「もう一生、女として見てもらえないの?」妻の圧に耐えられず、44歳夫が漏らした禁断の一言

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前編【妻とだけは“できない”夫が語った「お母さん」との原体験 「女って怖いという友人の言葉を思い出した」】からのつづき
松永隆介さん(44歳・仮名=以下同)は、現在、妻から離婚を迫られている。理由はずばり「セックスレス」だ。夫婦関係の破綻に至るまでの過程にはいったい、なにがあったのか。
大学生時代に家庭教師先の母親と関係をもち、女性を知った隆介さんは、その後、心からときめく出会いに恵まれないまま、中堅企業で会社員生活 を送っていた。
***
【写真9枚】「あなたがしてくれなくても」 レス解消のために「奈緒(28)」が選んだ下着の色は 彼が結婚したのは29歳のときだ。相手は友人の結婚式で知り合った、1つ年下の沙代さんだ。よくある話ですよと彼はつぶやいた。「朝起きると、マムシドリンクとか、マカとかが置いてあるんです……」見るたびに嫌な気持ちになった、と隆介さんはいう「なんとなく結婚を視野に入れているときにちょうどいい相手が現れた。沙代も僕もそう思った。一緒にいると楽しかったし、彼女の実家に遊びに行ったらご両親の雰囲気が穏やかで温かかった。それで結婚を決めたんです」 2年ほど共働きをし、32歳のときに長女、3年後に長男が生まれた。長女のときは早めに産まれてしまい、彼は出張中で間に合わなかった。妻から頼まれたこともあり、長男のときは立ち会い出産をした。「妻の足元にいるとショックを受けるので頭側にいてくださいと言われたんですが、それでも妻が苦しむ姿を見ているうちに、僕のほうが貧血みたいになってしまった。子どもを産むって命がけなんだと心が震えたし、こうやって命を授かることに感動もした。でも正直に言うと、あれほど苦しんで産んだのに、その後、けろっとしている妻が怖かった。いや、もちろんけろっとしているわけではなくて肉体的にはしんどかったと思います。でも産まれてすぐ“ふたりの子の母親”として、上の子にも気を遣いながら下の子を見つめているのが、とにかくすごい。僕なんか絶対に太刀打ちできない。女性という性に対する敬意と同時に、畏怖というんでしょうか、そういうものを感じてしまったんです」 ふたりの子の母となった沙代さんは「女帝」のように感じられた。自分は彼女のしもべみたいなものだ。そう思いながら、一方で妻のなにげない振る舞いに「傲慢さ」を感じるようにもなっていった。「以前だったら、僕が彼女のために何かしたら『ありがとう』とニコッと笑ったのに、子どもがふたりになると、僕がやろうとしていることを先回りして指示する。たとえば彼女が子どもをお風呂に入れて僕が待ち受けていることがあったんです。『出るよー』と言われてバスタオルを持って待っていると、子どもを送り出しながら『ちゃんと全身拭いてよ』『耳の中も拭いてあげてよ』と言うわけ。そんなのわかってるよ、いつもちゃんとやってるだろと思わず言うと、『いちいち口答えしない!』と怒られるわけです。しかも下の子がぐずったりしていると、『まだなの?』といいながら上の子を出してしまう。トロいと言われたこともあります」 ただ、妻はそういうことをいっさい覚えていない。3歳違いの子どもがいたら、幼いときは親も冷静ではいられないことも多々あるだろう。「それにしてもあの頃の妻はひどかった。忙しいだろうからと食事を作っても、『子どもを寝かせるまでに食べ終わらなければ意味がない。あなたはやることが遅すぎる』と怒りだして、温かいうちに食べてくれない。ひとりで食べるのも悪いと思って待っていると、『さっさと食べればいいのに』と言われる。自分が無能だと思わされる感じ。もうちょっと感じよく言えないのと抵抗したこともありますが、『時短とはいえ、私だって働いてるのよ』って。そういうときの妻は本当に頭から角が出ているんじゃないかと思えてならなかった」 妻への性的関心などなくなりましたよと彼は言った。もちろん、性的欲求もなくなっていた。妻に対しては。