迫る電車、踏切内で高齢女性が立ち往生…女子中学生と84歳が連携プレーで救出

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香川県三木町で今年5月、踏切内で手押し車が線路の溝に挟まり、身動きがとれなくなった高齢女性を、通りかかった同町の中学1年の女子生徒(12)らが助け出した。
遮断機が下り、電車が迫る中、近隣住民も駆けつけ、連携プレーで救出につながった。(足立壮)
■鳴り響く警報音
5月8日午後5時、同町平木にある高松琴平電気鉄道の踏切。女子生徒は美術部の活動を終え、1人で歩いて帰宅していた。ふと、踏切内を見ると、70歳代の女性が踏切を渡りきれず、うつむいていた。
「大丈夫ですか?」。気になって声をかけると、女性は「大丈夫」と口にしたが、困惑の表情を浮かべていた。女性が押していた手押し車の車輪が溝に落ちて、抜けなくなっていた。
女性は手押し車がないと歩けないため、女子生徒は、手押し車を持ち上げようとしたが、重くて動かない。「どうしよう」と悩んでいると、踏切の警報音が鳴り出し、遮断機が下り始めた。
異変に気づいたのは、近くに住む長田栄仁さん(84)だった。外出先から車で自宅に戻り、家の中に入ろうとした際、遮断機が下りた踏切内に取り残されている女性らを見つけ、駆けつけた。
女子生徒が女性の両手を支えて移動し、長田さんが遮断機の棒を肩で持ち上げて、踏切から脱出。手押し車は長田さんが踏切の外に運び出し、事なきを得た。
直後に、電車が通過し、踏切を越えたところで緊急停止した。運転士からも踏切内の様子が見えていて、ブレーキをかけていた。
女性にけがはなく、放心状態で道路に座り込み、2人に「ありがとう」と感謝したという。
■「必死だった」
高松東署は5月25日、2人に「踏切内の危険な状況にもかかわらず、的確な判断と冷静な対応により、高齢者を救助し、重大事故を未然に防止した」として感謝状を贈った。斎藤歩署長は「迅速な対応がなければ、女性の命に関わる危険性があった」とたたえた。
女子生徒は「とにかく必死だった。踏切から出られた時はほっとした」と振り返り、「常に自分にできることはないかと考え、困っている人がいたら、できることをしていきたい」と話した。長田さんは「長く生きてきたが、初めての経験。何事もなく、本当に良かった」と笑顔を見せた。
■後絶たない踏切での立ち往生
高齢者が踏切で立ち往生して事故に巻き込まれるケースは後を絶たない。
2021年8月、観音寺市のJR予讃線の踏切で、ハンドル付き電動車いす「シニアカー」に乗った女性(当時75歳)が特急にはねられ、亡くなった。直前、立ち往生しているのを通行人が目撃していた。
独立行政法人・製品評価技術基盤機構(東京)によると、電動車いすの高齢者が踏切で死亡した事故は、16~20年の5年間で5件起きている。
同機構は、踏切横断の注意点として、介助者とともに通行することや、車輪が線路の溝に挟まらないように、線路に向けて直角に渡るよう呼びかけている。
一方、鉄道各社は、立ち往生をセンサーで感知するシステムの導入を進めている。しかし、国土交通省によると、人を検知するシステムの設置率は19年度末で約5%にとどまっており、同省は「活用を促していきたい」としている。

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