川勝平太・静岡県知事の側近で、県リニア問題の責任者だった難波喬司・元副知事が2023年4月13日、新たな静岡市長に就いた。
選挙期間中、難波氏が「リニア推進」の立場を唱えてきたことで、古巣の国交省、メディアは難波市長によってリニア問題が早期解決されることに大きな期待を寄せた。ところが実際のところ、JR東海は“難波静岡市長”という新たな厄介のタネを抱え込んだだけであり、リニア問題解決への道はさらに険しくなるだろう。
難波市長が川勝知事を表敬訪問、強い握手はリニア問題の“共闘”を意味するのだろう(静岡県庁、筆者撮影)静岡市長選で、共産党を除く自民党、公明党などすべての会派の推薦を受けた難波氏は「行政判断としてリニア事業の推進に協力する」と述べた上で、「政令市のトップとして知事に言うべきことは言う。今後は健全な議論が必要」などと、まるで川勝知事とは一線を画す発言をしたことから、関係者らは膠着状態にあるリニア問題解決への期待感をにじませた。この結果、「反リニア」を貫く川勝知事に対抗することにも好感を持たれ、難波氏が元自民党県議に約7万票差の約14万9000票を獲得、圧勝した。13日午前の就任会見では、リニア問題に触れて、難波新市長は「静岡市も大井川流域であり、大井川利水関係協議会に加わらない選択はない、加わるしかない。どういう立場で加わるかは整理が必要だ」などと早速、リニア問題に介入することを“宣言”してしまった。「大井川利水関係協議会」とは、リニアトンネル工事による大井川水系の水資源の確保及び水質の保全等に流域市町長らの関係者が一体となって対応するために、静岡県(当時の責任者は難波副知事)が組織した協議会だ。難波市長の“宣言”に呼応した川勝知事は、同日午後の定例会見で「もっともなことだ。これまでは“異常な事態”だった。歓迎する。話があれば加入してもらう」などと何のためらいもなく、大井川利水関係協議会への難波市長の加入にもろ手を挙げて賛成した。だが、大井川利水関係協議会への静岡市長加入は、難波市長と川勝知事の「出来レース」の疑いが強い。いまさら静岡市長が同協議会に加わる理由など全くないからだ。川勝知事の言う“異常な事態”の混乱はまさにこれから始まることになるだろう。静岡市vs.JR東海の歴史静岡市は、リニア問題について静岡県の手を借りずに自らで対応してきた。どのような戦略でJR東海と当たったのかを見れば、大井川利水関係協議会に加わる必要などないことがはっきりとわかる。何よりも、静岡市も当初リニア問題について、現在の静岡県とほぼ同じ主張をしていた。 2013年9月、リニアに関わる環境影響評価準備書が公開されると、2014年2月、静岡市議会はリニア事業に関する決議を全会一致で採択した。決議書は「毎秒2トンの水量減少が流域全体の生態系や居住する住民生活にどのような影響を及ぼすのか詳細で多面的な調査・検討を行うべき」などとJR東海へ厳しい姿勢で当たっていた。この決議書とともに、自民党市議団は「国家的プロジェクトとして進めるならば地域貢献についてよく考えるべき」とわかりやすい“シグナル”を送っている。難波氏の「リニア事業の推進」を掲げた静岡市長選ポスター(静岡市内、筆者撮影)リニアトンネル静岡工区はすべて静岡市葵区に位置する。静岡市はリニア工事に際して、森林法、土壌汚染対策法、建築基準法などさまざまな権限を有してJR東海を指導する立場にある。なかでも、直線距離で約27キロもある「静岡市東俣林道」はリニア工事の専用道路として欠かせず、二軒小屋の終点からさらに先にリニアトンネル静岡工区の現場がある。林道は斜面崩壊や狭隘な個所が多く、安全上の理由から入り口の沼平ゲートで、静岡市の許可証を所持しない一般車両の立ち入りを規制している。静岡市の許可証がなければ、リニアに関わる工事車両1台も通過できない。つまり、東俣林道の通行が確保できなければ、JR東海は手も足も出ないのだ。