過激なエロ・グロ表現を含む「有害図書」。自治体による規制は近年、ネットや民間へと波及している。漫画家やクリエーターらは危機感を強める一方、規制の必要性を訴える声も根強い。有害図書規制はどうあるべきか。人気ボクシング漫画「はじめの一歩」の作者、森川ジョージ氏に聞いた。
【写真特集】「デビルマン」には少年の首が切り落とされる描写も ――「不健全図書」（有害図書）の名称変更を求めています。 ◆好きなものを描いて、不健全だとか有害だとか言われるのは、気分が悪いと思います。漫画のエロ・グロ表現を読んだことで起こった犯罪は、ないんじゃないか。立証できないと思います。「青年推奨」とか「R15指定」、「R18指定」などと区分すればいい。
――鳥取県が有害指定した書籍を2022年、アマゾンが取り扱い中止にしました。 ◆かなりきつい措置ですね。指定されるとネット上も含めて流通経路が塞がれる点では、東京都の条例にも同じような問題があります。 漫画には映倫（映画倫理機構の審査）のようなシステムはないですが、編集者が目を通し、校閲を経て世に出るので、出版社がちゃんと管理しています。 ――規制があることで作家が表現をためらうことはありますか。 ◆ものすごくあります。少年誌だと、「この言葉はダメ」と削除されるとか。乳首を白く消されたり、血の表現を抑えられたり。 「はじめの一歩」はボクシングを扱っています。読者で殴られた経験のある子って、あまりいない。そんな子たちに、どういう風に描いたら痛さが伝わるだろうと思って描くわけです。それを見た人たちが、もっと痛いのを描いてやる、と。 寸止めのパンチしか許されていなかったら、ボクシング漫画を描く人は生まれなくなります。この循環が絶たれると、表現は本当に縮むと思います。 ――なぜ暴力や性表現から子供を隔離しないといけないのでしょうか。 ◆僕は見せてもいいと思っています。スプラッタームービーを見て育ったら、邪悪な人になりますか。事件で容疑者が「映画や漫画をまねた」と言うことがありますよね。でもまねたんじゃなくて、殺したい気持ちがあって、どうやればいいのか、例を探したんだと思います。悪事の発露は漫画からじゃなく、自分の中にある。 グロい表現がある「チェンソーマン」や「進撃の巨人」、「鬼滅の刃」がはやりましたが、日本はそんなに悪くなっていないですよ。【聞き手・平家勇大】もりかわ・じょーじ 1966年東京都生まれ。高校在学中の83年、「シルエットナイト」で漫画家としてデビュー。89年から連載中の「はじめの一歩」が代表作。2021年から日本漫画家協会の常務理事を務める。
――「不健全図書」（有害図書）の名称変更を求めています。
◆好きなものを描いて、不健全だとか有害だとか言われるのは、気分が悪いと思います。漫画のエロ・グロ表現を読んだことで起こった犯罪は、ないんじゃないか。立証できないと思います。「青年推奨」とか「R15指定」、「R18指定」などと区分すればいい。
――鳥取県が有害指定した書籍を2022年、アマゾンが取り扱い中止にしました。
◆かなりきつい措置ですね。指定されるとネット上も含めて流通経路が塞がれる点では、東京都の条例にも同じような問題があります。
漫画には映倫（映画倫理機構の審査）のようなシステムはないですが、編集者が目を通し、校閲を経て世に出るので、出版社がちゃんと管理しています。
――規制があることで作家が表現をためらうことはありますか。
◆ものすごくあります。少年誌だと、「この言葉はダメ」と削除されるとか。乳首を白く消されたり、血の表現を抑えられたり。
「はじめの一歩」はボクシングを扱っています。読者で殴られた経験のある子って、あまりいない。そんな子たちに、どういう風に描いたら痛さが伝わるだろうと思って描くわけです。それを見た人たちが、もっと痛いのを描いてやる、と。
寸止めのパンチしか許されていなかったら、ボクシング漫画を描く人は生まれなくなります。この循環が絶たれると、表現は本当に縮むと思います。
――なぜ暴力や性表現から子供を隔離しないといけないのでしょうか。
◆僕は見せてもいいと思っています。スプラッタームービーを見て育ったら、邪悪な人になりますか。事件で容疑者が「映画や漫画をまねた」と言うことがありますよね。でもまねたんじゃなくて、殺したい気持ちがあって、どうやればいいのか、例を探したんだと思います。悪事の発露は漫画からじゃなく、自分の中にある。
グロい表現がある「チェンソーマン」や「進撃の巨人」、「鬼滅の刃」がはやりましたが、日本はそんなに悪くなっていないですよ。【聞き手・平家勇大】
もりかわ・じょーじ
1966年東京都生まれ。高校在学中の83年、「シルエットナイト」で漫画家としてデビュー。89年から連載中の「はじめの一歩」が代表作。2021年から日本漫画家協会の常務理事を務める。