2021年の4月、名古屋市内で店長の過失により発生した火事で客9人が重軽傷を負いました。大やけどをした客らに対し、店側からの補償はないまま10日、元店長の男の刑事裁判で、判決が言い渡されました。
「覚えていない。気づいたら、火事だとなって、手で口を押さえて窓際に行ったところは覚えているが、気づいたら下に飛び降りて動けない状態だった」 「黒煙を吸った段階で『死ぬのかな』、『これで命がなくなるのかな』という恐怖はあった」(火事の負傷者) 身体に刻まれた、やけどの痕。忌まわしい火事の記憶は、今も消えていません。 2021年4月、名古屋市千種区の居酒屋から出火し木造2階建ての建物が全焼しました。 近くに設置された防犯カメラには、2階の窓から飛び降りて、避難する人々の姿がありました。 多くのけが人を出した火事は、「事件」として立件されました。 名古屋地検は、当時の居酒屋の店長(33)が1階の厨房で焼きそばを調理後も、火がついたガスコンロの上に油などがこびりついているフライパンを加熱したまま放置し、その場を離れたため、火事が起き9人の客にけがをさせたとして業務上失火などの罪で起訴しました。
当時、居酒屋の2階で飲食し、火事に巻き込まれたという2人の男性は。 「被告はひとりで店長をやっていたけど、火元を離れて知人と一緒になって2階で飲み物を飲んだり話をしたりして、火事の発見が遅れたと思う」(火事の負傷者 40代) 「起訴されて『フライパンが…』となったときに、結局は自分が火を消し忘れていたのかと、火の元をきちっとやらずに、火災を発生させたのかと聞いたときは許せなかったです」(火事の負傷者 50代) 起訴内容を認めた元店長。裁判では… 「火は消した?」(被告の弁護士) 「自分の中では消したつもりだったが、つまみをしめ切れていなかった」(被告 元店長) 検察側は、「厨房を離れる際にはガスコンロの火を確実に消すという重要な注意義務を怠ったといえ、過失は重大である」として、元店長に禁錮2年を求刑しました。
客として店内にいた2人の男性は、一命をとりとめたもののやけどに苦しむ日々が続いたと話します。 「2日間ぐらい意識がなかったと後から聞いて、最初のころは痛みに耐えられないので、こんな思いをするならそのまま死んでしまった方がよかったのかなと思って…肩掛けのかばんを背負って飛び降りた」(火事の負傷者 40代) ほぼ全身にやけどをし、意識不明のまま救急搬送されました。皮膚移植の手術は、8回にのぼりました。 そして、もう一人の男性に当時着ていた服を見せてもらうと。 「元の色から、火事によって変わってしまったのは、見ると悲しくなる。どこかで火事を忘れないように取っていた」(火事の負傷者 50代) 2人とも、やけど治療に伴う手術や入院に、かなりの費用がかかったといいます。 「早くに退院して自宅で療養しながら通院したので、30万円近くはかかっています」(火事の負傷者 50代) Q:なぜ早く退院した? 「どうせ入院していてもお金がかかるので、生活にゆとりはなかったですね」(火事の負傷者 50代) 「80万円、90万円ぐらいは使っていると思います」(火事の負傷者 40代)
医療保険が適用されても、負担する治療費や入院費で、高額の出費となりましたが元店長からは、補償金の支払いは一切なかったと話します。 「元店長が一度会いにきたときに、『最低限、病院でかかった費用はなんとか払います』と話があったんが、その後やりとりをして『どうなったんですか?』と聞いたら、元店長に『自分も被害者だから』というふうに言われ、1円もいただいていないです」(火事の負傷者 40代) 裁判の中で、補償金についても問われた元店長は… 「見舞金は?」(被害者の弁護士) 「払える状況ではない」(被告 元店長) 「店舗に火災保険は?」(被害者の弁護士) 「ついていなかった。実の父から受け継いで、いきなり経営者となり、勉強不足で火災保険に入っていると思っていた」(被告 元店長)
火災保険に入っていなかったという被告に対し、重いやけどをした男性は怒りをあらわにします。 「飲食店をやっている段階で、火災保険に入っていないのはありえない。私たちみたいな被害者は、誰からも助けてもらえない。国や地方自治体から何かしら手助けしてもらえたら違うでしょうけど、誰からも何もしてもらえず、自分たちで頑張っていかないといけない。わかってもらいたいのは、被害者それぞれ、僕と隣にいる彼以外にもみんなが苦しんだことを理解してほしい」(火事の負傷者 50代) 名古屋地裁で開かれた、10日の判決公判。 名古屋地裁は、「基本的な注意義務を怠った被告の過失は大きい。被害者らがいきなりの悲劇に襲われた衝撃は大きかったと推察されるのに対し、十分な慰謝の措置を講じていない」とした一方で「前科がないこと」などから元店長に対し、禁錮1年2カ月の判決を言い渡しました。 Q:10日までに補償や謝罪は? 「結局、何もないですね。そのままずっと何も対応してもらいないまま、きょうという日を迎えました。正直、それで『許せ』と言われて『許します』と言えるかといったら許せないのが本音です。一言くらいは「すまなかった」という気持ちで謝ってほしい」(火事の負傷者 50代) 何の落ち度もなく、事件に巻き込まれた被害者。再発防止を望みます。 「お店を経営される方に言いたいのは、火災保険に入らず営業している人は見直していただいて、安心して利用できるようにぜひともやっていただきたいと思います」(火事の負傷者 50代) (4月10日 15:40~放送 メ~テレ『アップ!』より)