前編【結婚後に “運命の人”に出会ってしまった――揺れる44歳夫は離婚を決断、だが妻の方から「話がある」と】からのつづき
吉永駿司さん(44歳・仮名=以下同)は、2度の離婚を経て、3度目の結婚を考えている。最初の結婚相手は学生時代からの恋人だった佳恵さんで、娘をもうけるも「結婚の実感がなかった」。飲み歩き浮気もしていた彼は、バーで出会った年下の女性に“運命”を感じる。揺らぐ駿司さんだったが、意外にも佳恵さんの方から「あなたはひとりのほうがいいでしょ」と離婚を切り出し、彼はそれに応じた。
***
【写真を見る】「夫が19歳女子大生と外泊報道」で離婚した女優、離婚の際「僕の財産は全部捧げる」と財産贈与した歌手など【「熟年離婚」した芸能人11人】 駿司さんは、「運命の人」奈緒さんと一緒になり、幸せの絶頂だった。奈緒さんと駿司さんは、時間が合えば仕事帰りに待ち合わせて食事をし、同じ家に帰っていく。だが、それが続くと、駿司さんに迷いが出てきた。幸せな家庭を築いたはずが…現在、秀顕さんはアパートでひとり暮らしを送っている「彼女と家庭をもったという実感がなくて。恋人同士のようで楽しいんだけど、何かが不安でした。だから彼女に『子どもをもとうか』と言ってみたんです。すると彼女は驚いたような顔をして『私、子どもはいらない』って。あなたにはいるでしょ、だったらそれでいいじゃないとも言われました。じゃあ、どうして結婚したのと聞いたら『あなたが好きだから』と。それはそれで理に適っているから、反論はできませんでした」落ち着いた生活を「つまらない」と… 奈緒さんは家事にはいっさいの興味がなかったから、駿司さんは自ら掃除や洗濯をした。前の結婚では家事などほとんどしたこともなかったが、奈緒さんがしないのなら自分がするしかなかったのだ。そうしなければ日常生活は回らない。「生活するって大変なことなんだと初めて知りました。奈緒とは恋人でいるべきだった。彼女は仕事が最優先、その次が僕とのデートという具合で、家事をするとか食事を作るとか、そういうことはほとんどできない。ひとり暮らしのときはどうしていたのかと聞くと、食事は外食、洗濯はほとんどクリーニングに出していて、洗うのは下着だけだったと。 掃除は週に1回、業者に来てもらっていたそうです。じゃあ、ここもそうしようと週に1回、業者に頼んで掃除はしてもらいました。週に1度、家の中はきれいになるけど、どこか殺伐とした雰囲気なんですよね。そういえば前の結婚ではよく家の中に花があったなと思い出し、観葉植物を置いたりしたけど、なぜかみんな枯れていくんです」 家庭なんてどうでもいじゃないと奈緒さんは言った。あなたと私が愛し合っていて、愛し合う場所があればそれでいい。洗濯だの掃除だの、そんなことはどうにかなる。奈緒さんはそう言った。「それはわかるけど、僕はきみとふたりでもっと落ち着いた生活がしたい。外での食事より家で食べたい。ふたりで遊びに行くのもいいけど、それは毎週末でなくていい。そう言いましたが、彼女に『そんなのつまらないわ』と一蹴されました。彼女は僕より5歳年下だったから、結婚したときは26歳。まだまだ遊びたい盛りだったんでしょうか。彼女、両親が離婚しているんです。母ひとり子ひとりで育ったそうですが、その母親は地方でひとり暮らしをしていた。家族なんていないも同然だといつも言っていましたから、何か確執があったんでしょう。だから家庭なんて信じられなかったのかもしれない。深く聞こうとしても、そのあたりはいつもはぐらかされました。よほど心に傷をもっているんだと思って、あえてそれ以上、聞きませんでしたが……。ごく普通のサラリーマン家庭で、いろいろあっても家族はつかず離れず、何か困ったことがあれば話ができる。世話焼きの姉もいる。そんな僕は幸せに育ったんだなとも思っていました」突然、男性から呼び出され… 結婚して5年が過ぎたころだ。駿司さんの携帯に見知らぬ番号から電話があった。出てみると、「木村」と名乗る男性が、奈緒さんのことで会いたいと言う。職場近くの喫茶店を指定して会ってみた。「若い男性でした。ミュージシャンだと言ってましたね。奈緒さんのダンナさんですかと問われて、はいと答えると、『奈緒さんが浮気しているのを知ってますか』って。見た目は金髪で怪しかったけど、言葉遣いは丁寧でした。