「わしら、娑婆にいる時間がカタギさんより少ないんや」梅干し1個1000円、米は産地直送…ヤクザが食事にこだわる“切実すぎる事情”

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「彼らも仲間を殺されて、気が立ってるから」ヤクザに順番を譲る警察官…取材中に見た“弱腰すぎる警察の実態” から続く
これまでに2000人以上のヤクザに会い、取材してきたという鈴木智彦氏。ヤクザ専門誌『実話時代 BULL』編集長を務めた後、フリーライター兼カメラマンとしてヤクザ関連の記事を寄稿し続けている。
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ここでは、鈴木氏が「教科書では教えてくれないヤクザの実態」について詳しくまとめた『ヤクザ2000人に会いました!』(宝島社)より一部を抜粋。意外と知られていない、現代ヤクザの“日常”の実態を明かす。(全2回の2回目/前編を読む)
AFLO
◆◆◆
一般的なヤクザの生活イメージは、たとえばこんなところではないか。自堕落で、毎晩遅くまで飲み歩き、夕方近くにやっと起きる……。しかし、そんなヤクザは今や使い物にならない。
覚せい剤との関係にしてもそうである。もはやポン中ではヤクザはつとまらないという。悪い冗談のようだが、覚醒剤の卸元が「ポン中が組内にウヨウヨいるような時代もあったが、今はそんなことしてちゃもたない」と断言するのだから、ヤクザも決して楽な商売ではないのだろう。
朝7時に起き、新聞各紙に目を通す。自宅の周囲を散歩し、帰宅して朝食。シャワーを浴びて事務所へ。昼食は事務所近くで食べ、午後はシノギの現場を回る。夜はスポンサーと会食、軽く酒を飲み、10時には帰宅。読書やテレビ番組のチェックをし、風呂につかって12時には就寝……。
多忙な中堅幹部クラスの一日はほぼこんな感じか。四次団体の組長なら、三次団体と二次団体の当番が月に数回あって、1カ月の3分の1程度はからだを拘束される。義理事があれば、あと数日。自由な時間はほとんどない。
会食の多さは、まるで政治家並だ。ヤクザのモットー「働かずして食う」ためには、ブレーンが欠かせない。顔で食っているヤクザたちは、ブレーンとの人間関係が腐らないよう、常にその維持に努めねばならない。また、大きなスポンサーから声がかかれば、夜中だって出かけていく。暴力を主体にしながら普段は人気商売で、ある意味、芸能人的な活動を強いられる。
部屋住みの若い衆は、まるでひと昔前の丁稚奉公のようだ。部屋住みというのは、親分と同じ屋根の下で寝起きし、身の回りの世話をしながら、ヤクザのイロハを学ぶ制度である。ヤクザ礼賛記事的に書けば、「ヤクザ事というものは、言葉で教えることができない無形のものであり、こうやればヤクザとして合格だという公式も方程式もない。死を意識せざるをえない修羅場ではたったひと言の掛け合いが明暗を分ける。その時々で臨機応変に対応していかねばならず、若い人間は親分の背中から極意を学んでいくしかないのである」とでもなろう。
しかし現実的には、組織人としての基礎、とりわけ礼儀作法を短期間でからだに覚えさせるのが目的で、進んで人柱となるための“洗脳”の意味も大きい。
ただし、ヤクザの世界を見て思うのは、暇な時間をつぶす能力が必要だということ。親分のための待機時間がそれで、会食中、車の中で待ち続ける若い衆は、何時間でもその場に待機する。事務所での待ちも多く、何もできず、どこにも行けず、いつ待機が解けるか分からないまま、ひたすら待ち続ける時間はこのうえなく苦痛だろう。スマホのおかげで、ずいぶん助かっているに違いない。
このように意外に真面目で質素なヤクザだが、食事にはこだわりをみせる。
「わしら、娑婆にいる時間がカタギさんより少ないんや。サラリーマンと同じもんを同じように食えまっかいな」
大阪・独立組織の某幹部組長がいうように、ヤクザたちが食欲という人間の根本的な欲望にこだわるのは、至極当然の話。一緒に食事をしてみれば、彼らの食欲に対する貪欲さを実感すること請け合いだ。料亭や高級店で、ご馳走になったことは数知れない。「日本一旨い焼き肉」や「日本一旨い寿司」を、全国でいったい何度食ったことだろう。ただし、ヤクザの言う“うまい”は“高価”なので、見掛け倒しのときもある。
もっとも、ヤクザたちの普段の食事は、意外に質素である。毎晩、脂の乗った大トロを食べているわけではないし、血の滴る霜降り和牛のステーキばかりを食っているわけでもない。接待で豪華な食事をとっているせいか、部屋住みの若い衆が親分のために作る食事はごく普通だ。もちろん、食卓に乗る梅干しが、1個1000円の宮内庁御用達のものだったり、米が産地から直送された正真正銘の魚沼産コシヒカリだったりするが、見た目には一般家庭の食卓とそう変わらない。
