年金月28万円、退職金3,000万円の60代・勝ち組夫婦「余裕の老後」が一転、破産寸前に…原因は「財布を一つにしてなかったから」【CFPが警告】

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

「退職金や年金でなんとかなるだろう」と、61歳(妻57歳)のときリタイアを決断したO夫妻。2人合わせて3,000万円の退職金と月28万円の年金で、悠々自適に暮らしていました。しかし、夫の定年後から6年、夫婦でリタイアしてわずか5年で家計は破産寸前となってしまったのです……。牧野FP事務所代表社員の牧野寿和CFPが、O夫妻の「転落劇」を生んだ根本原因と、その対応策について解説します。
O夫妻は、現在夫が66歳、妻が62歳です。2人の子どもはすでに家庭を持っており、O夫妻にとっての孫もいます。
Oさんは60歳で定年退職し、その後65歳まで嘱託で働く予定でしたが、職場になじめず悩んでいました。嘱託で働き始めて1年経ったころ、「退職金や年金を活用し、貯蓄を取崩しながらであれば今後の生活はできるだろう」と夫婦で話し合い、リタイアを決断しました。また、Oさんの妻は、出産後しばらく育児に専念したのち、職場に復帰していましたが、Oさんが退職するタイミングで一緒に退職することにしたそうです。
リタイア後は、これまで夫婦ともに仕事が忙しかったので、かねてより計画していた海外旅行に行ったり、自宅の庭で野菜を育てたりと、日頃から描いていた老後を過ごしていました。
ところが、リタイアして5年ほど経ったある日、O夫妻は退職金や貯蓄をほぼ使い果たしてしまったことに気づいたのです。
O夫妻のリタイア後の家計収入は[図表]の通りです。ただ、O夫妻は結婚にあたって「お互いの収入には干渉しない」と決め、それを忠実に守っていたそうで、図中の金額はFPである筆者が夫婦に聞き取りを行った際、初めて知ったものでした。
[図表]O夫妻の家計収入出所:筆者が作成
※1 特別支給の老齢厚生年金の詳細は日本年金機構HP「特別支給の老齢厚生年金」参照
※2 加給年金と振替加算の詳細は日本年金機構HP「加給年金額と振替加算」参照
(公財)生命保険文化センターの調査によると、リタイア後の必要な生活費は月額平均で23.2万円、ゆとりある生活費は月額平均37.9万円となっています。この“ゆとり”の使いみちは「旅行やレジャー」が最も多く、次いで「日常生活費の充実」や「趣味や教養」、「身内とのつきあい」「耐久消費財の買い替え」「子どもや孫への資金援助」が続きます※3。
※3 (公財)生命保険文化センター「生活保障に関する調査」/2022(令和4)年度より
O夫妻の現在の生活費は「約38万円」と、勤めていたころとあまり変わりません。リタイア後、コロナ禍になる前は毎年100万円以上海外旅行に使い、そのほかにも長年使っていた電化製品や自家用車を買い替えたり、自宅の外壁を修繕したり、趣味のために高額な材料を購入したりと、まさに“ゆとりある”支出をしていたのでした。
O夫妻の「悲劇の原因」なぜ、O夫妻の家計はリタイア後わずか5年ほどでうまく回らなくなってしまったのでしょうか。その原因をO夫妻は、「退職金や貯蓄も十分あるように感じ、これから年金も受給できるという油断から、老後の生活を楽しんでしまっていた」と分析しています。[図表]に示したように、リタイア後の5年間は、夫の収入は現役時代に比べ乏しく、妻にいたってはまったくありませんでした。使えるお金は、退職金とこれまでの貯えのみです。したがって、夫婦の分析は当たっています。しかしそれよりも、夫婦の気づいていない根本的な原因がありました。それは、「家計の財布を1つにしていなかったこと」です。「財布を1つにする」の意味とは?O夫妻は結婚当初から、収入は給与振込用口座などで自己管理していました。家計支出は、それとは別に家計用の銀行口座を作り、お互い決めた額を定期的にその口座に入金して管理していました。住宅購入時の頭金や子どもの教育費なども互いに金額と期間を決めて積立貯蓄をし、夏休みの家族旅行の費用などはお互いの貯蓄から出し合ったそうです。「住宅ローンを完済できたのもこの方法のおかげだ」と2人は自信を持っていました。家計の管理は、O夫妻のようにお互いの収入を干渉することなく必要額を出しあう夫婦もいれば、夫婦の収入を1つにまとめて管理する夫婦もいます。筆者のいう「財布を1つにする」とは、後者の家計のことです。「夫婦がお互いの収入を知っている」ということがポイントになります。今後のO夫妻に不可欠な「収入の把握」筆者は、財布を1つにしてもしなくても、家計がうまく回るならどちらの方法をとってもいいと考えています。