浮気と聞いて、どういうことですかと尋ねたら、『僕と彼女、つきあってるんです。つきあっていることをダンナさんに言ってほしいと言われて』と。何が何だかわかりませんでした。やっとわかったのは、彼と奈緒は2年にわたってつきあっている。奈緒が彼と結婚したがっている。それを僕に伝えてほしいって。だったら奈緒が自分で言えばいいのにと思わずつぶやいたら、『おそらく奈緒さんは、あなたを試しているんだと思います』と彼が言うんです。もともと彼は奈緒が結婚しているとは知らなかった。実家で親と暮らしている独身だと言われたのでつきあい始めたら、2年たったところで実は結婚していると白状してきたって」 彼女はあなたの愛情を疑っているんでしょう、僕とどうしても結婚したいというわけではないと思いますと彼は言ったそうだ。僕自身、だまされていたとわかって結婚するほどお人よしじゃないんで、と彼は金髪をなびかせて去っていった。「どうして奈緒を運命の人だと思ったのか……。自分で自分を嗤いました。バカですよね、オレ」 彼は自宅に帰って、奈緒さんに「離婚しよう」と言った。どうしてと聞いた奈緒さんに「理由を言ってほしい?」と尋ねた。奈緒さんは「あなたってやっぱり小さい男ね」とつぶやいた。怒ることも忘れたと駿司さんは言う。奈緒さんが哀れに思えた。「最後に奈緒が言ったんです。『私が奥さんに直談判したから、あなたは私と結婚できたのに』って。腰が抜けそうになりました。佳恵があの日、離婚を切り出したのは奈緒が僕との不倫をバラしたからだったと、そのとき初めてわかったんです」 思わず奈緒さんの頬を打った。奈緒さんは頬をおさえて彼を睨みつけた。しばらく睨んだあと、「あなた、やっと私に本音をぶつけてくれたね」と言った。奈緒さんは奈緒さんで、彼の本心が見えず、不満があったのだろう。だが、もうやり直すには遅かった。久々に佳恵さんに会うと… 奈緒さんとも離婚した駿司さんは、しばらく仕事に没頭した。「佳恵との間にできた娘とはいつでも会えるはずが、ほとんど会えていませんでした。でも40歳を前にして、娘がどうしているのか気になってたまらなくなった。佳恵は携帯番号を変えたようで連絡がつかない。 佳恵の実家に連絡しても番号を教えてもらえない。しかたがないので週末、佳恵の実家に行きました。自分が悪いのは重々、承知している。でも娘のことが気になってならない。会えるはずが会えていないと佳恵の父親に話しているうちに、自分がどれだけ無駄な10年を過ごしてきたかわかってきて涙が止まらなくなりました」 しばらく待っていなさいと父親に言われ、客間でぼんやりしていると、佳恵さんが入ってきた。「再婚したんでしょ、幸せなんでしょと言われて、いや、離婚したと告げました。奈緒が佳恵に直談判したことも知らなかったと伝えた。『あの人に言われて腹が立ったけど、でもその前からあなたがさんざん好きなことをしているのはわかってたわ』と言われました。なのになぜ文句ひとつ言わなかったのかと聞くと、『私は私であなたを信頼してたのよ』と」 佳恵さんは雰囲気からしゃべり方まで、すっかり変わっていた。本人も、「あの頃は私、本当にぼんやりだったから、あなたも困ったかもしれないけど」と笑ったという。「佳恵は離婚後、専門学校に行ってむずかしい国家資格をとって仕事に就いたそうです。子どもを育てながら大変だったと思う。あなたはこの10年、どうしていたわけと聞かれて、なにも答えられなかった」 その日は娘に会わせてもらえなかったが、後日、3人で食事をした。高校生になった娘は、「お父さんって、こういう人だったんだ」と笑顔を見せた。佳恵さんはあらゆる事実を伏せて、駿司さんが仕事に没頭して家庭を顧みなかったから離婚に至ったと伝えていたようだった。「私がきちんと会う意志をもてるまで待つっておかあさんが言ってたの。私も迷ったけど、一度は顔を見たいなと思ってと、娘は屈託なく言うんです。僕は思わず涙ぐんでしまいました。苦労をかけた、ごめんなさいと謝りました」 もう一度、やり直すチャンスをもらえないかとその場で言った駿司さんに対し、佳恵さんは「私、ボーイフレンドがたくさんいるから整理してからね」と笑いながら言った。「そんなことが言える女性じゃなかったのに……。佳恵は本当に魅力的な大人の女性に変貌していました。子育てや仕事で自信を得たんでしょう。