戸籍上は男性だが性自認は女性の性同一性障害の経済産業省職員に対するトイレの使用制限を巡る訴訟で最高裁第3小法廷(今崎幸彦裁判長)が11日、国の対応を違法とする初判断を示した。
「職場のトイレ」という限られた空間に関し個別事情を踏まえ判断した形だが、裁判官5人全員が補足意見を付けた。性的少数者への配慮というより一般的な問題に対し、社会全体での議論を促したといえる。(原川真太郎)
今回の訴訟で問題となったのは、トイレの使用を制限した経産省が根拠とした女性用トイレを使う他の女性職員らに対する「配慮」と、原告職員が自認する性に即した社会生活を送る「法的利益」とのバランスだった。
同小法廷は、双方の重要性を認めた上で、原告職員が職場で「女性」として十分認知され、公共施設などと異なり人間関係が限定されている具体的な事情を分析。原告職員がトイレの使用でトラブルを起こしたことはなく、経産省の措置を「問題ない」とした人事院判定までの間、経産省が見直しを検討した形跡もないことを踏まえ、結論を導いた。
判決では、異例となる裁判官5人全員の補足意見が付され、それぞれ持論を展開した。
裁判官出身の今崎裁判長は、今回の判決について「不特定多数が利用する公共施設のトイレなどを想定した判断ではない」とした上で「そうした問題は、機会を改めて議論されるべきだ」と指摘。
「今後、この種の事例は社会のさまざまな場面で起こる」とし「多くの人々の理解抜きに解決はなく、社会全体で議論され、コンセンサスが形成されることが望まれる」と述べた。
学者出身の宇賀克也氏は、原告職員が戸籍変更に必要な性別適合手術を受けていなかったことに触れ「手術は生命・健康への危険を伴い、経済的な負担も大きい。受けていなくても可能な限り性自認を尊重して対応すべきだ」とした。
弁護士出身の渡辺恵理子氏と裁判官出身の林道晴氏も「性別は人格的な生存と密接不可分」とし、原告と他の職員との間の利害調整は、具体的に行う必要があったと強調。経産省が、説明会で女性職員が「違和感を抱いているように見えた」というあいまいな理由で制限を決めたことは「合理性を欠くことは明らかだ」と批判した。
行政官出身の長嶺安政氏は、トイレの利用制限自体は他の職員の心理面も踏まえ「激変緩和措置として一定の合理性はあった」としつつ、「必要に応じて見直すべきだった」と述べた。
判決を受けて経産省は「判決を精査した上で対応していく」。人事院は「判決の内容を十分に精査し、適切に対応していきたい」とそれぞれコメントした。