年々市場を拡大している“出会い”を目的としたマッチングサービスのなかには、既婚者同士を対象としたものも存在する。長年連れ添ったパートナーを持つ人が、新たな出会いを求めてマッチングサービスに手を伸ばす――その理由はさまざまなのだという。
【画像】既婚者マッチングを実際に利用している40代の池田友梨さん(仮名) 今回は、実際に既婚者向けのマッチングサービスに登録する女性に、利用に至るまでの経緯を聞いた。(取材・文=田中慧/清談社)※写真はイメージです iStock.com
◆ ◆ ◆「愛のないセックスで人生を終えたくない」 埼玉県で介護職に励む池田友梨さん(仮名・44歳)が既婚者マッチングサービスに登録したのは3年前のこと。15年前に結婚した夫との関係にはすでに限界を感じており、「とにかく違う居場所を求めていた」と話す。「夫は典型的なモラハラ男で、いま小学生の娘が2人いますが育児にはノータッチ。結婚してから異性との食事会はおろか、ママ友同士の集まりですら『何時に帰ってくるんだ』『俺の稼ぎで遊んでくるのか』とブツブツ言ってくるタイプなんです。『昨日は米だったんだから、今日はパンに決まってるだろ』と食事にも毎日いちゃもんをつけてくるうえ、家族4人の食費と生活費を月たった5万円でやりくりしろと言われていました」 友梨さんに対する夫の甘えっぷりが目に浮かぶが、セックスにおいても耐え難い行為を強いてきたという。「私が育児で疲れていても『俺だって仕事してきたんだ』って言い張って、週の半分は営みを求めてきて……。それでも私への愛情があればまだ許せるんですが、夫は私が喜ぶことはいっさいしてくれないので、ただ体を貸しているだけという感覚。ひどいときは前戯も面倒だったのか、台所からもってきたサラダ油を塗りたくられたこともありました」 夫から完全にモノ扱いされる日々に絶望した友梨さんは、何かと理由をつけて夫からの誘いを断り続けたそうだ。「ただ、自分のなかで『こんな愛のないセックスで人生を終えたくない』という思いがずっとありました。もちろん最初は、子どもがいる身で夫以外の男性と関係を持つなんて許されないと思っていましたが、せめてサービスと割り切って利用できる女性用風俗ならまだ許されるんじゃないかと、思い切って利用してみたんです。 そしたら、プレイ中はただただ楽しかったし、自分のなかの何かが満たされる感覚が確かにありました。いっさい夫の顔もよぎらず、罪悪感を抱くこともなかった。たった1回の利用でしたが、この経験でタガが外れたというか……。この、自分を取り戻せる感覚はきっと悪いことではないし、私を求めてくれる人ともっと出会ってもいいんじゃないかって思えました」実際に会ってみると… 女性用風俗の体験を機に、友梨さんは夫以外の男性との出会いを求めはじめた。とはいえ、通常のマッチングサービスでは、相手の詳細なプロフィールがわからないうえ、こちらが既婚者だとバレたときに脅迫されてしまう可能性もある。そんなときに見つけたのが、登録者に身分証の提出が義務付けられた既婚者同士のマッチングサイトだった。「既婚者同士なら、お互いに家族を壊さないために秘密を守りあって楽しめると思ったんです。まずはサイトを通じて何人かとメッセージのやりとりをして、気が合いそうだなと思った方と会いました。その日は食事のみのデートで終わりましたが、その方は歩いているときに何も言わずに道路側を歩いてくれたり、『今度はお店、どこ行きたい?』と私の意見をとにかく聞いてくれて。人としてちゃんと向き合ってもらえている感覚がすごくうれしかったのを覚えています」 その後、その男性とは数回のデートを重ね、合意のうえでホテルにも行く仲になった。「夫との自分本位なセックスとはまったく違うもので、服を脱ぐ前からスキンシップを丁寧にしてくれたり、正常位のときに私の頭にずっと手を添えてくれたり……。どうしたら私が喜ぶかを真剣に考えてくれるのが伝わってきて、性の対象としてだけでなく女性として大切に扱ってもらえることへの高揚感がありました」 その男性との関係は、出会いから3年経ったいまでも良好だと話す友梨さん。