それからときどき、娘を交えて会うようになりました。僕からはずっと佳恵に、もう一度結婚してほしいと伝えていますが、彼女は『どの口がそういうことを言うのかしら』と取り合ってくれなかった」離婚したからこその「今」 ところが1年ほど前、佳恵さんの父親が亡くなった。父親は最後まで、佳恵さんと駿司さんのことを気にかけてくれていた。彼もまた、かつて浮気がバレて母親から離婚を切り出されたことがあったらしい。ひれ伏して謝罪して、何年もかけて改心したところを見てもらったという。だからあのとき、駿司さんの味方をしてくれたのだろう。「父親を亡くしたときの佳恵は悲嘆にくれていました。点数稼ぎというわけじゃなくて、本当に心から力になりたいと思った。娘にもそう言いました。娘は『今、おかあさんの心をつかんでおいたほうがいいよ』って。あの娘は本当に大人です。僕を恨んでもいいはずなのに。葬儀のとき、『なんだかんだ言っても、おじいちゃんがいなければおかあさんはいなかったわけだし、おかあさんとおとうさんがいなければ私もいなかった。そう思うと、家族を恨んでもしかたないよね』と。この年でそういう考え方ができるのかとびっくりしました。それと同時に佳恵への敬意がわきました」 彼は必死に佳恵さんの気持ちを癒やそうとした。そのかいあって、最近、佳恵さんは彼とふたりきりで会ってくれるようになった。「今回は結婚を焦るのはやめました。佳恵と会って話ができるようになっただけでよかった。ただ、不思議ですね。今は佳恵に何でも話せる。佳恵も遠慮なく言葉を投げ返してくる。若いころは何か話しても答えが返ってこなかった。ただ、あのころの浮世離れした面は、ときどき顔を出します。それがまた魅力になっている」 彼は最初の妻をべた褒めした。あのまま結婚生活を続けていたら、きっと佳恵さんは今ほど魅力的な女性になっていなかっただろう。離婚したからこそ、今の彼女がある。「僕は結婚生活において彼女の魅力を引き出せなかったということですよね。そう考えると、また結婚しても失敗するかもしれない恐怖感があります。だから今はこのままでいいのかもしれない」 元妻で、今は友だち以上恋人未満の関係。佳恵さんにとって、それがいちばんいいのであれば、無理強いはするまいと彼は最近、そう考えるようになった。前編【結婚後に “運命の人”に出会ってしまった――揺れる44歳夫は離婚を決断、だが妻の方から「話がある」と】からのつづき亀山早苗(かめやま・さなえ)フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。デイリー新潮編集部
駿司さんは、「運命の人」奈緒さんと一緒になり、幸せの絶頂だった。奈緒さんと駿司さんは、時間が合えば仕事帰りに待ち合わせて食事をし、同じ家に帰っていく。だが、それが続くと、駿司さんに迷いが出てきた。
「彼女と家庭をもったという実感がなくて。恋人同士のようで楽しいんだけど、何かが不安でした。だから彼女に『子どもをもとうか』と言ってみたんです。すると彼女は驚いたような顔をして『私、子どもはいらない』って。あなたにはいるでしょ、だったらそれでいいじゃないとも言われました。じゃあ、どうして結婚したのと聞いたら『あなたが好きだから』と。それはそれで理に適っているから、反論はできませんでした」
奈緒さんは家事にはいっさいの興味がなかったから、駿司さんは自ら掃除や洗濯をした。前の結婚では家事などほとんどしたこともなかったが、奈緒さんがしないのなら自分がするしかなかったのだ。そうしなければ日常生活は回らない。
「生活するって大変なことなんだと初めて知りました。奈緒とは恋人でいるべきだった。彼女は仕事が最優先、その次が僕とのデートという具合で、家事をするとか食事を作るとか、そういうことはほとんどできない。ひとり暮らしのときはどうしていたのかと聞くと、食事は外食、洗濯はほとんどクリーニングに出していて、洗うのは下着だけだったと。 掃除は週に1回、業者に来てもらっていたそうです。じゃあ、ここもそうしようと週に1回、業者に頼んで掃除はしてもらいました。週に1度、家の中はきれいになるけど、どこか殺伐とした雰囲気なんですよね。そういえば前の結婚ではよく家の中に花があったなと思い出し、観葉植物を置いたりしたけど、なぜかみんな枯れていくんです」