静岡市との関係を重視したJR東海は、2017年12月にリニア工事の拠点となる同市井川地区で説明会を開催、そこで井川地区と川根本町を結ぶ市道閑蔵線約2.5キロの「市道トンネル」建設案を提示した。「市道トンネル」ができれば、大型車両の通行ができ、過疎の地域も便利となり、JR東海にとって費用効果が高いことなどを力説した。ただし、総額100億円のトンネル建設費用のうち、「50億円」の負担を静岡市に求めてしまった。すでに問題は決着済みJR東海の中途半端な対応に静岡市は激怒、「環境保全が絶対条件」などとハードルを上げ、この提案を一蹴した。「市道トンネル」の代わりに井川地区の悲願だった市内中心部を結ぶ山間地の「県道トンネル」建設を要望した。 この後、鈴木和彦会長を先頭に自民党市議団の厳しい駆け引きが続き、結局JR東海は静岡市の要望を丸のみしたのだ。金子慎JR東海社長(当時)が2018年6月、静岡市役所を訪れ、リニアトンネル建設の円滑な推進と地域の振興等のために相互に連携・協力する基本合意書を田辺信宏市長(当時)と取り交わした。狭隘で斜面崩壊など続く東俣林道。リニア工事の専用道路でもある(静岡市内、筆者撮影)140億円の「県道トンネル」をJR東海が全額負担で建設する見返りに、静岡市はリニアトンネル工事に必要となる許認可を含む行政手続きに関して速やかに対応するなどの内容が盛り込まれた。JR東海は約80億円を負担する東俣林道の改良工事に着手した。静岡市が求めた「地域振興」策をJR東海は無条件でのむ代わりに、静岡市のすべての行政手続きがスムーズに行くことになり、両者とも満足のいく結果となった。つまり、すでに静岡市はリニア問題に対して決着がついているのである。それにも関わらず、難波市長は静岡県の組織した「大井川利水関係協議会」加入を新市長となった途端に“宣言”した。それも自民党市議団などへ事前相談は全くなかったのだ。当然、自民党市議全員が難波市長の真意に疑いを抱かざるを得なかった。2018年8月、川勝知事がJR東海の対応について「静岡県民に誠意を示す姿勢がない」と厳しく批判する中、静岡市とJR東海の基本合意が成立した2カ月後、静岡県が利水者11団体、流域10市町長による「大井川利水関係協議会」を設置、JR東海とのすべての交渉窓口とした。よく見ればわかるが、川勝知事の「大井川流域の命の水を守る」は、静岡市の「環境保全が絶対条件」と似通っている。つまり、流域市町長が大井川利水関係協議会に加入した思惑は、川勝知事にリニア問題を一任することで、静岡市同様にJR東海から何らかの「地域振興」が提供されることを期待したのだ。知事と市長の「共闘」川勝知事らは、田辺市長の“抜け駆け”と静岡市の対応を厳しく批判したが、巨額の「地域振興」を勝ち取ったのだから、井川地区をはじめ静岡市民は大喜びした。 「大井川利水関係協議会」設置は、「静岡空港新駅」設置を認めさせることが大きな目的だと見られている。JR東海へ圧力を掛けることで、新駅設置を認めさせたいのだ。「東海道新幹線静岡空港駅設置期成同盟会」(事務局・静岡県)会長は川勝知事、副会長は島田、牧之原、吉田の3首長、焼津、藤枝、御前崎、菊川、川根本の首長らも参加している。つまり、大井川流域の首長らは結束して、静岡空港新駅設置を待望している。大井川利水関係協議会は空港新駅設置のための組織とも言えた。空港新駅に静岡市長は関係なかったから、同協議会に加入する必要性もなかったのだ。ところが、大井川利水関係協議会が発足して5年目を迎えるのに、肝心の落としどころはいまも全く見えてこない。というのも、川勝知事は政治的な“交渉”は全く行わないで、「反リニア」を唱えているだけだからだ。13日夕方、静岡県庁を表敬訪問した難波市長を川勝知事が迎え、お互いに長い間に築いた「信頼関係」をアピールした。この信頼関係とは、リニア問題で難波市長と川勝知事が“共闘”していくことしか理由は見当たらない。つまり、これまで以上にJR東海へ強い圧力を掛けて、空港新駅を認めさせることだ。ただ、5年も掛けて何らかの成果は全く見えてこないのに、さらなる混乱を招く恐れのほうが高い。井川地区代表者3人が昨年11月の県リニア会議で、「ユネスコエコパークの自然を生かした経済活動を行っている。着工しながら問題解決してほしい」「このままではユネスコエコパークを守る(過疎の)井川地区がなくなってしまう」などいたずらに議論を長引かせる川勝知事の姿勢を厳しく批判した。難波市長は井川地区住民の声にちゃんと耳を傾けたほうがいい。
