「寛容だった父はもういない」“ネット右翼”になった62歳の父に戸惑う36歳男性の胸中

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コロナ禍が収束し、離れて暮らす父母と久しぶりに再会したら、かつての姿からは想像できないほど思想が変化していた。しかも、それを子供に押しつける。なかでも多いのが親のネトウヨ化や、陰謀論に染まるケース。なぜそうなったのか?◆高齢化でネトウヨや陰謀論者になる人が増加!?
近年、ネトウヨや陰謀論者になる人が増えている。いずれもいつの時代にも一定数が存在したが、昨今ではある特徴が顕著になっている。それは、「高齢者が異様に増えている」ということだ。
今年に入り、ルポライターの鈴木大介氏が『ネット右翼になった父』を、作家の古谷経衡氏が『シニア右翼』を相次いで上梓したことは偶然ではないだろう。いずれの著書もテレビなどでも取り上げられ、話題になっている。
まずネトウヨの年齢層について古谷氏はこう説明する。
「私は長らく右翼業界に身を置いていましたが、若年層を見たことがありません。保守系論壇誌に感想の手紙を送ってくるのも、イベントに参加するのも50歳以上。しかも8割は男性。過激なヘイトに飛びつき刑事事件を起こすのも、ほとんどがシニアです」
陰謀論を信じる高齢者も増えている。漫画エッセイ『母親を陰謀論で失った』の原作者・ぺんたん氏が言う。
「私と同じように、親が陰謀論者になってしまった人たちと交流をしていますが、陰謀論を信じる親のほぼ100%が60代か70代。反コロナワクチンなど健康との親和性が高いからか、女性が多い」
では高齢者はどのようにしてネトウヨや陰謀論者になっていくのか。今回、その要因を探るべく、30~40代の子世代に証言をしてもらった。
本特集でのネトウヨ・陰謀論者の定義は「子がそう感じたこと」を前提に、ネトウヨについては「中国や韓国などのアジアの人たちをはじめ、リベラル勢、LGBTQなどのマイノリティへのヘイトを憚りなく家族や友人の前で公言する人」とする。陰謀論者についても「荒唐無稽な反ワクチン主義や、闇の政府『ディープステート』やユダヤ陰謀論など、過激な思想を信じ、公言する人」とする。
豹変する親を前に、子は何を思うのか。
◆コロナ禍での在宅勤務を機にヘイト発言が炸裂
「以前の寛容だった父はもうどこにもいません。今は右派によるフェイクニュースを信じるネトウヨですよ」
肩を落として話すのは、都内に住む米田剛さん(仮名・36歳)だ。62歳の父は名門私大を卒業後、大手保険会社に就職。20代半ばで結婚し、3人の子供を育て上げた。家庭内の空気はリベラル寄りだったという。
「父の右傾化は、’20年の米大統領選挙前後から始まりました。米民主党が不正をしたとか、トランプの票が道端に捨てられていたなどのフェイクニュースを信じ、既存メディアの報道に懐疑的になってネットに答えを求め始めた。コロナ禍で在宅勤務が増えたことも原因だと思います」
新聞購読もやめ、『WiLL』などの保守系雑誌を購入し、右翼論客のYouTubeチャンネルにすっかりハマった父。テレビで沖縄の基地反対運動やLGBT、障害者団体の主張が報じられると、「ヤツらは全部当事者不在の左翼活動家だ」と吐き捨てる。
「先日も家族の団欒時に、『日本は植民地政策で韓国を発展させた。それなのに恩を忘れて、慰安婦や徴用工問題を蒸し返してカネをゆすり取ろうとしてくる。やっていることはヤクザと同じ! さっさと断交すべき』と弁を振るっていた。不快で仕方ないです」
かつて息子に「人が嫌がることはするな」と優しく諭した父の姿はそこにはない。
「今は参政党に傾倒していて、先の統一地方選では選挙運動を手伝っていたほどです」
米田さんは戸惑うばかりだ。
取材・文・撮影/SPA!「親がネトウヨ」取材班

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