年金暮らしの両親と同居の40代、「それってこどおばじゃん!」と女友だちに言われてグサッ

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

「こどおじ」という言葉をよく聞く。これは「子ども部屋おじさん」の略で、いわゆるネットスラングの類いだが、ここ5年ほどは一般的にもよく使われるようになっている。
実家の子ども部屋に住む中高年男性を指すが、働いているにしろいないにしろ、そこはかとなく軽蔑の意味がこもる。背景に就職氷河期世代の問題があるため、一概に当人が悪いとは言い切れない。
こういう話はどうしても男性がターゲットになりやすいが、最近は「こどおば」という表現も多く見聞きする。30代、40代になっても実家暮らしなのは住居費が高いせいもあるが、結婚したくない風潮や、親子関係にも何かそれぞれに事情があるのかもしれない。
友人に「こどおばじゃん」と笑われた「実家にいるだけで白い目で見られるのは本意じゃないんですけどね。反論しても意味ないからしないけど」
あきらめたようにそうつぶやくのは、サホリさん(40歳)だ。実家で70代の両親と3人で暮らしている。
大学を卒業したものの就職活動はうまくいかなかった。当時の冷え切った社会状況もあったし、ちょうど両親が立て続けに体調を崩し、彼女しか面倒をみる人間がいなかったこともある。
「それでも卒業間近になんとか中堅企業に潜り込むことができたんです。ただ、そこはその後、大手企業に買収されて私はリストラを迫られ、退職金を上乗せするからと言われて退職しました。といっても数年しか勤めてないので退職金なんて雀の涙でした」
以来、派遣や契約社員といろいろ名目は変わったが、ずっと働いてはきた。だから私はニートではない、親に食べさせてもらっているわけでもないというのだ。
「実家がたまたま都内の便利な場所にあるので、ひとり暮らしするのは家賃がムダだなと思うんですよね。親の体調もすぐにわかるし、同居していて悪いことは何もない。うちは姉がいますが、遠方で家庭を持っているし、姉は義兄の両親の面倒を見ている。だから私が自分の親を見るしかないわけです」
食事は「ふたり分も3人分も同じだから」と母親が作ってくれる。母親の調子が悪いときは、サホリさんが帰宅してから作ることもある。
「30代のころは、このままいくと老人家族になる、なんとか早く結婚して脱出しなければと思ったこともありますが、今はこれでもいいかという感じですね」
週末は地域の公共体育館で卓球やヨガに汗を流す。そこで出会った年上の友人たちと、ペットボトルのお茶を飲みながら愚痴を吐くこともある。80年代の歌謡曲に魅せられ、当時の歌手を追いかけていたら、SNSで仲間もできた。
「それでも学生時代の友だちに会ったとき、『サホリ、それってこどおばじゃん!』と言われたんです。『いいよね、いつまでも子どもでいられて。私たちは子どもの教育に必死なのに』とも。遠慮のない関係だからこその言葉だと思うけど、グサッとはきましたね」
結婚しないと決めたわけではない。なのに、あなたは一生子どもでいるんだねと決めつけられたような気がした。
私だって子どもでいたいわけではない親子はどこまでいっても親子なので、年齢がいっても確かに子どもなのだが、「精神的にも子どもだと言われているような気がして不快」だとサホリさんは言う。
「私自身は、大人3人の同居というつもりでいるし、両親も必要以上に子ども扱いはしません。でも周りにはそんなことはわかりませんからね。独身の子どもが同居しているだけで、こどおじとかこどおばとか言われてしまうんですよね」
親戚からも、「いつまでも親のすねをかじって」と言われることがある。だが、サホリさんは食費も出しているので、それは当たってはいない。
「親は親で年金でなんとか生活している。私は私の収入で暮らしている。家賃は払っていませんが、親の携帯も私が払ってるんですけどね」
ここまできたら、たとえ結婚しても遠方には住めないと彼女は言う。同居とまではいかなくても、近所に住まなければ親の面倒を見る人がいないからだ。
「この先の不安は、親が介護を必要としたときですね。家で介護するようになったら、仕事を辞めなければいけないのかと考えることもあります。でもそうしたら、親亡き後、私が生きていけない。本当は家だってもう古いですから、リフォームくらいはしたい。
でも正直言って、私自身、いつまで今の状態で働けるかわからない。親が長生きするのをうれしいと思えなくなっているのが我ながらつらいです」
自分も決して長生きしたいとは思えない。独身だからではなく、経済的に苦しいからだ。それでも日々、なんとか楽しく暮らしていくしかないのだ、生きている限りは。
「誰かが何か言うことを止められないけど、面と向かって『こどおば』と言う人にはやはりがっかりします。
正規社員になれなかった、結婚できなかった、子どもを産めなかったと他人は思うかもしれないけど、仕事だってフリーランスの人もいるし、結婚はしなかった、子どもを望まなかったという人がいても不思議はない。親と同居し続けるのも、消去法とはいえ私の意志ではあるんですから」
話しているうちに少し口調がキツくなっていったサホリさん。思い通りにいかないのが人生ではあるが、それを他人に揶揄されたくはないという彼女の気持ちが伝わってきた。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。