忘れられない妻の言葉 今でも覚えているのは、下の子が1歳を過ぎたころのこと。突然、別の部屋で寝ていた彼のもとへ妻がやってきたのだ。枕を抱えて。「沙代は子どもたちと一緒に寝ていたから、いつの間にか寝室が別になっていたんです。ところが急にやってきた。僕のベッドに潜り込んできて『一緒に寝よ』って。さっきまで『私が子どもを寝かしつけている間に、ちゃんと洗濯もの畳んでおいてよ』と言い捨てて去っていったのに、急に甘えられてもその気にはなれません。すでに寝入りばなだと思わせようとしたんですが、彼女はごそごそと僕の下半身をまさぐってきて……。でも僕にはそれが実は不快でしかなかった。すると彼女、『つまんないの』と起き上がって行ってしまったんです」 つまんない、という言葉だけが彼の頭の中でリフレインした。自分がつまらない男だと言われたと思えてならなかった。 それ以降も、妻は何度か「仕掛けて」きた。だが、彼はそのたびに妻を突き飛ばしたくなるような衝動と闘った。妻が嫌いなわけではないが、女として行動する妻はいやだった。子どもたちが小学校に上がるようになると、妻自身、焦燥感がわいてきたのだろうか。「朝起きると、ベッドサイドテーブルの上にマムシドリンクとか、マカとかが置いてあるんです。『セックスレスで悩む妻たち』みたいな特集がある女性誌が置かれていたこともありました。午前中、半休をとったときなどはリビングのテーブルに強壮ドリンクがあった。頻繁に鰻が食卓に上ったこともありましたね。今思えば、妻も追いつめられたような気持ちになっていたのかもしれないけど、僕はそういうのを見るたびに嫌な気持ちになっていった。ますます、妻とだけはできないと感じていました」「あなたから女として見てもらえないわけ?」 下の子が5歳になったとき、家族で誕生日を祝った日の夜遅く、彼が食器を洗い終わってふとリビングを見ると、妻がスケスケのネグリジェでソファに座っていた。何を考えているんだと彼は怒りさえわいたという。「思わず『どうしたの』と言うと、妻がさめざめと泣いている。『息子が5歳ということは、私があなたに遺棄されてから5年たつということよね』って。イキ、という言葉が遺棄を意味すると最初はわからなかったんですが、気づいてからそういう言い方をしなくてもと思いました。もういいだろう、今さらと言うと、『どうして? 私はもう一生、あなたから女として見てもらえないわけ?』って。いいチャンスなのかなと思って、『僕は沙代に、妻として母として敬意を抱いてる。その思いが強くなればなるほど、できないんだ』と言ったんです。本心は少しニュアンスが違うんだけど、その言い方のほうがいいかな、と思って」 敬意なんていらないと妻は泣いた。だが、子どもを育てていく中で、敬意をもたせるように仕向け、言い訳ひとつ口答えひとつ許そうとしなかったのは妻のほうだと彼は思っていた。どうがんばっても、もう妻とはできない。そもそも性欲のかけらさえない。納得していない妻に向かって「どうもオレ、男としては終わってるみたいだからさ」と少しおどけてみた。「やっぱりそうなのね。医者に行こう、いい医者を調べて、もう連絡もついてるの。あとはあなたを連れていけばいいだけなの、と妻は満面の笑みを浮かべている。そうやってすべて先回りしてドヤ顔になるところがいやなんだよと言いそうになったけど言えなかった」仕事用バッグに入っていたのは 仕事が忙しいと理由をつけて医者には行かなかった。だが、沙代さんは「夫は医療的な意味合いでできなくなっている」と思い込もうとしているようだった。そうまでして自分のプライドを守りたいのかと彼はまたがっかりした。このあたりに夫婦の齟齬が見える。お互いに自分のことしか考えられなくなっているからだろう。「そのころ、僕、学生時代の友人に誘われて風俗店に行ったんです。彼が風俗好きだったのでつきあわされて。だから、自分ができないわけではないこともわかっていた。結局、“妻だけED”だった。せつなかったけど、一緒に生活して一緒に子どもを育てている関係にエロスを持ち込むほうが無理なんだよと友人にも言われた。僕もそう思っていました」 しばらくたったある日、彼の仕事用バッグの中に見慣れない封筒が入っていた。