銀座ロレックス強盗事件、犯罪者が目をつけた“盗品ロレックス”の換金性と市場価値

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―[腕時計投資家・斉藤由貴生]―
腕時計投資家の斉藤由貴生です。 先日、銀座の時計店で発生した強盗事件が世間を賑わせています。ロレックスの強盗事件ということから、私のところにもマスメディア等から問い合わせが来ています。ただ、その質問の多くは「ロレックスの相場上昇と、今回の強盗の関連性について」といったものが多く、強盗事件の背景には相場上昇が関係しているという前提があるというように感じました。
ということで今回は、ロレックス強盗事件について私の見解をお伝えしようと思います。
◆時計が盗まれるという事件は昔からある
まず、「ロレックス相場上昇と強盗の関係性」について、私の結論から先に述べておきますが、相場上昇と強盗の関連性はそこまで高くないと思っています。
というのも、高級腕時計の盗難事件は昔から存在。実際私は、そういった盗品を「買わないか」と持ちかけられた経験があります。
私の場合、10数年ほど前に、当時の新品相場が50万円程度だったロレックスと、30万円程度だった他ブランドの腕時計を2本セットで30万円で買わないか、と言われました。
通常であれば80万円する腕時計が30万円。つまり62%オフだったわけですが、しっかりと「盗品だから安い」と告げられたわけです。また、その際「盗品だから売ったらだめだ」とも補足された記憶があります。
もちろん、私はそのオファーを断ったわけですが、そうやって盗品が売られているのかということに驚いたわけです。興味深いのは、盗品は“盗品である”と宣言されて売られていたという点。また、それが市場価格の半額以下という値付けをされていたということだといえます。
◆なぜロレックスを狙ったのか?
今回、犯人に狙われたのはロレックス専門店。高級腕時計を扱うお店は多々あるわけですが、その中でもロレックス専門店が狙われたことには意味があると思います。
高級腕時計店には、いくつかの種類がありますが、今回狙われたのは正規店ではないロレックス専門店。今回あえて正規店が狙われなかったのは、今、正規店に在庫が少ないからだと思います。また、様々な腕時計を扱う腕時計店を狙った場合、犯人に腕時計の知識がないと、「価値ある人気モデル」を探すことができないでしょう。しかし、ロレックスであれば、その大半が「人気ある状態」であるわけです。
ですから、窃盗団がロレックス専門店を狙うというのは、犯罪者の視点では理にかなっているといえます。
◆ロレックスは売りやすい
犯人がロレックスを狙うのにはもう1つ理由があるといえます。それは「ロレックスは売りやすい」という点です。
ロレックス以外にも、人気がある腕時計ブランドは多々ありますが、ロレックスの場合、「人気」「高値」「数が多い」という特徴があります。
もしも、数が少ないモデルを盗んでどこかで売ろうと思ったならばかなり目立ちます。仮に盗まれた時計がパテックフィリップのノーチラス、5711/1A-018(ティファニーブルー、海外オークション相場約7億円)だったならば、ネットで売ろうものなら時計ファンの目にすぐにとまります。
しかし、ロレックスの人気モデルであれば、プレミアム価格状態のモデルといえど、それなりの個体数が売りにだされています。
パテックフィリップの場合、人気モデルといっても中古市場にあるのは、せいぜい数本ですが、ロレックスの場合は数十本単位で売られているわけです。そうなると、中古市場に50本ロレックスの同じモデルが売られていたとして、その1つに盗品が混じっていても気づかれにくいといえます。

ですから、ロレックスは、/裕い高い個体数がそれなりにある、ということから他の腕時計と比べて盗品の換金がしやすいといえるのです。
◆盗んだロレックスはどうやって換金するか
今回盗まれたロレックスは、全部で70点。総額は2.5億円になるとのことですが、犯人はそれをどうやって換金しようとしたのでしょう。
今回の場合、優秀な警察によって盗品はほぼ回収されたとのことですが、仮に犯人が、盗んだ腕時計を「どこかで売ろう」とした場合、どういったケースがあるか推定したいと思います。
◆^妊沺璽吋奪箸杷笋
まず、大前提として、盗まれたロレックスは、日本の買取店等には持ち込まれないといえます。とうのも、一部報道でも出ているように、盗品はそのシリアルナンバーが共有されているからです。犯人は足がつくのを嫌がりますから、「盗んで⇒買取店に行く」ということは考えづらいわけです。
では、どうやって売るかというと、かつて私が「買わないか」といわれたように、盗品ということを明かした上で、相場よりも安価で売るということが考えられます。
例えばですが、繁華街の時計店から出てきた人に声をかけて、「本来380万円はするデイトナを50万円で買わないか?」と犯人グループが誘うとします。ロレックスに憧れている若い人であれば、安いと思って買ってしまう可能性があるかもしれません。
◆▲優奪肇ークション、フリマアプリ等で売る
また、日本国内、国外問わず、個人間取引でこっそり売るというパターンがあるといえます。
相場よりも極端に安価で出品すると、「怪しい」と思われてしまうかもしれませんが、「やや安い」ぐらいでは気づかれないかもしれません。
この場合は、,離僖拭璽鵑箸楼磴ぁ◆崚霽福廚箸いΔ海箸鯡世さない状態で売ると思われるため、買った人は、とんでもない代物を掴まされたということになるでしょう。
おそらくですが、個人間取引で盗品を買ってしまった場合、買ってから数年後、「売る」、もしくは「正規メンテナンスを受ける」というときになって、初めてそれが盗品だったということに気づくと思われます。
◆2.5億円分盗んでもその価格で換金できるわけではない
上記の場合、,任皚△任癲∪狹霖弔賄陲鵑聖価で換金可能というわけではありません。むしろ、盗品は、その名の通り盗んだモノであるわけですから原価は0円。仮に奪ったモノが総額2.5億円分だったとしても、犯人は5000万円ぐらいの換金を目標としている可能性だってあるでしょう。
なお、△里茲Δ妨朕祐崋莪で売った場合、いつかは「盗品」ということが明るみに出るため、,里茲Δ法崚霽覆任△襪箸いΔ海箸鯡世した上で、相場の半値以下で売る」ということが昔からよくある窃盗腕時計の処分方法なのかもしれません。
そうなると、相場の高い/安いには関係なく、犯人としては1個あたり数十万円単位で「何個売るか」ということが重要になるはずです。
むしろ、盗品を買うような層は、「50万円ぐらいまでは頑張って出せても、100万円以上の予算はない」といったような可能性があります。結局、実際の相場がどんなに高くなろうとも、盗品マーケットの相場はそれに連動するとは限りません。相場が高くなったからといって、盗品を買う層が出せるお金は限られているといえます。
◆高騰しているから狙われたわけではない
今回のロレックス強盗は、相場上昇とはあまり関係がないと思います。
高級腕時計の盗難は昔からあることであり、その盗まれた品の売値は市場価値よりもずいぶん安いわけです。 今回の場合、銀座の超一等地で堂々と犯人が強盗を実施したということや、その様子を動画で撮影されていたということから、かなり話題となっています。ただ、高級腕時計の窃盗事件自体は昔からあるといえるのです。
「動画に収められた派手な盗難事件」と、「ロレックスが高騰している」という話題。この2つの話題が相まって、「ロレックスが高くなったから強盗事件が発生した」と結論づけるのは、メディア的には面白いのかもしれませんが、それは本質的でないと思います。
<文/斉藤由貴生>
―[腕時計投資家・斉藤由貴生]―

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