先の衆参五つの補欠選挙で自民党を4勝にとどまらせ、野党として唯一気を吐いたのが日本維新の会だった。大阪万博と日本初のIR開業へと弾みをつけた格好だが、舞台となる大阪湾の埋め立て地で、環境と健康を巡る、恐るべき心配事が取り沙汰されているのである。
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【写真】維新の新人に敗北した門博文氏、あられもない“路チュー”風景 自民党重鎮にして和歌山県に君臨する二階俊博元幹事長が、例のヘの字口をさらに歪ませたであろう異変が起きた。4月23日投開票の衆院和歌山1区補欠選挙で、自民の前職・門博文氏(二階派所属)が、日本維新の会新人で元和歌山市議の林佑美氏に敗れたのだ。
政治部デスクが言う。「補選は和歌山1区で5連勝していた元国民民主・岸本周平氏の県知事転身を受けて行われたもので、自民はその岸本氏の協力も取りつけたのにあえなく負けた。岸田文雄総理は応援に訪れた15日、漁港で爆弾を投げつけられたものの、別の場所での演説を予定通り敢行。選挙戦最終日の22日も総理が応援に立ち、二階氏と親しい小池百合子東京都知事まで弁士に招くなど、門陣営は総力戦を展開したのですが……」吉村洋文府知事 そもそも門氏が2015年、同じ二階派所属だった中川郁子衆院議員との不倫がバレる醜聞に見舞われ、地元で不人気だったことが敗因のひとつ。さらに、「やはり維新の勢いがすごかった。9日投開票の大阪府知事・市長のダブル選と奈良知事選も制したばかりですからね。馬場伸幸代表は今回の統一地方選の獲得目標として改選前から1.5倍の600議席を掲げましたが、その数字も上回った。全国政党への第一歩と、共同代表の吉村洋文大阪府知事がミエを切っただけのことはあります」(同)アイドル並みの人気 維新は関西圏で独り勝ちの様相だ。大阪府議会では約7割、大阪市議会でも過半数を維新が占めている。大阪・関西万博の開幕千日前イベント ジャーナリストの吉富有治氏は、まだ47歳と若き吉村知事の人気が大きな要因だとして、こう指摘する。「吉村人気はかつての橋下(徹)人気をしのぐともいわれます。今回の大阪市長選でも、府議から鞍替えした41歳の横山英幸氏は知名度がなく、演説してもギャラリーは多くなかった。ところが、私も梅田駅前の街頭演説で目撃したのですが、吉村知事が登場するとガラッと状況が変わる。若い女性が増えて“キャー”と歓声が上がるほど。もはやアイドル並みで“追っかけ”までいるという話です」 一方で看過できない問題も。在阪のテレビ局が橋下氏や松井一郎・前大阪市長に加え、当の吉村知事をも番組で“重用”し続けた件だ。「在阪メディアは現在、吉村知事らを番組に頻繁に呼ぶことは一応控えています。昨年の元日に大阪の毎日放送が彼ら三名をバラエティー番組に出演させ、BPO委員長から“番組は政策について異なる視点を提示せず、公平性を欠いているのでは”と指摘され、自重せざるを得なくなっているのです」(在阪ジャーナリスト)“やっている感” とはいえ“抜け穴”が。「吉村知事はコロナ禍で矢継ぎ早にコロナ対策を表明し、ニュース番組に取り上げられ続けた。府民の目には“頑張ってるやん”と映り、彼に肯定的な空気が満ちていった」(吉富氏) 知事が打ち出した「大阪発のワクチン開発」も「イソジンが効く可能性」も、結局は空振りに終わった。それでも“やっている感”で人気は高まった。 いずれにせよ維新の勢力は底上げされ、順風満帆の吉村知事。ところが目下、その“底”に大きな穴をうがちかねない火種がくすぶる。788億円の使途に目が届かない恐れ それは、きたる25年の大阪万博開催後、29年秋にもIR(統合型リゾート)が開業する見通しの、大阪湾に浮かぶ大阪市の人工島・夢洲(ゆめしま)にまつわるものである。 さる市政関係者が言う。「島は市の港湾局が埋め立てた造成地をIR事業者に賃貸する形です。しかし、賃料は年間わずか約25億円。破格の安さなんですよ」 それだけでは済まない。「大阪湾奥部は淀川から砂が運ばれるため水深が浅く、航路確保のために定期的に浚渫(しゅんせつ)を行います。