「40歳過ぎて親に寄生」「勝手に借金をする」…社会問題化する「毒親」ならぬ「毒きょうだい」とは?

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縁を切りたいのに切れない「毒親」ならぬ「毒きょうだい」のトラブルが増えている。「経済的に自立していない」「親の老後の相談ができない」「金の無心やトラブルを持ち込む」──。そんな13組の事例と専門家への取材をまとめた吉田潮さんの『ふがいないきょうだいに困ってる』が話題を呼んでいる。
本書の中に登場する「ふがいないきょうだい」たちのごく一部を紹介すると…
・心の病で仕事を辞めて実家住みのかまってちゃん。オーバードーズを繰り返す一方で、身の丈に合わない浪費癖から親に200万の借金肩代わりさせたふがいない弟。
・自分の名義が入っていないのに母を騙して実家を担保にいれた長兄、事業計画書も読めない、会社にも来ないのに月給120万ももらっていた次兄、経費をせしめるためにいろんな人を結婚させたり死んだことにした三兄など、父が築いた会社を食い潰しかけたふがない兄たち。
・数年ぶりに再会したら反社でもないのに全身刺青だらけに。葬儀の席できょうだいと父親が違うことを今になって知って(親族一同本人も知っていると思っていた)暴れ、香典を持ち逃げ。アラサーにして反抗期が来てしまったふがいない弟。
等々のふがいない人たちが本書には養生する。著者である吉田潮さん自身も”ふがいない姉”にもやもやしていたことが、執筆のきっかけだったという。
「うちの姉は長年海外で生活していて、もう日本には帰ってこないと思っていたんですが、08年に猫2匹を連れて日本に帰ってきた。姉は漫画とイラストがすごく上手で、プロレベルでやっていける人。努力して作品を作り上げれば、絶対稼げる人なんですよ。最初は私が仕事を紹介して順風満帆に働いていたはずなんです。でも、いつのまにか千葉の田舎に親が建てた掘っ立て小屋みたいなログハウスで、どうやら引きこもりになってるらしいという話に。
するとある時急に電話が来て、ちょっとお金貸してって言われたんです。あまり弱音吐かない人なので、よっぽど困っているんだなと思って、自分の貯金から振り込みました。その後も何度かそういう話があって合計230万円。姉は必ず返すと言っていましたが、1円も返ってきていません。ログハウスの家賃も親に払っていないし、水道光熱費も親がかり。もし、親が亡くなったらどうなるのか、不安でしかない。きっと全国にこういうきょうだいがいて、親も自分も年を取って先行きが不安な人が私以外にもいるんじゃないかと思ったのがきっかけでした」
吉田さんが飲み会などで「こういう本を作りたい」と周囲の人に話したところ、知り合いの知り合いや、そのまた知り合いなど芋づる式にわらわらとふがいないきょうだいに心当たりがある人が出てきて、企画が動き出したという。だが、やはり家族の内情を進んで話そうという人は少なく、断られた例も多い。とくに男性には話したがらない人が多く、結果的に取材させてくれたのは女性だけだった。
「男性でも困っている人はいると思います。だけど、困ってるというふうに見られたくないのかも。あとは突き放して絶縁状態にしているとか。でも男性だって言葉持ってる人はいるはずなんで、もっと幅広く取材したかったっていうのは反省点です。時間もかけたんですけどね」
もう1つ吉田さんが大変だったと振り返るのは、1人1人から聞く話の内容が長く、膨大な量になることだ。だいたい3~4時間、長い人だと5時間×2回という例もあったそうだ。
「きょうだいの話を聞くのには、やっぱり家族の話を聞くことになるんですよ。きょうだいの話なんだけど、背景にはその親が甘やかしていたりっていうような、親との関係性の話が出てくることが多くて、ファミリーヒストリーみたいなんですよね。 特に母親から長男への愛っていうのが濃いなと思いました。でも、それを聞かないと背景がわからないので。だから1人ずつのエピソードがものすごい膨大なんですよ。ものすごくカットしてるんです。あと、言葉のエッジをかなり丸めました。そのままだとすごい言葉ですから。やっぱり兄弟だから遠慮がないですよね」
とくに今回取材した人たちは自分の言葉を持った女性が多く、罵詈雑言や自身の心理描写などを語彙力豊かに語ってくれたそうで、言葉もなかなかエッジが効いていたようだ。本文にはある人に話を聞いているときに、兄のことを「馬鹿だから」と30回言ったというくだりも出てくる。
「そう、あれはね、もっとひどいことが書いてあったんだけど。今はいろいろと厳しいじゃないですか。それと、文字にすることでハレーションが起きる場合もありますし。『アイツ、死ねばいいのに』みたいな話も結構ありましたが、 そういう言葉は丸めました」
また、中には話を聞いていくうちに本人が心の奥に閉じ込めていた話を掘り起こしてしまったケースもあった。
「話を聞いていくうちに、今まで家族にも言えないでいた、兄から性虐待された話を掘り起こしてしまったこともありました。その人はきょうだいの話を聞いているのになぜか親の話ばっかりするんです。どうしてなんだろうって思っていたら、結局そういうことがあって、無意識に兄の話は避けていたんですね。
今回の取材を始める当初は、もっとほんわかした話を想定していたんだけど、意外に重い話も出てきたので、真剣にやらなきゃっていう感じになりました。うちの姉の場合はまだポップですね。みなさん、話も重いし、お金の話で出て来る金額も大きかったです」
近年、きょうだいをめぐるトラブルが増えていると言われている背景について吉田さんはこう語る。
「私は1972年生まれの51歳なので、2人きょうだい、3人きょうだいが多い世代です。その前の世代は6人とか7人とかめっちゃ多いから、1人ぐらい厄介なやつがいても、ほっとけ、みたいな話で終わっていたと思うんですよ。でも2人、3人の世代になってリスク分散ができなくなったのでしょう。この世代は親が介護や老い支度に入る世代でもある。若い頃は仲が悪くても困らなかったんですよ。でも40~50になって、親がどうにかなった時に、膝付き合わせて金の話とか手続きの話とかしなきゃいけない。それなのに、金を無心するとか、働いてないとか、ふがいないところが見えてきちゃったんじゃないでしょうか」
では、実際にふがいないきょうだいに悩まされている人はどう付き合えばいいのか。吉田さんは「どこかで線引きをすること」だと言う。
「本の中で弁護士の田美希先生がパンの話をしているんですけど、あれがストーンと腑に落ちました。1つしかないパンを未成年の子にはちぎって分けなきゃいけないけれど、きょうだいにはあげなくてもいいっていう。法律には扶養義務が書いてあるけど、その程度の解釈なんだそうです。それぐらいの関係なんですよね、きょうだいって。その言葉だけで、責任を持たなくてもいいんだって救われる人はいると思います。
1番近い他人だから、自分でやれや、って突っ込んで蹴り入れて終わりのはずなんです。それでもやっぱり助けちゃう人は助けちゃうんですけど、もうちょっと突き放してもいいよねっていう。この本は基本的に兄弟仲良くしましょうっていう本じゃないんですよ。縁を切っていいんですよっていう話でもある。それでもなんとかしたいんだったら、できることだけやればいいんじゃないっていう本なんです」

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