「いくら使って欲しいか金額を言って!」。六本木のキャバクラ嬢に入れ込んだ男は、夜な夜な、こんな気前のいいことを言って豪遊していたという。だが、彼は自腹を切って遊んでいたわけではない。毎月100~200万円以上の遊興費を、接待で使ったように見せかけ、会社ばかりか取引先にまで請求していたのである。この男の勤務先は東証プライム上場の「エイベックス」。取材を進めると、男がキャバクラ代の請求先にしていた取引先と同社代表取締役社長・黒岩克巳氏(51)の“ただならぬ関係”も浮かび上がってきた。
【写真10枚】元六本木のキャバクラ嬢・A子さんと、キャバクラ遊びを満喫するエイベックス執行役員のY氏「オレ、一生、この娘指名だから覚えておいて!」「あの男だけは絶対に許せません。さんざん私のことを弄び、コケにした。なぜ告発したのか? 地獄を見せたかったからです」六本木のキャバクラで1日で1億円以上も使った”伝説”を持つエイベックスの松浦勝人会長。部下の不正経費使用をどう受け止めているのか こう怒りで肩を震わせるのは、昨年まで六本木でキャバクラ嬢をしていたA子さん(20代)である。彼女が許せないと憤る相手は、「エイベックス」執行役員兼「エイベックス・エンタテインメント」取締役のY氏(40代)。8月に、グループ内のライブ部門を管轄する子会社「エイベックス・ライヴ・クリエイティヴ」代表取締役社長に就任する予定の人物だ。 A子さんは昨年春頃、客だったY氏と不倫関係になった。だが、Y氏の度重なる不誠実な対応に呆れ果て、別れを決意。総額約1300万円に及ぶ「不正経費利用」を告発するに至ったのである。 2021年秋から六本木のキャバクラ店Xで働き始めたA子さんがY氏の席に初めてついたのは、入店から2カ月経った12月のことだった。Y氏は会社関係者ら数人と共に、よく同店を訪れていたという。「しばらくYさんの席につくことはなかったんですが、彼の方はずっと私に目をつけてたみたいでした。ある時、女の子の待機席まで覗きに来て、黒服に『この子をお願いします』って頼んだのです。『オレ、一生、この娘指名だから覚えておいて!』って」アフターの後で… 珍しい“場内指名”だが、Y氏にはすでに指名していた女性がいた。その後、A子さんは店を転々とするのだが、Y氏は移籍先にも追いかけて来店するようになった。「たまに接待や会社の同僚を連れてくることがありましたが、9割方は一人です。オープンの午後8時から深夜1時のラストまでいることも頻繁でした。利用するのは必ずVIPルームで、閉店後はお店の近くのバーに行くのがお決まりのコース。最初の頃は、『顔が好み』と言っていたけど、しつこく口説くようなこともなく紳士然としていました」 だが、昨年3月初旬、Y氏の誕生日祝いをした日にとうとう二人は関係を結んだ。「アフターで行ったバーを出たのは深夜3時過ぎでしたが、私はぐでんぐでんに。『大丈夫です』と断っても彼は『送るよ』と譲らない。本当は住んでいないマンションの前まで行って『ここでいいです』と言って別れようとしても『部屋まで送る』としつこくて……。気づいたらホテルに連れ込まれていました」Y氏がA子さんに送っていた“ラブメッセージ” 肉体関係を持ってからは、Y氏の態度が一変したという。「『久しぶりに本気で好きな人ができた』と言い出して、犬のように従順になった。たとえば、私が『今日、家具を買いに行こうと思っているんだ』とメッセージを送ると、『車出すよ』と仕事もすっぽかしてやってくる。会えば『一番大好き、一番大事』って毎日のように言い続けていました」 A子さんが保存していたメッセージのやり取りでも、Y氏は“忠犬”ぶりを意識してか、犬のスタンプやハートマークを多用していた。