【奥村 シンゴ】40代女性が23年間「ひきこもり」続けるワケ…祖父の暴力、福祉サービスでの驚愕のセクハラも

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2023年4月に内閣府の外局として発足した「こども家庭庁」によると、15~64歳で「ひきこもり」状態の人は推計146万人。そのうち、40歳~64歳では、女性のひきこもりが52.3%と半数を超えた。ひきこもりというと男性のイメージが強いが、家事・育児・介護などに従事している女性も2018年の調査から「ひきこもり」に含まれるようになり、女性たちも「私たちもひきこもりに該当するんだ」と声を上げやすくなったのは悪い事ではない。

このような背景も踏まえ、『おばあちゃんは、ぼくが介護します。』の著者で、自身の経験からヤングケアラー(若者介護者)の存在を広めた一人でもある奥村シンゴさんが、ひきこもり状態が長く続いている女性に話を訊いた。首を電源コードでしめつけて殺そうとする父方祖父筆者は、ケアラーやひきこもり元当事者で評論家や講師そして支援団体「よしてよせての会」の代表を務めていて、当会メンバーのひきこもり歴23年、40代女性の山本恒美さん(仮名=以下同)を取材した。恒美さんは、小学校時代からいじめと家庭内暴力にあい複数の精神的な病気を発症し、成人後に就労先からうけたある出来事が引き金でひきこもり生活になったという。彼女は、父・母・ 長男・次男・父方の祖母、祖父の7人家族。生まれつき自閉スペクトラム症(アスペルガー症候群、注意欠如多動症、学習障害)に悩まされた。父方の祖父はアルコール依存症で、障がいをもつ恒美さんを「我が家の恥、間抜け」と罵倒したり、お酒の一升瓶を投げつけたり、 首を電気コードで締め付けて殺そうとしたりした。「 父方の祖父は口癖が常に『殺すぞ!』で。ワシはワシと気が合わない親族に取り憑いてやるでした」(恒美さん)Photo by iStock恒美さんが幼い頃のある日、祖父は彼女を「お手本が録音してあるカセットテープの音を全部消しやがった」と怒鳴った。その上、首を両手で締め付けながら、「おい!どうしてくれるねん!何て事をしてくれたんや!」と激怒……。騒ぎを聞きつけた恒美さんの父親が、ラジカセで祖父が録音したカセットテープを確認すると正常に再生された。 祖父はラジカセのカセットテープの再生方法を理解できていないだけだったが、恒美さんに謝罪一つなくケロっとしていた。こうして、祖父の彼女への高飛車な物言いや家庭内暴力は亡くなるまで30年以上続いた。さらに、恒美さんは、小学入学後すぐ、一部の同級生から暴力や罵倒をうけ続けた。小学校入学後すぐ同級生の女子たちは「 おんぶして、階段昇り降りしろ!」命令に従わなかったら、お前の財布から一万円札を抜き取るぞ」と言い、「 その一万円札をよこせ」と脅してきた。山本さんはおんぶし小学校の階段を往復していた。持病の発達障がいに加えうつ病・解離性障がい・不安障害、PTSDなど複数の精神疾患を罹患した。祖父の言動に家族は一体何をしていたのか?と疑問をもつ読者がいるだろうが、祖母や母親ら家族は、祖父を抑えきれなくて黙認していたという。「祖母は自分に危害を加えられたくないので、みてみぬふりをしていました。母親は祖父が私に南京錠をかけられた時は、祖父が寝た後助けに来てくれましたけど、娘に暴力をふるうのはやめてほしいとは言えませんでした」(恒美さん)祖父について家族は、警察や行政に相談することは全くなかった。なぜなら、周囲は小さな農村がいくつかあるだけの田舎で、家庭の事は外に話さない習慣があったからだ。就労支援先の店長に言われた「衝撃の一言」恒美さんは成人後、精神的な病気が複数あり社員としての勤務が難しく、カフェ店舗形式の就労支援継続B型で作業することになった。就労支援継続B型は、さまざまな事情で就職が難しい人たちに就労訓練や就労機会を提供する障がい福祉サービスである。職員は店長と女性2人の計3人いたが、普段からお客様がきても3人はほとんど仕事をしていなかった。「作業所全体の雰囲気が全然緊張感がないのです。お客様が来てもスタッフ3人はパソコンを見ながら笑っていました。