選挙期間中、難波氏が「リニア推進」の立場を唱えてきたことで、古巣の国交省、メディアは難波市長によってリニア問題が早期解決されることに大きな期待を寄せた。ところが実際のところ、JR東海は“難波静岡市長”という新たな厄介のタネを抱え込んだだけであり、リニア問題解決への道はさらに険しくなるだろう。
難波市長が川勝知事を表敬訪問、強い握手はリニア問題の“共闘”を意味するのだろう(静岡県庁、筆者撮影)
静岡市長選で、共産党を除く自民党、公明党などすべての会派の推薦を受けた難波氏は「行政判断としてリニア事業の推進に協力する」と述べた上で、「政令市のトップとして知事に言うべきことは言う。今後は健全な議論が必要」などと、まるで川勝知事とは一線を画す発言をしたことから、関係者らは膠着状態にあるリニア問題解決への期待感をにじませた。
この結果、「反リニア」を貫く川勝知事に対抗することにも好感を持たれ、難波氏が元自民党県議に約7万票差の約14万9000票を獲得、圧勝した。
13日午前の就任会見では、リニア問題に触れて、難波新市長は「静岡市も大井川流域であり、大井川利水関係協議会に加わらない選択はない、加わるしかない。どういう立場で加わるかは整理が必要だ」などと早速、リニア問題に介入することを“宣言”してしまった。
「大井川利水関係協議会」とは、リニアトンネル工事による大井川水系の水資源の確保及び水質の保全等に流域市町長らの関係者が一体となって対応するために、静岡県(当時の責任者は難波副知事)が組織した協議会だ。
難波市長の“宣言”に呼応した川勝知事は、同日午後の定例会見で「もっともなことだ。これまでは“異常な事態”だった。歓迎する。話があれば加入してもらう」などと何のためらいもなく、大井川利水関係協議会への難波市長の加入にもろ手を挙げて賛成した。
だが、大井川利水関係協議会への静岡市長加入は、難波市長と川勝知事の「出来レース」の疑いが強い。いまさら静岡市長が同協議会に加わる理由など全くないからだ。川勝知事の言う“異常な事態”の混乱はまさにこれから始まることになるだろう。
静岡市は、リニア問題について静岡県の手を借りずに自らで対応してきた。どのような戦略でJR東海と当たったのかを見れば、大井川利水関係協議会に加わる必要などないことがはっきりとわかる。何よりも、静岡市も当初リニア問題について、現在の静岡県とほぼ同じ主張をしていた。
2013年9月、リニアに関わる環境影響評価準備書が公開されると、2014年2月、静岡市議会はリニア事業に関する決議を全会一致で採択した。決議書は「毎秒2トンの水量減少が流域全体の生態系や居住する住民生活にどのような影響を及ぼすのか詳細で多面的な調査・検討を行うべき」などとJR東海へ厳しい姿勢で当たっていた。この決議書とともに、自民党市議団は「国家的プロジェクトとして進めるならば地域貢献についてよく考えるべき」とわかりやすい“シグナル”を送っている。難波氏の「リニア事業の推進」を掲げた静岡市長選ポスター(静岡市内、筆者撮影)リニアトンネル静岡工区はすべて静岡市葵区に位置する。静岡市はリニア工事に際して、森林法、土壌汚染対策法、建築基準法などさまざまな権限を有してJR東海を指導する立場にある。なかでも、直線距離で約27キロもある「静岡市東俣林道」はリニア工事の専用道路として欠かせず、二軒小屋の終点からさらに先にリニアトンネル静岡工区の現場がある。林道は斜面崩壊や狭隘な個所が多く、安全上の理由から入り口の沼平ゲートで、静岡市の許可証を所持しない一般車両の立ち入りを規制している。