安倍晋三・元首相(当時67歳)を銃撃したとして殺人罪などで起訴された山上徹也被告(42)が事件後、母親(70)との接触を一貫して絶っている。
面会要請に応じず、届いた手紙の返信も出していないという。母親が高額献金を重ね、現在も信仰する世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に対し、強い恨みを抱き続けているとみられる。事件は8日、発生から1年となる。
事件は昨年7月8日、奈良市の近鉄大和西大寺駅前の路上で起きた。参院選で街頭演説中だった安倍氏を銃撃したとして、奈良県警は山上被告を現行犯逮捕。奈良地検は今年1月、殺人罪などで起訴した。
母親は旧統一教会に総額1億円に上る献金をしており、山上被告は調べに対し、教団を恨み、つながりがあると思った安倍氏を狙ったと供述した。
山上被告は2月以降、大阪市都島区の大阪拘置所に勾留されている。新聞や雑誌を毎日読んでおり、旧統一教会に関する記事にも目を通しているという。
面会については、対象に制限はなく、拘置所を訪れた希望者から申し込みを受ければ、会うかどうかは被告が選ぶことができる。
複数の関係者によると、山上被告は一部の親族の面会には応じてきたが、4月に母親が訪れた際には応じなかった。母親が事件後、面会を申し込んだのは初めてだったとみられる。
山上被告は周囲から、母親が信仰を続けていることを知らされている。母親と会っても、教団は正しいという話にしかならないと述べ、事件後、母親から届いた手紙にも返信は出していないという。
一方、母親は関係者に対し、息子と向き合い、親子の関係を取り戻したいと語っている。信仰について、十分な説明ができていないとも話しているという。
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2人の関係は、信仰を巡って溝があった。
親族らによると、母親は1991年に入信した。山上被告の兄の難病がきっかけとされ、母親はすぐに5000万円を献金した。その後も、実父から継いだ会社や自宅の土地・建物を売却して献金を続け、2002年には自己破産した。
こうした高額献金について、山上被告は当時、母親から事実を伝えられていなかったとみられる。<会社に負債があった>と母親から聞かされていたと、ツイッターに投稿している。<オレが母の嘘(うそ)に気付くのは10年後、登記簿を眺めた時だ>とした。会社の登記簿を確認したとみられる。
一家の生活は困窮し、山上被告は大学進学を諦めたとされる。海上自衛隊に入隊していた05年には、兄や妹に保険金を残そうとして自殺しようとした。しかし、韓国で教団の活動中だった母親が帰国することはなかったという。
<言葉では心配している、涙も見せる、だが現実にはどこまでも無関心>。母親との心の溝がやがて、<母を唆(そそのか)した><我が家から全財産を奪った>と、教団への怒りに転じた経緯がつづられている。
親族の一人は「母親が破産後も献金を続けていたことを知り、より教団への怒りが抑えられなくなったのだろう」と話している。
■公判開始「来年以降の可能性」
山上被告の公判がいつ始まるのか見通しは立っていない。
事件は奈良地裁で裁判員裁判により審理される。山上被告が起訴された1月以降、裁判官と検察官、弁護士による非公開の三者協議が行われてきた。証拠品について、検察側から順次開示されている。
地裁では争点を絞り込む第1回公判前整理手続きが6月12日に予定されていたが、地裁に届いた箱に金属探知機が反応し、急きょ中止となった。次回の期日は決まっていない。
最高裁によると、公判前整理手続きの平均期間は10・5か月(2021年)。弁護団は「公判は来年以降になる可能性が高い」とみている。