今年も夏の甲子園は多くの観客を集めているが、富山県内では子どもたちの「野球離れ」が深刻だ。
少子化に加え、スポーツの多様化、かかる費用の高さなど要因は様々。関係者は野球に目を向けてもらう取り組みを展開している。(原中翔輝)
■少年野球の選手減
6月24日午前、富山市立堀川南小学校。試合を終えた「堀川南オリオールズ」の選手たちが保護者とハイタッチし、喜びを爆発させていた。所属する「富山少年野球リーグ」が4月に開幕して以降、6試合目にしての初勝利だったからだ。
勝利から遠ざかっていた一因には、選手の少なさがある。4~6年生は開幕時に11人しかおらず、2~3年生はたったの2人。父母会長の林田英彦さん(51)は「選手数は少なくなっている。低学年が少なければチームの存続にも関わる」と危機感をあらわにする。主将を務める林田さんの三男(12)も「周りに野球をしている人は少ない。寂しい」と肩を落とす。
人数の減少は堀川南に限った話ではない。同リーグ事務局によると、2014年度に649人だった参加選手数は今年度は452人になっている。チーム数も5減った。県南西部の「となみ野少年野球大会」はさらに深刻で、14年の13チームから今年の8チームまで激減した。
■他種目の人気台頭
野球人口減少に少子化が関係しているのは間違いない。国の学校基本調査によると、昨年度の小学校の児童数は4万6879人で、10年前より1万人以上少ない。ただ、それだけが原因でもなさそうだ。富山少年野球リーグの高見喜義事務局長(71)は「ほかのスポーツの人気が高くなった」と打ち明ける。
実際、県内でスポーツ少年団(スポ少)に所属する子どもの数を比べると、その傾向が浮き彫りとなる。軟式野球の団員は1461人と10年で200人以上減ったが、バスケットボールの団員は同じ期間で59人減にとどまっており、バドミントンに至っては170人増えている(いずれも日本スポーツ協会調べ)。
テレビ中継が激減するなど野球はもはや身近なスポーツではない。グラブやバットなど道具を一通りそろえると、ほかのスポーツより費用もかさむ。さらにスポ少全体に言えることだが、試合会場への送迎やお茶当番など、保護者の負担は軽くはない。
■幼稚園で体験会
関係者は野球の反転攻勢に向け動き出している。その一つが「ティーボール」の普及だ。台に載せたボールを打つティーボールは、野球の入門に適している。富山少年野球リーグは2017年から保育園や幼稚園でティーボール体験会をしており、高見さんは「私たちから楽しさを伝えにいく」と、意義を説明する。
各チームは保護者の負担軽減にも取り組む。となみ野のチーム「福光JBC」では、指導者の人数を増やしたり、練習の準備を当番制にしたりするなど、負担の平準化に努める。堀川南でも送迎を当番制にし、卒団生から不用の道具を集めてバザーで安く販売している。
高校野球関係者も、将来の高校球児が減りかねない現状に気をもんでいる。6月に大阪桐蔭を招いて行った強化試合では、主催の県高校野球連盟が、会場の富山市民球場のバックネット裏に、少年野球選手向けの特別席を設けた。関係者は「強化だけでなく、普及振興も合わせてやりたかった」と打ち明け、7月の夏の高校野球県大会の準決勝、決勝でも特別席を設置した。