《車内置き去り》自動車大国・日本で“熱中症死対策”が進まないのはなぜなのか…他国の取り組みとの“圧倒的な違い”

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2022年、3歳の女の子が幼稚園の送迎バス内で倒れているのが見つかり、その後、死亡が確認された。2021年7月にも、福岡県内の保育園で同様の事件が起きたように幼児の車内放置事故はあとを絶たない。
【写真】この記事の写真を見る(2枚) そして、車内放置による悲痛な死亡事故は、毎夏のように報道されるにもかかわらず、具体的な予防策は見出されていない。このような事故が起きるたび、俎上に載せられるのはもっぱら「監督者の責任」だ。

もちろん、子どもを保護・監督する立場の者に責任が帰せられるのは当然ではある。とはいえ、思わぬ過失によって子どもを死に至らしめてしまう悲劇を、「責任」の一言で済ませるのはあまりに救いがない。自動車産業におけるシステマチックな予防策はないのか。また、他国ではどのような対策がとられているのだろうか。今回は、実際に事故が生じたバスにおける例ではないものの、普通乗用車における他国の取り組みについて、再公開して紹介する。(初出:2021/11/09)車内放置は「車両側のシステム」で防ぐ 車内放置に対する技術的な予防策としては、車両側のシステムを通じた注意喚起が考えられる。実際に、現状でもそのようなシステムは開発されており、欧米においてはすでに、「CPD(Child Presence Detection : 幼児置き去り検知システム)」の搭載をメーカーの責務とする趨勢が強まっている。 CPDとは、車載センサーなどによって車内への置き去りを検知し、警告音などでドライバーに知らせるシステムの総称だ。現在、米国では新型車へのCPD搭載を義務化する法案が審議中で、欧州においては新型車両の安全性能評価を行う「ユーロNCAP」の評価基準として、CPDに関する項目が2023年から導入される見込みである。iStock.com 国内におけるCPDの普及状況はどうか。トヨタ・ホンダ・日産の3社に現状と今後の展開予定について尋ねたところ、トヨタはシエンタやヤリス、ハリアーなど、ホンダはヴェゼルやHonda e、N-ONEといった車両に同機能を搭載しており、今後も搭載車種を拡大していく意向であった。日産については現状国内の導入モデルがなく、今後については「検討中」とのことである。欧米との温度差 国内メーカー各社の日米ラインナップを比較すると、米ではCPDが搭載されている車種でも、日本向けモデルには導入されていないケースが見られる。今のところ、国内での導入例は一部メーカーの最新車種に限られており、業界を通じての積極性は薄いと言える。 行政による制度面からのアプローチも、現状では検討外にある。自動車アセスメントを管轄する国土交通省によると、同評価試験の評価対象にCPDを含める意向は今のところなく、今後の普及状況や社会情勢をふまえて検討していく見込みだという。 こうした欧米との温度差は、車内放置事故に対する社会的な関心の差でもあるだろう。米国において、車内での熱中症による15歳未満の死亡事故は2010年から2018年までの平均で年間40件近くあり、法制面からのアプローチが強く求められてきた。一方国内では、熱中症全体で見ても同期間・同年齢層における死亡事故は年間平均3件に満たず、事例の少なさゆえか世論として「保護者・親の責任」で片付けられる傾向にある。 しかし、死亡事例は多くないとはいえ、救急搬送は頻発しており、事故の可能性は日常に潜んでいる。技術によって予防しうる「万が一」を、自己責任に帰してしまうのは、文明的態度とは言いがたい。先進システムを導入する韓国メーカー 現状、国内車種に採用されているシステムは「ドアロジック方式」と呼ばれるものであり、ドアの開閉記録にもとづきエンジン停止時にアラートを発するタイプである。もっとも一般的なのは、後席ドアを開閉してからエンジンをかけると、走行後のエンジン停止時に、警告音とともに「後席への置き忘れにご注意ください」といった案内が表示される形だ。 