和田秀樹氏が「認知症は病気ではない」と断言する納得の理由「病気なら薬で改善したり進行を止められるが…」 から続く
人は誰もが老いるのだが、「老い」とか「老化」についてはよくわからない、よく知らないという人も多いのではないだろうか? 老いに対する正しい知識がないと過度に不安になったりして、不幸な老い方をしてしまう可能性もある。
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ここでは、老年医学の専門家・和田秀樹氏が「これだけは知っておかないともったいない」という必須知識をまとめた『老人入門 – いまさら聞けない必須知識20講 -』(ワニブックス)から一部を抜粋。和田氏が高齢者に対して「食べることに無関心になってはいけない」と話す理由とは–。(全2回の2回目/1回目から続く)
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老いることに関してはいろいろな誤解もありますが、私はその中でいちばん大きな誤解は「食べること」ではないかと思っています。
食欲もかつてほど旺盛ではありません。
日中、それほど激しく動き回っているわけでもありませんから、何となく「あっさりした料理でいいかな」と思ってしまいます。
「成長期の若者じゃないんだから、晩ご飯も軽めでいいだろう」とついつい粗食に甘んじてしまいます。
それ以外にもいろいろな理由があります。コレステロールや血圧、血糖値が高めだから肉や脂っこいものは控えなくちゃとか、胃にもたれやすい料理は避けたほうがいいだろうとか、便通を良くするためにも食物繊維は欠かせないとか、とにかく高齢になったら野菜中心のあっさりした料理が身体のためにはいいと思い込んでいる人がほとんどになってくるようです。
まして夫婦二人きりの生活になってしまうと、子どもや若い人の好みに合わせる必要がありません。外食の機会もめっきり少なくなりますから、とくに肉類の摂取が減ってしまいがちです。
でもそういった食事に対する考え方には大きな誤解があるようです。
老いてくると身体のいろいろな機能が衰えますが、代謝も落ちてきます。同じ栄養を摂っても若い人ならどんどん消化吸収されて身体中に行き渡りますが、老いてくると摂取の効率も悪くなるのです。胃の機能も低下しますから、ご飯のお替わりなんてできなくなります。
ということは、必要なカロリーをなかなか摂取できなくなるということです。
量でカバーできないとなったら質で補うしかありません。とくに不足しがちなのはタンパク質です。肉や魚、大豆のような植物性タンパク質も含めて、あっさりした食事が続くとどうしてもタンパク質が不足しがちになります。
「豆腐や納豆なら食べている」と思うかもしれませんが、やはり必要な量のタンパク質を効率よく摂ろうと思えば肉や魚は欠かせません。じつはタンパク質というのは、高齢者の身体を支えるためにはいちばん大切な栄養素になってくるのです。
タンパク質が筋肉や臓器や骨格などの材料となるのは何となくご存じだと思います。
高齢になってくると、かつてに比べて情けないくらい筋肉が落ちてしまい、しかも運動してもなかなか元に戻りません。若い世代は筋肉は鍛えればたちまち盛り上がりますが、老いるとそうはいきません。筋肉の素となるタンパク質を摂らなければなおさらのことです。
タンパク質の成分はアミノ酸ですが、アミノ酸はドーパミンやセロトニンといった神経伝達物質をつくります。ドーパミンは意欲や「やる気」を生み出し、セロトニンは心をリラックスさせてくれます。つまりタンパク質は気力や集中力、思考力にも大きく関係してくるのです。
それだけではありません。タンパク質には免疫機能を高める働きもあります。私たちは何となく体調が落ちているのを感じると「肉でも食べて元気つけよう」と思いますが、ただの気分ではなく根拠のあることなのです。
そういったタンパク質の働きを考えると、高齢者にこそ必要な栄養素と気がつきます。
むしろ若い世代より意識して摂取しなければいけないことになります。
たしかに高齢になってくると、「たまに食べるくらいでいい」とか、「血圧が上がりそうだ」と肉を控えたくなってきます。野菜の繊細な美味しさがわかってきたりもします。
ですからこれも「毎日食べよう」とか「何グラムは食べよう」といった押しつけるような勧め方はしません。質素なくらいの食事で体調がいいというのでしたら、ムリに肉を食べる必要もないでしょう。