静岡市の許可証がなければ、リニアに関わる工事車両1台も通過できない。つまり、東俣林道の通行が確保できなければ、JR東海は手も足も出ないのだ。静岡市との関係を重視したJR東海は、2017年12月にリニア工事の拠点となる同市井川地区で説明会を開催、そこで井川地区と川根本町を結ぶ市道閑蔵線約2.5キロの「市道トンネル」建設案を提示した。「市道トンネル」ができれば、大型車両の通行ができ、過疎の地域も便利となり、JR東海にとって費用効果が高いことなどを力説した。ただし、総額100億円のトンネル建設費用のうち、「50億円」の負担を静岡市に求めてしまった。すでに問題は決着済みJR東海の中途半端な対応に静岡市は激怒、「環境保全が絶対条件」などとハードルを上げ、この提案を一蹴した。「市道トンネル」の代わりに井川地区の悲願だった市内中心部を結ぶ山間地の「県道トンネル」建設を要望した。 この後、鈴木和彦会長を先頭に自民党市議団の厳しい駆け引きが続き、結局JR東海は静岡市の要望を丸のみしたのだ。金子慎JR東海社長(当時)が2018年6月、静岡市役所を訪れ、リニアトンネル建設の円滑な推進と地域の振興等のために相互に連携・協力する基本合意書を田辺信宏市長(当時)と取り交わした。狭隘で斜面崩壊など続く東俣林道。リニア工事の専用道路でもある(静岡市内、筆者撮影)140億円の「県道トンネル」をJR東海が全額負担で建設する見返りに、静岡市はリニアトンネル工事に必要となる許認可を含む行政手続きに関して速やかに対応するなどの内容が盛り込まれた。JR東海は約80億円を負担する東俣林道の改良工事に着手した。静岡市が求めた「地域振興」策をJR東海は無条件でのむ代わりに、静岡市のすべての行政手続きがスムーズに行くことになり、両者とも満足のいく結果となった。つまり、すでに静岡市はリニア問題に対して決着がついているのである。それにも関わらず、難波市長は静岡県の組織した「大井川利水関係協議会」加入を新市長となった途端に“宣言”した。それも自民党市議団などへ事前相談は全くなかったのだ。当然、自民党市議全員が難波市長の真意に疑いを抱かざるを得なかった。2018年8月、川勝知事がJR東海の対応について「静岡県民に誠意を示す姿勢がない」と厳しく批判する中、静岡市とJR東海の基本合意が成立した2カ月後、静岡県が利水者11団体、流域10市町長による「大井川利水関係協議会」を設置、JR東海とのすべての交渉窓口とした。よく見ればわかるが、川勝知事の「大井川流域の命の水を守る」は、静岡市の「環境保全が絶対条件」と似通っている。つまり、流域市町長が大井川利水関係協議会に加入した思惑は、川勝知事にリニア問題を一任することで、静岡市同様にJR東海から何らかの「地域振興」が提供されることを期待したのだ。知事と市長の「共闘」川勝知事らは、田辺市長の“抜け駆け”と静岡市の対応を厳しく批判したが、巨額の「地域振興」を勝ち取ったのだから、井川地区をはじめ静岡市民は大喜びした。 「大井川利水関係協議会」設置は、「静岡空港新駅」設置を認めさせることが大きな目的だと見られている。JR東海へ圧力を掛けることで、新駅設置を認めさせたいのだ。「東海道新幹線静岡空港駅設置期成同盟会」(事務局・静岡県)会長は川勝知事、副会長は島田、牧之原、吉田の3首長、焼津、藤枝、御前崎、菊川、川根本の首長らも参加している。つまり、大井川流域の首長らは結束して、静岡空港新駅設置を待望している。大井川利水関係協議会は空港新駅設置のための組織とも言えた。空港新駅に静岡市長は関係なかったから、同協議会に加入する必要性もなかったのだ。ところが、大井川利水関係協議会が発足して5年目を迎えるのに、肝心の落としどころはいまも全く見えてこない。というのも、川勝知事は政治的な“交渉”は全く行わないで、「反リニア」を唱えているだけだからだ。13日夕方、静岡県庁を表敬訪問した難波市長を川勝知事が迎え、お互いに長い間に築いた「信頼関係」をアピールした。