東京の広域団体幹部組長が言う。「べつに豪勢なものを食ってるわけじゃない。普段の食事は普通。朝はご飯にみそ汁、焼き魚と漬け物で充分だし、昼は軽く蕎麦やうどん、夜だって普通の飯だ。刑務所暮らしで粗食には慣れてるし、うまい飯ってのは、豪華な食材を使えばいいってもんじゃないからな。 娑婆で食うどんなご馳走より、塀の中で食べるおはぎのほうがうめえよ。中では基本的に甘い物が出ない。おはぎが出たときは涙が出た。ただ、甘い物が出るのは死刑執行がある日なんだ。だから、嬉しいけど悲しくて、なんとも複雑な気分になる」ヤクザ社会も健康ブーム 某組長が続ける。「外で牛丼やハンバーガーを食うわけにはいかない。量だって、食いきれないほど注文する。それは自分のためじゃなく、世間の目があるから。男を売ってるんだ。けちけちするわけにはいかねえ。 ただし、最近では客に豪華な料理を振る舞っても、自分は少々箸をつけるだけという親分たちが多いよ。ヤクザ社会も健康ブームでね。なんだか自分でもおかしいと思うけど、ヤクザだって長生きしてぇんだよ」 仲間との外食では、一膳料理やうどん屋、お好み焼き屋やラーメン屋に入ることが多く、若手組長たちは暴走族世代のため、かなり役職の高い人間でもファミレスに行ったりする。 夜中、突然友達の家に行くこととなり、ミスドのドーナツを買い込む様子は、なにやらヤクザらしくなかったが、それでも「ここにあるヤツ全部くれ!」といったりするから、やはりヤクザはどこまでも見栄っ張りである。 地元の裏名所になっている六代目山口組本家のすぐ近くには、かつてどこにでもある普通のうどん屋があって、定例会になると全国から直参組長が訪れていた。ここには「上カレーうどん」という名物メニューがあった。たしかに旨いのだが、値段はごく普通で、特別豪華な食材を使っているわけではなかった。 しかし、「上」の一文字が、見栄っ張りなヤクザの心をがっちりとらえ、売れ筋ナンバーワン・メニューになっていた。家族は「ヤクザ家業」をどう思っているか ヤクザの家族のあり方は、一般的な家庭とさほど変わりない。 子煩悩なヤクザは多いし、マイホームパパと呼んで差し支えないヤクザだっている。加えて、今のヤクザたちは、社会的ハンディが家族にまで及ばないようにするため、渡世とプライベートを明確に切り離し、家族の生活にヤクザ的要素が入り込まないように努めている。 福岡県警のヤクザ対策は、「福岡方式」と呼ばれ、刑事が子供たちの通う学校に出向き、「あいつの父親はヤクザだ」と吹聴するほど過酷なことで知られるが、ヤクザの家族も、日常生活で遭遇するこのような不利益を回避するため、可能な限り、普通に振る舞おうとしている。近所に対し、父親がヤクザである事実は往々にして伏せられるし、学校でも、あくまで会社役員で通すことが一般的となった。ヤクザを社会的弱者と認識するのは困難だろうが、「社会悪」と呼ばれる父親を持つ家族にとっては、なにかと辛いのだ。 ただし、子供たちにまで嘘はつけず、物心つく頃には、ほぼ100%父親の特殊な仕事を理解するようになる。たいていは「うちのお父さんは背中に絵があるのに、友達のお父さんにはそれがない」という、リアルなひとコマがきっかけになるらしい。 それでもヤクザという職業は非常に特殊なためか、知らず知らずのうちに、一般家庭ではありえないような慣習が定着したりする。携帯電話が普及した現在、非常事態が起きればいつでも電話がかかってくるため、どれだけ気を遣っても、家族たちは暴力社会の空気に触れざるをえないのだ。実際、喧嘩や拳銃、犯罪や刑務所に対する意識はやっぱり特別で、ヤクザの子供たちの多くは、暴力のスタンスが一般人とは明らかに違う。 ある組長から自宅に呼ばれ、拳銃を見せられたとき、周囲にいた組長の家族は、まったく拳銃に無関心だった。ごくありふれた家族の日常に、違和感なくとけ込んだ人殺しの道具。女房や子供たちがテレビを観ているすぐ後ろで拳銃を取り出し、大声で解説をしているのに、家族たちには驚いた様子がまったくなく、この異様な光景は、今でも脳裏に焼き付いている。 子供たちの多くは、父親を通じて暴力社会の理不尽さを痛感しているので、ヤクザになることは少ない。ヤクザたちも、かつては自分の子供を決してヤクザになどしようとしなかった。「自分の代で終わり。息子にはヤクザを使う側の人間になれ、と教えている」(広報組織幹部) ただ、最近では親と同じ仕事を選ぶ子供たちが増えているようだ。親分の跡目を実子が継ぐケーズも目立っており、二世の台頭を見ると、今の親分は気楽で、おいしい仕事なのかもしれないと感じる。(鈴木 智彦/Webオリジナル(外部転載))