開けてみると、青い錠剤がいくつか入っている。「ネットで買ったバイアグラ。試してみようよ。沙代」とメモが入っていた。「ネットで買ったバイアグラってヤバくないですか? どういうルートで買ったのかわからないけど、検索したら粗悪品の場合、命を落とす例もあると書かれていた。しかも、そういうものを人のバッグを開けて入れるという妻の神経がわからない。だったらちゃんと言って手渡しすればいいじゃないですか。これもちょっとムカッときましたね」 彼はその件については妻に何も言わなかった。話題にすると妻に怒りをぶつけてしまいそうな気がしたからだ。だがおそらく、妻は自分の気持ちを無視されたと感じただろう。ふたりの会話はますます減り、子どもがいるから話すだけという状態になっていった。「それでもたとえば、僕の父親が病気で倒れたときなんか、沙代は本気で心配していい医者を探してくれたりもしました。そういう彼女の人としての親切さはありがたいと思う。心からありがとうと言うと、その見返りを求めているのか体を寄せてきたりする。彼女との関係から性を抜くことができたら、きっといい雰囲気になるはずなのにと何度も思いました」僕は救われていると思えた 性によって険悪な雰囲気になり、それを排除すればいい関係になる。だが妻はそこに執着しているから、まったく排除することはできない。いつまでたっても「すっきりした夫婦」にはなれないと隆介さんは絶望的な気分になった。「考えれば考えるほど、混沌として。子どもたちとはだんだん大人の話もできるようになってきて本当に楽しいんですが……。1年ほど前だったか、気分転換にふらっと行ったキャバクラで気になる女性ができたんです」 いわゆる熟女キャバクラだった。大人の女性と話したいと思っていたら、ついてくれた女性が素敵な人だった。身の上話はいっさいしなかったが、頭の回転が速く、打てば響く。彼がダジャレを飛ばすとダジャレで返す。久しぶりに女性と楽しい会話を交わした満足感があった。「また会いたいと思う気持ちがどんどん強くなった。彼女も『この年になって恋愛感情というものを初めて知った』と言ってくれて。半年後、ついに彼女と関係を持ちました。彼女にも夫がいるんですが、夫は病気で入院していると。どこまで本当かはわかりません。でもそんなことはどうでもよかった。会って抱き合うことで、僕は救われていると心から思えたんです」今後、夫婦はどうすればいいのか そして今年、妻から離婚届をつきつけられた。最初は彼女とのことがバレたのではないかとビクッとしたのだが、実はレスが問題だった。「あと1年で、レスが10年になる。この1年で答えを出してほしいと沙代は言うんです。でもまだ子どもが小さい。子どものこと は考えないのかと言ったら、『私、死にたい』と妻が泣き出した。思わず抱きしめました。下手に優しくしないでよ、する気もないくせにと突き飛ばされました。確かに妻とはできない。何も言えなかった」 私がどんなに努力を重ねてきたか、あなただってわかってるでしょと沙代さんは言った。テーブルに強壮剤が置かれていても、粗悪なバイアグラをバッグに入れられても何も言わなかったのはオレの配慮だよと言いたかったが言えなかった。言ったところで彼の真意は届かないだろうと思ってしまったのだ。「その代わり、そんなにしたければ外でしてくればいいよと言ってしまったんです。僕としてはある意味で本音でした。外でして家でご機嫌よくしてくれたほうが、今よりずっとありがたい。でも妻はそれを悪意に解釈したみたいですね。『そこまで言うなら、すぐにでも離婚したほうがいいかもしれないわね。あなたは私の心を殺しているの。犯罪者みたいなものよ』と。そこまで言うのかとびっくりしました。セックスは外注できると思うし、セックスがないほうが夫婦として、家族としてはうまくいくこともあるんじゃないでしょうか。僕にとってキャバクラの彼女は今、癒やしであると同時に刺激でもある。妻もそういう人を見つけられれば、お互いにすっきり暮らせるような気がするんですが」 気持ちはわかるが、沙代さんがそういうタイプの女性でないことは彼がいちばんわかっているはずだ。それならどうすればいいのか。答えは出ない。これは男女を逆転しても通用する話だ。配偶者を異性として見られなくなることは「罪」なのだろうか。前編【妻とだけは“できない”夫が語った「お母さん」との原体験 「女って怖いという友人の言葉を思い出した」】からのつづき亀山早苗(かめやま・さなえ)フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。デイリー新潮編集部