真面目に働いていたのは一番新人の私と、私の一ヶ月前から作業所に通い始めた 男性利用者1人と、有資格者の若い女性職員1人のみでした」(恒美さん)このような職場環境の中、恒美さんは、店長から度重なる性的嫌がらせの被害をうけ続けた。店長は、何度も体をこすりつけてきた。「もういい加減にしてください」恒美さんは激しく抵抗……。すると、店長の性的嫌がらせは余計にエスカレートし、強引にキスをしたり、股間を触ってきた。恒美さんは、悔し涙を流しながら店長に「いくらなんでも気持ち悪すぎます。やめてください」と切実に訴えたが全然通じない。そして衝撃の一言が……。「トイレで下着を脱いで性行為に応じろ」なんと、店長は恒美さんを脅した上に性行為を要求してきたのだ……。ついに我慢の限界で、彼女は他の職員に店長の嫌がらせ行為の数々を暴露した。それから数日後、店長から一本の電話がかかってきた。「 俺が作業所にいづらくなるから、もう作業所に来るな!職場には俺と結婚して退職したと言っておくからさ」(店長)恒美さんは、店長のあまりに身勝手な言動に激怒。「何で私が店長と結婚しないといけないんですか?私に無理やり淫らな行為を行ってきたのに信用できると思いますか?あなたとは結婚しません」と拒否した。母親の奮闘の結果…利用者への性的な嫌がらせ行為は、福祉サービスの管理者として絶対あってはならないことだ。恒美さんは、他の就労支援継続B型へ変更を考えたものの、難しい理由があった。「幼い頃から精神障がいを抱えていたため、人はなかなか相手にしてくれなかった。でも、保護猫が好きで保護猫を殺処分しない仕事に就職したい目標がありました。なので、レクリエーションより仕事のスキルが身につく精神障がい者向け就労支援継続B型を探しましたが、居住地域が田舎のため、なかったんです」(恒美さん)環境に恵まれていたのなら、彼女は幼少期から精神的に保護猫に支えられた経験を活かして社会貢献性の高い職種に就くはずだったのだ……。作業所には、恒美さんに「何か悩みがあったら相談してや」と声をかける就労支援継続B型の利用者がいた。しかし、彼女がいざ店長からうけている性的嫌がらせを相談しすると、あちこちで言いふらされた。それ以降、恒美さんは人間不信に陥り、誰にも打ち明けられず一人で悩みを抱え続けた。しかし、そのうち母親だけは、恒美さんがずっと表情がさえないのに気づいた。「あんた、うかない表情してるけど作業所で何かあったの?」と声をかけ続けられ、恒美さんはある日、母親に、今までの経緯をありのままに話すと、母親がすぐ店長に抗議した。すると、店長は「山本恒美さんと真剣に結婚を考えています。経済的、精神的支援になればと思います」と人が変わったように説明。しかし、母親は「あなた(店長)にはだまされません。うちの子になんてひどいことをしてくれたんですか」と言い返し運営母体に情報を共有した。しばらくして、店長は左遷され別の就労支援継続B型へ。だが恒美さんは、店長からうけたハラスメントの数々でメンタルが崩壊し、B型就労支援施設をやめた。こうして、父方の祖父からの虐待、同級生からのイジメ、障がい福祉現場で店長からうけた性的いやがらせが重なった。加えて、心因性発声障害、視界が 白濁とぼやけて見えにくくなる、食べ物の咀嚼が一年間全く出来なくなるようになり 拒食過食を繰り返した。よって、19歳から23年間ひきこもっている。* * *筆者も介護によってひきこもりが約6年間続いた経験があるので、山本恒美さんとケースは異なるが周囲になかなか悩みを打ち明けられない気持ちが理解できる。32歳の頃、祖母が認知症、母親が脳梗塞を発症。家庭の事情や経済的な事情、祖母と一日でも長く一緒にすごしたい想いが強く在宅介護がはじまったが、下記の4点に悩みひきこもり生活が約6年間続いた。1、同世代の友達に介護の相談相手がいなかった2、プライベートの時間がほとんどとれない、あったとしても精神的余裕がなく誘いを断ることが増え仲間が減った3、飲み会に行っても周囲は結婚、育児、仕事の話で盛り上がり孤立する4、近所からは平日日中に「男性がおばあちゃんと散歩している」と冷ややかな反応このあたりの事情は、拙著『おばあちゃんは、ぼくが介護します。』にも詳述している。後編記事〈40代からは半数以上を女性が占める…いま「ひきこもり」女性が増えている「悲しい事情」〉では、改めて女性のひきこもりの現状や、障がい福祉サービスで性的嫌がらせをうけた場合の対処法、責任者がするべきハラスメント予防策などを解説する。