東京の広域団体幹部組長が言う。
「べつに豪勢なものを食ってるわけじゃない。普段の食事は普通。朝はご飯にみそ汁、焼き魚と漬け物で充分だし、昼は軽く蕎麦やうどん、夜だって普通の飯だ。刑務所暮らしで粗食には慣れてるし、うまい飯ってのは、豪華な食材を使えばいいってもんじゃないからな。
娑婆で食うどんなご馳走より、塀の中で食べるおはぎのほうがうめえよ。中では基本的に甘い物が出ない。おはぎが出たときは涙が出た。ただ、甘い物が出るのは死刑執行がある日なんだ。だから、嬉しいけど悲しくて、なんとも複雑な気分になる」
某組長が続ける。
「外で牛丼やハンバーガーを食うわけにはいかない。量だって、食いきれないほど注文する。それは自分のためじゃなく、世間の目があるから。男を売ってるんだ。けちけちするわけにはいかねえ。
ただし、最近では客に豪華な料理を振る舞っても、自分は少々箸をつけるだけという親分たちが多いよ。ヤクザ社会も健康ブームでね。なんだか自分でもおかしいと思うけど、ヤクザだって長生きしてぇんだよ」
仲間との外食では、一膳料理やうどん屋、お好み焼き屋やラーメン屋に入ることが多く、若手組長たちは暴走族世代のため、かなり役職の高い人間でもファミレスに行ったりする。
夜中、突然友達の家に行くこととなり、ミスドのドーナツを買い込む様子は、なにやらヤクザらしくなかったが、それでも「ここにあるヤツ全部くれ!」といったりするから、やはりヤクザはどこまでも見栄っ張りである。
地元の裏名所になっている六代目山口組本家のすぐ近くには、かつてどこにでもある普通のうどん屋があって、定例会になると全国から直参組長が訪れていた。ここには「上カレーうどん」という名物メニューがあった。たしかに旨いのだが、値段はごく普通で、特別豪華な食材を使っているわけではなかった。
しかし、「上」の一文字が、見栄っ張りなヤクザの心をがっちりとらえ、売れ筋ナンバーワン・メニューになっていた。
ヤクザの家族のあり方は、一般的な家庭とさほど変わりない。
子煩悩なヤクザは多いし、マイホームパパと呼んで差し支えないヤクザだっている。加えて、今のヤクザたちは、社会的ハンディが家族にまで及ばないようにするため、渡世とプライベートを明確に切り離し、家族の生活にヤクザ的要素が入り込まないように努めている。
福岡県警のヤクザ対策は、「福岡方式」と呼ばれ、刑事が子供たちの通う学校に出向き、「あいつの父親はヤクザだ」と吹聴するほど過酷なことで知られるが、ヤクザの家族も、日常生活で遭遇するこのような不利益を回避するため、可能な限り、普通に振る舞おうとしている。近所に対し、父親がヤクザである事実は往々にして伏せられるし、学校でも、あくまで会社役員で通すことが一般的となった。ヤクザを社会的弱者と認識するのは困難だろうが、「社会悪」と呼ばれる父親を持つ家族にとっては、なにかと辛いのだ。
ただし、子供たちにまで嘘はつけず、物心つく頃には、ほぼ100%父親の特殊な仕事を理解するようになる。たいていは「うちのお父さんは背中に絵があるのに、友達のお父さんにはそれがない」という、リアルなひとコマがきっかけになるらしい。
それでもヤクザという職業は非常に特殊なためか、知らず知らずのうちに、一般家庭ではありえないような慣習が定着したりする。携帯電話が普及した現在、非常事態が起きればいつでも電話がかかってくるため、どれだけ気を遣っても、家族たちは暴力社会の空気に触れざるをえないのだ。実際、喧嘩や拳銃、犯罪や刑務所に対する意識はやっぱり特別で、ヤクザの子供たちの多くは、暴力のスタンスが一般人とは明らかに違う。
ある組長から自宅に呼ばれ、拳銃を見せられたとき、周囲にいた組長の家族は、まったく拳銃に無関心だった。ごくありふれた家族の日常に、違和感なくとけ込んだ人殺しの道具。女房や子供たちがテレビを観ているすぐ後ろで拳銃を取り出し、大声で解説をしているのに、家族たちには驚いた様子がまったくなく、この異様な光景は、今でも脳裏に焼き付いている。
子供たちの多くは、父親を通じて暴力社会の理不尽さを痛感しているので、ヤクザになることは少ない。ヤクザたちも、かつては自分の子供を決してヤクザになどしようとしなかった。
「自分の代で終わり。息子にはヤクザを使う側の人間になれ、と教えている」(広報組織幹部)
ただ、最近では親と同じ仕事を選ぶ子供たちが増えているようだ。親分の跡目を実子が継ぐケーズも目立っており、二世の台頭を見ると、今の親分は気楽で、おいしい仕事なのかもしれないと感じる。
(鈴木 智彦/Webオリジナル(外部転載))

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