若者がインフルエンサーに依存するワケ。「球を持たされる」ことを嫌がり「自分で決めること」を避けるSNSネイティブ世代

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自分で考えて行動できない、指示がないと動けない「指示待ち人間」。チームや会社のパフォーマンスにも影響を及ぼしかねない存在ですが、同じ「指示待ち人間」でも、今の若者に限ってはこれまでの世代とやや趣が違うと、金沢大学の金間大介先生は言います。特にSNSネイティブの彼らは「自分で意思決定することに対して、強い抵抗を持っている」とのことで――。
この記事のすべての写真を見る* * * * * * *なぜ質問しないのか「例題にならう」決め方に関しては、彼らの間には強力な「行動の三原則」がある。

(1) 提示された例題はものすごく参考にする(2) 例題の提示がなければ基本、何もできない(しない)(3) よって、参考とすべき例題の提示を強く望むこんなエピソードがある。ある職場で、上司が新入社員にひととおりのやり方を教えた上で、「わからなくなったらいつでも聞いて」と言い残し、ある業務を任せた。もちろん、ちょっと教えただけですべてサラサラとできる業務ではない(仕事とはそんな楽なものじゃない)。しかし、彼らは一向に質問に現れない。さて、それはなぜでしょう?その上司の顔が怖いから?確かにそれもあるかもしれない。ならばエピソードの設定変更。その上司は福山雅治のようにカッコよく、大泉洋のように気さくでおもしろい人だとしよう。さあこれで質問に来るか。と思いきや、依然として質問には現れない。なぜか?答えは簡単だ。というか、もうあなたはその答えを知っている。答えは行動の三原則の(1)と(2)にある。「質問の仕方」の例題が必要彼らは、質問の仕方に関する例題を示してもらってない。残念ながら多くの上司は、この答えに辿り着かない。辿り着かないまま、任せた業務のデッドラインが近づく。しびれを切らして席を立ち、次のどちらかを演じることになる。「なぜすぐに質問に来ないんだい? 貴重な時間を無駄にしてはいけないよ」(福山雅治風)「君たちはできなくて当たり前なんだから、どんなことでも聞きゃいいんだよ」(大泉洋風)せっかく主演級の演技を繰り出したところに申し訳ないが、いい子症候群のリアクションは、次のうちのどちらかになる。・次からあらゆることを聞きに来る(だってそう指示されたから)または、・やっぱり何も聞きに来ない(だって質問の仕方に関する例題を授かってないから)あなたは思わず声を荒らげ本音をぶつける。「もっと自分の頭で考えろ!」……大変申し上げにくいのだが、そのお叱りはほとんど無意味だ。あなたは自分の頭で考える例題を示してあげていない。選択の決め手はインフルエンサーこのタイトルを見て、「なるほど、確かに最近の若者はマスメディアの情報よりも、SNSを見て購買の意思決定をしてるからな。次はその話か」と思った方、惜しい。ちょっと違います。いや、現在の若者の商品選択基準についてはそのとおりだが、ここでは、なぜインフルエンサーが流行るのかにまで踏み込んでみたい。『先生、どうか皆の前でほめないで下さい―― いい子症候群の若者たち』(著:金間 大介/東洋経済新報社)ちなみに「インフルエンサーって何すか?」(そこから!?)という方のために、さっと確認しておきたい。インフルエンサーとは、主にSNSでの情報発信によって世間に対して大きな影響を与える人物のことを指す。語源は影響を与えると言う意味の“Influence”そのまんま。著名な芸能人やスポーツ選手を連想する人も多いかもしれない。割合的にはそういった有名人が多いが、「SNS上の有名人」も増えてきている。一般人であっても、消費者の立場や目線で、かつおもしろおかしく情報発信するスキルを獲得すると、多くのフォロワーがつくようになる。転じて、ユーチューバー(YouTuber)やティックトッカー(TikTokker)やインスタグラマー(Instagrammer)といったインフルエンサーとなる。インスタ、ツイッター、ググる、を使い分けるスキンケア商品に関する主な情報源(図:『先生、どうか皆の前でほめないで下さい―― いい子症候群の若者たち』より)一例として、現在の大学生が化粧品を購入する際に活用する情報源を見てみると、上記図表のようにSNSが断トツになる。