人気バスケットボール漫画「スラムダンク」にゆかりのある神奈川県鎌倉市の踏切周辺で外国人観光客らの迷惑行為が相次ぎ、地元が頭を悩ませている。
新型コロナウイルスに伴う制限の緩和に映画のヒットが重なり、?聖地巡り?ブームが盛り上がる中で車道での撮影などのトラブルも増え、警察に通報が寄せられている。警備員も対応しているが、観光客増が地域住民の生活に悪影響を及ぼす「オーバーツーリズム」に妙手がないのが現状だ。
80人ほどの人だかりも
晴天に恵まれた週末、湘南の広大な海を臨む坂道に、数十人のアジア系外国人らが群がっていた。お目当ては江ノ島電鉄の「鎌倉高校前1号踏切」。遮断機が下り始めると同時に一斉に車道に広がり、緑を基調とした車両にカメラを構えた。「スラムダンク!」という歓声も上がった。
踏切は約30年前に放送されたアニメのオープニングで登場し、ファンの間で人気の観光スポットに。事故防止のため江ノ島電鉄と市が手配した警備員が歩道に戻るよう声を掛け、県警のパトカーからも日本語と中国語で車道に出ないように注意するが、すきをみて飛び出すため収拾は難しく、付近を走る車のクラクションが頻繁に鳴り響く。
市や地元住民らによると、平成29~30年ごろから外国人観光客を中心に人が集まり出したとされ、「交流サイト(SNS)、インターネットを通じた口コミで人気になったのではないか」(市担当者)。コロナ禍前は観光バスが付近に駐車し、渋滞を引き起こす一因となった。
コロナの影響が和らぐ中、昨年12月に日本で新作映画が公開。その後韓国、台湾、中国などでも封切りとなり、ブームが再燃している。市によると、週末には観光客が入れ代わり立ち代わり訪れ、多い時で80人ほどの人だかりができる状況が続いているという。
「知らない間にベランダに人が…」
盛り上がりとともに鮮明になってきたのが「オーバーツーリズム」の側面だ。迷惑行為は車道での撮影にとどまらず、住宅敷地への侵入、ごみのポイ捨てなどが後を絶たない。県警鎌倉署によると、踏切関連のトラブルによる通報、相談件数は昨年1年間に18件だったが、今年は6月末時点で47件、6月だけでも19件に上っている。
踏切近くに住む女性は、自宅敷地内に無断で立ち入られたことが複数回あり、「知らない間にベランダに人が入ってきて、びっくりした」と打ち明ける。自ら注意し、外に出るよう促したという。
市は私有地への立ち入り禁止を注意喚起する日本語、英語、中国語、韓国語の張り紙を作成し、近隣住民に配布。海外から来る観光客に事前にマナーに関する呼び掛けを行うことは難しく、現場での?対症療法?に頼らざるを得ないのが現状だ。たばこの吸い殻などを自主的に回収している住民もいる。
国内屈指の観光地でもある鎌倉。NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の影響もあり、昨年の観光客数は延べ約1196万人で、コロナ禍が深刻だった前年に比べ82%増となった。
スラムダンクブームが追い風になっている一面もあり、市の担当者は「観光に来てくれることはありがたいので、マナー順守、地域の安全に関する対策を続けていきたい」と話す。
オーバーツーリズムは全国的な課題に
インバウンドに詳しい航空・旅行アナリストの鳥海高太朗氏は「オーバーツーリズムは鎌倉だけでなく、富士山や京都などでも問題になっており、全国的な課題。公道上にあるアニメの?聖地?では入場料を取って制限することもできないため、警備員らを配置し、多言語でポイ捨て防止などマナーの周知を図っていくしかない」と指摘する。
鳥海氏は「電車やバスは観光客で混雑し、タクシーも足りない。住民の生活が制限されてしまっているのが現状だ」と強調。江ノ電の沿線住民らの利用を優先する鎌倉市の社会実験を例に「地元自治体や鉄道事業者は、住民が公共交通機関を利用できる施策を考えなければならない」と訴える。
中国人の団体渡航の制限が解除され、コロナ禍前の状態に戻れば、こうした観光地がさらに混雑することは必至。鳥海氏は「インバウンドが増えると、混雑を敬遠する日本人旅行者が減り、インバウンド依存が強まるというリスクもある。オーバーツーリズムへの対応は恒久的に取り組む必要がある」との見解を示す。
(梶原龍、大竹直樹)