和歌山地裁で2021年6月、遺産相続を巡る訴訟の審理に関わっていない裁判官が判決を言い渡すミスがあったことがわかった。
判決は原告の勝訴だったが、原告は効力に疑いが生じかねないとして適正な判決を出し直すよう求めて控訴。全面勝訴でも上訴できるかが争点となり、大阪高裁が控訴を却下したのに対し、最高裁は今年3月、1審判決に「重大な違法があり、控訴は認められる」と判断し、審理を高裁に差し戻した。
訴訟記録によると、原告は和歌山県内の男性(71)。21年3月、母親を相手取り、父親の遺産の所有権を移転登記するよう求めて提訴した。母親が反論しなかったため、第1回口頭弁論が開かれた同5月に即日結審し、地裁は6月、男性の請求を全て認める判決を言い渡した。
地裁がミスに気づいたのは数日後。民事訴訟法は、審理に関与した裁判官が判決を言い渡すと定めている。今回のケースでは、結審後に裁判官が別の裁判官に交代しており、本来は後任が改めて口頭弁論を開いた後、判決を出す必要があったが、この手続きが行われていなかった。手続きを記録する書記官も気づいておらず、地裁は男性に謝罪した。
男性は「全面勝訴でも手続きに誤りのある判決では、遺産争いになった場合に効力が疑われる」と高裁での審理を求めて控訴。大阪高裁は21年12月、控訴の目的は1審で不利益を受けた人の救済で、1審で勝訴した男性は控訴できないとして、控訴を却下した。
これに対し、最高裁第2小法廷は「1審判決には民事訴訟の根幹に関わる重大な違法があり、紛争が最終的に解決されるとはいえない」と高裁判決を破棄。全面勝訴の場合でも控訴できるという判断を示した。
訴訟は現在、大阪高裁に係属中で、男性は取材に対し「2年前に終わったはずの裁判がいつまでかかるのか」と述べ、審理した裁判官による判決を求めた。
地裁の嶋末和秀所長は「手続きに瑕疵(かし)があったことは事実で、誠に遺憾。今後、このようなことがないよう、職員に対して指導を徹底したい」としている。