この信頼関係とは、リニア問題で難波市長と川勝知事が“共闘”していくことしか理由は見当たらない。つまり、これまで以上にJR東海へ強い圧力を掛けて、空港新駅を認めさせることだ。ただ、5年も掛けて何らかの成果は全く見えてこないのに、さらなる混乱を招く恐れのほうが高い。井川地区代表者3人が昨年11月の県リニア会議で、「ユネスコエコパークの自然を生かした経済活動を行っている。着工しながら問題解決してほしい」「このままではユネスコエコパークを守る(過疎の)井川地区がなくなってしまう」などいたずらに議論を長引かせる川勝知事の姿勢を厳しく批判した。難波市長は井川地区住民の声にちゃんと耳を傾けたほうがいい。
2013年9月、リニアに関わる環境影響評価準備書が公開されると、2014年2月、静岡市議会はリニア事業に関する決議を全会一致で採択した。
決議書は「毎秒2トンの水量減少が流域全体の生態系や居住する住民生活にどのような影響を及ぼすのか詳細で多面的な調査・検討を行うべき」などとJR東海へ厳しい姿勢で当たっていた。この決議書とともに、自民党市議団は「国家的プロジェクトとして進めるならば地域貢献についてよく考えるべき」とわかりやすい“シグナル”を送っている。
難波氏の「リニア事業の推進」を掲げた静岡市長選ポスター(静岡市内、筆者撮影)
リニアトンネル静岡工区はすべて静岡市葵区に位置する。静岡市はリニア工事に際して、森林法、土壌汚染対策法、建築基準法などさまざまな権限を有してJR東海を指導する立場にある。なかでも、直線距離で約27キロもある「静岡市東俣林道」はリニア工事の専用道路として欠かせず、二軒小屋の終点からさらに先にリニアトンネル静岡工区の現場がある。林道は斜面崩壊や狭隘な個所が多く、安全上の理由から入り口の沼平ゲートで、静岡市の許可証を所持しない一般車両の立ち入りを規制している。
静岡市の許可証がなければ、リニアに関わる工事車両1台も通過できない。つまり、東俣林道の通行が確保できなければ、JR東海は手も足も出ないのだ。
静岡市との関係を重視したJR東海は、2017年12月にリニア工事の拠点となる同市井川地区で説明会を開催、そこで井川地区と川根本町を結ぶ市道閑蔵線約2.5キロの「市道トンネル」建設案を提示した。「市道トンネル」ができれば、大型車両の通行ができ、過疎の地域も便利となり、JR東海にとって費用効果が高いことなどを力説した。ただし、総額100億円のトンネル建設費用のうち、「50億円」の負担を静岡市に求めてしまった。
JR東海の中途半端な対応に静岡市は激怒、「環境保全が絶対条件」などとハードルを上げ、この提案を一蹴した。「市道トンネル」の代わりに井川地区の悲願だった市内中心部を結ぶ山間地の「県道トンネル」建設を要望した。
この後、鈴木和彦会長を先頭に自民党市議団の厳しい駆け引きが続き、結局JR東海は静岡市の要望を丸のみしたのだ。金子慎JR東海社長(当時)が2018年6月、静岡市役所を訪れ、リニアトンネル建設の円滑な推進と地域の振興等のために相互に連携・協力する基本合意書を田辺信宏市長(当時)と取り交わした。狭隘で斜面崩壊など続く東俣林道。リニア工事の専用道路でもある(静岡市内、筆者撮影)140億円の「県道トンネル」をJR東海が全額負担で建設する見返りに、静岡市はリニアトンネル工事に必要となる許認可を含む行政手続きに関して速やかに対応するなどの内容が盛り込まれた。JR東海は約80億円を負担する東俣林道の改良工事に着手した。静岡市が求めた「地域振興」策をJR東海は無条件でのむ代わりに、静岡市のすべての行政手続きがスムーズに行くことになり、両者とも満足のいく結果となった。つまり、すでに静岡市はリニア問題に対して決着がついているのである。それにも関わらず、難波市長は静岡県の組織した「大井川利水関係協議会」加入を新市長となった途端に“宣言”した。それも自民党市議団などへ事前相談は全くなかったのだ。当然、自民党市議全員が難波市長の真意に疑いを抱かざるを得なかった。