Y氏〈ありがと(犬のスタンプ)〉Y氏〈寝るわん(犬のスタンプ)〉Y氏〈おやすみちゅみ(ハートマーク)〉A子さん〈笑笑〉A子さん〈おやちゅみちゅみ〉Y氏〈ちゅみ(くまのスタンプ)〉 40代の大人とは思えぬ愛情表現だが、「可愛く思えてきて、気づいたら好きになってしまった」。Y氏の方はもっとAさんに気に入られようと、以前にもまして店に通い詰めるようになった。 A子さんは顧客情報をこまめにノートに残していた。たとえば22年3月はこんな感じだ。〈3月2日 同伴 人数:1名 I様1~2時間後合流 席:セミVIP 40万円以上〉〈3月4日 同伴 人数:1名 後にavex社員4名1~2時間後合流 席:セミVIP 60万円以上〉〈3月15日 人数:1名 席:セミVIP 20万円以内〉〈3月18日 同伴 人数:1名 席:セミVIP 20万円以上〉〈3月29日 人数:1名 席:セミVIP 20万円以上〉 この月の合計は約160万円。以降、毎月のように、多い時は200万円以上もの大金を使っていった。 A子さんには他にも上客が何人もいたが、Y氏はトップクラスだったという。「上客のほとんどは社長さんで、Yさんのような勤め人でこんな使い方をする人はいません。一回の利用料金は、平均して2、30万円ですが、多い時は一人で、ワイン、シャンパンをボトルでガンガン入れて70万円以上も遣いました」 店で売り上げレースが開かれた月には最終日に来店し、「あといくら必要なのか金額教えて」と聞いてあと、「勝てるなら絶対ボトル入れよう」と最終オーダーでマッカラン18年(約15万円)を注文。会計は総額で50万円くらいになったという。請求書を取引先に送らせた A子さんの記録によれば、Y氏がA子さんを指名して遊興した費用は8カ月間で約1300万円にも及ぶ。Y氏はそのほぼ全てを「交際費」として、会社の経費で精算していたのである。「最初は自分のカードを切ったり、後輩を呼んでカードを切って領収書をもらう手口が多かったのですが、キャバクラ仲間であるエイベックスの同僚に『ツケにして会社請求できるワザがある』と聞いてからは、会社請求を多用するようになりました。宛先は『エイベックス・エンタテインメント』が多かった。請求書には日付やYさんの名前を入れないよう指示されました。人数はお店が勝手に5名とか8名に変えていました」 そればかりか、彼は取引先にまで請求書を送っていた。その社名は「シンクロ・エンターテイメント」。ライブの設営・運営を専門とする業者で、最大の取引先はエイベックスだ。「彼はシンクロ社のことを『俺の会社』と説明していました。いつも今月はいくら使ったかと計算しながら飲んでいたのですが、これ以上エイベックスにつけられないと考えた時にシンクロ社を使っていたのです」 A子さんは、8月19日付の29万8200円、9月1日付の108万3600円、計約140万円の請求書の宛先を店に頼んでシンクロ社に書き換え、送ってもらうように処理したと話し、証拠となる店側とのLINEも見せてくれた。ダボダボの服を着た兄ちゃんがたむろしていた店 このシンクロ社について調べると、驚くべき事実が判明した。シンクロ社は、エイベックスのナンバー2である黒岩克巳社長が設立した会社だった。 横浜・中華街近くの寂れた裏道に、シンクロ社発祥の地はあった。26年前、ここに「POLICE」という看板を掲げたスポーツ用品店がオープンした。運営会社は「有限会社シンクロ」で、代表取締役は黒岩氏である。 エイベックス関係者が語る。「黒岩社長はエイベックスに入社前、スノーボードやサーフィンの専門店を経営していたと聞いています。今もスノボとサーフィンが趣味で休みになると楽しんでいますよ」 今は別店舗になっているが、近隣住民は在りし日のスポーツショップを覚えていた。「あー、あった、あった。ダボダボの服を着た若い兄ちゃんたちが店の中でよくたむろしていた。4、5年くらいしたらなくなったけど」 その“兄ちゃん”たちの中にいたのが、Y氏だ。