■[情報偏食]第3部 揺れる教育現場<3>
パソコンやスマホを使った小中高校などでのいじめは近年、急増している。
文部科学省によると、2021年度は2万1900件に上り、統計を取り始めた06年度の約4・5倍に上った。
兵庫県立大の竹内和雄教授(生徒指導論)は、増加の背景に、コロナ禍で学校での対面や会話が減ったことに加え、ネット空間で同じような考えの人たちの意見が反響し合う「エコーチェンバー(反響室)」もあるとみる。
竹内教授は「子どもたちは大人に比べて交友関係が狭い。閉ざされたSNS上でやり取りするうちに自分たちの考えが正しいと思い込み、いじめがエスカレートしやすい」と分析。「新しいアプリが次々に登場し、低年齢化が進んで手口も巧妙化しており大人が気づきにくくなっている」と話す。
「まさか私の写真まで勝手に拡散されるとは思いもしなかった」。中2の長男(13)が複数の同級生からいじめを受けた30歳代の母親はそう話す。
いじめの始まりは、長男が関西地方の中学校に入学した昨春だった。同級生から丸刈りにするよう言われ、仲間内で一人だけ拒否すると、「こいつとは仲良くするな」と仲間外れにされた。
長男のSNSには、別の同級生から、〈ころすぞ〉などと書き込まれた。昨秋から別室での授業を余儀なくされても、〈全部お前が悪い〉などと追い打ちをかけてきた。
同じ頃、嫌がらせの矛先は母親にも向けられた。
「知り合いからこんな画像が送られてきた」。長男からスマホを見せられた母親は、不自然に拡大された自分自身の顔写真が目に入った。ラインに以前、載せていた家族写真。母親の顔だけが切り取られていた。
長男の同級生を問いただすと、オンライン上のゲーム仲間に送りつけたことを認めた。母親の知らないところでネット空間を巡り、長男のスマホに回ってきた写真。母親は「どこの誰だか分からない人に見られたかと思うと、気味が悪かった」と振り返る。
母親によると、この同級生は長男と同じ小学校に通っていた時、友達の顔写真を「遺影」のように無断で加工したこともあるという。母親は「止める人が誰もいなくて、SNSでは何をやってもいいとエスカレートさせている」と憤る。
2年生になってクラスが替わり、ようやく元の学校生活を取り戻しつつある長男。母親は長男へのいじめについて学校に相談してきたが、「個人のスマホのことには対応できない」と取り合ってもらえなかったという。「SNSのいじめが過激になって親にまで及んでいるのに、学校の当事者意識はあまりに低い。またいじめられても守ってくれないのか」。母親の不信と不安は強い。
■深く考えず「いいね」、いじめがエスカレート
SNSでは、いじめが深刻化しやすいとされる。社会心理学者の綿村英一郎・大阪大准教授によると、「SNSいじめ」の大きな特徴は、いじめる側が罪悪感を感じにくい点だという。
SNSに限らず、いじめは「被害者への共感や同情」、「深刻度の認識」があれば起きにくいことが、心理学の実験で実証されている。
ところが、SNSでは相手が苦しむ様子を目の前で見ないことが多い。「投稿者」「拡散者」など役割が多岐にわたり、一人ひとりの加担の度合いが小さくなりがちだ。相手の何げない発言をネガティブに捉えて敵対視する「敵意帰属バイアス」にも陥りがちという。
いじめる側の投稿の内容を深く考えず、習慣的に「いいね」ボタンを押す人もいる。その結果、いじめる側は自身の行為が周囲から「承認」されたと錯覚し、行為がエスカレートする。同じメンバーでいじめが繰り返されれば、同調圧力が高まり、行為をやめるような指摘をしづらくなる。
いじめを認識しながら何も反応しない「傍観者」の存在も問題だ。綿村准教授は「惰性で『いいね』を押さないことはもちろん、メンバー同士で『良くないよね』と声を掛け合うことが大切だ」と強調する。