このタイプでも注意喚起としては十分であるが、荷物と子どもの区別なくアラートを発するため、長く使っていれば警告音そのものに慣れてしまうことも考えられる。さらに、送迎バスのように多数の子どもを乗せているケースでは、見落としを直接予防することにはならないだろう。 対して、先進型のシステムとしては、ヒョンデやキアが導入している「センサー方式」がある。超音波センサーにより、停車後の車内における動きを検知し、ホーンやスマートフォンアプリによる通知を行う。 今後の応用性を考えれば、やはりセンサー方式が望ましい。近い将来、超音波センサーのほかレーダーやカメラを用いたモニタリングシステムにより、乗員の体温に連動したエアコン制御や、自動の緊急通報などが可能になれば、事態の深刻化を防げるケースも増えるはずだ。 センサー方式など新たな検知システムの導入について先のメーカーに尋ねたところ、ホンダからは「状況を鑑みながら検討」、トヨタからは「電波や画像などを含むセンサー方式も検討しているが、導入に向けては、技術的な長所と短所等を含めて総合的に検討」という旨の回答が返ってきた。「欧州基準の安全性」には「センサー方式」が必須に 現状では慎重な構えを示す国内メーカーだが、安全性能評価の基準から言えば、センサー方式への移行は必定である。ユーロNCAPが原案として示すCPDの評価基準においては、国内車種のようなドアロジック方式の評点は極めて低く、2025年以降はそもそも評点が与えられなくなる見通しである。 つまり、センサーなどでダイレクトに人の動きを検知したうえで、段階的にホーンやウインカーによって周囲にアラートを発したり、窓やエアコンを自律的に操作したりといった機能がなければ、ユーロNCAPにおいて高評価を得ることが難しくなるのである。欧州市場に適合させるうえで、国内メーカーがこの点をなおざりにするとは考えにくい。 しかし、技術的にセンサー方式への移行を実現したとして、問題として残るのは、これが普及価格帯の国内車種にも標準搭載されるかどうか、という点である。ドアロジック方式でも普及が進んでいない国内市場において、より高度なシステムが積極的に導入されるかは疑わしい。導入による価格上昇を抑えられるか 消費者側としても、平均所得に見合わず新車価格ばかりが上昇するなか、さらなる価格アップの要因となる新技術の搭載を歓迎しない声は大きいと考えられる。しかもその技術が、「車内放置」というごく限られた場面でしか機能しないとなればなおさらだろう。「そんなもの、保護者が十分注意すればいいだけではないか」と考える向きもあるかもしれない。 しかし、現在搭載が義務化されている自動ブレーキも、一部では「ドライバーが十分注意すれば不要」と言われていた技術である。ところが当然、「人間の注意力」は万能ではなく、つねにエラーの可能性はある。事故防止の観点から言えば、注意力を自己責任の問題に帰すのではなく、可能な限り技術による補助を加えることが望ましい。 コストの面でも、技術の普及にともなう量産効果により、上昇分は抑えられるはずである。たとえばトヨタの先進運転システム「Toyota Safety Sense」は、自動ブレーキに加えてレーダークルーズコントロール、車線逸脱防止や自動ハイビームなど複合的な予防安全機能を備えるシステムであるが、2020年に発売したヤリスを見ると、同システムの有無による価格差はわずか6万円に抑えられている。カメラやセンサーといったハードウェアを流用しながら、ソフトウェア側の制御によって複数の機能に対応させることが、コストダウンの肝になっているのである。課題は「車両のソフトウェア制御」 センサー方式のCPDを標準装備とし、かつ車両価格の上昇を抑えるうえでも、「ハードウェアの流用」と「ソフトウェアによる制御」が鍵を握るだろう。 つまり、CPDを単なる付加機能として扱うのではなく、ドライバーモニタリングや生体認証、緊急通報といった一連のシステムのうちに組み入れるわけである。ちょうど、PCやスマートフォンのOSに対するアプリケーションのように、一元的な制御システムによって実行される多様な機能の一つとして、CPDを捉える必要があるのだ。 これは決して突飛なことを言っているわけではない。