彼は店長として黒岩氏からこの店を任されていたのである。A子さんもY氏から直接、その話を何度も聞かされていた。「彼は横浜国立大学を中退後、黒岩社長が経営するスポーツ用品店の店長をしていたと話していました。その後、黒岩さんに誘われてエイベックスに入ったと。とにかく、彼は黒岩さんには頭が上がらないらしくて、いつも動向を気にしていました。店に入ってきた新しい子が、突然、黒岩社長を連れてきた時も大慌てで、自分が来ていることは内緒にしてほしいと黒服たちに口止めもしていました。『松浦さんや黒岩さんが行く店には行けない』と言うので、その後、私は彼のために店を変えたのです」外注比率が約8割 なぜスポーツ用品店だったシンクロ社がイベント運営会社に衣替えしたのか。それは黒岩氏がエイベックスでライブ部門を長らく取り仕切ってきたことと関係ありそうだ。 黒岩氏が「アクシブ」(現・エイベックス・マネジメント)に入社したのは01年。だが、しばらくは、エイベックスの社員をしながらシンクロ社の代表を続けていた。05年にシンクロ社代表を辞任。代わりに当時、取締役だった二人が代表に就任した。06年、同社はスポーツ物販店を第三者に営業譲渡し、翌07年には並行してやっていた飲食店経営からも撤退。株式会社「シンクロ・エンターテインメント」に社名変更した。 一方で、黒岩氏は05年にライブ部門を統括する「エイベックス・ライブ・クリエティブ」の取締役となり、12年には同社の代表取締役社長に就任した。 その後、シンクロ社はエイベックスからライブ関連の事業を受注するようになるのである。東方神起、BIGBANG、ULTRA JAPAN、a-nation、スターアイランド花火大会などのコンサートやフェス関連の販売ブースの企画・運営などを受注していった。 この間、黒岩氏は順調に出世街道を進み、18年にエイベックス本社の社長に就任。代わりにY氏がライブ部門を引き継いだ。 信用情報機関の資料によると、18年の時点で、シンクロ社の売り上げのうちエイベックス・エンタテイメント関連は8割にも及ぶ。売り上げが約8億円に対して外注費が約6億2600万円。外注比率が約78%で受注した分を丸投げしているようにも見える。謎のプール付き保養所 さらにシンクロ社で注目すべき点は、19年に神奈川県逗子市の高級別荘地の中に新築した「保養所」である。敷地は560平米、2階建てプール付きの大豪邸で、地元不動産関係者によれば、推定資産価値は約1億5000万円。シンクロ社は、営業利益が1000万円程度しか計上できていないのに、銀行から借金までしてこの保養所を建設した。同社の社員は12名しかおらず、不可解な保養所と言わざるを得ない。 取材を進めると、この「保養所」を黒岩社長が利用しているという証言が出てきたのだ。「3年くらい前に、黒岩さんが逗子で別荘を手に入れ、週末はサーフィンを楽しんでいるという情報が業界内に出回った」(音楽業界関係者) 近隣住民によれば、週末になるとベンツやアルファードといった高級車が駐車場に停まり、プールからは子供の声も聞こえてくるという。 なお、現在のシンクロ社の代表は、黒岩氏が代表を譲った当時の二人だ。つまり、黒岩氏のかつての部下たちが、現在もエイベックス関係の事業を受注している構図なのである。「エイベックス内において、ライブ部門は一番の稼ぎ頭で勢いがある部署です。一方、社内でもブラックボックス化していて、よからぬ噂ばかり聞こえてくる。制作畑の松浦勝人会長はほとんどタッチしておらず、実態がわかっていないのでないか。シンクロ社との取引が利益相反に問われないか心配です」(前出・エイベックス関係者)エイベックスからの回答 7月14日、エイベックス本社前でY氏を直撃した。だが、Y氏は「(不正に経費を利用した事実は)ないです」とだけ否定し、愛車のベンツに乗って去ってしまった。 