梅毒に感染したらどうなるのか…「後悔した選択」を“感染者”が告白

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2021年に過去最多の感染者数を記録した梅毒。2022年はその数をさらに更新し、国立感染症研究所の集計によれば、2023年はその数をも上回る勢いで感染者が急増しているという。もはや他人事では済まされない性感染症なわけだが、感染するとどうなってしまうのか。実際にかかった経験を持つ会社員のKさん(40歳・男性)に振り返ってもらった。
◆感染に気づいたきっかけは?
Kさんが梅毒に感染したのは数年前。派遣型風俗店で遊んだあとに妙な違和感を覚えたという。
「数日経って局部がピリピリして痒くなりだしまして……。そのうち、膿も出てくるようになったので、さすがにヤバいと思って病院に行きました」
なかざわ腎泌尿器科クリニックの中澤佑介氏によると、初期症状としては「感染後約3週間で、感染した場所(性器、肛門、口など)に、できもの、しこり、ただれなどができる」という。
恐ろしいのは、症状がないまま何年も経過することもあること。中澤氏は、「皮膚や内臓で病気は静かに進んでいき、数年~数10年後に心臓、血管、神経の異常が現れることがあります」と警鐘を鳴らす。
◆週一検査でメンタルも沈んだ
さて、検査の内容はどのようなものだったのか。
「お医者さんに、局部全体を綿棒でグリグリこすられました。尿道の入り口もグリグリやられるので結構痛かったですね」
その後、綿棒で採取した検体をプレパラートに乗せて顕微鏡で細菌を確認し、梅毒であると診断され、飲み薬と塗り薬を処方された。
「梅毒は治るまでに時間がかかり、それまで週1ペースで検査に通わないといけないので、毎週この痛みに耐えるのがキツかったですね。痛さだけじゃなくて、毎週おじいさん先生の前で局部をさらけ出すのは、メンタル的にも沈んできます。自業自得ではあるんですけどね……」
◆“なんだかおかしい”嬢にもらってしまった?
約1週間から13週間という長い潜伏期間も梅毒の特徴だ。期間内に複数回の性行為があると、感染経路が見極めにくいが、Kさんの場合はどうだったのか。
「よく使う派遣型風俗店は、比較的お財布にやさしい価格帯なんです。だから在籍している人も玉石混合で……。あくまで勘なのですが、肌が象皮のようにガサガサゴツゴツで、なんだかおかしいなと思った嬢がいたんですよ。
20代中盤くらいで、外見的にはいわゆる“地雷系”。話も噛み合わなかったので、もしかしたらそういうこと(性病検査)にも無頓着だったのかもしれませんね……」
◆「チェンジすること」ができなかった
梅毒に限らず、性病には皮膚疾患やにおいの違和感から気がつくことも多い。しかし、そうした要素で判断できるのは、往々にして行為がすでに始まってからになる。
「顔をパッと見てわかるならチェンジしますが、服を脱いでから『なんか臭いな』と思ってもさすがにそこではチェンジって言えませんよね。相手への気まずさもありますし、自分の欲求の高まり的にも。梅毒の辛さを知った今なら止めることができるんですけど、当時はできなかったですね」
定期的な性病検査を従業員に課している店もあるが、やはり最終的には利用者側が違和感を覚えた時に、自己を抑止できるかにかかっていると言えるだろう。
◆どんどん惨めな気持ちになっていった
梅毒の症状は人によって様々だ。陰部のしこり、手足をはじめ全身の湿疹、発熱や倦怠感や頭痛を発症する例もある。症状がほとんどなくても、体内では感染が進行し臓器や骨に腫瘍をつくることも。その腫瘍は、周辺の細胞を壊すため、過去には顔に腫瘍ができて、鼻が欠損した例もあるという。