彼が結婚したのは29歳のときだ。相手は友人の結婚式で知り合った、1つ年下の沙代さんだ。よくある話ですよと彼はつぶやいた。
「なんとなく結婚を視野に入れているときにちょうどいい相手が現れた。沙代も僕もそう思った。一緒にいると楽しかったし、彼女の実家に遊びに行ったらご両親の雰囲気が穏やかで温かかった。それで結婚を決めたんです」
2年ほど共働きをし、32歳のときに長女、3年後に長男が生まれた。長女のときは早めに産まれてしまい、彼は出張中で間に合わなかった。妻から頼まれたこともあり、長男のときは立ち会い出産をした。
「妻の足元にいるとショックを受けるので頭側にいてくださいと言われたんですが、それでも妻が苦しむ姿を見ているうちに、僕のほうが貧血みたいになってしまった。子どもを産むって命がけなんだと心が震えたし、こうやって命を授かることに感動もした。でも正直に言うと、あれほど苦しんで産んだのに、その後、けろっとしている妻が怖かった。いや、もちろんけろっとしているわけではなくて肉体的にはしんどかったと思います。でも産まれてすぐ“ふたりの子の母親”として、上の子にも気を遣いながら下の子を見つめているのが、とにかくすごい。僕なんか絶対に太刀打ちできない。女性という性に対する敬意と同時に、畏怖というんでしょうか、そういうものを感じてしまったんです」
ふたりの子の母となった沙代さんは「女帝」のように感じられた。自分は彼女のしもべみたいなものだ。そう思いながら、一方で妻のなにげない振る舞いに「傲慢さ」を感じるようにもなっていった。
「以前だったら、僕が彼女のために何かしたら『ありがとう』とニコッと笑ったのに、子どもがふたりになると、僕がやろうとしていることを先回りして指示する。たとえば彼女が子どもをお風呂に入れて僕が待ち受けていることがあったんです。『出るよー』と言われてバスタオルを持って待っていると、子どもを送り出しながら『ちゃんと全身拭いてよ』『耳の中も拭いてあげてよ』と言うわけ。そんなのわかってるよ、いつもちゃんとやってるだろと思わず言うと、『いちいち口答えしない!』と怒られるわけです。しかも下の子がぐずったりしていると、『まだなの?』といいながら上の子を出してしまう。トロいと言われたこともあります」
ただ、妻はそういうことをいっさい覚えていない。3歳違いの子どもがいたら、幼いときは親も冷静ではいられないことも多々あるだろう。
「それにしてもあの頃の妻はひどかった。忙しいだろうからと食事を作っても、『子どもを寝かせるまでに食べ終わらなければ意味がない。あなたはやることが遅すぎる』と怒りだして、温かいうちに食べてくれない。ひとりで食べるのも悪いと思って待っていると、『さっさと食べればいいのに』と言われる。自分が無能だと思わされる感じ。もうちょっと感じよく言えないのと抵抗したこともありますが、『時短とはいえ、私だって働いてるのよ』って。そういうときの妻は本当に頭から角が出ているんじゃないかと思えてならなかった」
妻への性的関心などなくなりましたよと彼は言った。もちろん、性的欲求もなくなっていた。妻に対しては。
今でも覚えているのは、下の子が1歳を過ぎたころのこと。突然、別の部屋で寝ていた彼のもとへ妻がやってきたのだ。枕を抱えて。
「沙代は子どもたちと一緒に寝ていたから、いつの間にか寝室が別になっていたんです。ところが急にやってきた。僕のベッドに潜り込んできて『一緒に寝よ』って。さっきまで『私が子どもを寝かしつけている間に、ちゃんと洗濯もの畳んでおいてよ』と言い捨てて去っていったのに、急に甘えられてもその気にはなれません。すでに寝入りばなだと思わせようとしたんですが、彼女はごそごそと僕の下半身をまさぐってきて……。でも僕にはそれが実は不快でしかなかった。すると彼女、『つまんないの』と起き上がって行ってしまったんです」