では、エイベックスはどう答えるか。エイベックスがホームページに掲げる「コンプライアンスポリシー」には〈人の金で遊ぶな〉という項目がある。〈会社の経費で遊ばない/取引先との間で、一般社会的な常識の範囲から逸脱する接待・贈答をしない/過度な接待を受けるなどして取引先にたからない〉 社員によれば、これは松浦会長が自ら考えた文章だという。エイベックスに11項目からなる質問状を送ったところ、代理人弁護士5名の連名で回答がファクスで届いた。 1、 Yの経費不正利用等についてYの経費不正利用及びシンクロ・エンターテイメント社への遊興費請求の件につきましては、現在、調査継続中ではありますが、現時点において、ご指摘いただいた事項に該当する事実はございません。今後の調査において不正が確認できた場合には、厳正に対処します 2、 A子さんとYの関係性についてA子さんとY本人のプライバシーに関する事項になり、当社が回答すべき立場にございませんので、回答は控えさせていただきます 3、 シンクロ・エンターテイメント社について 現在、黒岩は、シンクロ・エンターテイメント社の経営に関わっておらず、同社に影響を与える立場でもありません。したがって、シンクロ・エンターテイメント社と当社との取引は利益相反には当たらないと考えております。当社はシンクロ・エンターテイメント社の一取引先に過ぎませんので、同社に関する事項につきましては、当社は回答する立場にありません シンクロ社からはメールで回答が届いた。 経費請求については〈現在、事実確認中です〉とし、Y氏が過去、同社で勤務していたことについては〈ある期間、スタッフとして在籍していたのは事実です〉。エイベックスから受注を受けるようになった経緯については〈スポーツ分野から将来のエンターテイメント業界の可能性を感じ、事業転換しました〉。 保養所については、〈黒岩様のために建てたという事実はありません。当施設は従業員や関係各所、知人の皆様が交流する場を目的として建設した福利厚生施設です。その中で黒岩様に利用していただいたことはあります〉と回答した。 企業法務に詳しい弁護士は、不正経費利用について「詐欺や業務上横領に問われる可能性があります。一般的な上場企業なら、全額を弁済させた上で懲戒解雇処分になるでしょう」と指摘する。 後編では、A子さんがY氏と決裂し、告発に至った経緯について詳報する。A子さんはY氏の子供を身籠り、堕胎していた――。デイリー新潮編集部
「あの男だけは絶対に許せません。さんざん私のことを弄び、コケにした。なぜ告発したのか? 地獄を見せたかったからです」
こう怒りで肩を震わせるのは、昨年まで六本木でキャバクラ嬢をしていたA子さん(20代)である。彼女が許せないと憤る相手は、「エイベックス」執行役員兼「エイベックス・エンタテインメント」取締役のY氏(40代)。8月に、グループ内のライブ部門を管轄する子会社「エイベックス・ライヴ・クリエイティヴ」代表取締役社長に就任する予定の人物だ。
A子さんは昨年春頃、客だったY氏と不倫関係になった。だが、Y氏の度重なる不誠実な対応に呆れ果て、別れを決意。総額約1300万円に及ぶ「不正経費利用」を告発するに至ったのである。
2021年秋から六本木のキャバクラ店Xで働き始めたA子さんがY氏の席に初めてついたのは、入店から2カ月経った12月のことだった。Y氏は会社関係者ら数人と共に、よく同店を訪れていたという。
「しばらくYさんの席につくことはなかったんですが、彼の方はずっと私に目をつけてたみたいでした。ある時、女の子の待機席まで覗きに来て、黒服に『この子をお願いします』って頼んだのです。『オレ、一生、この娘指名だから覚えておいて!』って」
珍しい“場内指名”だが、Y氏にはすでに指名していた女性がいた。その後、A子さんは店を転々とするのだが、Y氏は移籍先にも追いかけて来店するようになった。
