独居の90歳親が「末期がん」、家族はどうすべき?

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90歳、独居の父に肺がんが……。遠方に住む家族はどうしたらいいのでしょうか(写真:mits/PIXTA)
「住み慣れた自宅で療養したい」「最期まで自宅で過ごしたい」という患者や家族の思いを支えるのが、患者宅を訪問して在宅医療や訪問介護などを行う在宅ケアだ。
これまで1000人を超える患者を在宅で看取り、「最期は家で迎えたい」という患者の希望を在宅医として叶えてきた中村明澄医師(向日葵クリニック院長)が、若い人たちにも知ってもらいたい“在宅ケアのいま”を伝える本シリーズ。読者から寄せられた医療や介護に関するお悩みや疑問に、中村医師が答える。
今回の相談は、親が末期がんと診断されたときの家族の見守り方について。末期がんの特徴や起こりうる変化、これからの過ごし方なども踏まえて解説する。
→中村医師へのお悩み相談はこちらまでお送りください。
<デイジーさん(50代)の相談>
90歳の父。1年ほど前から在宅で酸素吸入器をつけて生活していますが、ここひと月くらい呼吸が苦しくなるときがあり、かかりつけ医から紹介された病院で診察を受けたところ、ステージ4の肺がんと診断されました。
それまでも毎週かかりつけ医には通っていたし、生活も1人でできていて、特に大きな体調の変化などはなかったので、急にステージ4と言われてびっくりしています。
伺いたいのは下記の点です。
々睥霄圓任睨期がんのステージ4だと進行は速いのでしょうか。
⊃巴任気譴辛賊,任麓け入れができないと言われ、紹介された小規模の病院で入院治療が始まってすぐに容体が悪化、緩和ケアを勧められました。90歳でそんな急激に悪くなるのでしょうか。
4墨促吋△始まると、余命はどのくらいなのでしょうか。
近隣に住んでいるものの、自分にも家族や仕事があり、父親に四六時中付き添っていられません。とはいえ、これまでなんの問題もなく独居をしていた父が末期がんで苦しんでいるのに、ついていてあげられないことにも罪悪感を覚えます。
どのくらいとわかれば介護休暇の申請などもできると思って、相談しました。よろしくお願いいたします(※相談内容は一部変えています)。
<中村医師の返事>
ステージ4の肺がんと診断されたとのこと、お父様もご家族も、突然のことでとても驚かれたと思います。
ショックも大きいと思いますが、今大切なのは「あのときこうしていたら」と振り返るより、これからどう過ごすかを考えること。お父様やご家族にとって、後悔のない選択をしてほしいと願います。
最初にお話ししておきたいのは、「がんを発見できなかったか」という点ですが、毎週かかりつけの医院に通院していたとしても、がんを対象にした検査などを受けていない限り、がんの早期発見は難しいです。がん検診があるのはそのためで、体にがんがあるかどうかを調べる検査をしなければ、なかなかがんを見つけられません。
そして残念ながら、症状が出てから発見されたがんは、すでに進行している場合が多いのです。また、高齢の方の場合は、たとえ病気を早期に発見したとしても、治療によってかえって体調が悪くなると考えられるときは、手術や治療が難しい場合もありますし、「自分の状態が悪い」と知ることで大きく気落ちして、健康を害してしまう場合もあります。
現実を受け入れるのはつらいですが、ぜひ気持ちを切り替えて、よりよい時間を過ごすためにはという視点で考えてほしいと思います。
では、ご質問いただいた点についてお答えしていきましょう。
まず、,砲弔い董
高齢者の場合でも早期に見つかったがんであれば、進行は比較的ゆるやかな傾向にあるのですが、がんが進行した、つまりデイジーさんが医師から言われたような「末期がん」の状態であれば、やはり進行が速い可能性があります。
特にお父様は1年前から在宅酸素を使用しているので、肺の力が弱っていて、予備力が足りない状態だと思われます。そのため、がんによる影響を受けやすい状態にあり、急な容体の変化が起こる可能性が高いとも考えられます。
これは△砲發弔覆ってくる話ですが、がんの終末期は、急な状態の変化が起こりやすいものです。それは90歳というご高齢の方でも同じで、それまで普段どおりの生活を送れていたとしても、突然状態が変わって、思うように体を動かせなくなるのは、珍しいことではありません。
これは連載6回目の記事(家族ががん終末期、いつ介護休暇を取得すべきか)でも説明しているのですが、がんは、ぎりぎりまで体の機能を維持できるものの、機能が低下し始めてから亡くなるまでの期間は、残念ながらほかの病気と比べても短い傾向にあります。
の余命についてですが、「末期がん」と説明を受けた時点で、余命はおおよそ半年程度が目安とされています。具体的な余命を知りたいと思うなら、単刀直入に担当した医師に聞いてみることをお勧めします。
