店や企業に対して、“顧客”という立場を利用しながら理不尽なクレームをつけたり、無理難題を押し付けたりするカスタマーハラスメント(以降、カスハラ)。その多くは客や消費者によるものだが、企業間で取引先の担当者が“契約打ち切り”などをチラつかせ、カスハラまがいの態度で無茶を要求してくるケースも……。今回は、2つの現場の実態をお届けする。◆大口の契約を勝ち取るために… よく街頭や店舗で配られているポケットティッシュ。それを製造するメーカーの営業担当をしていた鈴木太郎さん(仮名・30代)は、大手保険会社に購入の提案をしていたという。 「有名な大手企業だったので、取引が決定したら購入数量が莫大で……。なんとしても契約をしたい思いでした。取引先との関係を築くために、担当者Aに対して接待を行いました」 接待は成功し、大口の取引が決定した。Aとの雰囲気もよかったため、鈴木さんは一安心という気持ちだったそうだ。しかし、思いがけない事態へと発展する。 ◆高級クラブなどを指定され、次第に過剰な接待の要求へ 取引が始まり、Aからは何度も接待の要求があったという。 「何度かお付き合いをさせていただきましたが、次第に過剰な接待要求が増えました。たとえば、高級な飲食店やクラブなどだったのですが、私にその費用を負担するように、と言ってきたんです」 取引先との関係を重視していたため、一時的には妥協して要求をのんでいた鈴木さんだが、限られた予算や会社の方針に合わないことを考えると、これ以上は応えられそうもなかったようだ。
◆“取引の破棄”や“悪評の拡散”をほのめかす 「Aには、丁寧にお断りの意思を伝えたのですが、受け入れられませんでした。むしろ、“取引の破棄”や“悪評の拡散”をほのめかしてきたんです。“この状況はマズい”と思い、接触を最小限に抑えることを決めて、これまでの出来事を上司に報告しました」 幸いにも、鈴木さんの上司がサポートするというかたちで、Aに事実確認を行ったそうだ。しかし……。 「当の本人は、『接待はすべて誘われて行った』『取引の破棄や悪評の拡散をほのめかした事実はない』との一点張りです。贅沢な飲食店や高級クラブの利用は認めたものの、虚偽報告をしてきました」 ◆事実が明るみとなり担当者が交代 証言の一部には食い違いがあったものの、取引先の上司は重く受け止め、Aは担当をハズされたという。そして、円満に取引の関係が継続できることとなり、鈴木さんは安堵したと振り返る。 「Aに大きなペナルティはありませんでしたが、過剰な接待の要求を当たり前のように繰り返していたことで、上司からの信頼を失ったことは明らかです。『そういうつもりではなかった』と言いつつも謝罪はあり、最終的にはスカッとした気持ちになりました」
◆「お前がやればいいだろ!」シフトに穴をあけるのは許されない
「現場の穴はどうするんだ?」と詰められ、「お前がやればいいだろ! シフトに穴をあけたらタダじゃおかないぞ!」と罵られたと田中さんは話す。 夜勤だったため、会社には上長もいない状況。まさかの事態に、思わず田中さんは自ら出勤することを承諾してしまったそうだ。そして、またしても突発的なトラブルが発生する。 「ようやく夜勤が終わり、日勤の出勤状況を確認すると、今度は別の派遣社員が出勤していませんでした。しかも連絡も取れない状況です」 再び、Bに報告と謝罪を行うと……。 「『お前がやれ! 今後も突発欠勤が出た場合は、お前が現場に入って穴をうめろよ! できないなら、他の派遣会社に依頼するからな』と言われました」 現場に穴をあけるわけにもいかず、代わりに作業を行いながらも現状を上司に報告した田中さん。そして、上司から派遣先企業に今回の件を報告してもらったという。 「暫定策として『穴うめはしなくてもいい』とのことで、私は約40時間に及ぶ労働から解放されて帰宅することができました」
◆日常的な“カスハラ”は複数の派遣会社にまで及んでいた その後、Bは上司に叱られたのか、無茶な要求はなくなり、どことなく田中さんと距離を置いている様子だったそうだ。数ヵ月後、派遣先企業の人事が発表された。 「Bは作業長補佐に降格し、他の現場に異動になるとのことでした。どうやら、うちの会社だけではなく、複数の派遣会社から“カスハラ”の報告があり、事実確認を行ったところ認められたみたいです。Bからは『迷惑をかけて申し訳なかった』と謝罪の言葉をいただきました」 派遣社員の代わりに現場で頑張った田中さんの労働賃金は無給だ。とはいえ、今後は同じ思いをしなくてもいい……そう考えると安心し、Bに罰が下ったことに「正直、清々した」と苦笑いだった。
<取材・文/chimi86>
―[カスハラ現場の苦悩]―