「たまに接待や会社の同僚を連れてくることがありましたが、9割方は一人です。オープンの午後8時から深夜1時のラストまでいることも頻繁でした。利用するのは必ずVIPルームで、閉店後はお店の近くのバーに行くのがお決まりのコース。最初の頃は、『顔が好み』と言っていたけど、しつこく口説くようなこともなく紳士然としていました」
だが、昨年3月初旬、Y氏の誕生日祝いをした日にとうとう二人は関係を結んだ。
「アフターで行ったバーを出たのは深夜3時過ぎでしたが、私はぐでんぐでんに。『大丈夫です』と断っても彼は『送るよ』と譲らない。本当は住んでいないマンションの前まで行って『ここでいいです』と言って別れようとしても『部屋まで送る』としつこくて……。気づいたらホテルに連れ込まれていました」
肉体関係を持ってからは、Y氏の態度が一変したという。
「『久しぶりに本気で好きな人ができた』と言い出して、犬のように従順になった。たとえば、私が『今日、家具を買いに行こうと思っているんだ』とメッセージを送ると、『車出すよ』と仕事もすっぽかしてやってくる。会えば『一番大好き、一番大事』って毎日のように言い続けていました」
A子さんが保存していたメッセージのやり取りでも、Y氏は“忠犬”ぶりを意識してか、犬のスタンプやハートマークを多用していた。
Y氏〈ありがと(犬のスタンプ)〉Y氏〈寝るわん(犬のスタンプ)〉Y氏〈おやすみちゅみ(ハートマーク)〉A子さん〈笑笑〉A子さん〈おやちゅみちゅみ〉Y氏〈ちゅみ(くまのスタンプ)〉
40代の大人とは思えぬ愛情表現だが、「可愛く思えてきて、気づいたら好きになってしまった」。Y氏の方はもっとAさんに気に入られようと、以前にもまして店に通い詰めるようになった。
A子さんは顧客情報をこまめにノートに残していた。たとえば22年3月はこんな感じだ。
〈3月2日 同伴 人数:1名 I様1~2時間後合流 席:セミVIP 40万円以上〉〈3月4日 同伴 人数:1名 後にavex社員4名1~2時間後合流 席:セミVIP 60万円以上〉〈3月15日 人数:1名 席:セミVIP 20万円以内〉〈3月18日 同伴 人数:1名 席:セミVIP 20万円以上〉〈3月29日 人数:1名 席:セミVIP 20万円以上〉
この月の合計は約160万円。以降、毎月のように、多い時は200万円以上もの大金を使っていった。
A子さんには他にも上客が何人もいたが、Y氏はトップクラスだったという。
「上客のほとんどは社長さんで、Yさんのような勤め人でこんな使い方をする人はいません。一回の利用料金は、平均して2、30万円ですが、多い時は一人で、ワイン、シャンパンをボトルでガンガン入れて70万円以上も遣いました」
店で売り上げレースが開かれた月には最終日に来店し、「あといくら必要なのか金額教えて」と聞いてあと、「勝てるなら絶対ボトル入れよう」と最終オーダーでマッカラン18年(約15万円)を注文。会計は総額で50万円くらいになったという。
A子さんの記録によれば、Y氏がA子さんを指名して遊興した費用は8カ月間で約1300万円にも及ぶ。Y氏はそのほぼ全てを「交際費」として、会社の経費で精算していたのである。
「最初は自分のカードを切ったり、後輩を呼んでカードを切って領収書をもらう手口が多かったのですが、キャバクラ仲間であるエイベックスの同僚に『ツケにして会社請求できるワザがある』と聞いてからは、会社請求を多用するようになりました。宛先は『エイベックス・エンタテインメント』が多かった。請求書には日付やYさんの名前を入れないよう指示されました。人数はお店が勝手に5名とか8名に変えていました」
そればかりか、彼は取引先にまで請求書を送っていた。その社名は「シンクロ・エンターテイメント」。ライブの設営・運営を専門とする業者で、最大の取引先はエイベックスだ。