その浚渫土砂を捨てる場所が夢洲なのですが、浚渫土と一緒に建築材のガラや残土が埋められ、他に産廃が棄てられる一画などもあって、以前から土壌汚染の心配が指摘されてきたのです」(同) この点、市は土壌対策費や液状化対策費として上限788億円を、MGMやオリックスなどが出資するIR事業者に支払う予定だが、「市として土壌対策に直接当たるのではなく、費用をもらい受けた事業者が自由に手立てを講じる仕組みのため、使途に目が届かない恐れがある。港湾局は788億円について“税金じゃない。公金だ”と言い張っていますけれど、これぞ悪い冗談です」際限なき負担増も 説明が必要だろう。土壌対策費等については「港湾施設提供事業」と「大阪港埋立事業」の両事業に充てる「港営事業会計」内で処理される。一般会計予算の支出ではなく、別の財布から払うものだから新たな課税措置はない、というのが市の主張だ。しかし、「港営事業会計で生じた儲けは広い意味で大阪市民のカネ。それが土壌対策費の名目で事業者に流れ、使い道がブラックボックスになっているとしたらどうでしょう。しかも、昨年2月に府市と事業者が締結したIRを巡る『基本協定』では事業の収益化に悪影響を与える土壌の問題について、土地所有者が“適切な措置を講じる”旨が記載されているのです。そこには地盤沈下という単語が見られ、つまり汚染・液状化対策とはまた別の理由で支出を迫られる可能性が出てきています」 たしかに約800億円の試算には「地盤沈下」対策は含まれていない。「夢洲は人工島で、地盤沈下の問題は将来的にずっとつきまとう。市の負担が際限なく膨らんでしまうかもしれないのです」 この点について「夢洲カジノを止める会」共同代表の大垣さなゑ氏が言う。「民間事業者に公金が投入されるうえ、市はお金を出すだけであとは事業者に丸投げとなると、もし事業者が“これじゃ足りません”と言い出したらどうするのか。IR事業を続けるために事業者の言いなりになることは目に見えています」夢州自体が法律のエアポケット 最大の懸念は、現段階で土壌汚染の度合いが不明確なことだろう。大阪市IR推進局によると、夢洲は1区から4区に分かれ、1区は産廃処分場、3区がIR予定地となっている。別々のエリアだから安全だと言わんばかりの態度を貫いてきたが、「カジノ問題を考える大阪ネットワーク」代表の桜田照雄・阪南大学教授は、こう指摘する。「1区は産廃の処分場であるため、環境基準が一般の土地と比べて10倍もゆるい。そうしたエリアと万博予定地の2区、カジノ予定地の3区は工事用の矢板一枚で隔てられているだけ。当然、夢洲の建設現場の土壌汚染について、きちんとした調査が求められます。にもかかわらず、夢洲自体が法律のエアポケットになっているのです」 どういうことか。「浚渫した土砂や建設残土の環境基準を定めた『土壌汚染対策法』という法律がありますが、これは“人と接触しなければ何でも構わない”“フタをして埋めてしまえば問題ない”というルールで、事実上、何を埋めようが野放し状態でした」 さらに、こうも言う。「市は『海洋汚染防止法』にも基づいて、環境基準を超過したものは適切に処理したと主張しています。でも、その法律が適用除外される場合があるのです」ロクに調査していない それこそまさに浚渫土砂が絡むケースで、「埋め立てに用いる場合は“造成のための材料”と見なし得るから“廃棄物”には該当しないという位置付けになっているのです」 早い話、夢洲には何が埋まっているかわかったものではないというのだ。先の市政関係者いわく、「市は現時点で汚染の原因について、土砂には自然界に遍在する程度のヒ素やフッ素が含まれているだけだと説明しています。ですが過去には、国の環境基準を超えるダイオキシン汚染土が夢洲の埋め立てに使われていたと新聞で報じられたほか、PCB(ポリ塩化ビフェニール)残土を処分する際に、止水シートを張っていなかったという問題も取り沙汰されています」 汚染物質まみれでは?「そもそも市は土壌汚染対策をするといいながら、しっかりとした調査すらしていません。