国民守る銃でなぜ…住民困惑、涙ぬぐう隊員も 陸自射撃場で撃たれ2人死亡

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国民を守るための銃が同僚に向けて発射された。
岐阜市の陸上自衛隊日野基本射撃場で14日、自衛官候補生の男(18)が小銃を発砲し、隊員2人が死亡、1人が負傷した事件。殺人未遂容疑で逮捕された男は殺意を認めながらも、詳しい動機などはまだ明らかになっていない。陸自の施設内で何が起きたのか。近隣住民が緊迫した当時の状況を語った。
住宅街と隣接する射撃場。もともと屋外射撃場だったが、近隣住民への影響を考慮し、十数年前に敷地内に新たに建物が建てられた。内部は一体構造で、的までは約300メートル。防音措置が施され、外部には小さな音しか漏れないようになっていた。
防衛省などによると、午前9時8分ごろ、自衛官となるべく3カ月間の基礎訓練中だった男が、手にしていた89式5・56ミリ小銃を教官の隊員3人に向けて発砲した。ありえない事態に射撃場内は混乱に陥った。2分後、男は周囲の隊員らに取り押さえられた。
近くに住む40代女性は男性同士の怒鳴るような声を耳にし、ただならぬ雰囲気を感じた。自宅の窓から射撃場の方を見ると、迷彩服の男性隊員3、4人が射撃場の外へ走り出していた。
「おい、早くしろ!」
「AED(自動体外式除細動器)を探せ」
「コンビニに行けばあるんじゃないか」
しばらくして射撃場にはパトカーや救急車が到着。周囲は警察官や救急隊員がせわしなく行き来し、銃撃事件を考慮してかヘルメットをかぶった警察官の姿も。負傷した隊員を乗せたとみられる救急車も射撃場を出ていった。
射撃場の内部こそ見えないが、若い男性隊員らが次々と出てきた。その場にしゃがみ込み涙をぬぐう隊員もいて、別の隊員が抱きかかえ励ましていた。多くの隊員は呆然(ぼうぜん)とした様子だったという。
男の逮捕後、岐阜県警のパトカーが射撃場周辺を巡回し「被疑者の身柄は既に確保しました。地域の皆さまはご安心ください」と呼び掛けていた。調べに対して男は容疑を認め、「殺意があった」という趣旨の供述をしている。
撃たれて死亡したのは52歳と25歳の隊員で、別の25歳の隊員も負傷した。防衛省によると、訓練には、第35普通科連隊所属の候補生約70人、教官約50人が参加していたという。
近くの事業所に勤務する40代男性社員によると、射撃場の敷地は一般開放されておらず、毎日のように自衛隊の車両が出入りしていた。ただ数十年前までは開放され、男性も子供の頃に敷地内のグラウンドで野球をしたことがあった。「なじみのある場所でこんな事件が起き、残念」と声を落とした。
近所の男性(73)は「住民は射撃場前の道を使うが、自衛隊員の車は止まって待ってくれる。それが唯一の接点だったが、自衛隊の規律はしっかりしていたように思う」と語った。
射撃場を管轄する守山駐屯地(名古屋市)前には多数の報道陣が詰めかけた。正門前で対応した広報担当者はほとんどの質問に答えられないとしつつも「個人的経験ではこんな事態は初めてだ」と憔悴(しょうすい)した様子で話した。

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