知らなかったでは済まされない「空き家」問題…国土の5分の1が所有者不明の土地

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4月1日から改正民法が施行された。主眼は所有者が不明な土地、空き家の円滑な利用だ。一体なにが起きているのか。
続く“不動産バブル”単月で初の1億円突破 億ションの購入に会社員が過半数超え■空き家・空き地が増えた背景 今年3月に首都圏で発売されたマンションの平均価格が初めて1億円を超えるなど最高値を記録し続けている。その一方で、空き家や空き地が日本中で大問題になっているという。 実は日本の国土の5分の1は所有者不明の土地だ。2016年度の地籍調査によれば、不動産登記簿上で所有者の所在が確認できない土地の割合は約20%だった。

また総務省の「平成30年住宅・土地統計調査」では、空き家数は848万9000戸と増え続けている。 なぜこのようなことが起きているのか。国土交通省「所有者不明土地等問題」のリポートなどが参考になる。それによれば次のようなことが理由に挙がる。・人口減少・高齢化の進展に伴う土地利用ニーズの低下。・地方から都市等への人口移動。・土地の価格が下落し、土地所有意識や利用意識が希薄化、などなどだ。 土地が高騰した1980年代後半までのバブル期と異なり、土地の価値が下がり、取引が減った。 相続しても転売できなければ登記費用がかかるだけなので、放置される。そのような未登記の不動産がさらに相続されれば、土地の共有者を特定することはますます困難になる。今後は第1次ベビーブーム世代の「団塊の世代」(47年から49年生まれ)が平均寿命を超えていく。相続機会が増え、所有者不明(未登記)の土地はますます増加することは明らかだ。2024年は相続登記義務化、制裁も■国も乗り出したが 一方で、所有者不明の土地が国の直轄事業の用地取得のあい路案件になっている比率は2006年から16年の10年で2倍に増加。そこでゴミ屋敷などの迷惑空き家問題も含め、国は対策に乗り出した。 今年4月から施行される所有者不明土地管理制度・管理不全土地管理制度、相続土地国庫帰属法などだ(表参照)。 たとえば、所有者が不明の土地について、その管理について利害関係を持つ人や地方公共団体の長が地方裁判所に申し立てることができるようになった。地裁が管理人を選任すれば、管理人は不動産売却や取り壊しができるようになった。 また倒壊寸前の家やゴミ屋敷などについては、被害を受ける隣地の人も管理人を選任申し立てが可能に。いずれも、申し立てには予納金といって数十万円程度の費用が必要だ。 さらに、相続土地国庫帰属法の施行で、費用を払えば遠隔地の相続不動産を国に引き取ってもらうことが可能になった。■高齢化するマンション このように国は土地問題に取り組んでいるが、住宅問題の専門家、さくら事務所創業者・代表の長嶋修さんは不十分だと指摘する。「抜本的な空き家対策が必要です。家を造りすぎているからです。住宅の総量管理規制を実施して、住宅の造る量と壊す量を管理するしかない。かつて道路族がいて無駄な公共工事がありましたが、今では費用対効果を見るようになっています。住宅新築でもそれを当てはめる必要があります。しかし、ドラスチックに建築基準法を改正しようとしても、ハウスメーカーというよりは地域の工務店が反対する。住宅の9割は工務店が施工していて力があるんです。世代交代しないと変わらないでしょう」住民が少ない郊外マンションはいつはじけるか 住宅の総量規制はまだまだ難しそうだが、より深刻で隠れている問題は、マンションの空き家だと言う。「政策は一戸建てしか想定していませんが、空き家問題の本質はマンション問題です。ひとたび世間の注目が集まれば、とんでもないことになりますよ」 全国(2018年調査)の共同住宅比率は17.4%だが、地価が高い首都圏では32.51%と約3割を占める。「郊外のマンションブームは80年代からです。当時マンションは一戸建てを買えない人が買うものでした。郊外で築50年というマンションはほぼありませんが、そろそろ危ない年頃です。住民が少ないと管理費や修繕費もたまらないため、掃除もおろそかになり、すさんだ感じになる。大規模修繕もできません。一戸建ては誰の目にも空き家だとわかりますが、マンションはぱっと見はわからない。しかし、内部をむしばんでいるんです。鉄筋が膨張して腐りそうになっているという問題も起きています」 東京郊外の共同住宅の代表例といえば、71年から入居が始まった多摩ニュータウンだ。「UR都市機構の事業である多摩ニュータウン(団地)は、分譲と賃貸が交じり、広いため駅から遠いと徒歩圏外。利便性が悪い地域は衰退するばかりです。URもリノベーションする棟としない棟のメリハリをつけているようです。等しく全部の空きマンションを生かすことは無理な話だからです。空きマンション問題は撤退戦なんです。期限を決めて引っ越しをしてもらうなどしかありません」 都心の3区(千代田、中央、港)や5区(+渋谷、新宿)などの地区では50年モノのマンションでも取引できているそうだ。「都心」「駅前」「駅近」に需要が集中するのは、結局ライフスタイルが変化したから。共働き、結婚しない、子どもをつくらない、車も乗らないとなれば、郊外の白亜の一戸建てを買う理由はない。人口は減少し、高齢化も進む。平日は東京の都心部に住み、週末は地方という暮らしも余裕があってこそ。 国も手を焼く空き家問題だが、大きなカギは地方自治体にあるという。「自治体を経営的に運営することが必要です。いかにうまくお金を回して街をつくるか。人口が減少する中では、街を小さくする判断も必要になります」 都市部でも駅近でもなく高齢化も進むのに、移住者が増加する北海道下川町やニセコ町のような先例もある。地方統一選挙は終わってしまったが、空き家問題、その背景にある人口減少は国ではなく地方に期待したほうがいいのかもしれない。
