「家族にとっては殺人」結婚式目前に交通事故死 30代男性の遺族が憤った被告人の態度

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「過失かもしれないが私たち家族にとっては殺人だと思う」。自動車による交通死亡事故で過失運転致死罪に問われた20代の女性被告人の裁判。被害者となった30代男性の両親は法廷で、そう悲痛な思いを述べた。
「子どもには、“人を恨んではいけないよ”と教えてきたが、今は私がそれを守れていない。私たちの命が尽きるまで被告人を許さない」(遺族)
被告人がどんなに反省と謝罪の姿勢を見せても、遺族としては許すことはできないだろう。2023年2月に大阪地裁で行われた裁判では、事件の被告人は、法廷ですら反省の姿勢を見せず、裁判官にも「とても残念」と言われる有様だった。(裁判ライター:普通)
被害者は、半年後に結婚式を控えた30代前半の男性だった。男性の妻は、事故のショックからうつ病になり仕事にも行けない状態だという。仕事も順調で、社内外からの人望も厚かった。法廷では、将来の幹部候補だったとする職場の上司の供述も読み上げられ、全3回の公判には、関係者たちが多く傍聴席にかけつけた。
被告人は20代の女性。スーツを着てはいるのだが、法廷に入る際は上に迷彩柄のダウンを着ており、遺族がすでに座っていた傍聴席を一瞥することもなく被告人席に着き、傍聴席の遺族らを驚かせた。
事故は平日の昼間に起きた。当時、配送業の仕事をしていた被告人が、体調不良により帰宅する途中の事故だった。朝から持病の喘息発作が起き、何度か休憩を挟むものの改善せず、この日、歩道柵にぶつかる物損事故も起こしていた。また過去にも物損事故を起こしたことがあったという。
事故直前、喘息の薬が切れていることに気づいた被告人は、スマートフォンをハンドル横のホルダーに立てて、近くの薬局までの道のりをナビアプリで設定した。しかし、途中で道案内表示が変わり、道を間違えたと思ったという。そのためハンドルを左手で握り、右手でスマートフォンを操作しながら運転。前方を見ていなかった。
そして、左側の路側帯に乗り上げ、徒歩で通行していた被害者に時速40kmで衝突し死亡させた。被害者に気付いたのは衝突と同時であったそうだ。
罪状認否の場で被告人は「間違いありません」とだけ答えた。弁護人からは「それだけでいいの?」と確認された。多くの被告人がこの際、同時に遺族へ謝罪の言葉も述べるが、この被告人も事前に謝罪するよう打ち合わせていたのだろう。しかし、被告人は思い出した様子もなく、淡々と「はい」とだけ答え、前を向いたまま傍聴席の遺族を見ることはなかった。
初日の公判は、事実の確認だけで終わったが、公判が終わるや否や、被告人はまたも傍聴席を見ることもなく法廷から立ち去って行った。被害者関係者たちは法廷での被告人の態度に、強い怒りの言葉を抑えることができていなかった。
2日目は被告人の生活態度を今後監督する予定だという人物の証人尋問が行われた。遠方に住む被告人の両親の代わりに普段から世話をしている知人であり、初回の公判の様子も傍聴していたという。
証人は証言台の前で立ち上がり、遺族の方へ向き直り「この度は本当に申し訳ありませんでした」と深く頭を下げた。
尋問においては証人は、被告人のことを「自己表現が苦手」と評し、「私としても謝罪がなくもどかしい」、「遺族の方に誠心誠意謝ってほしい」などと証言すると、傍聴席からはため息が漏れた。
被告人質問の冒頭、証人と同様に証言台の前で立ち上がり、遺族へ向けて「私の不注意で大きな事故を起こしてしまい、すみませんでした」と深く頭を下げた。
検察官が立証した事実をなぞるように、弁護人が質問を展開していく。小声で答える被告人に対し、傍聴席の両親以外の関係者は「聞こえません」と時折声を荒げた。本来、開廷中の傍聴席からの発言は禁止されているが、裁判官は特に静止することもなかった。
被害者への謝罪や反省について問われると、「月命日には手を合わせていて、2回ほど謝罪のために電話をさせていただいた」と答え、謝罪の申し入れをしていると主張した。しかし、検察官は「遺族は謝罪の電話を受けていない」と反論し、真っ向から対立した。
裁判官からも被告人の謝罪の姿勢を確認する質問があった。
裁判官「前回の法廷でも、謝罪の気持ちはありましたか?」被告人「はい、ありました」
裁判官「裁判中は特に仰らなかったと思いますし、法廷の外でも謝罪をする機会はあったと思うのですが」被告人「ご家族の方に電話をしたときに『警察や保険会社を通して欲しい』と言われたので」
この応答を聞いた関係者たちは「そんな電話は受けていない」と言わんばかりの表情を浮かべ、傍聴席はざわついた。
裁判官「だとしても、当日傍聴席に来ることもわかっていたでしょうし、直接謝ろうとは考えなかったのですか?」被告人「思ってはいました」
裁判官「正直もどかしい気がしています。それがなされてなく、とても残念だなと」
被害者の両親が証言台の前に立ち、それぞれ意見陳述を行った。以下、抜粋する。
「今回の件は過失かもしれないが、運転手として数秒でも前方を見ないなど、未必の故意による殺人だと思う。遺族としては通り魔殺人と同じ気持ち。会社員としても異例の昇進を続けていた。子どもには、『人を恨んではいけないよ』と教えてきたが、今は私がそれを守れていない。私たちの命が尽きるまで被告人を許さない」(父親)
「ルールを守っている息子が、ルールを守らない被告人にどうして殺されねばならないのか。あの狭い道を、制限速度を超え、前も見ず、どうして運転できるのか。被告人も会社も、人を殺していながら何故謝らないのか。自分なら何度断られても謝るし、謝らせる。祖母は事故に心を痛め、事故の4カ月後に亡くなった。息子の妻もうつ病となり仕事に行けていない。私も生きていくのが辛い」(母親)
途中、涙に言葉も詰まりながらも、背をピンと立たせ、堂々と読み上げる姿勢が印象的だった。この両親のもと育った被害者の人柄もまた思い浮かぶようであった。
判決は禁錮3年(求刑3年6月)、執行猶予5年であった。執行猶予が告げられると、傍聴席からは落胆の声が漏れた。判決において、被害者に落ち度がなく、事故後の謝罪の姿勢が不十分であると言及。しかし、過失による事故であり飲酒運転などとは同等に扱えない点、前科がないことなどから「ただちに実刑とするには、いささか躊躇する」と述べるなど、執行猶予判決に対する裁判官の逡巡も見えるものであった。
被告人は裁判終了後、傍聴席を特に見るでもなく法廷を去っていった。被告人なりに反省はしたつもりかもしれないが、どこか他人事のような振る舞いで、最後まで誠実な謝罪の姿勢は伝わってこなかった。
被告人のいない法廷の外で、強い言葉で憤りを示した被害者の関係者たちを、被害者の両親が、冷静にたしなめている姿が今も忘れられずにいる。
【筆者プロフィール】普通:裁判ライターとして毎月約100件の裁判を傍聴。ニュースで報じられない事件を中心にTwitter、YouTube、noteなどで発信。趣味の国内旅行には必ず、その地での裁判傍聴を組み合わせるなど裁判中心の生活を送っている。

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