仮に余命を半年とした場合、体を自由に動かすことができるのは、前半の約3カ月と思っておいたほうがいいでしょう。がん終末期に、体力が落ちて思うように動けなくなってから亡くなるまでの期間は、個人差はあるものの、数週間から2カ月程度といわれています。
そのため、急に動けなくなるときに備えて、早めに行動し始めることが大切になってきます。何かやりたいことがあったら、「もう少し体調がよくなってからにしよう」などと考えるのではなく、すぐにでも動いたほうがいいかもしれません。
ちなみに、余命を知りたいかどうかについては、患者さん本人や家族の考え方や価値観にもよりますが、私がいろんな患者さんを見てきて思うのは、残された時間がどれくらいなのかを知ると、過ごし方が変わってくるということです。
今後の経過がわからないと、本意でない選択をしたり、まだ大丈夫とチャンスを逃してしまう可能性があります。ですので、「今、どんな段階にいて、この先どうなるか」を知っておくことはとても大事です。
患者さん本人が余命を具体的に知ることについては賛否両論ありますが、少なくとも、今後良くなっていく可能性があるのか、それとも難しいのか、また、もしかしたら急に動けなくなる可能性があるのかという大まかな経過は知っておいたほうがいいと思います。
最期の過ごし方には選択肢があって、自宅、病院、施設と、場所によって大きく変わってきます。
まずはお父様がどこで過ごしたいか、希望を聞いてみてはどうでしょうか。もし家で過ごすことを望む場合には、24時間体制の訪問診療や訪問看護を選ぶといいと思います。何か迷うことがあったらいつでも連絡することができ、緊急時には駆けつけてもらえます。
お父様は1人暮らしを続けてこられたということで、今後も家で1人で過ごそうと考えるかもしれません。その場合は、症状との兼ね合いによっては、家族の誰かがそばで見守られたほうがいいでしょう。
デイジーさんは、介護のために休みを取ることを考えているようですが、まずは医師に余命を聞いて相談したうえで、どれくらい休みが取れるのか、職場に確認するといいと思います。
介護のために仕事を休む制度には、「介護休暇」と「介護休業」の2種類があり、デイジーさんの今の状況に当てはまるのは「介護休業」です。
介護休業は、家族に介護を必要とする人がいる場合に長期の休みを取得できる制度で、要介護状態(または2週間以上、常に介護を必要とする状態)で介護が必要な家族1人につき、通算93日まで休みを取ることができます。一方、介護休暇は通院の付き添いなどで短時間の休みが必要な場合に、1日または時間単位で取得できる休みを指します。
ただし、仕事を休んでそばにいるのが絶対にいいとは言えません。なかには「家族に弱っていく姿を見せたくない」という人もいますから。もし自分がそばにいたいと思うなら、「家で過ごすなら、仕事を休んで一緒にいたいと思うけど、どうかな?」などと率直に聞いてみるといいでしょう。
また「ついてあげられないことに罪悪感を覚える」とありますが、そんなふうに思わないでくださいね。お父様の生活と同じように自分の生活も大切にしてほしいですし、ご自身が後悔しないためにどう過ごすか、そのことも大事にされたほうがいいと思います。
最後に、「入院治療が始まってすぐに容体が悪化」されたとのことですが、もし今も入院中で家に帰りたいという希望があるなら、すぐにその旨を医師に伝えて相談してみてください。寝たきりでも、注射での薬が始まっていても、家で過ごすことは可能です。
がんの痛みは、在宅医療でも病院と同じように抑えることができます。使用する薬も、症状に合わせて対処する方法も、基本的に病院と在宅医療で違いはありません。
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家で過ごす場合は、何かあったときに入院できるところを確保しておいたほうが安心です。
今の病院で入院できますか? もしできない場合は、緩和ケア病棟のある病院にバックベッド(後方支援病床)の登録しておくことをお勧めします。バックベッドの登録は、在宅医を通じても行うことができます。
まずはお父様がどうしたいか、デイジーさんがどうしたいかを話し合うところから始められるといいと思います。デイジーさん、お父様、そしてご家族が後悔のない時間を過ごせるよう、心から応援しています。
(構成:ライター・松岡かすみ)
本連載「がんでも認知症でも『在宅ケア』のすすめ」では、ご家族の在宅ケア、介護のお悩みを受け付けております。お悩み相談は、こちらのフォームよりお願いします。
(中村 明澄 : 向日葵クリニック 在宅専門医 緩和専門医)

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