財務省が約6000億円をいまも借りパク状態 自賠責保険積立金を2024年度も完済せず、”100年後に返す”で誰が納得するのか

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2024年の年末から、東京・霞が関の財務省前などに集まった人たちが、増税や緊縮路線を批判し財務省解体を掲げる通称「財務省デモ」が散発的に続いている。特定のイデオロギーや政治団体とは関係無く「財務省解体」「国民の敵」とSNSでの呼びかけに呼応して集まった人たちは1000人を超える規模になることもある。3月4日午後の衆院財務金融委員会で石破茂首相は、この「財務省解体デモ」について質問され「(行われていると)承知している。国民の不満、怒りというものが体現されており、等閑視すべきではなく、ご理解をいただくさらなる努力を」と答えた。人々の生活と社会の変化を記録する作家の日野百草氏が、財務省による「自賠責保険積立金」の返済について考える。
【写真】霞ヶ関の財務省。この前でたびたびデモが行われている
* * * 2024年も財務省は自賠責保険積立金、約6000億円を完済しなかった。
借りた金は返す、当たり前の話である。一般国民ならわずかな額でも厳しい取り立てをくらうだろう。借金はもちろん税金だってそうだ。当たり前の話だ。
しかし、そのトップにある財務省は平気で使い込んで返したり、返さなかったりで2004年度からは1円も返さなかった。2018年からの厳しい追及に渋々返し始めたが、完済予定は「未来」の話である。
1980年代の不動産バブルでろくな自前の資金もないのに金融機関から莫大な金を借りまくった「バブル紳士」やその組織には、バブル崩壊と同時にわずかな月々の返済額で開き直った者たちがいた。「ちゃんと返してますよ」という言い訳のためで、貸した金融機関も責任問題やその不良債権の処理、グルだった弱みもあって野放しのまま多くは逃げおおせて「やったもん勝ち」を許した。私のよく知る当時のそうした連中は何億円もする老人ホームに入っていたり孫娘と豪華クルーズ船で世界一周をしていたりする。思えばこの国の社会倫理はこういう連中によって破壊され「金だけ今だけ自分だけ」の現在に至る。
ちなみに返す、返さないとしているが正しくは一般会計から特別会計への「繰り戻し」(あるいは「繰り入れ」)と呼ぶが、本稿では返す、返さないとする。また正確には残り返済額は約5800億円であるが、まあほとんど返していないことには変わりない。自賠責保険を管轄する国土交通省によれば、
〈平成6年度及び平成7年度に、自動車損害賠償責任再保険特別会計(現・自動車安全特別会計)から一般会計に繰り入れた 1兆1,200億円について、約6000億円が繰り戻されていない状況。毎年度の繰戻額については、法律や大臣間合意に基づき、 財務省及び国土交通省が協議の上、決定〉※『一般会計から自動車安全特別会計への繰戻し』国土交通省
とある。実際、この通りである。財務省が自動車や二輪車のユーザーから自賠責保険積立金の約6000億円を完済していないという「事実」である。
筆者はさまざまな媒体でときに「消えた6000億円」、ときに「借りパク」と書いてきた。もちろん私よりもっと前にこれを追及してきたメディアやジャーナリストがいる。ずっとみな書いてきた。国民もまた怒り続けた。
それでも、財務省は自賠責保険積立金を完済しない。後述するが完済は50年、100年先の話となる。筆者は生きていまい。多くの現役世代もそうか。これをまともな返済と呼べるのかはともかく、これが政府および財務省の姿勢である。
2024年12月、参議院本会議で石破茂首相は「着実に繰り戻す」とした。2024年度は補正予算と合わせて100億円返すことになったが、それでも完済は60年先の話である。これまでの年60億円ペースの返済ではそれこそ利息抜きでも100年かかる。
この質問に立った国民民主党・新緑風会の浜口誠議員は「自賠責は税金ではない。10年以内の繰り戻しを」と求めたがもっともな話で、税金でなくユーザーの積み立てた自賠責の金である。自賠責は強制保険、義務なのでみな入らなければならない。財務省はあれこれ複雑な経緯を並べ立てて弁解するが耳を揃えて返せば済む話だし、100年後に完済しますで誰が納得するだろう。ユーザー、ひいては国民が積み立てたものだ。