現在、自動車業界は「100年に1度の変革期」の最中にあると言われるが、変革のキーワードとしてしばしば「CASE」という略称が用いられている。この言葉は、「コネクテッド化」「自動運転」「シェア&サービス」「電気自動車」といった領域における技術の飛躍を予告するものだが、こうした一連の変革によってもたらされるのが「車両のスマートデバイス化」である。 すなわち、自動車をスマートフォンやIoT機器のように扱える未来が期待されているわけである。たとえば、生体認証でドアが開き、シートは自動でドライバーに合わせた位置に調節される。車に乗り込み、音声入力で目的地を告げれば、自動的に車がルートを割り出し、走行を開始する……走行中はプロファイル情報にもとづき、好みの音楽や映像が流れ、進んでいるルート上に事故があれば、最短の迂回ルートを割り出す。ドライバーが居眠りしそうなら、最寄りの休憩できる施設を提案し、万が一、病気などの発作で意識を失った場合には、自動で緊急通報を行う……こうしたスマート化の流れのうちに、CPDを位置づけることが求められているわけである。「CASE時代」に、日本は“自動車大国”であり続けられるか こうした背景から、いまや車内放置対策の問題は、単にメーカー側の「CPDを導入する意向」によってのみ決定されるものではなくなっている。日本国内の自動車産業が、次世代のキーファクターたるスマート化の流れを主導しうるかに関わる問題なのだ。スマートフォンをはじめ、IoTやAI家電といった分野で後れを取ってきた国内メーカーであるが、基幹産業たる自動車分野で二の舞を演じるわけにはいかない。 見通しは明るくない。たとえば先のヒョンデは2019年、指紋認証により車両のロック解除やシート・ミラー位置の調整、オーディオ設定の呼び出しなどを自動で行うシステムを世界で初めて市販車に導入した。さらに2021年内に顔認証のシステムを実装予定であり、スマート化の流れにおいていち早く存在感を示している。その他、自動車を「IoT機器の延長」のように捉えるEV関連のスタートアップ企業も、CASE時代の強敵となりうるだろう。 先進国の先進性は「民度の高さ」などにあるのではなく、技術と制度の練度にあり、これを通じて張り巡らされるセーフティネットの強固さにある。今後もし、他国の技術であれば救えた命を救えない状況に陥ったとき、私たちはなおこの国を「自動車大国」と呼ぶことができるだろうか。(鹿間 羊市)
そして、車内放置による悲痛な死亡事故は、毎夏のように報道されるにもかかわらず、具体的な予防策は見出されていない。このような事故が起きるたび、俎上に載せられるのはもっぱら「監督者の責任」だ。
もちろん、子どもを保護・監督する立場の者に責任が帰せられるのは当然ではある。とはいえ、思わぬ過失によって子どもを死に至らしめてしまう悲劇を、「責任」の一言で済ませるのはあまりに救いがない。自動車産業におけるシステマチックな予防策はないのか。また、他国ではどのような対策がとられているのだろうか。今回は、実際に事故が生じたバスにおける例ではないものの、普通乗用車における他国の取り組みについて、再公開して紹介する。
(初出:2021/11/09)
車内放置に対する技術的な予防策としては、車両側のシステムを通じた注意喚起が考えられる。実際に、現状でもそのようなシステムは開発されており、欧米においてはすでに、「CPD(Child Presence Detection : 幼児置き去り検知システム)」の搭載をメーカーの責務とする趨勢が強まっている。
CPDとは、車載センサーなどによって車内への置き去りを検知し、警告音などでドライバーに知らせるシステムの総称だ。現在、米国では新型車へのCPD搭載を義務化する法案が審議中で、欧州においては新型車両の安全性能評価を行う「ユーロNCAP」の評価基準として、CPDに関する項目が2023年から導入される見込みである。
国内におけるCPDの普及状況はどうか。トヨタ・ホンダ・日産の3社に現状と今後の展開予定について尋ねたところ、トヨタはシエンタやヤリス、ハリアーなど、ホンダはヴェゼルやHonda e、N-ONEといった車両に同機能を搭載しており、今後も搭載車種を拡大していく意向であった。日産については現状国内の導入モデルがなく、今後については「検討中」とのことである。