だが、既婚者マッチングサービスで出会うすべての男性との関係を長続きさせるつもりはまったくないそうだ。「なかには、『妻以外の女性を抱きたい』という性欲中心の考えで利用している人がいるのも事実。ただ私は性欲よりも、より内面が面白い人と出会いたいという思いが次第に増していったので、体目的だと分かればその後は連絡を断つようになりました。なかには会社経営者など、これまで接点を持つことのなかった人と出会えることもあるので、人生の幅が広がっていく感覚が楽しかったんです」 既婚者同士ということもあり、相手と会うのはもっぱら子どもも夫も家を空けている平日の昼間。信頼できる仲になった男性に人生や家族のことを相談したり、知人の既婚者を集めて歓談するなど、既婚者同士のつながりを満喫している様子だ。「これまで数十人とマッチングしてデートを重ねてきましたが、大きなトラブルになったことはないんです。ただ最低限、どれだけ仲良くなってもお互いに置き場に困るプレゼントはしないようにしたり、もし1人の相手に本気になってしまいそうになったら、ほかの何人かの既婚者男性と同時に会うことで、気持ちを分散させたりと、意識的に自制をしています。私のなかの合言葉は、『依存しない、期待しない、干渉しない』ですね」“夫と正反対の人”に惹かれ、夫婦関係は… とはいえ3年間も既婚者とのマッチングを続けていて、実生活に支障が出ないものなのだろうか。「夫にはバレていません。でも、体には知らぬ間に変化があったようで、『最近、肌艶よくない?』『なんか色っぽくなった?』なんて夫に指摘されたときはドキッとしました。もちろん子どもにバレるのが一番怖いので、変な噂が立たないようにカジュアルな仕事着で家を出て、待ち合わせの駅のトイレに行ってから勝負服に着替えたりしてましたね。とにかく、いまの家族も非現実的な出会いも両方が大切なので、理性が利かなくなって泥沼化することだけは絶対に避けるつもりです」 マッチングサービスを利用するなかで、友梨さんにはある気づきがあった。「サービスで数十人の男性と会ってきましたが、好印象を抱くのはいつも、亭主関白な夫とは正反対の性格の人ばかり。なかには『あのホテルの最上階のお店の予約とっておいたよ』なんて人もいたけど、そこに私の意見を聞こうとする気はない。それでは夫とやっていることは一緒なので、ときめくことはありませんでした」 また、自分自身の人生観とも向き合う機会になったという。「私はやっぱり、いろんな人と出会って、新しいことにチャレンジする気持ちを忘れたくないタイプなんだって思えたんです。実は、数年まえからぼんやりと『いつか夫と離れられないかな……』と想像して介護の資格を取得し、細々と働きはじめていたんです。 このサービスで出会った既婚男性たちの行動力や前向きさを目の当たりにすると、私ももっとがんばりたいって思えた。それからは、より給与のいい介護の現場に転職したり、自分から管理職を志願したりと、前よりも活動的になれた気がします」 しかし、ぐんぐん前に進む友梨さんに対し、夫はいい顔をせず、家庭でのモラハラは相変わらずだったという。「それで2年前、ついに夫と別居することにしたんです。その前に何度か夫と話してみたんですが、夫はいまの家と職場を往復する生活に満足しきっていて、私とはやっぱり違った。夫の生き方が悪いわけでは決してなくて、私とは合わないってだけなんですけどね。だから素直に『子どものことを考えると、離婚はしたくない。けど、私たちの生き方が合わないから出ていきます』って宣言しました」 この頃には、友梨さんは1人で娘2人を支えられるほどの収入を手にしており、独り立ちの決心がついたのだという。「『パパと考えが合わなくなっちゃった』と子どもたちに相談すると、理解して私についてきてくれました。ただ、夫のほうが大変で、別居を言い出したときからずっと泣きっぱなし。1万字超えの恨み節のLINEを送ってきたり、過呼吸になって自分で救急車を呼んだこともあったようです」夫を捨てて気づいたこと 夫との別居から、もう2年が経つという。これだけの時間が流れたいま、後悔はないのだろうか。