ただ、高齢だからもう肉は食べなくていいとか、粗食で十分といった考え方は老化を早めるだけになってしまいます。意欲や朗らかな感情を失わないためにも、食べることに無関心になってはいけません。お腹が空いてきたときに、食べたい料理があれこれ浮かんでくるような食欲の若々しさこそ、老いても失わないようにしてください。
とは言ってもこんな声も聞こえてきそうです。
「ほとんどの料理を作るのは妻だし、家計も任せている。せっかく作ってくれたのに食べないわけにはいかないし残った料理も無駄にはできない」
奥さまがご主人の健康を考えて野菜中心の料理を作れば、食べないわけにはいきません。晩ご飯も翌日の昼ご飯も野菜料理になってしまうことだってあるでしょう。男性にとっては肉料理のハードルが案外、高かったりするものです。
そこでお勧めしたいのが外食です。
「年金暮らしだから無駄遣いはできない」とか「わざわざ外に出なくても、家でゆっくり食べたい」という気持ちもあるでしょう。外食となれば着替えたり街まで出かけなければいけません。それが面倒といえば面倒です。
会社勤めのころでしたら「休日くらい家でゆっくりしたい」という気持ちになりますが、高齢になればどうせ時間はいくらでもあります。「美味しいものを食べるついでに街歩き」というのは、気楽な自由時間の過ごし方になってきます。
夕食ではなくランチの外食ならそれほど高い食事代ではありません。週に1度か2度の食べ歩きと割り切れば、会社勤めのころに通っていたラーメン店とかトンカツ屋さん、カレー専門店やレストランやステーキの店など、いろいろ思い浮かべることができます。
たまにはホテルのレストランで贅沢にランチをいただくのもいいでしょう。
こういうことはすべて、自分の楽しみの時間ですから、街歩きのついでに映画館や書店、珈琲の美味しい喫茶店を訪ねることもできます。
つまり週に1度か2度のランチ外出でも、いろいろな楽しみを盛り込んで過ごすことができます。街歩きはけっこう、体力を使います。ファッションや自分の姿勢にも目が行きます。そういったこともすべて、老いへのブレーキをかけることにつながってきます。
外食のメリットはほかにもいろいろありますが、何といっても食べたいものを手軽に食べられること、そして選べる料理がバラエティに富んでいるということでしょう。
食べたいものを食べられるということは、夫が肉料理を選び、妻が野菜料理を選んでお互いの食欲を満足させることができます。夫が蕎麦、妻がイタリアンとなったらそれぞれの店に分かれるしかありませんが、高齢になってくると1人でランチというのはありふれた光景ですから悠然と構えることができます。
いろいろな料理を選べるというのも食への関心を高めてくれます。不思議なもので、街を歩いているだけで、いろいろな看板が目について食べたい料理が頭に浮かんできます。行き当たりばったりで店を選んでも、メニューを眺めているうちに「これを食べてみたい」というのが出てきます。 つまり外食というのは、自分が食べたいものの幅を広げてくれたり、食べたかった料理を教えてくれたり思い出させてくれたりすることが多いのです。家の中で食事しているとどうしてもレパートリーが限られてきます。「何か食べたいものある?」と妻に訊かれても「とくにないよ」「任せるよ」といった返事しかできない男性が多くなります。 老いて食に無関心になると老化が加速するだけでなく、生活の中の大きな楽しみが薄れていくことにもなるのです。(和田 秀樹)
いろいろな料理を選べるというのも食への関心を高めてくれます。不思議なもので、街を歩いているだけで、いろいろな看板が目について食べたい料理が頭に浮かんできます。行き当たりばったりで店を選んでも、メニューを眺めているうちに「これを食べてみたい」というのが出てきます。
つまり外食というのは、自分が食べたいものの幅を広げてくれたり、食べたかった料理を教えてくれたり思い出させてくれたりすることが多いのです。家の中で食事しているとどうしてもレパートリーが限られてきます。「何か食べたいものある?」と妻に訊かれても「とくにないよ」「任せるよ」といった返事しかできない男性が多くなります。
老いて食に無関心になると老化が加速するだけでなく、生活の中の大きな楽しみが薄れていくことにもなるのです。
(和田 秀樹)