家庭なんてどうでもいじゃないと奈緒さんは言った。あなたと私が愛し合っていて、愛し合う場所があればそれでいい。洗濯だの掃除だの、そんなことはどうにかなる。奈緒さんはそう言った。
「それはわかるけど、僕はきみとふたりでもっと落ち着いた生活がしたい。外での食事より家で食べたい。ふたりで遊びに行くのもいいけど、それは毎週末でなくていい。そう言いましたが、彼女に『そんなのつまらないわ』と一蹴されました。彼女は僕より5歳年下だったから、結婚したときは26歳。まだまだ遊びたい盛りだったんでしょうか。彼女、両親が離婚しているんです。母ひとり子ひとりで育ったそうですが、その母親は地方でひとり暮らしをしていた。家族なんていないも同然だといつも言っていましたから、何か確執があったんでしょう。だから家庭なんて信じられなかったのかもしれない。深く聞こうとしても、そのあたりはいつもはぐらかされました。よほど心に傷をもっているんだと思って、あえてそれ以上、聞きませんでしたが……。ごく普通のサラリーマン家庭で、いろいろあっても家族はつかず離れず、何か困ったことがあれば話ができる。世話焼きの姉もいる。そんな僕は幸せに育ったんだなとも思っていました」
結婚して5年が過ぎたころだ。駿司さんの携帯に見知らぬ番号から電話があった。出てみると、「木村」と名乗る男性が、奈緒さんのことで会いたいと言う。職場近くの喫茶店を指定して会ってみた。
「若い男性でした。ミュージシャンだと言ってましたね。奈緒さんのダンナさんですかと問われて、はいと答えると、『奈緒さんが浮気しているのを知ってますか』って。見た目は金髪で怪しかったけど、言葉遣いは丁寧でした。浮気と聞いて、どういうことですかと尋ねたら、『僕と彼女、つきあってるんです。つきあっていることをダンナさんに言ってほしいと言われて』と。何が何だかわかりませんでした。やっとわかったのは、彼と奈緒は2年にわたってつきあっている。奈緒が彼と結婚したがっている。それを僕に伝えてほしいって。だったら奈緒が自分で言えばいいのにと思わずつぶやいたら、『おそらく奈緒さんは、あなたを試しているんだと思います』と彼が言うんです。もともと彼は奈緒が結婚しているとは知らなかった。実家で親と暮らしている独身だと言われたのでつきあい始めたら、2年たったところで実は結婚していると白状してきたって」
彼女はあなたの愛情を疑っているんでしょう、僕とどうしても結婚したいというわけではないと思いますと彼は言ったそうだ。僕自身、だまされていたとわかって結婚するほどお人よしじゃないんで、と彼は金髪をなびかせて去っていった。
「どうして奈緒を運命の人だと思ったのか……。自分で自分を嗤いました。バカですよね、オレ」
彼は自宅に帰って、奈緒さんに「離婚しよう」と言った。どうしてと聞いた奈緒さんに「理由を言ってほしい?」と尋ねた。奈緒さんは「あなたってやっぱり小さい男ね」とつぶやいた。怒ることも忘れたと駿司さんは言う。奈緒さんが哀れに思えた。
「最後に奈緒が言ったんです。『私が奥さんに直談判したから、あなたは私と結婚できたのに』って。腰が抜けそうになりました。佳恵があの日、離婚を切り出したのは奈緒が僕との不倫をバラしたからだったと、そのとき初めてわかったんです」
思わず奈緒さんの頬を打った。奈緒さんは頬をおさえて彼を睨みつけた。しばらく睨んだあと、「あなた、やっと私に本音をぶつけてくれたね」と言った。奈緒さんは奈緒さんで、彼の本心が見えず、不満があったのだろう。だが、もうやり直すには遅かった。
奈緒さんとも離婚した駿司さんは、しばらく仕事に没頭した。
「佳恵との間にできた娘とはいつでも会えるはずが、ほとんど会えていませんでした。でも40歳を前にして、娘がどうしているのか気になってたまらなくなった。佳恵は携帯番号を変えたようで連絡がつかない。 佳恵の実家に連絡しても番号を教えてもらえない。しかたがないので週末、佳恵の実家に行きました。自分が悪いのは重々、承知している。でも娘のことが気になってならない。会えるはずが会えていないと佳恵の父親に話しているうちに、自分がどれだけ無駄な10年を過ごしてきたかわかってきて涙が止まらなくなりました」
しばらく待っていなさいと父親に言われ、客間でぼんやりしていると、佳恵さんが入ってきた。