「いっさいないですし、今後また同居することもないと思います。ずっとあのまま夫のいうことを聞いてカゴのなかの鳥状態だったら……と考えるほうが怖い。子どもと触れ合いつつ仕事も充実しているし、たまに既婚者相手の関係で自分の心がかき乱されるのを感じると、生きているなって思います。 既婚者マッチングサービスで出会う人の中には、もちろん身体的な理由から夫婦間でセックスができない人もいるし、私のように心が死んだ状態から抜け出したくて利用する人もいます。 結婚生活がうまくいかなかったからって、心を殺さなきゃいけないなんてことはないはずなので、自分を保つために外での関係を広げる人もいるということは伝わってほしいと思います」 不倫が推奨されるわけでは決してないうえ、既婚者マッチングサービスを使ったからといって必ずしも人生が好転するとはかぎらない。さらに当事者だけでなく、夫婦の婚姻関係を故意に侵害する可能性がある違法行為を助長しているとして、主催者や運営サイトなどに対して法的責任が認められるケースも今後出てくるかもしれない。 だが少なくとも、傍からは見えにくい複雑な事情を抱えた夫婦がいることも事実だ。(清談社)
今回は、実際に既婚者向けのマッチングサービスに登録する女性に、利用に至るまでの経緯を聞いた。(取材・文=田中慧/清談社)
※写真はイメージです iStock.com
◆ ◆ ◆
埼玉県で介護職に励む池田友梨さん(仮名・44歳)が既婚者マッチングサービスに登録したのは3年前のこと。15年前に結婚した夫との関係にはすでに限界を感じており、「とにかく違う居場所を求めていた」と話す。
「夫は典型的なモラハラ男で、いま小学生の娘が2人いますが育児にはノータッチ。結婚してから異性との食事会はおろか、ママ友同士の集まりですら『何時に帰ってくるんだ』『俺の稼ぎで遊んでくるのか』とブツブツ言ってくるタイプなんです。『昨日は米だったんだから、今日はパンに決まってるだろ』と食事にも毎日いちゃもんをつけてくるうえ、家族4人の食費と生活費を月たった5万円でやりくりしろと言われていました」
友梨さんに対する夫の甘えっぷりが目に浮かぶが、セックスにおいても耐え難い行為を強いてきたという。
「私が育児で疲れていても『俺だって仕事してきたんだ』って言い張って、週の半分は営みを求めてきて……。それでも私への愛情があればまだ許せるんですが、夫は私が喜ぶことはいっさいしてくれないので、ただ体を貸しているだけという感覚。ひどいときは前戯も面倒だったのか、台所からもってきたサラダ油を塗りたくられたこともありました」
夫から完全にモノ扱いされる日々に絶望した友梨さんは、何かと理由をつけて夫からの誘いを断り続けたそうだ。
「ただ、自分のなかで『こんな愛のないセックスで人生を終えたくない』という思いがずっとありました。もちろん最初は、子どもがいる身で夫以外の男性と関係を持つなんて許されないと思っていましたが、せめてサービスと割り切って利用できる女性用風俗ならまだ許されるんじゃないかと、思い切って利用してみたんです。
そしたら、プレイ中はただただ楽しかったし、自分のなかの何かが満たされる感覚が確かにありました。いっさい夫の顔もよぎらず、罪悪感を抱くこともなかった。たった1回の利用でしたが、この経験でタガが外れたというか……。この、自分を取り戻せる感覚はきっと悪いことではないし、私を求めてくれる人ともっと出会ってもいいんじゃないかって思えました」
女性用風俗の体験を機に、友梨さんは夫以外の男性との出会いを求めはじめた。とはいえ、通常のマッチングサービスでは、相手の詳細なプロフィールがわからないうえ、こちらが既婚者だとバレたときに脅迫されてしまう可能性もある。そんなときに見つけたのが、登録者に身分証の提出が義務付けられた既婚者同士のマッチングサイトだった。