つまんない、という言葉だけが彼の頭の中でリフレインした。自分がつまらない男だと言われたと思えてならなかった。
それ以降も、妻は何度か「仕掛けて」きた。だが、彼はそのたびに妻を突き飛ばしたくなるような衝動と闘った。妻が嫌いなわけではないが、女として行動する妻はいやだった。子どもたちが小学校に上がるようになると、妻自身、焦燥感がわいてきたのだろうか。
「朝起きると、ベッドサイドテーブルの上にマムシドリンクとか、マカとかが置いてあるんです。『セックスレスで悩む妻たち』みたいな特集がある女性誌が置かれていたこともありました。午前中、半休をとったときなどはリビングのテーブルに強壮ドリンクがあった。頻繁に鰻が食卓に上ったこともありましたね。今思えば、妻も追いつめられたような気持ちになっていたのかもしれないけど、僕はそういうのを見るたびに嫌な気持ちになっていった。ますます、妻とだけはできないと感じていました」
下の子が5歳になったとき、家族で誕生日を祝った日の夜遅く、彼が食器を洗い終わってふとリビングを見ると、妻がスケスケのネグリジェでソファに座っていた。何を考えているんだと彼は怒りさえわいたという。
「思わず『どうしたの』と言うと、妻がさめざめと泣いている。『息子が5歳ということは、私があなたに遺棄されてから5年たつということよね』って。イキ、という言葉が遺棄を意味すると最初はわからなかったんですが、気づいてからそういう言い方をしなくてもと思いました。もういいだろう、今さらと言うと、『どうして? 私はもう一生、あなたから女として見てもらえないわけ?』って。いいチャンスなのかなと思って、『僕は沙代に、妻として母として敬意を抱いてる。その思いが強くなればなるほど、できないんだ』と言ったんです。本心は少しニュアンスが違うんだけど、その言い方のほうがいいかな、と思って」
敬意なんていらないと妻は泣いた。だが、子どもを育てていく中で、敬意をもたせるように仕向け、言い訳ひとつ口答えひとつ許そうとしなかったのは妻のほうだと彼は思っていた。どうがんばっても、もう妻とはできない。そもそも性欲のかけらさえない。納得していない妻に向かって「どうもオレ、男としては終わってるみたいだからさ」と少しおどけてみた。
「やっぱりそうなのね。医者に行こう、いい医者を調べて、もう連絡もついてるの。あとはあなたを連れていけばいいだけなの、と妻は満面の笑みを浮かべている。そうやってすべて先回りしてドヤ顔になるところがいやなんだよと言いそうになったけど言えなかった」
仕事が忙しいと理由をつけて医者には行かなかった。だが、沙代さんは「夫は医療的な意味合いでできなくなっている」と思い込もうとしているようだった。そうまでして自分のプライドを守りたいのかと彼はまたがっかりした。このあたりに夫婦の齟齬が見える。お互いに自分のことしか考えられなくなっているからだろう。
「そのころ、僕、学生時代の友人に誘われて風俗店に行ったんです。彼が風俗好きだったのでつきあわされて。だから、自分ができないわけではないこともわかっていた。結局、“妻だけED”だった。せつなかったけど、一緒に生活して一緒に子どもを育てている関係にエロスを持ち込むほうが無理なんだよと友人にも言われた。僕もそう思っていました」
しばらくたったある日、彼の仕事用バッグの中に見慣れない封筒が入っていた。開けてみると、青い錠剤がいくつか入っている。「ネットで買ったバイアグラ。試してみようよ。沙代」とメモが入っていた。
「ネットで買ったバイアグラってヤバくないですか? どういうルートで買ったのかわからないけど、検索したら粗悪品の場合、命を落とす例もあると書かれていた。しかも、そういうものを人のバッグを開けて入れるという妻の神経がわからない。だったらちゃんと言って手渡しすればいいじゃないですか。これもちょっとムカッときましたね」
