ああ勘違い!「年収130万円の壁」で損する人の誤解

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複雑で混同しがちな社会保険の3つの壁についてわかりやすく解説します(写真:umaruchan4678/PIXTA)
都内の病院でパートとして働くKさん(36歳、女性)。それまで夫の扶養の範囲内と、毎年130万円を超えないように時間を意識しながら、ギリギリで働いていました。
ただ、昨年は職場で年末に退職者が数名出てしまい、Kさんが代わりにシフトに入ることになったために労働時間が増えてしまいました。また、物価手当として臨時賞与が支給されたこともあり、年収130万円の壁を15万円ほど超えてしまいました。
Kさんが驚いたのはここからです。年収130万円を超えたので、勤務先の病院で社会保険加入になると思っていましたが、勤務先では社会保険に加入できず、夫の扶養削除後はまさかの国民健康保険、国民年金に個人で加入することになってしまったのでした。
先日、国会でも取り上げられた『社会保険の130万円の壁』問題。ただ、多くの方が『扶養の壁』と『社会保険の加入の壁』を勘違いしてしまっています。そこで、今回は、複雑で混同しがちな社会保険の3つの壁についてわかりやすく解説します。
1.年収130万円という壁の考え方
健康保険の扶養となるには、健康保険組合等の認定を受ける必要があります。この認定は事由発生から5日以内に必要書類を用意して届出をしなければなりません。届出が大幅に遅れた場合は、原則さかのぼって認定してくれないので、注意が必要です。
扶養となれる家族の範囲は、「3親等内の親族」と決められています。また原則として被扶養者(扶養される人)の年間収入が130万円(月額約10万8000円)未満であって、被保険者(扶養する人)の収入の2分の1未満という収入要件があります。
この収入は「過去」の収入実績ではなく、認定事由発生日以降の「将来」の収入見込額で算定されます。収入見込額には、課税・非課税の別や収入の種類を問わないため、以下のようなものも含みます。
年金(老齢・遺族・障害)雇用保険給付金(失業給付・育児休業給付金等)健康保険給付金(傷病手当金・出産手当金等)労災保険給付金(休業補償給付等)その他健康保険組合等が収入と認めたもの(自営業収入等)
一方で、税法上の扶養は「配偶者と6親等内の血族および3親等内の姻族」となっており、収入要件については必ず1~12月の暦年で考えるという点で、健康保険の扶養とは大きく異なります。
また、健康保険の扶養には「検認(扶養再認定)」というものがあります。これは、健康保険組合等が、被扶養者として認定している方がその後も認定基準を満たしているかを確認することを目的として、原則、毎年実施しているものです。
特に最近は、扶養認定の際に被扶養者のマイナンバーの記載が必要になり、被扶養者の収入要件が厳格にチェックされています。検認の際に、被扶養者の収入が基準よりもオーバーしていると、さかのぼって被扶養者の資格を取り消されることもあり、もしそうなると、その間の医療費が追加で請求されるなど、予期しない高額な出費を強いられる可能性もあります。ですから、年収130万円を超えたら(超える見込みとなったら)、扶養を削除する届出を必ず行うようにしてください。
2.社会保険に加入するための壁
Kさんのように年収130万円を超えたら(超える見込みとなったら)扶養から削除され、勤務先の社会保険に加入すると思っている方は多いものです。しかし、社会保険に加入する要件は年収だけではありません。
正社員として働く方は勤務先の社会保険に当然加入しますが、パートやアルバイトで働く方も「1週間の所定労働時間および1カ月の所定労働日数が正社員の4分の3以上」(通称:4分の3要件)であれば、本人の意思にかかわらず強制的に加入となります。
例えば、勤務先の正社員が1週間の所定労働時間が40時間(1日8時間×週5日)だとすると、1週間の所定労働時間が30時間未満のパート・アルバイトだと社会保険に加入できないということになります。
つまり、年収が130万円を超えても「4分の3要件」に該当しなければ、勤務先の社会保険に加入することはできずに、国民健康保険、国民年金に個人で加入しなければならないのです。
ただし、この「4分の3要件」は2016年10月から段階的に適用拡大が行われています。
次に、勤務先によって社会保険の加入条件が異なる社会保険の適用拡大について説明していきます。
3.社会保険に加入となる新たな壁
社会保険の適用拡大は、以下のように、その対象となる会社が増えてきています。
2016年10月~ 従業員500人超2022年10月~ 従業員100人超2024年10月~ 従業員50人超※従業員は会社単位で社会保険に加入している被保険者の人数でカウント
適用拡大の社会保険加入基準は下記の4つです。
―欺蠶袁働時間が20時間以上あること(原則会社と締結した雇用契約書等から判断)月額賃金が8.8万円以上であること(残業代や通勤手当等一部の手当は除く)2カ月を超える雇用の見込みがあること(更新見込がある場合は「雇用の見込みがある」と判断される)こ慇犬任覆い海函別覺岾慇犬覆桧貮例外あり)
△侶邀枋其8.8万円を年収に換算すると約106万円となることから、よくメディアなどで年収106万円の壁といわれます。このように、同じ働き方をしているのに、勤務先の会社の規模によって、社会保険に加入する人と加入しない人が出てくるのですが、社会保険の加入にはデメリットとメリットがあります。最後に、社会保険加入のデメリットとメリットを解説します。
4.社会保険加入のデメリットとメリット
社会保険に加入すると健康保険料と厚生年金保険料が給料から控除されることになるので手取りが減ってしまいます。その控除額は少なくないので、家計のやり繰りがさらに大変となり、デメリットとなる家庭もあるでしょう。
概算ですが、年収106万円だと健康保険料の負担は月額約4400~5200円、厚生年金保険料の負担は月額8052円となりますので、手取りを減らさないようにするのであれば、その分、労働時間を増やすといったことをしなければなりません。
一方で、社会保険に加入すると年金・医療でメリットがあります。まず、年金については、厚生年金に加入することで将来受け取る年金額が増えます。年収106万円の場合、その額は年額5400円×終身となり、長生きすればするほどお得です。また、厚生年金加入中に病気やケガ等で一定の障害を負ってしまったときは、障害厚生年金の支給が受けられ、厚生年金に加入していないときと比べて保障が手厚くなっています。さらに、厚生年金に加入することで遺族厚生年金が受け取れるので、こちらも厚生年金に加入していないときと比べて保障が手厚くなります。
次に、医療についてですが、健康保険に加入することで業務外の病気やケガ等で仕事を休んだときに最長1年6カ月間、給与の3分の2相当が受け取れる傷病手当金や、出産のために会社を休んでいる日(産前42日・産後56日)に、給与の3分の2相当を受け取れる出産手当金があります。また、加入する健康保険組合等によっては、高額になった医療費を補助してくれるといった付加給付を実施しているので、一度所属する健康保険組合のHPをチェックしてみてください。
このように社会保険加入には複雑な3つの壁があり、社会保険加入によって手取りは減るけど保障は手厚くなるのが理解できたのではないでしょうか。「壁」を正しく理解して後悔のない働き方を選択していただきたいと思います。
(和賀 成哉 : 社会保険労務士法人大槻経営労務管理事務所 OS局局長)

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