「既婚者同士なら、お互いに家族を壊さないために秘密を守りあって楽しめると思ったんです。まずはサイトを通じて何人かとメッセージのやりとりをして、気が合いそうだなと思った方と会いました。その日は食事のみのデートで終わりましたが、その方は歩いているときに何も言わずに道路側を歩いてくれたり、『今度はお店、どこ行きたい?』と私の意見をとにかく聞いてくれて。人としてちゃんと向き合ってもらえている感覚がすごくうれしかったのを覚えています」 その後、その男性とは数回のデートを重ね、合意のうえでホテルにも行く仲になった。「夫との自分本位なセックスとはまったく違うもので、服を脱ぐ前からスキンシップを丁寧にしてくれたり、正常位のときに私の頭にずっと手を添えてくれたり……。どうしたら私が喜ぶかを真剣に考えてくれるのが伝わってきて、性の対象としてだけでなく女性として大切に扱ってもらえることへの高揚感がありました」 その男性との関係は、出会いから3年経ったいまでも良好だと話す友梨さん。だが、既婚者マッチングサービスで出会うすべての男性との関係を長続きさせるつもりはまったくないそうだ。「なかには、『妻以外の女性を抱きたい』という性欲中心の考えで利用している人がいるのも事実。ただ私は性欲よりも、より内面が面白い人と出会いたいという思いが次第に増していったので、体目的だと分かればその後は連絡を断つようになりました。なかには会社経営者など、これまで接点を持つことのなかった人と出会えることもあるので、人生の幅が広がっていく感覚が楽しかったんです」 既婚者同士ということもあり、相手と会うのはもっぱら子どもも夫も家を空けている平日の昼間。信頼できる仲になった男性に人生や家族のことを相談したり、知人の既婚者を集めて歓談するなど、既婚者同士のつながりを満喫している様子だ。「これまで数十人とマッチングしてデートを重ねてきましたが、大きなトラブルになったことはないんです。ただ最低限、どれだけ仲良くなってもお互いに置き場に困るプレゼントはしないようにしたり、もし1人の相手に本気になってしまいそうになったら、ほかの何人かの既婚者男性と同時に会うことで、気持ちを分散させたりと、意識的に自制をしています。私のなかの合言葉は、『依存しない、期待しない、干渉しない』ですね」“夫と正反対の人”に惹かれ、夫婦関係は… とはいえ3年間も既婚者とのマッチングを続けていて、実生活に支障が出ないものなのだろうか。「夫にはバレていません。でも、体には知らぬ間に変化があったようで、『最近、肌艶よくない?』『なんか色っぽくなった?』なんて夫に指摘されたときはドキッとしました。もちろん子どもにバレるのが一番怖いので、変な噂が立たないようにカジュアルな仕事着で家を出て、待ち合わせの駅のトイレに行ってから勝負服に着替えたりしてましたね。とにかく、いまの家族も非現実的な出会いも両方が大切なので、理性が利かなくなって泥沼化することだけは絶対に避けるつもりです」 マッチングサービスを利用するなかで、友梨さんにはある気づきがあった。「サービスで数十人の男性と会ってきましたが、好印象を抱くのはいつも、亭主関白な夫とは正反対の性格の人ばかり。なかには『あのホテルの最上階のお店の予約とっておいたよ』なんて人もいたけど、そこに私の意見を聞こうとする気はない。それでは夫とやっていることは一緒なので、ときめくことはありませんでした」 また、自分自身の人生観とも向き合う機会になったという。「私はやっぱり、いろんな人と出会って、新しいことにチャレンジする気持ちを忘れたくないタイプなんだって思えたんです。実は、数年まえからぼんやりと『いつか夫と離れられないかな……』と想像して介護の資格を取得し、細々と働きはじめていたんです。 このサービスで出会った既婚男性たちの行動力や前向きさを目の当たりにすると、私ももっとがんばりたいって思えた。それからは、より給与のいい介護の現場に転職したり、自分から管理職を志願したりと、前よりも活動的になれた気がします」 しかし、ぐんぐん前に進む友梨さんに対し、夫はいい顔をせず、家庭でのモラハラは相変わらずだったという。「それで2年前、ついに夫と別居することにしたんです。その前に何度か夫と話してみたんですが、夫はいまの家と職場を往復する生活に満足しきっていて、私とはやっぱり違った。夫の生き方が悪いわけでは決してなくて、私とは合わないってだけなんですけどね。