2023年4月に内閣府の外局として発足した「こども家庭庁」によると、15~64歳で「ひきこもり」状態の人は推計146万人。そのうち、40歳~64歳では、女性のひきこもりが52.3%と半数を超えた。
ひきこもりというと男性のイメージが強いが、家事・育児・介護などに従事している女性も2018年の調査から「ひきこもり」に含まれるようになり、女性たちも「私たちもひきこもりに該当するんだ」と声を上げやすくなったのは悪い事ではない。
このような背景も踏まえ、『おばあちゃんは、ぼくが介護します。』の著者で、自身の経験からヤングケアラー(若者介護者)の存在を広めた一人でもある奥村シンゴさんが、ひきこもり状態が長く続いている女性に話を訊いた。
筆者は、ケアラーやひきこもり元当事者で評論家や講師そして支援団体「よしてよせての会」の代表を務めていて、当会メンバーのひきこもり歴23年、40代女性の山本恒美さん(仮名=以下同)を取材した。恒美さんは、小学校時代からいじめと家庭内暴力にあい複数の精神的な病気を発症し、成人後に就労先からうけたある出来事が引き金でひきこもり生活になったという。
父方の祖父はアルコール依存症で、障がいをもつ恒美さんを「我が家の恥、間抜け」と罵倒したり、お酒の一升瓶を投げつけたり、 首を電気コードで締め付けて殺そうとしたりした。
「 父方の祖父は口癖が常に『殺すぞ!』で。ワシはワシと気が合わない親族に取り憑いてやるでした」(恒美さん)
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恒美さんが幼い頃のある日、祖父は彼女を「お手本が録音してあるカセットテープの音を全部消しやがった」と怒鳴った。その上、首を両手で締め付けながら、「おい!どうしてくれるねん!何て事をしてくれたんや!」と激怒……。
騒ぎを聞きつけた恒美さんの父親が、ラジカセで祖父が録音したカセットテープを確認すると正常に再生された。 祖父はラジカセのカセットテープの再生方法を理解できていないだけだったが、恒美さんに謝罪一つなくケロっとしていた。
こうして、祖父の彼女への高飛車な物言いや家庭内暴力は亡くなるまで30年以上続いた。
さらに、恒美さんは、小学入学後すぐ、一部の同級生から暴力や罵倒をうけ続けた。小学校入学後すぐ同級生の女子たちは「 おんぶして、階段昇り降りしろ!」命令に従わなかったら、お前の財布から一万円札を抜き取るぞ」と言い、「 その一万円札をよこせ」と脅してきた。山本さんはおんぶし小学校の階段を往復していた。持病の発達障がいに加えうつ病・解離性障がい・不安障害、PTSDなど複数の精神疾患を罹患した。
祖父の言動に家族は一体何をしていたのか?と疑問をもつ読者がいるだろうが、祖母や母親ら家族は、祖父を抑えきれなくて黙認していたという。
「祖母は自分に危害を加えられたくないので、みてみぬふりをしていました。母親は祖父が私に南京錠をかけられた時は、祖父が寝た後助けに来てくれましたけど、娘に暴力をふるうのはやめてほしいとは言えませんでした」(恒美さん)
祖父について家族は、警察や行政に相談することは全くなかった。なぜなら、周囲は小さな農村がいくつかあるだけの田舎で、家庭の事は外に話さない習慣があったからだ。
恒美さんは成人後、精神的な病気が複数あり社員としての勤務が難しく、カフェ店舗形式の就労支援継続B型で作業することになった。就労支援継続B型は、さまざまな事情で就職が難しい人たちに就労訓練や就労機会を提供する障がい福祉サービスである。
職員は店長と女性2人の計3人いたが、普段からお客様がきても3人はほとんど仕事をしていなかった。
「作業所全体の雰囲気が全然緊張感がないのです。お客様が来てもスタッフ3人はパソコンを見ながら笑っていました。真面目に働いていたのは一番新人の私と、私の一ヶ月前から作業所に通い始めた 男性利用者1人と、有資格者の若い女性職員1人のみでした」(恒美さん)
このような職場環境の中、恒美さんは、店長から度重なる性的嫌がらせの被害をうけ続けた。
店長は、何度も体をこすりつけてきた。
「もういい加減にしてください」