「彼はシンクロ社のことを『俺の会社』と説明していました。いつも今月はいくら使ったかと計算しながら飲んでいたのですが、これ以上エイベックスにつけられないと考えた時にシンクロ社を使っていたのです」
A子さんは、8月19日付の29万8200円、9月1日付の108万3600円、計約140万円の請求書の宛先を店に頼んでシンクロ社に書き換え、送ってもらうように処理したと話し、証拠となる店側とのLINEも見せてくれた。
このシンクロ社について調べると、驚くべき事実が判明した。シンクロ社は、エイベックスのナンバー2である黒岩克巳社長が設立した会社だった。
横浜・中華街近くの寂れた裏道に、シンクロ社発祥の地はあった。26年前、ここに「POLICE」という看板を掲げたスポーツ用品店がオープンした。運営会社は「有限会社シンクロ」で、代表取締役は黒岩氏である。
エイベックス関係者が語る。
「黒岩社長はエイベックスに入社前、スノーボードやサーフィンの専門店を経営していたと聞いています。今もスノボとサーフィンが趣味で休みになると楽しんでいますよ」
今は別店舗になっているが、近隣住民は在りし日のスポーツショップを覚えていた。
「あー、あった、あった。ダボダボの服を着た若い兄ちゃんたちが店の中でよくたむろしていた。4、5年くらいしたらなくなったけど」
その“兄ちゃん”たちの中にいたのが、Y氏だ。彼は店長として黒岩氏からこの店を任されていたのである。A子さんもY氏から直接、その話を何度も聞かされていた。
「彼は横浜国立大学を中退後、黒岩社長が経営するスポーツ用品店の店長をしていたと話していました。その後、黒岩さんに誘われてエイベックスに入ったと。とにかく、彼は黒岩さんには頭が上がらないらしくて、いつも動向を気にしていました。店に入ってきた新しい子が、突然、黒岩社長を連れてきた時も大慌てで、自分が来ていることは内緒にしてほしいと黒服たちに口止めもしていました。『松浦さんや黒岩さんが行く店には行けない』と言うので、その後、私は彼のために店を変えたのです」
なぜスポーツ用品店だったシンクロ社がイベント運営会社に衣替えしたのか。それは黒岩氏がエイベックスでライブ部門を長らく取り仕切ってきたことと関係ありそうだ。
黒岩氏が「アクシブ」(現・エイベックス・マネジメント)に入社したのは01年。だが、しばらくは、エイベックスの社員をしながらシンクロ社の代表を続けていた。05年にシンクロ社代表を辞任。代わりに当時、取締役だった二人が代表に就任した。06年、同社はスポーツ物販店を第三者に営業譲渡し、翌07年には並行してやっていた飲食店経営からも撤退。株式会社「シンクロ・エンターテインメント」に社名変更した。
一方で、黒岩氏は05年にライブ部門を統括する「エイベックス・ライブ・クリエティブ」の取締役となり、12年には同社の代表取締役社長に就任した。
その後、シンクロ社はエイベックスからライブ関連の事業を受注するようになるのである。東方神起、BIGBANG、ULTRA JAPAN、a-nation、スターアイランド花火大会などのコンサートやフェス関連の販売ブースの企画・運営などを受注していった。
この間、黒岩氏は順調に出世街道を進み、18年にエイベックス本社の社長に就任。代わりにY氏がライブ部門を引き継いだ。
信用情報機関の資料によると、18年の時点で、シンクロ社の売り上げのうちエイベックス・エンタテイメント関連は8割にも及ぶ。売り上げが約8億円に対して外注費が約6億2600万円。外注比率が約78%で受注した分を丸投げしているようにも見える。