「僕の場合、治るまでに2か月近くかかりました。その間はずっと、局部に薬を1日数回塗り続けないといけないので、どんどん惨めな気持ちになってきます」
他者へ感染させないために、治療中は性行為ができないが、Kさんは自慰行為さえしなかったという。
「おじいさん先生に、局部を毎週グリグリされて、毎日何回も自分で薬を塗っていると、もう気分も沈みきってしまって自慰行為はしたくもなりませんでしたね」
◆彼女には梅毒感染を「言えなかった」
また、治療期間が長いことで生活も制約されることが予想される。具体的にどういった行動が制約されたのか、Kさんに聞いた。
「もちろんセックスはできませんし、大好きな銭湯も行けなくなりました。また、そういうタイミングで友人にプールにも誘われたんですが、それも断るしかなくて」
梅毒は風呂のお湯を通して感染することはないが、「接触感染」するため椅子やタオルなどで感染を広げてしまう可能性はゼロではない。Kさんは幸いにも一人暮らしだったが、家族などの同居人がいる場合、感染中は自宅での入浴でも気をつけなくてならないということになる。
さらにKさんには当時、付き合っていた女性がいた。幸い感染はしなかったというが、それでも「自分が梅毒に感染したことは言えなかったので、治るまでの2か月は、色々と嘘もついてセックスをする流れにならないようにしました。惨めだし彼女にも申し訳ないし……」という辛さも語った。
◆病院選びには注意が必要
よほどの遊び人でない限り、性病科にかかりつけの病院を持っている人は少ないだろう。Kさんもまた、「性病かもしれない」と思って病院を探したが、引っ越して間もない時期だったことと土日だったことが重なり、少ない選択肢のなかから病院を選ぶしかなかった。
「性病という事実もそうですし、検査の痛みでもメンタルがやられるんですが、そのお医者さんが嫌味を言ってくるんですよ。『遊びすぎた罰だね』とか『あなたより女の子の方が苦しんでるんだからね』とか。おっしゃる通りなんですが、落ち込んでるところにその言葉は傷口に塩を塗られているような感覚でした」
トータル数万円の治療費がかかったというKさんは「梅毒は治療が長くて辛い性病です。危ない雰囲気をまとった嬢と、病院選びには十分に注意してほしいです」とアドバイスしてくれた。
◆犯人探しをするより優先すべきは…
さて、専門家の意見も聞いておきたい。「個人的な感覚としても、梅毒の患者さんを診断することが増えています」と語るのは先述の中澤氏。
予防するには「安全な性行為の実践が重要。適切なコンドームの使用や、パートナーの感染症の有無を確認することが推奨されます」だという。
さらに加えて、感染した際の心構えについても教えてくれた。
「梅毒に限らず、自分が性感染症にかかったとき、『誰がうつしたのか?』と、犯人探しをしたくなるものです。しかし、冷静に考えると、自分も他人にうつしてしまう可能性もあるのです。
そのため、自分がうつしてしまったかもしれない人に早く検査をしに行くことを勧めてください。(2人ともかかっていた場合)パートナーと同時に治療していくことが大切です。ひとりひとりが気を付けて検査と治療を受けることが、昨今の性感染症の流行を抑えることにつながるのです」
◆重要なのは「早期発見・治療」
潜伏期間が長いからこそ、気づかないままでいると、のちのち大変な事態を招いてしまうのだ。
「感染が初期の段階であれば、一般的に抗生物質の使用で完全に治癒することができますが、ただし、検査や治療が遅れたり、放置したりすると、後に日常生活ができないほどの症状を引き起こすことがあります。 つまり早期発見・治療がとても重要です。
また、治療後に血液検査が行われることがあります。これは、感染が治癒されたかどうかを確認するためです。定期的なフォローアップを受けることも忘れてはいけません」
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感染者数が増加の一途を辿っている梅毒、まずは感染しないよう、そして感染しても落ち着いて行動できるよう気をつけたいものだ。
<取材・文/Mr.tsubaking>

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