恒美さんは激しく抵抗……。すると、店長の性的嫌がらせは余計にエスカレートし、強引にキスをしたり、股間を触ってきた。
恒美さんは、悔し涙を流しながら店長に「いくらなんでも気持ち悪すぎます。やめてください」と切実に訴えたが全然通じない。そして衝撃の一言が……。
「トイレで下着を脱いで性行為に応じろ」
なんと、店長は恒美さんを脅した上に性行為を要求してきたのだ……。
ついに我慢の限界で、彼女は他の職員に店長の嫌がらせ行為の数々を暴露した。
それから数日後、店長から一本の電話がかかってきた。
「 俺が作業所にいづらくなるから、もう作業所に来るな!職場には俺と結婚して退職したと言っておくからさ」(店長)
恒美さんは、店長のあまりに身勝手な言動に激怒。
「何で私が店長と結婚しないといけないんですか?私に無理やり淫らな行為を行ってきたのに信用できると思いますか?あなたとは結婚しません」と拒否した。
利用者への性的な嫌がらせ行為は、福祉サービスの管理者として絶対あってはならないことだ。
恒美さんは、他の就労支援継続B型へ変更を考えたものの、難しい理由があった。
「幼い頃から精神障がいを抱えていたため、人はなかなか相手にしてくれなかった。でも、保護猫が好きで保護猫を殺処分しない仕事に就職したい目標がありました。なので、レクリエーションより仕事のスキルが身につく精神障がい者向け就労支援継続B型を探しましたが、居住地域が田舎のため、なかったんです」(恒美さん)
環境に恵まれていたのなら、彼女は幼少期から精神的に保護猫に支えられた経験を活かして社会貢献性の高い職種に就くはずだったのだ……。
作業所には、恒美さんに「何か悩みがあったら相談してや」と声をかける就労支援継続B型の利用者がいた。しかし、彼女がいざ店長からうけている性的嫌がらせを相談しすると、あちこちで言いふらされた。それ以降、恒美さんは人間不信に陥り、誰にも打ち明けられず一人で悩みを抱え続けた。
しかし、そのうち母親だけは、恒美さんがずっと表情がさえないのに気づいた。
「あんた、うかない表情してるけど作業所で何かあったの?」と声をかけ続けられ、恒美さんはある日、母親に、今までの経緯をありのままに話すと、母親がすぐ店長に抗議した。
すると、店長は「山本恒美さんと真剣に結婚を考えています。経済的、精神的支援になればと思います」と人が変わったように説明。
しかし、母親は「あなた(店長)にはだまされません。うちの子になんてひどいことをしてくれたんですか」と言い返し運営母体に情報を共有した。
しばらくして、店長は左遷され別の就労支援継続B型へ。だが恒美さんは、店長からうけたハラスメントの数々でメンタルが崩壊し、B型就労支援施設をやめた。
こうして、父方の祖父からの虐待、同級生からのイジメ、障がい福祉現場で店長からうけた性的いやがらせが重なった。加えて、心因性発声障害、視界が 白濁とぼやけて見えにくくなる、食べ物の咀嚼が一年間全く出来なくなるようになり 拒食過食を繰り返した。よって、19歳から23年間ひきこもっている。
* * *
筆者も介護によってひきこもりが約6年間続いた経験があるので、山本恒美さんとケースは異なるが周囲になかなか悩みを打ち明けられない気持ちが理解できる。
32歳の頃、祖母が認知症、母親が脳梗塞を発症。家庭の事情や経済的な事情、祖母と一日でも長く一緒にすごしたい想いが強く在宅介護がはじまったが、下記の4点に悩みひきこもり生活が約6年間続いた。
1、同世代の友達に介護の相談相手がいなかった2、プライベートの時間がほとんどとれない、あったとしても精神的余裕がなく誘いを断ることが増え仲間が減った3、飲み会に行っても周囲は結婚、育児、仕事の話で盛り上がり孤立する4、近所からは平日日中に「男性がおばあちゃんと散歩している」と冷ややかな反応
このあたりの事情は、拙著『おばあちゃんは、ぼくが介護します。』にも詳述している。
後編記事〈40代からは半数以上を女性が占める…いま「ひきこもり」女性が増えている「悲しい事情」〉では、改めて女性のひきこもりの現状や、障がい福祉サービスで性的嫌がらせをうけた場合の対処法、責任者がするべきハラスメント予防策などを解説する。

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