【河合 雅司】日本人「大減少」の未来がやってくる…話題の人口推計「2070年に8700万人」より現実は深刻である

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国立社会保障・人口問題研究所(社人研)が2020年の国勢調査を基に、新たな将来推計人口(=2023年推計)を公表した。
同推計が描き出したのは、2070年の総人口は8699万6000人、2120年には4973万3000人にまで減るという厳しい未来図だ。
総務省の人口推計によれば2022年の総人口は1億2494万7000人なので、2070年は約3割減、2120年に至っては約6割減となる。ここまで減ったならば「国のカタチ」は大きく変わるだろう。
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だが、実際の変化はもっと速く、激烈である可能性が大きい。というのも、2023年推計はファンタジー満載の内容となっているためだ。驚くのは、2017年の前回推計よりも人口減少ペースが緩やかになると結論づけていることだ。ここ数年の出生数の減少スピードは急加速し、昨年の年間出生数が80万人割れしたことが大きな話題を呼んだにもかかわらず、である。総人口が1億人を下回る年についても、前回推計では「2053年」だったが、2023年推計では3年遅い「2056年」とした。将来推計人口の前提が甘すぎるなぜ、人口減少ペースが緩やかになるといった不可解な結論が導き出されたかといえば、前提が甘いからだ。将来推計人口というのは、前提をどう設定するのか、さじ加減1つで大きく変わる。一般的に、人口減少スピードを緩やかにする要素は(1)平均寿命の延び(2)出生数の増加(3)外国人の増加の3つであるが、平均寿命に関しては2070年に男性85.89歳、女性91.94歳になると仮定している。前回推計の2070年は84.95歳、91.35歳と比べても僅かな延びであり、問題はない。 これに対して、現実離れしていると言いたくなるほどに楽観的なのが、今後の出生数の見通しである。さすがに昨今の出生数の減少スピードの加速を無視するわけにはいかず、合計特殊出生率の仮定は前回の「1.44」から「1.36」に引き下げた。だが、直近の2021年は1.30である。「1.36」は、果たして妥当な数字なのか。社人研がコロナ禍の最中に実施した「第16回出生動向基本調査」では、未婚者の結婚や希望子ども数の低下が見られた。コロナ禍によって人々の価値観が大きく変わった可能性があるということだが、2023年推計は人口推計の手法に制約があることを理由に、こうした国民の意識の変化を反映させていない。国民の意識の変化を反映させないどころか、コロナ禍による婚姻件数や出生数の減少を「突発的」と片づけている。低迷は長続きしないとの立場だ。このため合計特殊出生率はしばらく「1.2台」で低迷するとしつつも、2023年を底に上昇して2029年に「1.3台」に回復することとしている。その後も上昇カーブが続くというシナリオなのである。この結果、年間出生数は2023年には76万2000人に落ち込むものの、2024年には77万9000人へと一気に1万7000人も増えることとなる。さらに2032年まではほぼ横ばいで推移し、77万人台をキープするというのだ。 だが、実社会を見れば、出生数が増えるというシナリオに説得力があるとは言えない。国民負担率は5割近くに達している。賃金上昇が物価高に追い付かず実質的な手取り額が減っている人も多い。日本社会はすでに「低出生率の罠」に陥っており、「子どもを持つことは損」といった価値観が定着しつつある。結婚や子どもを持つことを希望しながら諦めている人は多い。しかも、コロナ禍の外出制限が長期化したことでも、この数年は「出会い」の機会も減っていた。出生数減少の「最大の原因」とはそれ以上に、このシナリオが無理筋なのは、出生数の減少の最大の原因が出産期にある25~39歳の女性が激減していくことにあるためだ。総務省の人口推計によれば2022年10月1日現在の25~39歳の日本人女性数と、25年後にこの年齢に達する0~14歳の日本人女性数とを比較してみると、0~14歳のほうが25%近くも少ない。出産期の女性数が25年後には4分の3になるということは予測ではなく、「決定済みの未来」なのである。ここまで減るのでは、合計特殊出生率が多少改善したところで出生数は減り続けよう。2033年以降はかなりゆるやかに出生数が減っていくという将来像も描いているが、こちらも現実的だとは言い難い。社人研の出生数の推計は実績値を下回ることが常であり、これまでも試算の「甘さ」がたびたび指摘されてきた。推計が年金財政検証に利用されることから、「政権に都合の良い数字をはじき出しているのではないのか」といったうがった見方をする人は少なくない。そうした中でも2023年推計の甘さは際立つ。データに目を凝らすと、2023年推計の背後に意図と狙いが透けて見えてくる。