ただし、O夫妻のように、毎月の家計支出が38万円であるにもかかわらず、夫婦の年金受給額が、夫66歳(妻62歳)から月28万円、夫69歳(妻65歳)からは月32万円であれば、生活は当然成り立ちません。今後の生活を成り立たせるには、家計支出を減らすことが必須です。そのためには、お互いが収入を把握し、「財布を1つにする」生活をする必要があるでしょう。O夫妻はこの先、お互いの親や自身に介護が必要になった場合の資金※4や子どもの住宅購入費、孫への資金援助が必要になるかもしれません。※4 「(公財)生命保険文化センター生命保険に関する全国実態調査2021(令和3)年度」によると、介護が必要になった場合、住宅改造や介護用ベッドの購入費など一時的にかかる費用の合計は平均74万円、毎月かかる費用は平均8.3万円となっている。介護を行った場所別で月々かかる平均介護費用をみると、在宅:4.8万円、施設:12.2万円。また、介護を行った期間は平均b61.1ヵ月(5年1ヵ月)となっている。O夫妻は2人とも「もっとたくさん年金をもらえるだろう」と思っていたようですが、実際の受給額も決して少ない金額ではありません。今後はこの5年間を教訓に、誕生月に日本年金機構から郵送される「ねんきん定期便」で受給額を都度確認しつつ、またお互いの貯蓄を計画的に取り崩すことも念頭に置きながら、今回をきっかけに改めて“老後の新婚生活”を始めてみてもいいのではないでしょうか。牧野 寿和牧野FP事務所合同会社代表社員
なぜ、O夫妻の家計はリタイア後わずか5年ほどでうまく回らなくなってしまったのでしょうか。
その原因をO夫妻は、「退職金や貯蓄も十分あるように感じ、これから年金も受給できるという油断から、老後の生活を楽しんでしまっていた」と分析しています。
[図表]に示したように、リタイア後の5年間は、夫の収入は現役時代に比べ乏しく、妻にいたってはまったくありませんでした。使えるお金は、退職金とこれまでの貯えのみです。したがって、夫婦の分析は当たっています。
しかしそれよりも、夫婦の気づいていない根本的な原因がありました。それは、「家計の財布を1つにしていなかったこと」です。
O夫妻は結婚当初から、収入は給与振込用口座などで自己管理していました。家計支出は、それとは別に家計用の銀行口座を作り、お互い決めた額を定期的にその口座に入金して管理していました。
住宅購入時の頭金や子どもの教育費なども互いに金額と期間を決めて積立貯蓄をし、夏休みの家族旅行の費用などはお互いの貯蓄から出し合ったそうです。「住宅ローンを完済できたのもこの方法のおかげだ」と2人は自信を持っていました。
家計の管理は、O夫妻のようにお互いの収入を干渉することなく必要額を出しあう夫婦もいれば、夫婦の収入を1つにまとめて管理する夫婦もいます。
筆者のいう「財布を1つにする」とは、後者の家計のことです。「夫婦がお互いの収入を知っている」ということがポイントになります。
筆者は、財布を1つにしてもしなくても、家計がうまく回るならどちらの方法をとってもいいと考えています。
ただし、O夫妻のように、毎月の家計支出が38万円であるにもかかわらず、夫婦の年金受給額が、夫66歳(妻62歳)から月28万円、夫69歳(妻65歳)からは月32万円であれば、生活は当然成り立ちません。
今後の生活を成り立たせるには、家計支出を減らすことが必須です。そのためには、お互いが収入を把握し、「財布を1つにする」生活をする必要があるでしょう。
O夫妻はこの先、お互いの親や自身に介護が必要になった場合の資金※4や子どもの住宅購入費、孫への資金援助が必要になるかもしれません。
※4 「(公財)生命保険文化センター生命保険に関する全国実態調査2021(令和3)年度」によると、介護が必要になった場合、住宅改造や介護用ベッドの購入費など一時的にかかる費用の合計は平均74万円、毎月かかる費用は平均8.3万円となっている。介護を行った場所別で月々かかる平均介護費用をみると、在宅:4.8万円、施設:12.2万円。また、介護を行った期間は平均b61.1ヵ月(5年1ヵ月)となっている。
O夫妻は2人とも「もっとたくさん年金をもらえるだろう」と思っていたようですが、実際の受給額も決して少ない金額ではありません。
今後はこの5年間を教訓に、誕生月に日本年金機構から郵送される「ねんきん定期便」で受給額を都度確認しつつ、またお互いの貯蓄を計画的に取り崩すことも念頭に置きながら、今回をきっかけに改めて“老後の新婚生活”を始めてみてもいいのではないでしょうか。
牧野 寿和
牧野FP事務所合同会社
代表社員

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。