加藤勝信財務相も石破首相と同様に「一般会計からの繰り戻しを着実に進める」とした。また中野洋昌国交相も財務省に「繰り戻しをしっかりと求める」とした。「着実」「しっかり」は先のバブル紳士たちも使った詭弁である。
元を正せば1994年度に大蔵省が運輸省から1兆1200億円を借りた。すぐ返すはずが、いつのまにか1円も返さなくなった。第二次安倍内閣時代の麻生太郎財務大臣に至っては「返済拒否」。凄い、返さなくていいのだ。
これが自民党および財務省の姿勢であった。10年以上も財務省と国交省の「合意」で1円も返さない、それがまかり通って来た。国交大臣の座に居座る公明党もそうか。
2022年、鈴木俊一財務大臣はついに謝罪に追い込まれた。「申し訳ない」と財務大臣の口から国民に対して初めて明確な謝罪の言葉があった。しかし「1回で返すのは無理」として2018年度に23億2000万円を繰り戻した。
1年で23億2000万円の返済だと約260年かかる計算だが、ついこの前まで財務省は本当にこんな態度で6000億円を遠い未来まで完済するつもりがなかった。それどころか2023年4月から自賠責の賦課金を値上げした。
賦課金を値上げ幅は最大150円。極めて少額だが金額の問題ではない。
財務省が返さないので値上げ、国交省は「被害者支援の充実」としたが6000億円はどこに行ったのか。まさに財務省による「消えた6000億円」であり、遠く未来までの「借りパク」である。
この件に対し抗議してきたJAF(日本自動車連盟)は「踏み倒し」を危惧していた。交通事故被害者団体も抗議した。なぜなら自賠責保険の積立金はこのままでは20年もたずに底をついてしまう可能性がある。
あくまで可能性の話だが、だからといって財務省が借りパクして構わないという話にもならないし、微々たる額の値上げとはいえユーザーが穴埋めのために払う道理もない。
1994年に当時の与党であった日本新党の細川護熙連立政権、新生党の藤井裕久大蔵大臣と社会党の伊藤茂運輸大臣の合意が今回の発端である。財務省は大蔵省で国交省は運輸省の時代、すでに担当者の多くは退官しているし、両大臣もすでに故人である。
1998年のノーパンしゃぶしゃぶ事件などを契機に大蔵省解体、2000年に完済されるはずが自民党、小泉純一郎内閣において谷垣禎一財務大臣と石原伸晃国土交通大臣が完済しないことで合意、さらに2010年、民主党菅直人内閣において野田佳彦財務相と馬淵澄夫国交相も延期した上で2017年に完済することで合意、しかし冒頭でも書いたように第2次安倍内閣において麻生財務省の「返還拒否」となった。歴史を見てもわかる通り「オールド政党」の大半はこの財務省の消えた6000億円に加担している。
先の国民民主党、浜口議員は2017年にも(当時は民進党・新緑風会)麻生財務大臣にこう訴えている。
〈六千百六十九億円、これはまさに自動車ユーザーの皆さんが積み立てたものでありますし、特別会見から一般会計の方に貸出しているものですので、この点をしっかりとご認識していただいて、残りの期間での誤りのない、ユーザーの立場あるいは被害者、その御家族の皆さんの立場に立って御対応いただくことを最後に強くお願い申し上げておきたいというふうに思っております〉※平成29年12月5日・財政金融委員会
これまでも多くが異口同音に訴えた。しかし政府および財務省は完済しない。する気がない。筆者は以前「一般国民は財務省のATMなのか」と強い書き方もしたが、まったく間違ってはいないと思っている。
みんなの積み立てたお金を使ったのなら返すものだ。そして60年先だ100年先だ23世紀だなんて普通、返済しているとは言わない。
ともあれ、財務省は2024年度も完済しなかった。
果たして、何十年も借り続けた6000億円はどこにいったのだろう。この問題もまた「国民の敵」とまで言われ始めた与党政治家および財務官僚の「膿」の象徴に他ならない。
【プロフィール】日野百草(ひの・ひゃくそう)/出版社勤務を経て、内外の社会問題や社会倫理のルポルタージュを手掛ける。日本ペンクラブ広報委員会委員。

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