さらにシンクロ社で注目すべき点は、19年に神奈川県逗子市の高級別荘地の中に新築した「保養所」である。敷地は560平米、2階建てプール付きの大豪邸で、地元不動産関係者によれば、推定資産価値は約1億5000万円。シンクロ社は、営業利益が1000万円程度しか計上できていないのに、銀行から借金までしてこの保養所を建設した。同社の社員は12名しかおらず、不可解な保養所と言わざるを得ない。
取材を進めると、この「保養所」を黒岩社長が利用しているという証言が出てきたのだ。
「3年くらい前に、黒岩さんが逗子で別荘を手に入れ、週末はサーフィンを楽しんでいるという情報が業界内に出回った」(音楽業界関係者)
近隣住民によれば、週末になるとベンツやアルファードといった高級車が駐車場に停まり、プールからは子供の声も聞こえてくるという。
なお、現在のシンクロ社の代表は、黒岩氏が代表を譲った当時の二人だ。つまり、黒岩氏のかつての部下たちが、現在もエイベックス関係の事業を受注している構図なのである。
「エイベックス内において、ライブ部門は一番の稼ぎ頭で勢いがある部署です。一方、社内でもブラックボックス化していて、よからぬ噂ばかり聞こえてくる。制作畑の松浦勝人会長はほとんどタッチしておらず、実態がわかっていないのでないか。シンクロ社との取引が利益相反に問われないか心配です」(前出・エイベックス関係者)
7月14日、エイベックス本社前でY氏を直撃した。だが、Y氏は「(不正に経費を利用した事実は)ないです」とだけ否定し、愛車のベンツに乗って去ってしまった。
では、エイベックスはどう答えるか。エイベックスがホームページに掲げる「コンプライアンスポリシー」には〈人の金で遊ぶな〉という項目がある。
〈会社の経費で遊ばない/取引先との間で、一般社会的な常識の範囲から逸脱する接待・贈答をしない/過度な接待を受けるなどして取引先にたからない〉
社員によれば、これは松浦会長が自ら考えた文章だという。エイベックスに11項目からなる質問状を送ったところ、代理人弁護士5名の連名で回答がファクスで届いた。
1、 Yの経費不正利用等についてYの経費不正利用及びシンクロ・エンターテイメント社への遊興費請求の件につきましては、現在、調査継続中ではありますが、現時点において、ご指摘いただいた事項に該当する事実はございません。今後の調査において不正が確認できた場合には、厳正に対処します
2、 A子さんとYの関係性についてA子さんとY本人のプライバシーに関する事項になり、当社が回答すべき立場にございませんので、回答は控えさせていただきます
3、 シンクロ・エンターテイメント社について 現在、黒岩は、シンクロ・エンターテイメント社の経営に関わっておらず、同社に影響を与える立場でもありません。したがって、シンクロ・エンターテイメント社と当社との取引は利益相反には当たらないと考えております。当社はシンクロ・エンターテイメント社の一取引先に過ぎませんので、同社に関する事項につきましては、当社は回答する立場にありません
シンクロ社からはメールで回答が届いた。
経費請求については〈現在、事実確認中です〉とし、Y氏が過去、同社で勤務していたことについては〈ある期間、スタッフとして在籍していたのは事実です〉。エイベックスから受注を受けるようになった経緯については〈スポーツ分野から将来のエンターテイメント業界の可能性を感じ、事業転換しました〉。
保養所については、〈黒岩様のために建てたという事実はありません。当施設は従業員や関係各所、知人の皆様が交流する場を目的として建設した福利厚生施設です。その中で黒岩様に利用していただいたことはあります〉と回答した。
企業法務に詳しい弁護士は、不正経費利用について「詐欺や業務上横領に問われる可能性があります。一般的な上場企業なら、全額を弁済させた上で懲戒解雇処分になるでしょう」と指摘する。
後編では、A子さんがY氏と決裂し、告発に至った経緯について詳報する。A子さんはY氏の子供を身籠り、堕胎していた――。
デイリー新潮編集部