土壌汚染が一部発覚したのも“地下鉄のトンネル工事をした際、少し調べてみたらヒ素などの有害物質が出てきた”といった経緯だったのですから」(前出・桜田教授) 考えるだけで怖気(おぞけ)を震うほかないのである。一番の問題はアスベスト 桜田教授は、建設残土にはアスベストまでもが「テンコ盛り」で含まれているとみるが、「社会健康医学福祉研究所」所長で京都大学名誉教授の小泉昭夫氏に見解を聞くと、「夢洲に埋められているゴミは、環境対策が不十分な焼却炉時代のものでしょうね。塩素系の化学物質を焼くとダイオキシンが生じ、ダイオキシンには発がん性がありますから、仮に粉塵を吸い込むと健康に害が及ぶ恐れがあります。他にも生殖毒性、つまり精子ができにくくなったり、初潮が遅れたりするなどの影響も指摘されています」 そして一番の問題はアスベストだという。「1995年の阪神・淡路大震災で多数の家屋が倒壊した際、兵庫県在住の作家・藤本義一(ぎいち)さんが救援にあたられました。その後、藤本さんは悪性中皮腫で亡くなりました。この悪性中皮腫は、アスベストを吸い込んだ人に特徴的な病気です。震災の救援に駆けつけた方で、アスベストが原因で亡くなった例は少なくない。以前、アスベストは防火設備などの建材にごく普通に含まれていました」 かつては、アスベスト工場の近くで暮らした住民に、肺がんや中皮腫の患者が多かったともいう。「従業員はもちろん、工場から1キロも離れたところに住む主婦も中皮腫になりました。30年ほどの曝露期間を経て発症にいたったケースもあります。空気中のアスベストの濃度は非常に低かったはずですが、こうしたことが起こりました」エビデンスが必要 続けて次のように警鐘を鳴らす。「昔の建材を捨てていた場所であれば、土壌にアスベストが含まれていてもおかしくない。阪神・淡路大震災を見てわかる通り、関西でアスベストは、遠くにある人ごとではないのです」 吉村知事らにはこう注文。「大阪府や市はせめて、どれくらい空気中にアスベストがあるのか調べるべきですね。基準より5倍、10倍も高いということになれば、言うまでもなくとても危険です。安全だと言うなら、安全というエビデンスをもって証明すべきです」 健康に関する件を“やっている感”で切り抜けていいはずはない。全国政党への成長はおろか、地域政治を担う資格すらなかろう。「週刊新潮」2023年5月4・11日号 掲載
自民党重鎮にして和歌山県に君臨する二階俊博元幹事長が、例のヘの字口をさらに歪ませたであろう異変が起きた。4月23日投開票の衆院和歌山1区補欠選挙で、自民の前職・門博文氏(二階派所属)が、日本維新の会新人で元和歌山市議の林佑美氏に敗れたのだ。
政治部デスクが言う。
「補選は和歌山1区で5連勝していた元国民民主・岸本周平氏の県知事転身を受けて行われたもので、自民はその岸本氏の協力も取りつけたのにあえなく負けた。岸田文雄総理は応援に訪れた15日、漁港で爆弾を投げつけられたものの、別の場所での演説を予定通り敢行。選挙戦最終日の22日も総理が応援に立ち、二階氏と親しい小池百合子東京都知事まで弁士に招くなど、門陣営は総力戦を展開したのですが……」
そもそも門氏が2015年、同じ二階派所属だった中川郁子衆院議員との不倫がバレる醜聞に見舞われ、地元で不人気だったことが敗因のひとつ。さらに、
「やはり維新の勢いがすごかった。9日投開票の大阪府知事・市長のダブル選と奈良知事選も制したばかりですからね。馬場伸幸代表は今回の統一地方選の獲得目標として改選前から1.5倍の600議席を掲げましたが、その数字も上回った。全国政党への第一歩と、共同代表の吉村洋文大阪府知事がミエを切っただけのことはあります」(同)
維新は関西圏で独り勝ちの様相だ。大阪府議会では約7割、大阪市議会でも過半数を維新が占めている。
ジャーナリストの吉富有治氏は、まだ47歳と若き吉村知事の人気が大きな要因だとして、こう指摘する。