だから素直に『子どものことを考えると、離婚はしたくない。けど、私たちの生き方が合わないから出ていきます』って宣言しました」 この頃には、友梨さんは1人で娘2人を支えられるほどの収入を手にしており、独り立ちの決心がついたのだという。「『パパと考えが合わなくなっちゃった』と子どもたちに相談すると、理解して私についてきてくれました。ただ、夫のほうが大変で、別居を言い出したときからずっと泣きっぱなし。1万字超えの恨み節のLINEを送ってきたり、過呼吸になって自分で救急車を呼んだこともあったようです」夫を捨てて気づいたこと 夫との別居から、もう2年が経つという。これだけの時間が流れたいま、後悔はないのだろうか。「いっさいないですし、今後また同居することもないと思います。ずっとあのまま夫のいうことを聞いてカゴのなかの鳥状態だったら……と考えるほうが怖い。子どもと触れ合いつつ仕事も充実しているし、たまに既婚者相手の関係で自分の心がかき乱されるのを感じると、生きているなって思います。 既婚者マッチングサービスで出会う人の中には、もちろん身体的な理由から夫婦間でセックスができない人もいるし、私のように心が死んだ状態から抜け出したくて利用する人もいます。 結婚生活がうまくいかなかったからって、心を殺さなきゃいけないなんてことはないはずなので、自分を保つために外での関係を広げる人もいるということは伝わってほしいと思います」 不倫が推奨されるわけでは決してないうえ、既婚者マッチングサービスを使ったからといって必ずしも人生が好転するとはかぎらない。さらに当事者だけでなく、夫婦の婚姻関係を故意に侵害する可能性がある違法行為を助長しているとして、主催者や運営サイトなどに対して法的責任が認められるケースも今後出てくるかもしれない。 だが少なくとも、傍からは見えにくい複雑な事情を抱えた夫婦がいることも事実だ。(清談社)
「既婚者同士なら、お互いに家族を壊さないために秘密を守りあって楽しめると思ったんです。まずはサイトを通じて何人かとメッセージのやりとりをして、気が合いそうだなと思った方と会いました。その日は食事のみのデートで終わりましたが、その方は歩いているときに何も言わずに道路側を歩いてくれたり、『今度はお店、どこ行きたい?』と私の意見をとにかく聞いてくれて。人としてちゃんと向き合ってもらえている感覚がすごくうれしかったのを覚えています」
その後、その男性とは数回のデートを重ね、合意のうえでホテルにも行く仲になった。
「夫との自分本位なセックスとはまったく違うもので、服を脱ぐ前からスキンシップを丁寧にしてくれたり、正常位のときに私の頭にずっと手を添えてくれたり……。どうしたら私が喜ぶかを真剣に考えてくれるのが伝わってきて、性の対象としてだけでなく女性として大切に扱ってもらえることへの高揚感がありました」
その男性との関係は、出会いから3年経ったいまでも良好だと話す友梨さん。だが、既婚者マッチングサービスで出会うすべての男性との関係を長続きさせるつもりはまったくないそうだ。
「なかには、『妻以外の女性を抱きたい』という性欲中心の考えで利用している人がいるのも事実。ただ私は性欲よりも、より内面が面白い人と出会いたいという思いが次第に増していったので、体目的だと分かればその後は連絡を断つようになりました。なかには会社経営者など、これまで接点を持つことのなかった人と出会えることもあるので、人生の幅が広がっていく感覚が楽しかったんです」
既婚者同士ということもあり、相手と会うのはもっぱら子どもも夫も家を空けている平日の昼間。信頼できる仲になった男性に人生や家族のことを相談したり、知人の既婚者を集めて歓談するなど、既婚者同士のつながりを満喫している様子だ。
「これまで数十人とマッチングしてデートを重ねてきましたが、大きなトラブルになったことはないんです。ただ最低限、どれだけ仲良くなってもお互いに置き場に困るプレゼントはしないようにしたり、もし1人の相手に本気になってしまいそうになったら、ほかの何人かの既婚者男性と同時に会うことで、気持ちを分散させたりと、意識的に自制をしています。私のなかの合言葉は、『依存しない、期待しない、干渉しない』ですね」