■空き家・空き地が増えた背景
今年3月に首都圏で発売されたマンションの平均価格が初めて1億円を超えるなど最高値を記録し続けている。その一方で、空き家や空き地が日本中で大問題になっているという。
実は日本の国土の5分の1は所有者不明の土地だ。2016年度の地籍調査によれば、不動産登記簿上で所有者の所在が確認できない土地の割合は約20%だった。
また総務省の「平成30年住宅・土地統計調査」では、空き家数は848万9000戸と増え続けている。
なぜこのようなことが起きているのか。国土交通省「所有者不明土地等問題」のリポートなどが参考になる。それによれば次のようなことが理由に挙がる。
・人口減少・高齢化の進展に伴う土地利用ニーズの低下。・地方から都市等への人口移動。・土地の価格が下落し、土地所有意識や利用意識が希薄化、などなどだ。
土地が高騰した1980年代後半までのバブル期と異なり、土地の価値が下がり、取引が減った。
相続しても転売できなければ登記費用がかかるだけなので、放置される。そのような未登記の不動産がさらに相続されれば、土地の共有者を特定することはますます困難になる。今後は第1次ベビーブーム世代の「団塊の世代」(47年から49年生まれ)が平均寿命を超えていく。相続機会が増え、所有者不明(未登記)の土地はますます増加することは明らかだ。
■国も乗り出したが
一方で、所有者不明の土地が国の直轄事業の用地取得のあい路案件になっている比率は2006年から16年の10年で2倍に増加。そこでゴミ屋敷などの迷惑空き家問題も含め、国は対策に乗り出した。
今年4月から施行される所有者不明土地管理制度・管理不全土地管理制度、相続土地国庫帰属法などだ(表参照)。
たとえば、所有者が不明の土地について、その管理について利害関係を持つ人や地方公共団体の長が地方裁判所に申し立てることができるようになった。地裁が管理人を選任すれば、管理人は不動産売却や取り壊しができるようになった。
また倒壊寸前の家やゴミ屋敷などについては、被害を受ける隣地の人も管理人を選任申し立てが可能に。いずれも、申し立てには予納金といって数十万円程度の費用が必要だ。
さらに、相続土地国庫帰属法の施行で、費用を払えば遠隔地の相続不動産を国に引き取ってもらうことが可能になった。
■高齢化するマンション
このように国は土地問題に取り組んでいるが、住宅問題の専門家、さくら事務所創業者・代表の長嶋修さんは不十分だと指摘する。
「抜本的な空き家対策が必要です。家を造りすぎているからです。住宅の総量管理規制を実施して、住宅の造る量と壊す量を管理するしかない。かつて道路族がいて無駄な公共工事がありましたが、今では費用対効果を見るようになっています。住宅新築でもそれを当てはめる必要があります。しかし、ドラスチックに建築基準法を改正しようとしても、ハウスメーカーというよりは地域の工務店が反対する。住宅の9割は工務店が施工していて力があるんです。世代交代しないと変わらないでしょう」
住宅の総量規制はまだまだ難しそうだが、より深刻で隠れている問題は、マンションの空き家だと言う。
「政策は一戸建てしか想定していませんが、空き家問題の本質はマンション問題です。ひとたび世間の注目が集まれば、とんでもないことになりますよ」
全国(2018年調査)の共同住宅比率は17.4%だが、地価が高い首都圏では32.51%と約3割を占める。
「郊外のマンションブームは80年代からです。当時マンションは一戸建てを買えない人が買うものでした。郊外で築50年というマンションはほぼありませんが、そろそろ危ない年頃です。住民が少ないと管理費や修繕費もたまらないため、掃除もおろそかになり、すさんだ感じになる。大規模修繕もできません。一戸建ては誰の目にも空き家だとわかりますが、マンションはぱっと見はわからない。しかし、内部をむしばんでいるんです。鉄筋が膨張して腐りそうになっているという問題も起きています」
東京郊外の共同住宅の代表例といえば、71年から入居が始まった多摩ニュータウンだ。
「UR都市機構の事業である多摩ニュータウン(団地)は、分譲と賃貸が交じり、広いため駅から遠いと徒歩圏外。利便性が悪い地域は衰退するばかりです。URもリノベーションする棟としない棟のメリハリをつけているようです。等しく全部の空きマンションを生かすことは無理な話だからです。空きマンション問題は撤退戦なんです。期限を決めて引っ越しをしてもらうなどしかありません」
都心の3区(千代田、中央、港)や5区(+渋谷、新宿)などの地区では50年モノのマンションでも取引できているそうだ。「都心」「駅前」「駅近」に需要が集中するのは、結局ライフスタイルが変化したから。共働き、結婚しない、子どもをつくらない、車も乗らないとなれば、郊外の白亜の一戸建てを買う理由はない。人口は減少し、高齢化も進む。平日は東京の都心部に住み、週末は地方という暮らしも余裕があってこそ。
国も手を焼く空き家問題だが、大きなカギは地方自治体にあるという。
「自治体を経営的に運営することが必要です。いかにうまくお金を回して街をつくるか。人口が減少する中では、街を小さくする判断も必要になります」
都市部でも駅近でもなく高齢化も進むのに、移住者が増加する北海道下川町やニセコ町のような先例もある。地方統一選挙は終わってしまったが、空き家問題、その背景にある人口減少は国ではなく地方に期待したほうがいいのかもしれない。

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