【橋本 歩】「どうやら妻が人を殺したみたいなんです」…音声解析のプロが思わず絶句した「壮絶な依頼」の中身

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千葉音声研究所で代表理事を務める村岡睦稔さんは、日本トップレベルの音声解析者だ。その高度なスキルを頼って、個人や弁護士だけでなく、警察や科捜研からも続々と音にまつわる依頼が舞い込んでくる。
前回記事『「ヒュン…」殺害現場でわずかに響いた犯行時の音から凶器を特定…知られざる「達人」の仕事』では、村岡さんの鮮やかな解析技術の一端を紹介した。
村岡さんに引き続き、私たちが普段耳にしないような「非日常的な音」について語ってもらった。
イメージ/photo by iStock
「これまで人が刃物で刺される音は何度聞いたか分かりません。昔のドラマだと『グサッ』なんていう効果音が入っていますけど、実際はそんな音しませんよ。お腹を刺された時はほぼ無音。入っていたとしても、刃物を持つ手が相手の体に当たる音くらいです。
ただし、メッタ刺しの時はさすがに特徴的な音が出ます。『カツ、カツ、カツ』ですね。これは刃物が被害者の骨に何度も当たる音。犯人も相手を殺そうと必死です。人間には200個ほど骨があるので、どうしてもどこかに当たってしまうのです。
被害者側にしても、よく言われる断末魔の叫びは聞いたことがありませんね。『ぎゃあ』すらなくて、だいたいが『うっ』で終わり。こういった死に際の音を聞いていてつくづく思うんですが、本当に人の命はあっけないですよ」(村岡さん)
警察や科捜研から以外にも、村岡さんのもとには音にまつわる様々な依頼がやって来る。とりわけ多いのは、「証拠として提出された音声が改ざんされていないか調べてほしい」といった弁護士からの依頼だ。
「パワハラやセクハラ関係の裁判ではこの手の依頼が大半です。例えば、社員が上司のパワハラを訴える裁判では、会社の防犯カメラに入った音声が証拠として提出されたりするのですが、確かに言われたはずの上司からのきつい言葉がそこに入っていない、なんていうのは日常茶飯事。
不審に思った社員側の弁護士が僕のところにその音声を持ち込んでみると、必ずと言っていいほど改ざんの痕跡が発見されます。
要するに、会社ぐるみの隠蔽ですよね。でも、どんなにうまくやったと思っていても、音の編集痕跡はどこかに残ってしまう。そんな簡単にごまかすことはできません。
会社勤めの方は、あまり組織を信用しないほうがいいですよ。やっぱり自分で録音しておくことが最大の自衛になると思います」(村岡さん)
逆に、村岡さんの高い技術を悪用しようとする人間も少なくないという。
「よくあるのが、『絶対バレないように音声を改ざんしてほしい』という依頼です。たいがいそういった依頼の際は秘書らしき人物から電話がかかってくるので、依頼主はしかるべき立場にある方なんでしょう。もちろん、そんな仕事は絶対に受けませんけどね。職業倫理に反することですから」(村岡さん)
村岡睦稔さん/筆者撮影
依頼理由は十人十色だ。それでも大半の依頼者は、何かしらポジティブな結果を求めてそれぞれ音声を解析してもらおうとする。そんな中で唯一、悲しい結末になると分かっていながら、村岡さんを訪ねてきた依頼者がいた。
その第一声は強烈だった。
<うちの嫁が人を殺してしまったかもしれません>
声はうわずり、震えていた。以前からその行動を怪しんでいた男性は、妻のカバンにICレコーダーを仕込んでいたのだという。しかし、そこに録音されていた内容は男性の予想をはるかに超えていた。その頃テレビで連日のように報道されていた、とある殺人事件とあまりに状況が酷似していたのだ。
「どうしてすぐに警察に行かないのか、聞きました。そしたら『間違いなく嫁は捕まると思います。でもその前に、夫である自分が真実を知っておきたいんです』と言うんです。鑑定の結果は……依頼者が予想していた通りでした」(村岡さん)
事件性のある音声の存在を知ってしまった以上、見過ごすわけにはいかない。一緒に警察に行きましょう、と村岡さんが言うと、依頼者は素直に従った。まもなくして、ひとりの女性が殺人の容疑で逮捕された。
さらに続編記事『妻の不倫を疑う夫「このあえぎ声は俺の嫁の声ですか?」…音の専門家のもとに持ち込まれた「盗聴音声」の解析結果』では、これまで村岡さんが経験してきた中でも、特に強烈だった音声解析の仕事を紹介する。

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