ワンマン経営のはてに醜聞続出…ビッグモーター 兼重前社長親子「大豪邸と社員を罵倒LINE」

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

「お客様の数は激減しています。今までは週末なら1日10件ほど売買契約がありましたが、現在は3~4件。酷(ひど)い店では0件のところもあるそうです。不正の実態が表沙汰になって3週間が経ちますが、今も本部からノルマの変更連絡は来ていません。この期(ご)に及んでまだ利益を求めるのかと、怒りを通り越して呆れています」(営業部門に勤務する中堅社員)
大きな波紋を広げている中古車販売大手『ビッグモーター』の自動車保険金不正請求問題。6月26日に第三者委員会が調査報告書を提出する以前から、FRIDAYは数々の不正疑惑について追及を続けてきた。5月5日号では現役工場長が客のタイヤに穴を空ける方法を指示し、客に不正に工賃を請求していた実態を報道。他にも不手際で客の車を炎上させながら隠蔽(いんぺい)していた疑惑(5月26日号)なども報じてきた。
沈黙を貫いてきたビッグモーターが記者会見を開いたのは7月25日。兼重宏行氏(71)は社長辞任の発表をしたうえで、
「不正請求問題は板金塗装部門が単独で行い、他の経営陣は知らなかった」
と語り、自らの関与を否定した。しかし、7月26日には国交省が聴取を行い、金融庁も損保会社への調査を行うなど、実態解明に向けた動きは続いている。
不正が横行した裏には何があったのか。最大の要因とされるのが、創業者である宏行氏と息子で前副社長の宏一氏(35)による強力なトップダウン経営だ。もともとビッグモーターは宏行氏が一代で立ち上げた会社であり、その強烈なリーダーシップのもと急成長を続けてきた。
東日本エリアの店舗で店長経験のある元社員が明かす。
「私は10年ほど前に入社しましたが、前社長は当時から数字には厳しく、結果が出なければ降格というのは常識でした。年明けの仕事始めには全店に『数字は人格』という格言が送られてきて、『A3サイズで印刷して額縁に入れて飾れ!』と指示されたこともあります。
ただ前社長は自ら運転して精力的に『環境整備点検』という視察活動を行うなど、仕事気質な一面もありました。だからこそ付いていこうという人がいたのも事実です」
そんな中、「利益至上主義」へ大きく傾倒する出来事があった。’15年に宏一氏が取締役に就任したのだ。
「この頃から、たとえば保険を使って修理する車1台あたり14万円の利益を出すといった強引なノルマが横行し始めました。過剰な要求に応えるため、私の店でもヘッドライトをハンマーで割るとか、普通の中古車と偽って水没車を売るといった行為がありました」(前出・元店長)
環境整備点検も様変わりした。営業部門の別の中堅社員が明かす。
「宏一さんの気分で異動や降格が起きるようになりました。たとえば環境整備点検の時に、店の周りに1本でも雑草が生えていたらダメ。難癖をつけるかのような基準で、左遷の連絡が来るんです。私たちはこれを『ジャッジ』と呼んでいました。環境整備点検が終わった5分後に『ジャッジ』された店長もいました。全員が宏一さんの機嫌だけを考えて行動する。それが当たり前になっていました」
実際に第三者委員会がまとめた報告書によると、’20年からの3年間だけで少なくとも47人の店長が降格処分を受けている。さらにハラスメント行為も常態化していたようだ。下のLINE画像を見てほしい。これはFRIDAYが入手した、宏一氏と幹部たちのやりとりの一部である。宏一氏が「死刑」という言葉を使い、一方的に罵声を浴びせている。幹部たちは平謝りするしかない。
このやりとりの真偽についてビッグモーターに質問状を送ったが、「問い合わせには順次対応しております」と繰り返すだけで、具体的な回答はなかった。
「宏一さんはすべての人事の最終決定権を持っていました。そして、その権限を私的に使っていた。僕は店長時代に宏一さんと幹部数名でキャバクラに行ったことがあるんです。ただ宏一さんの女の子への態度が酷すぎて、見かねて先に店を出ました。
すると翌日、宏一さんにかなり詰められた。最終的に僕は降格にはなりませんでしたが、庇(かば)ってくれた上司が左遷されました。そんなことが当たり前に起こっていたんです」(中部地区のブロック長を経験した元社員)
人事権を私物化し、社員に過剰なノルマを強制する――。その一方で、ビッグモーターは業績を伸ばしていく。昨年には年商5200億円を超え、従業員6000人を抱えるまでに成長した。
それに伴い兼重氏親子の生活にも変化が現れた。’20年に竣工した目黒区(東京)の高級住宅街にある自宅は、470坪を超える広大な敷地に地上2階・地下1階の要塞のような邸宅がそびえる。茶室や噴水まで作られており、土地と建物を合わせた推定価格は60億円を下らない大豪邸だ。
’16年には軽井沢(長野県)に950坪を誇る別荘を建造。隣接する1600坪の土地も購入し、新居の建造が進んでいる。
’21年には熱海市(静岡県)の海を望む560坪の土地に地上2階・地下1階の物件が完成した。名目上は保養所だが、兼重氏親子二人のみが取締役を務める資産管理会社『ビッグアセット』の所有となっており、実質的に兼重家の別荘として使われているようだ。こちらも総額およそ5億円という豪邸で、眼下に広がるマリーナには同じ資産管理会社が所有する大型クルーザーとヨットが停泊している。
顧客を、社員を顧みないワンマン経営を続けてきた兼重氏親子は7月26日付で引責辞任したが、新たな経営陣の前には課題が山積みとなっている。
「昨年まで40億円前後あった単月経常利益が、今年4~5月は10億円を割っています。一連の報道で、経常利益が赤字に転落することは間違いないと思います。さらに損保会社への不正請求分の返還もあります。
第三者委員会の報告書では水増し分は5000万円弱と見積もられていましたが、実際ははるかに多いとされており、5年前まで遡(さかのぼ)るとなると最大100億円とも言われています。その中で誠意ある対応を続けることが必要です」(自動車生活ジャーナリスト・加藤久美子氏)
一方で兼重氏親子の威光が残り続ける可能性も高い。というのも、二人が支配する資産管理会社はビッグモーターの株式を100%保有しており、親子は今もその会社の役員を辞任していないからだ。経済アナリストの中原圭介氏が解説する。
「株式の100%を二人の会社が所持するとなると、今後もその影響は残ると言わざるを得ません。非上場企業ですし、新しい株主が入ることもない。裏で新経営陣に干渉する可能性も十分考えられます」
冒頭の現役社員は、FRIDAYの取材に対して、こんな胸の内を明かした。
「7月はノルマが達成できないので給料は半分以下になります。ただ私たちにはお客様がいる。突然辞めてしまったら、信じてくれた方々を裏切ることになる。最後まで、それだけはしたくないんです」
創業者父子の辞任ですべてが解決したわけではない。不正を徹底的に明らかにしたうえで再発を防止するために、これから真摯な対応が求められる。
『FRIDAY』2023年8月11日号より

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。