河井克行元法相(60)=収監中=らによる参院選買収事件の取り調べを巡り、東京地検特捜部の検事が元広島市議の供述を誘導したとされる疑惑で、別の検事が現金受領を一部否定した広島県議に対し、「大変なことになる」「裁判になってからでは遅い」などと執拗(しつよう)に自白を要求していたことが23日、時事通信が入手した録音データで分かった。
県議の当時の弁護人は「自白を強要した」として、取り調べ後の2020年4月、最高検に適切な対処を求める要請書を提出していた。
不起訴を示唆した供述誘導疑惑に続き、特捜検事が強引な捜査を行っていた可能性が明らかになった。
録音データによると、検事は同月に行われた取り調べで、県議が河井元法相側から19年5月ごろに受け取った10万円以外にも現金を受領したはずだと追及した。
否定する県議に、検事は「東京地検特捜部が出てきて、もうステージが1個上がっている」「まだ上がっていきます。大丈夫ですか」と質問。県議が「はい」と応じると、「大変なことになります」「それでもいいんですか」と問い掛けた。
県議は「もらっていないので」と重ねて否定したが、「ちゃんと話をするなら早めがいいです。でないと、河井先生たちと一緒に沈んでいきます」と発言。「そうなったら議員もやっていられません。そんなこと望んでいないから、協力してくださいと特捜部が言ってるんですよ」と述べた。
さらに、「裁判になってからでは遅いです」「時間がたつにつれて選択肢はどんどんなくなっていく」などと説明した。
弁護人は最高検への要請書で、「誤った見立てに固執し、それに沿わなければうそだと決め付けている」と指摘。「自白を強要する取り調べが幾多の虚偽自白、冤罪(えんざい)を生み出してきた暗黒の歴史に照らしても、看過し難い違法、不当な取り調べが行われた」と批判した。
県議は、河井元法相の妻、案里元参院議員(49)=有罪確定=への投票取りまとめなどの報酬と知りながら10万円を受け取ったとして有罪判決を受け、控訴している。