だが、実際の変化はもっと速く、激烈である可能性が大きい。というのも、2023年推計はファンタジー満載の内容となっているためだ。
驚くのは、2017年の前回推計よりも人口減少ペースが緩やかになると結論づけていることだ。
ここ数年の出生数の減少スピードは急加速し、昨年の年間出生数が80万人割れしたことが大きな話題を呼んだにもかかわらず、である。
総人口が1億人を下回る年についても、前回推計では「2053年」だったが、2023年推計では3年遅い「2056年」とした。
なぜ、人口減少ペースが緩やかになるといった不可解な結論が導き出されたかといえば、前提が甘いからだ。将来推計人口というのは、前提をどう設定するのか、さじ加減1つで大きく変わる。
一般的に、人口減少スピードを緩やかにする要素は(1)平均寿命の延び(2)出生数の増加(3)外国人の増加の3つであるが、平均寿命に関しては2070年に男性85.89歳、女性91.94歳になると仮定している。前回推計の2070年は84.95歳、91.35歳と比べても僅かな延びであり、問題はない。
これに対して、現実離れしていると言いたくなるほどに楽観的なのが、今後の出生数の見通しである。さすがに昨今の出生数の減少スピードの加速を無視するわけにはいかず、合計特殊出生率の仮定は前回の「1.44」から「1.36」に引き下げた。だが、直近の2021年は1.30である。「1.36」は、果たして妥当な数字なのか。社人研がコロナ禍の最中に実施した「第16回出生動向基本調査」では、未婚者の結婚や希望子ども数の低下が見られた。コロナ禍によって人々の価値観が大きく変わった可能性があるということだが、2023年推計は人口推計の手法に制約があることを理由に、こうした国民の意識の変化を反映させていない。国民の意識の変化を反映させないどころか、コロナ禍による婚姻件数や出生数の減少を「突発的」と片づけている。低迷は長続きしないとの立場だ。このため合計特殊出生率はしばらく「1.2台」で低迷するとしつつも、2023年を底に上昇して2029年に「1.3台」に回復することとしている。その後も上昇カーブが続くというシナリオなのである。この結果、年間出生数は2023年には76万2000人に落ち込むものの、2024年には77万9000人へと一気に1万7000人も増えることとなる。さらに2032年まではほぼ横ばいで推移し、77万人台をキープするというのだ。 だが、実社会を見れば、出生数が増えるというシナリオに説得力があるとは言えない。国民負担率は5割近くに達している。賃金上昇が物価高に追い付かず実質的な手取り額が減っている人も多い。日本社会はすでに「低出生率の罠」に陥っており、「子どもを持つことは損」といった価値観が定着しつつある。結婚や子どもを持つことを希望しながら諦めている人は多い。しかも、コロナ禍の外出制限が長期化したことでも、この数年は「出会い」の機会も減っていた。出生数減少の「最大の原因」とはそれ以上に、このシナリオが無理筋なのは、出生数の減少の最大の原因が出産期にある25~39歳の女性が激減していくことにあるためだ。総務省の人口推計によれば2022年10月1日現在の25~39歳の日本人女性数と、25年後にこの年齢に達する0~14歳の日本人女性数とを比較してみると、0~14歳のほうが25%近くも少ない。出産期の女性数が25年後には4分の3になるということは予測ではなく、「決定済みの未来」なのである。ここまで減るのでは、合計特殊出生率が多少改善したところで出生数は減り続けよう。2033年以降はかなりゆるやかに出生数が減っていくという将来像も描いているが、こちらも現実的だとは言い難い。社人研の出生数の推計は実績値を下回ることが常であり、これまでも試算の「甘さ」がたびたび指摘されてきた。推計が年金財政検証に利用されることから、「政権に都合の良い数字をはじき出しているのではないのか」といったうがった見方をする人は少なくない。そうした中でも2023年推計の甘さは際立つ。データに目を凝らすと、2023年推計の背後に意図と狙いが透けて見えてくる。
これに対して、現実離れしていると言いたくなるほどに楽観的なのが、今後の出生数の見通しである。