「再婚したんでしょ、幸せなんでしょと言われて、いや、離婚したと告げました。奈緒が佳恵に直談判したことも知らなかったと伝えた。『あの人に言われて腹が立ったけど、でもその前からあなたがさんざん好きなことをしているのはわかってたわ』と言われました。なのになぜ文句ひとつ言わなかったのかと聞くと、『私は私であなたを信頼してたのよ』と」
佳恵さんは雰囲気からしゃべり方まで、すっかり変わっていた。本人も、「あの頃は私、本当にぼんやりだったから、あなたも困ったかもしれないけど」と笑ったという。
「佳恵は離婚後、専門学校に行ってむずかしい国家資格をとって仕事に就いたそうです。子どもを育てながら大変だったと思う。あなたはこの10年、どうしていたわけと聞かれて、なにも答えられなかった」
その日は娘に会わせてもらえなかったが、後日、3人で食事をした。高校生になった娘は、「お父さんって、こういう人だったんだ」と笑顔を見せた。佳恵さんはあらゆる事実を伏せて、駿司さんが仕事に没頭して家庭を顧みなかったから離婚に至ったと伝えていたようだった。
「私がきちんと会う意志をもてるまで待つっておかあさんが言ってたの。私も迷ったけど、一度は顔を見たいなと思ってと、娘は屈託なく言うんです。僕は思わず涙ぐんでしまいました。苦労をかけた、ごめんなさいと謝りました」
もう一度、やり直すチャンスをもらえないかとその場で言った駿司さんに対し、佳恵さんは「私、ボーイフレンドがたくさんいるから整理してからね」と笑いながら言った。
「そんなことが言える女性じゃなかったのに……。佳恵は本当に魅力的な大人の女性に変貌していました。子育てや仕事で自信を得たんでしょう。それからときどき、娘を交えて会うようになりました。僕からはずっと佳恵に、もう一度結婚してほしいと伝えていますが、彼女は『どの口がそういうことを言うのかしら』と取り合ってくれなかった」
ところが1年ほど前、佳恵さんの父親が亡くなった。父親は最後まで、佳恵さんと駿司さんのことを気にかけてくれていた。彼もまた、かつて浮気がバレて母親から離婚を切り出されたことがあったらしい。ひれ伏して謝罪して、何年もかけて改心したところを見てもらったという。だからあのとき、駿司さんの味方をしてくれたのだろう。
「父親を亡くしたときの佳恵は悲嘆にくれていました。点数稼ぎというわけじゃなくて、本当に心から力になりたいと思った。娘にもそう言いました。娘は『今、おかあさんの心をつかんでおいたほうがいいよ』って。あの娘は本当に大人です。僕を恨んでもいいはずなのに。葬儀のとき、『なんだかんだ言っても、おじいちゃんがいなければおかあさんはいなかったわけだし、おかあさんとおとうさんがいなければ私もいなかった。そう思うと、家族を恨んでもしかたないよね』と。この年でそういう考え方ができるのかとびっくりしました。それと同時に佳恵への敬意がわきました」
彼は必死に佳恵さんの気持ちを癒やそうとした。そのかいあって、最近、佳恵さんは彼とふたりきりで会ってくれるようになった。
「今回は結婚を焦るのはやめました。佳恵と会って話ができるようになっただけでよかった。ただ、不思議ですね。今は佳恵に何でも話せる。佳恵も遠慮なく言葉を投げ返してくる。若いころは何か話しても答えが返ってこなかった。ただ、あのころの浮世離れした面は、ときどき顔を出します。それがまた魅力になっている」
彼は最初の妻をべた褒めした。あのまま結婚生活を続けていたら、きっと佳恵さんは今ほど魅力的な女性になっていなかっただろう。離婚したからこそ、今の彼女がある。
「僕は結婚生活において彼女の魅力を引き出せなかったということですよね。そう考えると、また結婚しても失敗するかもしれない恐怖感があります。だから今はこのままでいいのかもしれない」
元妻で、今は友だち以上恋人未満の関係。佳恵さんにとって、それがいちばんいいのであれば、無理強いはするまいと彼は最近、そう考えるようになった。
前編【結婚後に “運命の人”に出会ってしまった――揺れる44歳夫は離婚を決断、だが妻の方から「話がある」と】からのつづき
亀山早苗(かめやま・さなえ)フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。
デイリー新潮編集部