国内メーカー各社の日米ラインナップを比較すると、米ではCPDが搭載されている車種でも、日本向けモデルには導入されていないケースが見られる。今のところ、国内での導入例は一部メーカーの最新車種に限られており、業界を通じての積極性は薄いと言える。
行政による制度面からのアプローチも、現状では検討外にある。自動車アセスメントを管轄する国土交通省によると、同評価試験の評価対象にCPDを含める意向は今のところなく、今後の普及状況や社会情勢をふまえて検討していく見込みだという。
こうした欧米との温度差は、車内放置事故に対する社会的な関心の差でもあるだろう。米国において、車内での熱中症による15歳未満の死亡事故は2010年から2018年までの平均で年間40件近くあり、法制面からのアプローチが強く求められてきた。一方国内では、熱中症全体で見ても同期間・同年齢層における死亡事故は年間平均3件に満たず、事例の少なさゆえか世論として「保護者・親の責任」で片付けられる傾向にある。
しかし、死亡事例は多くないとはいえ、救急搬送は頻発しており、事故の可能性は日常に潜んでいる。技術によって予防しうる「万が一」を、自己責任に帰してしまうのは、文明的態度とは言いがたい。
現状、国内車種に採用されているシステムは「ドアロジック方式」と呼ばれるものであり、ドアの開閉記録にもとづきエンジン停止時にアラートを発するタイプである。もっとも一般的なのは、後席ドアを開閉してからエンジンをかけると、走行後のエンジン停止時に、警告音とともに「後席への置き忘れにご注意ください」といった案内が表示される形だ。
このタイプでも注意喚起としては十分であるが、荷物と子どもの区別なくアラートを発するため、長く使っていれば警告音そのものに慣れてしまうことも考えられる。さらに、送迎バスのように多数の子どもを乗せているケースでは、見落としを直接予防することにはならないだろう。
対して、先進型のシステムとしては、ヒョンデやキアが導入している「センサー方式」がある。超音波センサーにより、停車後の車内における動きを検知し、ホーンやスマートフォンアプリによる通知を行う。
今後の応用性を考えれば、やはりセンサー方式が望ましい。近い将来、超音波センサーのほかレーダーやカメラを用いたモニタリングシステムにより、乗員の体温に連動したエアコン制御や、自動の緊急通報などが可能になれば、事態の深刻化を防げるケースも増えるはずだ。
センサー方式など新たな検知システムの導入について先のメーカーに尋ねたところ、ホンダからは「状況を鑑みながら検討」、トヨタからは「電波や画像などを含むセンサー方式も検討しているが、導入に向けては、技術的な長所と短所等を含めて総合的に検討」という旨の回答が返ってきた。
現状では慎重な構えを示す国内メーカーだが、安全性能評価の基準から言えば、センサー方式への移行は必定である。ユーロNCAPが原案として示すCPDの評価基準においては、国内車種のようなドアロジック方式の評点は極めて低く、2025年以降はそもそも評点が与えられなくなる見通しである。
つまり、センサーなどでダイレクトに人の動きを検知したうえで、段階的にホーンやウインカーによって周囲にアラートを発したり、窓やエアコンを自律的に操作したりといった機能がなければ、ユーロNCAPにおいて高評価を得ることが難しくなるのである。欧州市場に適合させるうえで、国内メーカーがこの点をなおざりにするとは考えにくい。
しかし、技術的にセンサー方式への移行を実現したとして、問題として残るのは、これが普及価格帯の国内車種にも標準搭載されるかどうか、という点である。ドアロジック方式でも普及が進んでいない国内市場において、より高度なシステムが積極的に導入されるかは疑わしい。
消費者側としても、平均所得に見合わず新車価格ばかりが上昇するなか、さらなる価格アップの要因となる新技術の搭載を歓迎しない声は大きいと考えられる。しかもその技術が、「車内放置」というごく限られた場面でしか機能しないとなればなおさらだろう。「そんなもの、保護者が十分注意すればいいだけではないか」と考える向きもあるかもしれない。