さすがに昨今の出生数の減少スピードの加速を無視するわけにはいかず、合計特殊出生率の仮定は前回の「1.44」から「1.36」に引き下げた。だが、直近の2021年は1.30である。「1.36」は、果たして妥当な数字なのか。
社人研がコロナ禍の最中に実施した「第16回出生動向基本調査」では、未婚者の結婚や希望子ども数の低下が見られた。
コロナ禍によって人々の価値観が大きく変わった可能性があるということだが、2023年推計は人口推計の手法に制約があることを理由に、こうした国民の意識の変化を反映させていない。
国民の意識の変化を反映させないどころか、コロナ禍による婚姻件数や出生数の減少を「突発的」と片づけている。低迷は長続きしないとの立場だ。
このため合計特殊出生率はしばらく「1.2台」で低迷するとしつつも、2023年を底に上昇して2029年に「1.3台」に回復することとしている。その後も上昇カーブが続くというシナリオなのである。
この結果、年間出生数は2023年には76万2000人に落ち込むものの、2024年には77万9000人へと一気に1万7000人も増えることとなる。さらに2032年まではほぼ横ばいで推移し、77万人台をキープするというのだ。
だが、実社会を見れば、出生数が増えるというシナリオに説得力があるとは言えない。国民負担率は5割近くに達している。賃金上昇が物価高に追い付かず実質的な手取り額が減っている人も多い。日本社会はすでに「低出生率の罠」に陥っており、「子どもを持つことは損」といった価値観が定着しつつある。結婚や子どもを持つことを希望しながら諦めている人は多い。しかも、コロナ禍の外出制限が長期化したことでも、この数年は「出会い」の機会も減っていた。出生数減少の「最大の原因」とはそれ以上に、このシナリオが無理筋なのは、出生数の減少の最大の原因が出産期にある25~39歳の女性が激減していくことにあるためだ。総務省の人口推計によれば2022年10月1日現在の25~39歳の日本人女性数と、25年後にこの年齢に達する0~14歳の日本人女性数とを比較してみると、0~14歳のほうが25%近くも少ない。出産期の女性数が25年後には4分の3になるということは予測ではなく、「決定済みの未来」なのである。ここまで減るのでは、合計特殊出生率が多少改善したところで出生数は減り続けよう。2033年以降はかなりゆるやかに出生数が減っていくという将来像も描いているが、こちらも現実的だとは言い難い。社人研の出生数の推計は実績値を下回ることが常であり、これまでも試算の「甘さ」がたびたび指摘されてきた。推計が年金財政検証に利用されることから、「政権に都合の良い数字をはじき出しているのではないのか」といったうがった見方をする人は少なくない。そうした中でも2023年推計の甘さは際立つ。データに目を凝らすと、2023年推計の背後に意図と狙いが透けて見えてくる。
だが、実社会を見れば、出生数が増えるというシナリオに説得力があるとは言えない。
国民負担率は5割近くに達している。賃金上昇が物価高に追い付かず実質的な手取り額が減っている人も多い。日本社会はすでに「低出生率の罠」に陥っており、「子どもを持つことは損」といった価値観が定着しつつある。結婚や子どもを持つことを希望しながら諦めている人は多い。しかも、コロナ禍の外出制限が長期化したことでも、この数年は「出会い」の機会も減っていた。
それ以上に、このシナリオが無理筋なのは、出生数の減少の最大の原因が出産期にある25~39歳の女性が激減していくことにあるためだ。
総務省の人口推計によれば2022年10月1日現在の25~39歳の日本人女性数と、25年後にこの年齢に達する0~14歳の日本人女性数とを比較してみると、0~14歳のほうが25%近くも少ない。出産期の女性数が25年後には4分の3になるということは予測ではなく、「決定済みの未来」なのである。
ここまで減るのでは、合計特殊出生率が多少改善したところで出生数は減り続けよう。2033年以降はかなりゆるやかに出生数が減っていくという将来像も描いているが、こちらも現実的だとは言い難い。
社人研の出生数の推計は実績値を下回ることが常であり、これまでも試算の「甘さ」がたびたび指摘されてきた。推計が年金財政検証に利用されることから、「政権に都合の良い数字をはじき出しているのではないのか」といったうがった見方をする人は少なくない。
そうした中でも2023年推計の甘さは際立つ。データに目を凝らすと、2023年推計の背後に意図と狙いが透けて見えてくる。

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