彼はその件については妻に何も言わなかった。話題にすると妻に怒りをぶつけてしまいそうな気がしたからだ。だがおそらく、妻は自分の気持ちを無視されたと感じただろう。ふたりの会話はますます減り、子どもがいるから話すだけという状態になっていった。
「それでもたとえば、僕の父親が病気で倒れたときなんか、沙代は本気で心配していい医者を探してくれたりもしました。そういう彼女の人としての親切さはありがたいと思う。心からありがとうと言うと、その見返りを求めているのか体を寄せてきたりする。彼女との関係から性を抜くことができたら、きっといい雰囲気になるはずなのにと何度も思いました」
性によって険悪な雰囲気になり、それを排除すればいい関係になる。だが妻はそこに執着しているから、まったく排除することはできない。いつまでたっても「すっきりした夫婦」にはなれないと隆介さんは絶望的な気分になった。
「考えれば考えるほど、混沌として。子どもたちとはだんだん大人の話もできるようになってきて本当に楽しいんですが……。1年ほど前だったか、気分転換にふらっと行ったキャバクラで気になる女性ができたんです」
いわゆる熟女キャバクラだった。大人の女性と話したいと思っていたら、ついてくれた女性が素敵な人だった。身の上話はいっさいしなかったが、頭の回転が速く、打てば響く。彼がダジャレを飛ばすとダジャレで返す。久しぶりに女性と楽しい会話を交わした満足感があった。
「また会いたいと思う気持ちがどんどん強くなった。彼女も『この年になって恋愛感情というものを初めて知った』と言ってくれて。半年後、ついに彼女と関係を持ちました。彼女にも夫がいるんですが、夫は病気で入院していると。どこまで本当かはわかりません。でもそんなことはどうでもよかった。会って抱き合うことで、僕は救われていると心から思えたんです」
そして今年、妻から離婚届をつきつけられた。最初は彼女とのことがバレたのではないかとビクッとしたのだが、実はレスが問題だった。
「あと1年で、レスが10年になる。この1年で答えを出してほしいと沙代は言うんです。でもまだ子どもが小さい。子どものこと は考えないのかと言ったら、『私、死にたい』と妻が泣き出した。思わず抱きしめました。下手に優しくしないでよ、する気もないくせにと突き飛ばされました。確かに妻とはできない。何も言えなかった」
私がどんなに努力を重ねてきたか、あなただってわかってるでしょと沙代さんは言った。テーブルに強壮剤が置かれていても、粗悪なバイアグラをバッグに入れられても何も言わなかったのはオレの配慮だよと言いたかったが言えなかった。言ったところで彼の真意は届かないだろうと思ってしまったのだ。
「その代わり、そんなにしたければ外でしてくればいいよと言ってしまったんです。僕としてはある意味で本音でした。外でして家でご機嫌よくしてくれたほうが、今よりずっとありがたい。でも妻はそれを悪意に解釈したみたいですね。『そこまで言うなら、すぐにでも離婚したほうがいいかもしれないわね。あなたは私の心を殺しているの。犯罪者みたいなものよ』と。そこまで言うのかとびっくりしました。セックスは外注できると思うし、セックスがないほうが夫婦として、家族としてはうまくいくこともあるんじゃないでしょうか。僕にとってキャバクラの彼女は今、癒やしであると同時に刺激でもある。妻もそういう人を見つけられれば、お互いにすっきり暮らせるような気がするんですが」
気持ちはわかるが、沙代さんがそういうタイプの女性でないことは彼がいちばんわかっているはずだ。それならどうすればいいのか。答えは出ない。これは男女を逆転しても通用する話だ。配偶者を異性として見られなくなることは「罪」なのだろうか。
前編【妻とだけは“できない”夫が語った「お母さん」との原体験 「女って怖いという友人の言葉を思い出した」】からのつづき
亀山早苗(かめやま・さなえ)フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。
デイリー新潮編集部

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