描いていたライフプランに誤算があったと気づいたら、どのように立て直して行けばいいのでしょうか。
ライフプランを直訳すると「人生の計画」です。シンプルな訳に反して抽象的な概念で、こんなものかと受け入れやすい反面、捉えづらい側面もあります。
ライフプランの誤算によって、大きく暮らしを見直さなければいけないケースもあります。
今回のご相談者様は、40代のタナカ様です。
世帯年収はおよそ1,200万円、夫と小学生のお子様お2人の4人家族でいらっしゃいます。
お住まいは郊外の一戸建てで、上のお子様が小学校入学前に購入されました。
新築から5年たち、下のお子様が2年生になったところで暮らしに落ち着きが生まれ、ほっとしたのもつかの間、食器洗浄機が壊れて買替えが必要になりました。20万円程度の突然の出費と、このところの物価上昇にこれからの暮らしが不安になり、ご相談に来られました。
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タナカ様のお悩みは家計管理とお子様の教育費です。
ご夫婦お二人とも小学校から高校まで公立学校だったということもあり、当初はお子様も公立中学を想定されていました。しかしもともとのお子さまの性格とこのところの学校での様子を見て、私立中学校への受験を決められたそうです。
進学先を公立から私立に変更するにあたり、タナカ様が気にかけていらっしゃるのは教育費です。そこでキャッシュフロー表を作成した上でライフプランシミュレーションを実施し、今後の生活設計を考えていくこととしました。
ライフプランシミュレーションの結果、タナカ様の今後の生活設計にはさまざまな課題が明らかになりました。
タナカ様の家計は生活費が膨らんだいわゆるメタボ家計でした。世帯収入も高く、住宅ローンの返済負担割合も低いものの、毎年の貯蓄額はほぼゼロ。使途不明金が多く、その上お子様お一人お一人に複数の習い事をさせていることもあり、教育費も平均よりも多めの水準です。私立進学を見込むのであれば、家計の見直しは急務という状態でした。
さまざまな視点で家計の見直しを進めていきましょうとお話しした矢先に、タナカ様がこんなことをおっしゃいました。
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「家を買った時もFPにみてもらったのよ。退職金もあるし、大丈夫でしょうって言われていたのに。」
タナカ様は住宅を取得する際に、工務店を通じて無料のFP相談サービスを利用し、ライフプランをたて、キャッシュフロー表を作ってもらったというのです。
キャッシュフロー表とは、現在の収支状況と今後のライフプランを基に、将来の収支状況を予想したもので、その結果増減する貯蓄残高の推移も確認することができるツールです。作成することにより、例えば住宅ローン契約時には契約後の家計がライフプランからみて妥当なものなのか、判断することができるというとても優れたツールなのですが、実は弱点もあります。それは、組み込む数値が現実に則さないものだった場合、導き出されたものは途端に絵に描いた餅になってしまうという点です。また照らし合わせるライフプランによっては、依頼者のご意向をほとんど反映しない代物になってしまう、という点も挙げられます。
その時もらったキャッシュフロー表は、現在タナカ様のご自宅に保管されているといいます。そこで、次回ご面談時にお持ちいただくこととしました。
「こんにちは。よろしくお願いします。」
タナカ様とのご面談日が再びやってきました。
緊張された面持ちだった前回よりも少し明るい表情をされています。
「これを見ていたら、家を買った時のことを思い出しました。」
そう言って渡してくださったのは住宅取得当初にFPから作ってもらったというキャッシュフロー表です。
「拝見してよろしいですか?」
快くうなずかれたタナカ様のお返事を確認し、キャッシュフロー表に目を通しました。
拝見したところ、ライフイベントも盛り込まれていますし、正しい手順で作られたキャッシュフロー表だと思われました。しかし、詳細に目を通していくと、ライフプランの様々な誤算に直面したのです。
まず拝見して、気になったのは基本生活費の差額です。基本生活費は生活していくために経常的に必要となる費用であり、例えば食費や日用品費、自動車に関する費用です。年に数回などの特別な支出などもありますが、そういったものも含まれているようでした。一方、使途不明金は含まれていないようでした。多くのご家庭では、多少の使途不明金はあるものですが、現状を見える化し今後の生活設計を考えていくのであれば、使途不明金も含めて作成するのが適切でしょう。
「前回のキャッシュフロー作成時にはどんな資料をご提示されましたか?」
「確か年間支出額を書いた手書きのメモと、住宅ローンの返済プラン、あとは住宅購入前の貯金額と保険については最終的に保険証券を提示したと思います。
賃貸物件から一戸建てに引っ越された多くのご家庭では、引越後に生活費は上昇します。このところの電気代の値上がりで光熱費が上がり、お子様の成長とともに食費も増えているということですから、以前の賃貸暮らしの頃の生活費をベースに作成しているとすれば、こういった生活費だけを切り出しても以前のキャッシュフロー表に織り込まれた金額は少なかったことが推測されます。加えて、今回タナカ様の家計の現状を確認させていただきましたが、使途不明金額が年間50万円程度見込まれました。以前のキャッシュフロー表では、使途不明金は考慮されていないことが推測されましたから、結果的に今後の見通しが大きく変わる一因となったのでしょう。昇給があったとしても、生活費の増加と使途不明金額を考慮すれば、年間支出額に年70万円程度の差が生まれていても不思議はありませんでした。
その後、ライフプランの見直しを進めていった結果、「教育費」についても思わぬ誤算があることがわかりました。<【後編】世帯年収1200万円40代夫婦のライフプランに潜んだ「誤算」と待ち受けていた「恐怖」>にて詳しく語ります。