「吉村人気はかつての橋下(徹)人気をしのぐともいわれます。今回の大阪市長選でも、府議から鞍替えした41歳の横山英幸氏は知名度がなく、演説してもギャラリーは多くなかった。ところが、私も梅田駅前の街頭演説で目撃したのですが、吉村知事が登場するとガラッと状況が変わる。若い女性が増えて“キャー”と歓声が上がるほど。もはやアイドル並みで“追っかけ”までいるという話です」
一方で看過できない問題も。在阪のテレビ局が橋下氏や松井一郎・前大阪市長に加え、当の吉村知事をも番組で“重用”し続けた件だ。
「在阪メディアは現在、吉村知事らを番組に頻繁に呼ぶことは一応控えています。昨年の元日に大阪の毎日放送が彼ら三名をバラエティー番組に出演させ、BPO委員長から“番組は政策について異なる視点を提示せず、公平性を欠いているのでは”と指摘され、自重せざるを得なくなっているのです」(在阪ジャーナリスト)
とはいえ“抜け穴”が。
「吉村知事はコロナ禍で矢継ぎ早にコロナ対策を表明し、ニュース番組に取り上げられ続けた。府民の目には“頑張ってるやん”と映り、彼に肯定的な空気が満ちていった」(吉富氏)
知事が打ち出した「大阪発のワクチン開発」も「イソジンが効く可能性」も、結局は空振りに終わった。それでも“やっている感”で人気は高まった。
いずれにせよ維新の勢力は底上げされ、順風満帆の吉村知事。ところが目下、その“底”に大きな穴をうがちかねない火種がくすぶる。
それは、きたる25年の大阪万博開催後、29年秋にもIR(統合型リゾート)が開業する見通しの、大阪湾に浮かぶ大阪市の人工島・夢洲(ゆめしま)にまつわるものである。
さる市政関係者が言う。
「島は市の港湾局が埋め立てた造成地をIR事業者に賃貸する形です。しかし、賃料は年間わずか約25億円。破格の安さなんですよ」
それだけでは済まない。
「大阪湾奥部は淀川から砂が運ばれるため水深が浅く、航路確保のために定期的に浚渫(しゅんせつ)を行います。その浚渫土砂を捨てる場所が夢洲なのですが、浚渫土と一緒に建築材のガラや残土が埋められ、他に産廃が棄てられる一画などもあって、以前から土壌汚染の心配が指摘されてきたのです」(同)
この点、市は土壌対策費や液状化対策費として上限788億円を、MGMやオリックスなどが出資するIR事業者に支払う予定だが、
「市として土壌対策に直接当たるのではなく、費用をもらい受けた事業者が自由に手立てを講じる仕組みのため、使途に目が届かない恐れがある。港湾局は788億円について“税金じゃない。公金だ”と言い張っていますけれど、これぞ悪い冗談です」
説明が必要だろう。土壌対策費等については「港湾施設提供事業」と「大阪港埋立事業」の両事業に充てる「港営事業会計」内で処理される。一般会計予算の支出ではなく、別の財布から払うものだから新たな課税措置はない、というのが市の主張だ。しかし、
「港営事業会計で生じた儲けは広い意味で大阪市民のカネ。それが土壌対策費の名目で事業者に流れ、使い道がブラックボックスになっているとしたらどうでしょう。しかも、昨年2月に府市と事業者が締結したIRを巡る『基本協定』では事業の収益化に悪影響を与える土壌の問題について、土地所有者が“適切な措置を講じる”旨が記載されているのです。そこには地盤沈下という単語が見られ、つまり汚染・液状化対策とはまた別の理由で支出を迫られる可能性が出てきています」
たしかに約800億円の試算には「地盤沈下」対策は含まれていない。
「夢洲は人工島で、地盤沈下の問題は将来的にずっとつきまとう。市の負担が際限なく膨らんでしまうかもしれないのです」
この点について「夢洲カジノを止める会」共同代表の大垣さなゑ氏が言う。
「民間事業者に公金が投入されるうえ、市はお金を出すだけであとは事業者に丸投げとなると、もし事業者が“これじゃ足りません”と言い出したらどうするのか。IR事業を続けるために事業者の言いなりになることは目に見えています」
最大の懸念は、現段階で土壌汚染の度合いが不明確なことだろう。大阪市IR推進局によると、夢洲は1区から4区に分かれ、1区は産廃処分場、3区がIR予定地となっている。別々のエリアだから安全だと言わんばかりの態度を貫いてきたが、「カジノ問題を考える大阪ネットワーク」代表の桜田照雄・阪南大学教授は、こう指摘する。
