、葬儀社の管轄になります。ただ、お手直しなどにはお伺いしております。 また、私たちはご遺族が故人さまと対面されている際も立ち会いません。ですが、「ありがとうございました」とお声をかけてくれるご遺族の方も多く、対面されたご遺族の方の表情を見ると、私たちもこの仕事をやっていて良かったなと思います。――年間、どれくらいの特殊修復の依頼があるのでしょう?染谷 年間で100件以上はあります。さまざまな死因がありますので、ご遺体の状況によって特殊修復をどこまで施すか、金額的に内容も変わってきます。また、闘病されていたご本人はそのまま火葬することを希望していても、ご家族が「どうしても元気だったころの顔に修復してほしい」というご依頼もあります。ご葬儀の際に、いろいろな方にお顔を見ていただく必要があると。――社会的に立場のある方だったんでしょうね。染谷 そういったケースもあります。弔問で訪れた方が手を合わせられる状態にしてほしいというように、ご遺体の修復にはさまざまな事情があるんです。角田 極力、ご遺族のご要望に応えられるように修復します。生前の故人さまの好みを大切にしてメイクも行います。火葬してお体がなくなったら、もう二度と会えないわけですから、ご遺体に向き合ってきちんとお別れできる状態にしてお渡ししたいというのが、私たちの思いですね。電車に飛びこんで自死…遺族の切実な願い――わかります。最期の表情を見た瞬間に、あらゆる記憶が上書きされる感覚がありました。染谷 私たちが伝えたいのは、高い技術を持っているということではなくて、大切な方がどんな状況で亡くなったとしてもあきらめないでほしいということです。 先にもお話ししましたが、電車に飛びこんで自死された方のご遺体を修復したことがありました。やはり損傷がかなりひどく、ご遺族は「対面しないで火葬したほうがいい」と病院や警察で言われたそうなんです。それでも「なんとかお別れができませんか。ここ(統美)しかないんです」と、私の手を握りながら訴えかけられて。私たちが何とかするしかない、と思いました。ご遺族の気持ちに応えたいという思いがある限り、遺体修復師の仕事に限界はないと思っているんです。〈「お釈迦様のような体勢で凍ったご遺体をなんとか納棺してほしい」と…「遺体修復師」が向き合ってきた“難題の数々”〉へ続く(我妻 弘崇)
――ほぼ独学で技術を向上させていったわけですか。
角田 何もないところからのスタートですよね。たとえば、電車に飛び込まれて亡くなられた故人さまがいらしたのですが、激しく欠損されていました。なんとか欠損しているところをカバーできないかと考えるのですが、当時は専用のワックスなどもありません。透明で色付けがしやすく、それなりに固い素材はないかと考え、メンタームリップで形成したり、試行錯誤を繰り返しながら、今にいたっています。
染谷 生前とかけはなれた姿のまま火葬してしまうのではなく、最後にもう一度大切な人に会うための選択肢を作れないかという思いですよね。誰かが亡くなったとき、その方の人生に関わった人たちがきちんとお別れできる場を設けることが、葬儀の本当の意味ではないかと思うんです。ご遺族に安心感を抱いてほしい、その思いが私たちのイノベーションにつながっていきました。
修復依頼は年間で100件以上――先ほど、納棺業務は葬儀全体の枝葉であると。ということは、統美さんは修復を手掛けた後、その葬儀に立ち会うことはないということですか?染谷 そうなります。私たちの役割は、ご遺体を修復することですから、弊社の安置所から旅立たれてからは、葬儀社の管轄になります。ただ、お手直しなどにはお伺いしております。 また、私たちはご遺族が故人さまと対面されている際も立ち会いません。ですが、「ありがとうございました」とお声をかけてくれるご遺族の方も多く、対面されたご遺族の方の表情を見ると、私たちもこの仕事をやっていて良かったなと思います。――年間、どれくらいの特殊修復の依頼があるのでしょう?染谷 年間で100件以上はあります。さまざまな死因がありますので、ご遺体の状況によって特殊修復をどこまで施すか、金額的に内容も変わってきます。また、闘病されていたご本人はそのまま火葬することを希望していても、ご家族が「どうしても元気だったころの顔に修復してほしい」というご依頼もあります。ご葬儀の際に、いろいろな方にお顔を見ていただく必要があると。――社会的に立場のある方だったんでしょうね。染谷 そういったケースもあります。弔問で訪れた方が手を合わせられる状態にしてほしいというように、ご遺体の修復にはさまざまな事情があるんです。角田 極力、ご遺族のご要望に応えられるように修復します。生前の故人さまの好みを大切にしてメイクも行います。火葬してお体がなくなったら、もう二度と会えないわけですから、ご遺体に向き合ってきちんとお別れできる状態にしてお渡ししたいというのが、私たちの思いですね。電車に飛びこんで自死…遺族の切実な願い――わかります。最期の表情を見た瞬間に、あらゆる記憶が上書きされる感覚がありました。染谷 私たちが伝えたいのは、高い技術を持っているということではなくて、大切な方がどんな状況で亡くなったとしてもあきらめないでほしいということです。 先にもお話ししましたが、電車に飛びこんで自死された方のご遺体を修復したことがありました。やはり損傷がかなりひどく、ご遺族は「対面しないで火葬したほうがいい」と病院や警察で言われたそうなんです。それでも「なんとかお別れができませんか。ここ(統美)しかないんです」と、私の手を握りながら訴えかけられて。私たちが何とかするしかない、と思いました。ご遺族の気持ちに応えたいという思いがある限り、遺体修復師の仕事に限界はないと思っているんです。〈「お釈迦様のような体勢で凍ったご遺体をなんとか納棺してほしい」と…「遺体修復師」が向き合ってきた“難題の数々”〉へ続く(我妻 弘崇)
――先ほど、納棺業務は葬儀全体の枝葉であると。ということは、統美さんは修復を手掛けた後、その葬儀に立ち会うことはないということですか?
