こんにちは。恋愛・婚活コンサルタントの菊乃です。
婚活の記事を書いていると「婚活業界は非モテを集めてぼろ儲けしている」といったコメントが付くことが多々あります。でも、決してぼろ儲けをしているわけではないと思うのです。
マッチングサービスを提供する企業は人の出入りが激しく、過去には知り合った方が翌月退職してたり、メンタルダウンで休職していたということも多々ありました。もしかしたら急成長中なのかもしれませんが、常に積極的に求人を出している会社もあります。
今回はそんな「婚活サービスの裏側」を、大手の婚活企業A社に仲人(なこうど)として勤務していたという祐実さん(仮名/首都圏在住)に取材しました。結婚を応援するこの業界が、もっと健全になってほしい。そんな思いを込めて、リアルな実情をお届けします。
◆サービスの質向上よりも、新規入会者を増やすことを重視
祐実さんが勤めていたA社も、離職率が高い印象があります。祐実さんは在籍5年で辞めたそうですが、会社の中では5年いればベテラン扱いだったそうです。なぜ、離職率が高いのでしょうか。
「会社がサポートの質向上よりも、入会者を増やす営業に重点を置いていて、無料相談会に来たお客様をクロージング(成約につなげること)できないと、上司からの叱責があるんです」
ちなみに祐実さんのクロージング率は7割で、かなり高い方だったそう。
結婚相談所は新規参入も容易で、競合はどんどん増えています。結婚相談所を検討する人は、複数の会社で話を聞いていることがほとんど。そんな中でも、A社は無料相談で対応した人数のうち何割入会させることができたかで成績が出されるそうです。
社内では、入会クロージング率の高い社員のテクを学ぶ勉強会も開催されていました。
◆「全然出会えない!」会員からのクレームが来やすい理由
離職率が高い理由は、他にもあります。
「集客に力を入れている結果、入会後のトラブルも多いのです。厳しい婚活の実態を入会前に話さないこともあるため、入会後に期待との乖離(かいり)を感じる方もいます。価格に見合ったサービスではないとか、全然出会えないとか、たびたび言われていました」
これは筆者自身もよく聞く話です。結婚相談所に入会すれば結婚できる、ぐらいに勘違いをして入会する人はいます。高いお金を払ったからって、自分の魅力を買えるわけではないのに。結婚相談所に支払う料金は「独身で身元が証明された出会いの場に立つ機会」に対しての対価であって、結婚相談所の中は競争の場です。それなのに入会前に甘い期待を持たせてしまえば、がっかりされることはあるでしょう。
会員が想像力を働かせればいいという部分もありますが、これは説明不足な状態でも会員数を増やすために入会させてしまうという、結婚相談所の問題も大きいです。
◆男性会員からのセクハラも。“モンスター会員”に病む仲人たち
結婚相談所で働く女性は、会員からのセクハラを受けることもあるそうです。
「『俺が風俗に行っていることを軽蔑(けいべつ)しますか?』とたびたび電話で確認してくる男性会員がいました。私は適当にあしらっていたのですが、こんなセクハラをする会員もいるのです。
非常に個人的な情報を扱うこの業界では、会員との面談はたいてい小さな個室です。その個室で『好きです』と言われ迫ってこられて、泣いて出てきた後輩もいましたね」
お客様だから怒ることもしにくいでしょう。モンスター会員を放置して、その対応を現場スタッフに押し付けている結婚相談所の対応も疑問です。
「40代女性が『年下もOKになってきた』と、さも条件を緩和したように言ってくることがあります。こんな風に身の丈に合わない高望みをしすぎる会員さんと毎日接していて、負の感情がどんどん溜まるという仲人もいました。
今も覚えている癖の強い会員さんは、“頭の良い女性”を希望している男性でした。それで有名企業に勤める優秀な女性を紹介したのですが、『この人、Fラン卒でしょ。あなたは自分の仕事をしてくださいよ』と言わました。希望の相手をあてがうのが結婚相談所の仕事だと思って、デートクラブか何かと勘違いしている方はちらほらいましたね」
◆社員は接客業の経験者が多く、若い人ほどすぐ辞める
祐実さんの同僚たちは、ほとんどがアパレルや営業など元接客業の人だったそうです。
「入社してくるのは、アラサーぐらいの若い人も多かったです。若い女性は転職もしやすいので、入社してすぐ辞める人が多かった気がします。仕事のストレスが、給料に見合っていないのです。
同僚は人当たりもよくみんないい人ばかりでした。辞めた後も交流があって、ご飯に行ったりすることもあるのですが、辞めたことを後悔している人はいません。
結婚相談所勤務が長く続く人は、モンスターに遭遇してもケロッとしているような図太さを備えた人だったと思います」
気になるお給料は入社した初年度だと手取り20万円に届かないくらいだそうです。厳しいノルマを課せられ叱られ、会員からセクハラを受け、クレーム対応までしていると、割に合わないのでしょう。
◆仲人は「ガチャ」だと断言できるわけ
結婚相談所の人というと、会員の婚活のお手伝いをしているというイメージがありませんか? しかしその実態はどうなのでしょうか。
「仲人向けに、会員に対するアドバイスの仕方を教えるような研修はあまりないんです。だからアドバイスは仲人ごとに異なっていました。辞めた社員の担当している会員を引き継ぐので、一番多い時は担当会員数が3桁以上もいて、きめ細かい対応はしにくかったです。
例えば女性会員の方から、『デートの場所が駅から徒歩20分のお店だった』と報告を受けたとします。そんな時は男性側の担当仲人に共有して、男性側にフィードバックをお願いしていましたが、実際に男性にアドバイスをしたのかどうかの報告や確認までは根付いていませんでした」
これはA社に限らず、よく聞く話です。
デートの作法はどこまでがセーフでどこからアウトなのか、線引きは難しいのです。駅から遠いお店はふさわしくないとアドバイスしても、どこから遠いと感じるのかは人それぞれ。
さらに、アドバイスをしたことで会員が怒って仕事が増えるのも面倒くさいと考える人もいるかもしれません。
◆効率的で安心安全な出会いの機会を買っている
結婚相談所はマッチングアプリとは異なり、独身かどうか、年収、学歴、年齢を証明する公的書類をすべて提出して登録し、効率的です。繰り返しになりますが、効率的で安心安全な出会いの機会を買っているのであって、結婚相談所の中では自分はもっと若い人、魅力的な人と比較検討されるのだということを、会員も忘れてはいけないのだと思います。
でも、こんな当たり前のことを入会前に伝える仲人があまりいないのです。利用者にとっても、働く人にとっても、もっと風通しのいい業界になってほしいものです。
※個人が特定されないよう一部脚色してあります。<取材・文/菊乃>