「1区は産廃の処分場であるため、環境基準が一般の土地と比べて10倍もゆるい。そうしたエリアと万博予定地の2区、カジノ予定地の3区は工事用の矢板一枚で隔てられているだけ。当然、夢洲の建設現場の土壌汚染について、きちんとした調査が求められます。にもかかわらず、夢洲自体が法律のエアポケットになっているのです」
どういうことか。
「浚渫した土砂や建設残土の環境基準を定めた『土壌汚染対策法』という法律がありますが、これは“人と接触しなければ何でも構わない”“フタをして埋めてしまえば問題ない”というルールで、事実上、何を埋めようが野放し状態でした」
さらに、こうも言う。
「市は『海洋汚染防止法』にも基づいて、環境基準を超過したものは適切に処理したと主張しています。でも、その法律が適用除外される場合があるのです」
それこそまさに浚渫土砂が絡むケースで、
「埋め立てに用いる場合は“造成のための材料”と見なし得るから“廃棄物”には該当しないという位置付けになっているのです」
早い話、夢洲には何が埋まっているかわかったものではないというのだ。先の市政関係者いわく、
「市は現時点で汚染の原因について、土砂には自然界に遍在する程度のヒ素やフッ素が含まれているだけだと説明しています。ですが過去には、国の環境基準を超えるダイオキシン汚染土が夢洲の埋め立てに使われていたと新聞で報じられたほか、PCB(ポリ塩化ビフェニール)残土を処分する際に、止水シートを張っていなかったという問題も取り沙汰されています」
汚染物質まみれでは?
「そもそも市は土壌汚染対策をするといいながら、しっかりとした調査すらしていません。土壌汚染が一部発覚したのも“地下鉄のトンネル工事をした際、少し調べてみたらヒ素などの有害物質が出てきた”といった経緯だったのですから」(前出・桜田教授)
考えるだけで怖気(おぞけ)を震うほかないのである。
桜田教授は、建設残土にはアスベストまでもが「テンコ盛り」で含まれているとみるが、「社会健康医学福祉研究所」所長で京都大学名誉教授の小泉昭夫氏に見解を聞くと、
「夢洲に埋められているゴミは、環境対策が不十分な焼却炉時代のものでしょうね。塩素系の化学物質を焼くとダイオキシンが生じ、ダイオキシンには発がん性がありますから、仮に粉塵を吸い込むと健康に害が及ぶ恐れがあります。他にも生殖毒性、つまり精子ができにくくなったり、初潮が遅れたりするなどの影響も指摘されています」
そして一番の問題はアスベストだという。
「1995年の阪神・淡路大震災で多数の家屋が倒壊した際、兵庫県在住の作家・藤本義一(ぎいち)さんが救援にあたられました。その後、藤本さんは悪性中皮腫で亡くなりました。この悪性中皮腫は、アスベストを吸い込んだ人に特徴的な病気です。震災の救援に駆けつけた方で、アスベストが原因で亡くなった例は少なくない。以前、アスベストは防火設備などの建材にごく普通に含まれていました」
かつては、アスベスト工場の近くで暮らした住民に、肺がんや中皮腫の患者が多かったともいう。
「従業員はもちろん、工場から1キロも離れたところに住む主婦も中皮腫になりました。30年ほどの曝露期間を経て発症にいたったケースもあります。空気中のアスベストの濃度は非常に低かったはずですが、こうしたことが起こりました」
続けて次のように警鐘を鳴らす。
「昔の建材を捨てていた場所であれば、土壌にアスベストが含まれていてもおかしくない。阪神・淡路大震災を見てわかる通り、関西でアスベストは、遠くにある人ごとではないのです」
吉村知事らにはこう注文。
「大阪府や市はせめて、どれくらい空気中にアスベストがあるのか調べるべきですね。基準より5倍、10倍も高いということになれば、言うまでもなくとても危険です。安全だと言うなら、安全というエビデンスをもって証明すべきです」
健康に関する件を“やっている感”で切り抜けていいはずはない。全国政党への成長はおろか、地域政治を担う資格すらなかろう。
「週刊新潮」2023年5月4・11日号 掲載