2018年8月、川勝知事がJR東海の対応について「静岡県民に誠意を示す姿勢がない」と厳しく批判する中、静岡市とJR東海の基本合意が成立した2カ月後、静岡県が利水者11団体、流域10市町長による「大井川利水関係協議会」を設置、JR東海とのすべての交渉窓口とした。よく見ればわかるが、川勝知事の「大井川流域の命の水を守る」は、静岡市の「環境保全が絶対条件」と似通っている。つまり、流域市町長が大井川利水関係協議会に加入した思惑は、川勝知事にリニア問題を一任することで、静岡市同様にJR東海から何らかの「地域振興」が提供されることを期待したのだ。知事と市長の「共闘」川勝知事らは、田辺市長の“抜け駆け”と静岡市の対応を厳しく批判したが、巨額の「地域振興」を勝ち取ったのだから、井川地区をはじめ静岡市民は大喜びした。 「大井川利水関係協議会」設置は、「静岡空港新駅」設置を認めさせることが大きな目的だと見られている。JR東海へ圧力を掛けることで、新駅設置を認めさせたいのだ。「東海道新幹線静岡空港駅設置期成同盟会」(事務局・静岡県)会長は川勝知事、副会長は島田、牧之原、吉田の3首長、焼津、藤枝、御前崎、菊川、川根本の首長らも参加している。つまり、大井川流域の首長らは結束して、静岡空港新駅設置を待望している。大井川利水関係協議会は空港新駅設置のための組織とも言えた。空港新駅に静岡市長は関係なかったから、同協議会に加入する必要性もなかったのだ。ところが、大井川利水関係協議会が発足して5年目を迎えるのに、肝心の落としどころはいまも全く見えてこない。というのも、川勝知事は政治的な“交渉”は全く行わないで、「反リニア」を唱えているだけだからだ。13日夕方、静岡県庁を表敬訪問した難波市長を川勝知事が迎え、お互いに長い間に築いた「信頼関係」をアピールした。この信頼関係とは、リニア問題で難波市長と川勝知事が“共闘”していくことしか理由は見当たらない。つまり、これまで以上にJR東海へ強い圧力を掛けて、空港新駅を認めさせることだ。ただ、5年も掛けて何らかの成果は全く見えてこないのに、さらなる混乱を招く恐れのほうが高い。井川地区代表者3人が昨年11月の県リニア会議で、「ユネスコエコパークの自然を生かした経済活動を行っている。着工しながら問題解決してほしい」「このままではユネスコエコパークを守る(過疎の)井川地区がなくなってしまう」などいたずらに議論を長引かせる川勝知事の姿勢を厳しく批判した。難波市長は井川地区住民の声にちゃんと耳を傾けたほうがいい。
この後、鈴木和彦会長を先頭に自民党市議団の厳しい駆け引きが続き、結局JR東海は静岡市の要望を丸のみしたのだ。金子慎JR東海社長(当時)が2018年6月、静岡市役所を訪れ、リニアトンネル建設の円滑な推進と地域の振興等のために相互に連携・協力する基本合意書を田辺信宏市長(当時)と取り交わした。
狭隘で斜面崩壊など続く東俣林道。リニア工事の専用道路でもある(静岡市内、筆者撮影)
140億円の「県道トンネル」をJR東海が全額負担で建設する見返りに、静岡市はリニアトンネル工事に必要となる許認可を含む行政手続きに関して速やかに対応するなどの内容が盛り込まれた。JR東海は約80億円を負担する東俣林道の改良工事に着手した。静岡市が求めた「地域振興」策をJR東海は無条件でのむ代わりに、静岡市のすべての行政手続きがスムーズに行くことになり、両者とも満足のいく結果となった。
つまり、すでに静岡市はリニア問題に対して決着がついているのである。それにも関わらず、難波市長は静岡県の組織した「大井川利水関係協議会」加入を新市長となった途端に“宣言”した。それも自民党市議団などへ事前相談は全くなかったのだ。当然、自民党市議全員が難波市長の真意に疑いを抱かざるを得なかった。
2018年8月、川勝知事がJR東海の対応について「静岡県民に誠意を示す姿勢がない」と厳しく批判する中、静岡市とJR東海の基本合意が成立した2カ月後、静岡県が利水者11団体、流域10市町長による「大井川利水関係協議会」を設置、JR東海とのすべての交渉窓口とした。