とはいえ3年間も既婚者とのマッチングを続けていて、実生活に支障が出ないものなのだろうか。
「夫にはバレていません。でも、体には知らぬ間に変化があったようで、『最近、肌艶よくない?』『なんか色っぽくなった?』なんて夫に指摘されたときはドキッとしました。もちろん子どもにバレるのが一番怖いので、変な噂が立たないようにカジュアルな仕事着で家を出て、待ち合わせの駅のトイレに行ってから勝負服に着替えたりしてましたね。とにかく、いまの家族も非現実的な出会いも両方が大切なので、理性が利かなくなって泥沼化することだけは絶対に避けるつもりです」
マッチングサービスを利用するなかで、友梨さんにはある気づきがあった。
「サービスで数十人の男性と会ってきましたが、好印象を抱くのはいつも、亭主関白な夫とは正反対の性格の人ばかり。なかには『あのホテルの最上階のお店の予約とっておいたよ』なんて人もいたけど、そこに私の意見を聞こうとする気はない。それでは夫とやっていることは一緒なので、ときめくことはありませんでした」
また、自分自身の人生観とも向き合う機会になったという。
「私はやっぱり、いろんな人と出会って、新しいことにチャレンジする気持ちを忘れたくないタイプなんだって思えたんです。実は、数年まえからぼんやりと『いつか夫と離れられないかな……』と想像して介護の資格を取得し、細々と働きはじめていたんです。
このサービスで出会った既婚男性たちの行動力や前向きさを目の当たりにすると、私ももっとがんばりたいって思えた。それからは、より給与のいい介護の現場に転職したり、自分から管理職を志願したりと、前よりも活動的になれた気がします」
しかし、ぐんぐん前に進む友梨さんに対し、夫はいい顔をせず、家庭でのモラハラは相変わらずだったという。
「それで2年前、ついに夫と別居することにしたんです。その前に何度か夫と話してみたんですが、夫はいまの家と職場を往復する生活に満足しきっていて、私とはやっぱり違った。夫の生き方が悪いわけでは決してなくて、私とは合わないってだけなんですけどね。だから素直に『子どものことを考えると、離婚はしたくない。けど、私たちの生き方が合わないから出ていきます』って宣言しました」
この頃には、友梨さんは1人で娘2人を支えられるほどの収入を手にしており、独り立ちの決心がついたのだという。
「『パパと考えが合わなくなっちゃった』と子どもたちに相談すると、理解して私についてきてくれました。ただ、夫のほうが大変で、別居を言い出したときからずっと泣きっぱなし。1万字超えの恨み節のLINEを送ってきたり、過呼吸になって自分で救急車を呼んだこともあったようです」
夫との別居から、もう2年が経つという。これだけの時間が流れたいま、後悔はないのだろうか。
「いっさいないですし、今後また同居することもないと思います。ずっとあのまま夫のいうことを聞いてカゴのなかの鳥状態だったら……と考えるほうが怖い。子どもと触れ合いつつ仕事も充実しているし、たまに既婚者相手の関係で自分の心がかき乱されるのを感じると、生きているなって思います。
既婚者マッチングサービスで出会う人の中には、もちろん身体的な理由から夫婦間でセックスができない人もいるし、私のように心が死んだ状態から抜け出したくて利用する人もいます。
結婚生活がうまくいかなかったからって、心を殺さなきゃいけないなんてことはないはずなので、自分を保つために外での関係を広げる人もいるということは伝わってほしいと思います」
不倫が推奨されるわけでは決してないうえ、既婚者マッチングサービスを使ったからといって必ずしも人生が好転するとはかぎらない。さらに当事者だけでなく、夫婦の婚姻関係を故意に侵害する可能性がある違法行為を助長しているとして、主催者や運営サイトなどに対して法的責任が認められるケースも今後出てくるかもしれない。
だが少なくとも、傍からは見えにくい複雑な事情を抱えた夫婦がいることも事実だ。
(清談社)