グーグルに代表されるウェブサイト検索は「ググる」などと言われ、調べものをする代名詞となったが(英語でもgoogle me というように動詞として使ったりする)、今の若者はもうそれほど使わない。最近の人気や流行などを調べたいときはインスタグラム、交通機関の遅延や休講など、今起きていることを知りたいときはツイッター、公式サイトに行くときにはグーグルといった具合に使い分けが進んでいる。なお、LINE(ライン)を若者のツールと思っている方も多いと思うが、最近ではそうでもない。若者にとっては、インスタの「ストーリーズ」(ショート動画機能)やメッセージ機能の使い勝手が上がっている反面、LINEの心理的障壁が高くなっているためだ。今やLINEは、1対1のやり取りや通話、即行性の必要な連絡のみに使う若者も多い。SNSの情報を頼りに消費行動を決める消費行動さえも自分で決めないなぜここまで今の若者はSNSの情報に依存するのか?その答えは、SNSのような消費者発信型メディアの対極にある提供者発信型メディアと比較するとわかりやすい。マスメディアを中心とした従来のプロモーションは、一方通行の情報発信を基本としてきた。それの何が問題かというと、一般的には「双方向のやり取りができないこと」とされる。しかし私は、一方通行型メディアの問題点は「消費者が受け取った情報を自分で解釈しなければならない」ことだと考える。自分に合うのか合わないのか、好きなのか嫌いなのか、正しいのか正しくないのか。こんなごく簡単なことでさえも、いったん「球を持たされる」ことに現在の若者は抵抗を覚える。したがって、若い消費者にとってどんなに有益と思われる情報を提供したとしても、購買に結び付くとは限らない。むしろ、情報を提供すればするほど、意思決定からどんどん遠ざかる可能性すらある。レストランに行ったら、どのオススメを選ぶ?これは若者に限った話ではない。世代に関係なく、人は直感的に意思決定できたほうが楽だからだ。レストランに行って、お店の人がおすすめメニューを紹介したときと、そのお店に連れて行ってくれた友だちが「これめっちゃ美味しかったよ」と言ったときの違いを想像してみてほしい。前者の場合、あなたはいったんその情報を預かることになる。おすすめ料理の値段や店員さんの価値観など、多くのことを勘案して意思決定しなければならない。それに比べて、後者の情報はより素直に受け止めるはずだ。友だちの価値観が自分と近い場合は特に、迷う余地はなくなる。心理学では、お店の人からの情報は「自分たち(経営側)の都合のいいように編集されているのではないか」と考えるバイアスの存在を指摘している。もちろんそれもあるだろう。しかし私は、今はむしろ自分で決めるストレスが大きく影響していると考えている。プラス、今の若者はSNSネイティブであり、直感的に決めることに抵抗もない。SNSに投稿されている消費体験やインフルエンサーの情報は、こちらに球を投げかけてこない。いったん持ち帰り、熟慮し、自分で意思決定せよ、のプロセスがない。見たそのままの感覚で、自分で決めたというストレスなしに、購買に至ることができる。現在の若者は、自分で決めることにそのくらい抵抗がある。※本稿は、『先生、どうか皆の前でほめないで下さい――いい子症候群の若者たち』(東洋経済新報社)の一部を再編集したものです。
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「例題にならう」決め方に関しては、彼らの間には強力な「行動の三原則」がある。
(1) 提示された例題はものすごく参考にする(2) 例題の提示がなければ基本、何もできない(しない)(3) よって、参考とすべき例題の提示を強く望む
こんなエピソードがある。
ある職場で、上司が新入社員にひととおりのやり方を教えた上で、「わからなくなったらいつでも聞いて」と言い残し、ある業務を任せた。もちろん、ちょっと教えただけですべてサラサラとできる業務ではない(仕事とはそんな楽なものじゃない)。
しかし、彼らは一向に質問に現れない。
さて、それはなぜでしょう?
その上司の顔が怖いから?
確かにそれもあるかもしれない。
ならばエピソードの設定変更。その上司は福山雅治のようにカッコよく、大泉洋のように気さくでおもしろい人だとしよう。
さあこれで質問に来るか。
と思いきや、依然として質問には現れない。
なぜか?