よく見ればわかるが、川勝知事の「大井川流域の命の水を守る」は、静岡市の「環境保全が絶対条件」と似通っている。つまり、流域市町長が大井川利水関係協議会に加入した思惑は、川勝知事にリニア問題を一任することで、静岡市同様にJR東海から何らかの「地域振興」が提供されることを期待したのだ。
川勝知事らは、田辺市長の“抜け駆け”と静岡市の対応を厳しく批判したが、巨額の「地域振興」を勝ち取ったのだから、井川地区をはじめ静岡市民は大喜びした。
「大井川利水関係協議会」設置は、「静岡空港新駅」設置を認めさせることが大きな目的だと見られている。JR東海へ圧力を掛けることで、新駅設置を認めさせたいのだ。「東海道新幹線静岡空港駅設置期成同盟会」(事務局・静岡県)会長は川勝知事、副会長は島田、牧之原、吉田の3首長、焼津、藤枝、御前崎、菊川、川根本の首長らも参加している。つまり、大井川流域の首長らは結束して、静岡空港新駅設置を待望している。大井川利水関係協議会は空港新駅設置のための組織とも言えた。空港新駅に静岡市長は関係なかったから、同協議会に加入する必要性もなかったのだ。ところが、大井川利水関係協議会が発足して5年目を迎えるのに、肝心の落としどころはいまも全く見えてこない。というのも、川勝知事は政治的な“交渉”は全く行わないで、「反リニア」を唱えているだけだからだ。13日夕方、静岡県庁を表敬訪問した難波市長を川勝知事が迎え、お互いに長い間に築いた「信頼関係」をアピールした。この信頼関係とは、リニア問題で難波市長と川勝知事が“共闘”していくことしか理由は見当たらない。つまり、これまで以上にJR東海へ強い圧力を掛けて、空港新駅を認めさせることだ。ただ、5年も掛けて何らかの成果は全く見えてこないのに、さらなる混乱を招く恐れのほうが高い。井川地区代表者3人が昨年11月の県リニア会議で、「ユネスコエコパークの自然を生かした経済活動を行っている。着工しながら問題解決してほしい」「このままではユネスコエコパークを守る(過疎の)井川地区がなくなってしまう」などいたずらに議論を長引かせる川勝知事の姿勢を厳しく批判した。難波市長は井川地区住民の声にちゃんと耳を傾けたほうがいい。
「大井川利水関係協議会」設置は、「静岡空港新駅」設置を認めさせることが大きな目的だと見られている。JR東海へ圧力を掛けることで、新駅設置を認めさせたいのだ。「東海道新幹線静岡空港駅設置期成同盟会」(事務局・静岡県)会長は川勝知事、副会長は島田、牧之原、吉田の3首長、焼津、藤枝、御前崎、菊川、川根本の首長らも参加している。つまり、大井川流域の首長らは結束して、静岡空港新駅設置を待望している。
大井川利水関係協議会は空港新駅設置のための組織とも言えた。空港新駅に静岡市長は関係なかったから、同協議会に加入する必要性もなかったのだ。
ところが、大井川利水関係協議会が発足して5年目を迎えるのに、肝心の落としどころはいまも全く見えてこない。というのも、川勝知事は政治的な“交渉”は全く行わないで、「反リニア」を唱えているだけだからだ。
13日夕方、静岡県庁を表敬訪問した難波市長を川勝知事が迎え、お互いに長い間に築いた「信頼関係」をアピールした。この信頼関係とは、リニア問題で難波市長と川勝知事が“共闘”していくことしか理由は見当たらない。つまり、これまで以上にJR東海へ強い圧力を掛けて、空港新駅を認めさせることだ。ただ、5年も掛けて何らかの成果は全く見えてこないのに、さらなる混乱を招く恐れのほうが高い。
井川地区代表者3人が昨年11月の県リニア会議で、「ユネスコエコパークの自然を生かした経済活動を行っている。着工しながら問題解決してほしい」「このままではユネスコエコパークを守る(過疎の)井川地区がなくなってしまう」などいたずらに議論を長引かせる川勝知事の姿勢を厳しく批判した。
難波市長は井川地区住民の声にちゃんと耳を傾けたほうがいい。