しかし、現在搭載が義務化されている自動ブレーキも、一部では「ドライバーが十分注意すれば不要」と言われていた技術である。ところが当然、「人間の注意力」は万能ではなく、つねにエラーの可能性はある。事故防止の観点から言えば、注意力を自己責任の問題に帰すのではなく、可能な限り技術による補助を加えることが望ましい。
コストの面でも、技術の普及にともなう量産効果により、上昇分は抑えられるはずである。たとえばトヨタの先進運転システム「Toyota Safety Sense」は、自動ブレーキに加えてレーダークルーズコントロール、車線逸脱防止や自動ハイビームなど複合的な予防安全機能を備えるシステムであるが、2020年に発売したヤリスを見ると、同システムの有無による価格差はわずか6万円に抑えられている。カメラやセンサーといったハードウェアを流用しながら、ソフトウェア側の制御によって複数の機能に対応させることが、コストダウンの肝になっているのである。
センサー方式のCPDを標準装備とし、かつ車両価格の上昇を抑えるうえでも、「ハードウェアの流用」と「ソフトウェアによる制御」が鍵を握るだろう。
つまり、CPDを単なる付加機能として扱うのではなく、ドライバーモニタリングや生体認証、緊急通報といった一連のシステムのうちに組み入れるわけである。ちょうど、PCやスマートフォンのOSに対するアプリケーションのように、一元的な制御システムによって実行される多様な機能の一つとして、CPDを捉える必要があるのだ。
これは決して突飛なことを言っているわけではない。現在、自動車業界は「100年に1度の変革期」の最中にあると言われるが、変革のキーワードとしてしばしば「CASE」という略称が用いられている。この言葉は、「コネクテッド化」「自動運転」「シェア&サービス」「電気自動車」といった領域における技術の飛躍を予告するものだが、こうした一連の変革によってもたらされるのが「車両のスマートデバイス化」である。
すなわち、自動車をスマートフォンやIoT機器のように扱える未来が期待されているわけである。たとえば、生体認証でドアが開き、シートは自動でドライバーに合わせた位置に調節される。車に乗り込み、音声入力で目的地を告げれば、自動的に車がルートを割り出し、走行を開始する……走行中はプロファイル情報にもとづき、好みの音楽や映像が流れ、進んでいるルート上に事故があれば、最短の迂回ルートを割り出す。ドライバーが居眠りしそうなら、最寄りの休憩できる施設を提案し、万が一、病気などの発作で意識を失った場合には、自動で緊急通報を行う……こうしたスマート化の流れのうちに、CPDを位置づけることが求められているわけである。
こうした背景から、いまや車内放置対策の問題は、単にメーカー側の「CPDを導入する意向」によってのみ決定されるものではなくなっている。日本国内の自動車産業が、次世代のキーファクターたるスマート化の流れを主導しうるかに関わる問題なのだ。スマートフォンをはじめ、IoTやAI家電といった分野で後れを取ってきた国内メーカーであるが、基幹産業たる自動車分野で二の舞を演じるわけにはいかない。
見通しは明るくない。たとえば先のヒョンデは2019年、指紋認証により車両のロック解除やシート・ミラー位置の調整、オーディオ設定の呼び出しなどを自動で行うシステムを世界で初めて市販車に導入した。さらに2021年内に顔認証のシステムを実装予定であり、スマート化の流れにおいていち早く存在感を示している。その他、自動車を「IoT機器の延長」のように捉えるEV関連のスタートアップ企業も、CASE時代の強敵となりうるだろう。
先進国の先進性は「民度の高さ」などにあるのではなく、技術と制度の練度にあり、これを通じて張り巡らされるセーフティネットの強固さにある。今後もし、他国の技術であれば救えた命を救えない状況に陥ったとき、私たちはなおこの国を「自動車大国」と呼ぶことができるだろうか。
(鹿間 羊市)

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