答えは簡単だ。というか、もうあなたはその答えを知っている。答えは行動の三原則の(1)と(2)にある。
彼らは、質問の仕方に関する例題を示してもらってない。
残念ながら多くの上司は、この答えに辿り着かない。辿り着かないまま、任せた業務のデッドラインが近づく。しびれを切らして席を立ち、次のどちらかを演じることになる。
「なぜすぐに質問に来ないんだい? 貴重な時間を無駄にしてはいけないよ」(福山雅治風)
「君たちはできなくて当たり前なんだから、どんなことでも聞きゃいいんだよ」(大泉洋風)
せっかく主演級の演技を繰り出したところに申し訳ないが、いい子症候群のリアクションは、次のうちのどちらかになる。
・次からあらゆることを聞きに来る(だってそう指示されたから)
または、
・やっぱり何も聞きに来ない(だって質問の仕方に関する例題を授かってないから)
あなたは思わず声を荒らげ本音をぶつける。
「もっと自分の頭で考えろ!」
……大変申し上げにくいのだが、そのお叱りはほとんど無意味だ。
あなたは自分の頭で考える例題を示してあげていない。
選択の決め手はインフルエンサー
このタイトルを見て、「なるほど、確かに最近の若者はマスメディアの情報よりも、SNSを見て購買の意思決定をしてるからな。次はその話か」
と思った方、惜しい。ちょっと違います。いや、現在の若者の商品選択基準についてはそのとおりだが、ここでは、なぜインフルエンサーが流行るのかにまで踏み込んでみたい。
『先生、どうか皆の前でほめないで下さい―― いい子症候群の若者たち』(著:金間 大介/東洋経済新報社)
ちなみに「インフルエンサーって何すか?」(そこから!?)という方のために、さっと確認しておきたい。インフルエンサーとは、主にSNSでの情報発信によって世間に対して大きな影響を与える人物のことを指す。語源は影響を与えると言う意味の“Influence”そのまんま。
著名な芸能人やスポーツ選手を連想する人も多いかもしれない。割合的にはそういった有名人が多いが、「SNS上の有名人」も増えてきている。一般人であっても、消費者の立場や目線で、かつおもしろおかしく情報発信するスキルを獲得すると、多くのフォロワーがつくようになる。転じて、ユーチューバー(YouTuber)やティックトッカー(TikTokker)やインスタグラマー(Instagrammer)といったインフルエンサーとなる。
スキンケア商品に関する主な情報源(図:『先生、どうか皆の前でほめないで下さい―― いい子症候群の若者たち』より)
一例として、現在の大学生が化粧品を購入する際に活用する情報源を見てみると、上記図表のようにSNSが断トツになる。
グーグルに代表されるウェブサイト検索は「ググる」などと言われ、調べものをする代名詞となったが(英語でもgoogle me というように動詞として使ったりする)、今の若者はもうそれほど使わない。
最近の人気や流行などを調べたいときはインスタグラム、交通機関の遅延や休講など、今起きていることを知りたいときはツイッター、公式サイトに行くときにはグーグルといった具合に使い分けが進んでいる。
なお、LINE(ライン)を若者のツールと思っている方も多いと思うが、最近ではそうでもない。若者にとっては、インスタの「ストーリーズ」(ショート動画機能)やメッセージ機能の使い勝手が上がっている反面、LINEの心理的障壁が高くなっているためだ。今やLINEは、1対1のやり取りや通話、即行性の必要な連絡のみに使う若者も多い。
消費行動さえも自分で決めない
なぜここまで今の若者はSNSの情報に依存するのか?
その答えは、SNSのような消費者発信型メディアの対極にある提供者発信型メディアと比較するとわかりやすい。
マスメディアを中心とした従来のプロモーションは、一方通行の情報発信を基本としてきた。それの何が問題かというと、一般的には「双方向のやり取りができないこと」とされる。
しかし私は、一方通行型メディアの問題点は「消費者が受け取った情報を自分で解釈しなければならない」ことだと考える。自分に合うのか合わないのか、好きなのか嫌いなのか、正しいのか正しくないのか。こんなごく簡単なことでさえも、いったん「球を持たされる」ことに現在の若者は抵抗を覚える。
したがって、若い消費者にとってどんなに有益と思われる情報を提供したとしても、購買に結び付くとは限らない。むしろ、情報を提供すればするほど、意思決定からどんどん遠ざかる可能性すらある。
これは若者に限った話ではない。世代に関係なく、人は直感的に意思決定できたほうが楽だからだ。
レストランに行って、お店の人がおすすめメニューを紹介したときと、そのお店に連れて行ってくれた友だちが「これめっちゃ美味しかったよ」と言ったときの違いを想像してみてほしい。
前者の場合、あなたはいったんその情報を預かることになる。おすすめ料理の値段や店員さんの価値観など、多くのことを勘案して意思決定しなければならない。
それに比べて、後者の情報はより素直に受け止めるはずだ。友だちの価値観が自分と近い場合は特に、迷う余地はなくなる。
心理学では、お店の人からの情報は「自分たち(経営側)の都合のいいように編集されているのではないか」と考えるバイアスの存在を指摘している。もちろんそれもあるだろう。しかし私は、今はむしろ自分で決めるストレスが大きく影響していると考えている。
プラス、今の若者はSNSネイティブであり、直感的に決めることに抵抗もない。
SNSに投稿されている消費体験やインフルエンサーの情報は、こちらに球を投げかけてこない。いったん持ち帰り、熟慮し、自分で意思決定せよ、のプロセスがない。見たそのままの感覚で、自分で決めたというストレスなしに、購買に至ることができる。現在の若者は、自分で決めることにそのくらい抵抗がある。
※本稿は、『先生、どうか皆の前でほめないで下さい――いい子症候群の若者たち』(東洋経済新報社)の一部を再編集したものです。

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