染谷 そうなります。私たちの役割は、ご遺体を修復することですから、弊社の安置所から旅立たれてからは、葬儀社の管轄になります。ただ、お手直しなどにはお伺いしております。
また、私たちはご遺族が故人さまと対面されている際も立ち会いません。ですが、「ありがとうございました」とお声をかけてくれるご遺族の方も多く、対面されたご遺族の方の表情を見ると、私たちもこの仕事をやっていて良かったなと思います。
――年間、どれくらいの特殊修復の依頼があるのでしょう?
染谷 年間で100件以上はあります。さまざまな死因がありますので、ご遺体の状況によって特殊修復をどこまで施すか、金額的に内容も変わってきます。また、闘病されていたご本人はそのまま火葬することを希望していても、ご家族が「どうしても元気だったころの顔に修復してほしい」というご依頼もあります。ご葬儀の際に、いろいろな方にお顔を見ていただく必要があると。
――社会的に立場のある方だったんでしょうね。染谷 そういったケースもあります。弔問で訪れた方が手を合わせられる状態にしてほしいというように、ご遺体の修復にはさまざまな事情があるんです。角田 極力、ご遺族のご要望に応えられるように修復します。生前の故人さまの好みを大切にしてメイクも行います。火葬してお体がなくなったら、もう二度と会えないわけですから、ご遺体に向き合ってきちんとお別れできる状態にしてお渡ししたいというのが、私たちの思いですね。電車に飛びこんで自死…遺族の切実な願い――わかります。最期の表情を見た瞬間に、あらゆる記憶が上書きされる感覚がありました。染谷 私たちが伝えたいのは、高い技術を持っているということではなくて、大切な方がどんな状況で亡くなったとしてもあきらめないでほしいということです。 先にもお話ししましたが、電車に飛びこんで自死された方のご遺体を修復したことがありました。やはり損傷がかなりひどく、ご遺族は「対面しないで火葬したほうがいい」と病院や警察で言われたそうなんです。それでも「なんとかお別れができませんか。ここ(統美)しかないんです」と、私の手を握りながら訴えかけられて。私たちが何とかするしかない、と思いました。ご遺族の気持ちに応えたいという思いがある限り、遺体修復師の仕事に限界はないと思っているんです。〈「お釈迦様のような体勢で凍ったご遺体をなんとか納棺してほしい」と…「遺体修復師」が向き合ってきた“難題の数々”〉へ続く(我妻 弘崇)
――社会的に立場のある方だったんでしょうね。
染谷 そういったケースもあります。弔問で訪れた方が手を合わせられる状態にしてほしいというように、ご遺体の修復にはさまざまな事情があるんです。
角田 極力、ご遺族のご要望に応えられるように修復します。生前の故人さまの好みを大切にしてメイクも行います。火葬してお体がなくなったら、もう二度と会えないわけですから、ご遺体に向き合ってきちんとお別れできる状態にしてお渡ししたいというのが、私たちの思いですね。
――わかります。最期の表情を見た瞬間に、あらゆる記憶が上書きされる感覚がありました。
染谷 私たちが伝えたいのは、高い技術を持っているということではなくて、大切な方がどんな状況で亡くなったとしてもあきらめないでほしいということです。
先にもお話ししましたが、電車に飛びこんで自死された方のご遺体を修復したことがありました。やはり損傷がかなりひどく、ご遺族は「対面しないで火葬したほうがいい」と病院や警察で言われたそうなんです。それでも「なんとかお別れができませんか。ここ(統美)しかないんです」と、私の手を握りながら訴えかけられて。私たちが何とかするしかない、と思いました。ご遺族の気持ちに応えたいという思いがある限り、遺体修復師の仕事に限界はないと思っているんです。
〈「お釈迦様のような体勢で凍ったご遺体をなんとか納棺してほしい」と…「遺体修復師」が向き合ってきた“難題の数々”〉へ続く
(我妻 弘崇)

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