正しい情報を求めすぎ? 「虚構新聞」信じた学生も…日本ファクトチェックセンター設立から3カ月 存在意義と成果は

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たびたび世間を騒がせているネットのフェイク情報。例えば「ワクチンにはマイクロチップが入っている」、Qアノンの主張する「トランプ前大統領は救世主」など。最近ではアメリカ・ペロシ下院議長の自宅が襲撃された事件をめぐりイーロン・マスク氏が「根拠なし」の記事を引用、拡散し問題になった。また、日本でも静岡県の水害とするTwitterのフェイク画像が騒動となった。
【映像】静岡県の水害? 「マジで悲惨」拡散されたフェイク画像 日本でもおよそ3カ月前、情報の真偽を検証し、ネットの言論空間の健全性を維持することを目的に、日本ファクトチェックセンター(JFC)が誕生した。まだまだファクトチェック文化が未熟な日本。ニュース番組「ABEMA Prime」では、今後の課題について議論を行った。

発足して3カ月、日本ファクトチェックセンター編集長の古田大輔氏は「今40本だ。この3カ月間は日本で最もファクトチェックの記事を出した期間になる」と話す。「ただ、これは『JFCがすごい』ということではない。むしろ、日本のファクトチェックが世界と比べてここまで遅れてしまったことをよく示している。僕ら自身はまだまだ小さい。始まったばかりで改善すべきところがたくさんある」 古田氏によると、もともとの議論は2020年にあった総務省の有識者会議から始まっているという。「今ネット上で広がっている偽情報・誤情報にどのような対策を取るのか。例えば法律で規制する国もある。でも、日本においては法律で規制すると表現の自由や報道の自由に対する足枷になりかねない。だから民間で取り組もうという議論があった。そこからセーファーインターネット協会を中心としてプラットフォームの対策の委員会を作った。そこで2年間議論をして出てきた結論が、みんなで支援をしてファクトチェックセンターを作ろうだった」 日本ファクトチェックセンターは、Googleやヤフーが2億円を超える支援を行い、誕生した。なぜ民間企業が支援する形になったのか。「ファクトチェックはお金にならない。もし検証した情報が有料だったら、嘘の情報のほうが無料なので拡散されてしまう。だから、無料でやらないといけない。かつ広告を載せるのも難しい。ファクトチェックのコンテンツがたくさん読まれてお金を稼げるのかというと稼げない。逆に大手のスポンサー企業からお金をドンともらって、資本をドンと入れてもらってやっても影響が大きいから、公平さが保てなくなる。今回我々はGoogleさんとヤフーさんのお金が入っているが、これは寄付で、資本関係ではない。世界中に300を超えるファクトチェック団体があるが、みんなお金で苦しんでいる。その中でお金を安定的に得ながら、かつ独立した組織を作るにはどうしたらいいのか。2年間議論を重ねたうえでできた形がこれだ」 元朝日新聞記者、ニコニコニュースやDANROの編集長を歴任した関西大学特任教授の亀松太郎氏は日本ファクトチェックセンターの活動をどのように評価しているのだろうか。 亀松氏は「やっていること自体は非常にすばらしいことだと思う」としたうえで「名前が良くない」と指摘する。「『日本ファクトチェックセンター』だと、全てを包括的にチェックする機関のように見えてしまう。実際、発足直後に炎上的なことが起きた。その時の原因の1つは名前にあったのではないか。先ほど40本というお話があったが、たしかに日本のファクトチェックの団体としては非常に多いかもしれない。ただ、日々流れている偽情報・誤情報の数からしたら圧倒的に少ない。あと何よりも、この団体はGoogleやヤフーというプラットフォームが中心となっているセーファーインターネット協会が設立した団体だ。対象も基本的にプラットフォームの情報に限定する。もう少し限定的な名前にした方が誤解されなかったのではないか」 取り上げる記事はどのような基準で選んでいるのだろうか。 古田氏は「基準は本当に難しい。間違った情報はたくさん流れている。その中でどれを選ぶのか、正解はない」という。「ファクトチェックで一番難しいのは『何をファクトチェックするか選ぶこと』と言えるくらい難しい。明確な基準はないが、編集部では『広さと深さと近さを考えよう』と僕は言っている。もともとWebライターのヨッピーさんに倣った言葉だ。広さは影響範囲だ。例えば港区に関する話題と東京都に関する話題があったら、どちらを先にやるか。影響範囲が広いので東京都だろう。深さは、例えば風邪に関する情報とコロナに関する情報が流れていたら、どちらを先に検証するか。コロナだろう。イギリスに関する話題と日本だったらどちらか。日本だ。まず、広さ・深さ・近さの3軸から考える。例えばTwitterで2000リツイート、5000いいねいったら、そのツイートが数十万人に見られている基準になる。その数十万人が間違ったものを見ているのであれば、検証する。そういう感覚だ」 取り上げられた40本のラインナップを見た亀松氏は「だいたい3分の1が新型コロナ関係だ」と指摘。その上で「特にワクチンに関するチェックが多い。もちろん重要だというのは分かる。一方で、40本の中に旧統一教会絡み、あるいは山上徹也容疑者に関するものは1本もない。今、世間を騒がせているニュースはいろいろあるが、なぜコロナもしくはワクチンに偏っているのか」と質問した。 古田氏は「世界的にワクチンに関する誤情報が再び増えている。定点調査をするために、LINEのオープンチャットやTelegramで誤情報を拡散させる人たちのグループに入っているが、数が激増している。これは何とかしないといけない。実際に今、日本だけではなく世界でもワクチンのブースターショットに対して拒否感を覚える人たちがすごく増えている。『副反応がきついので受けたくない』という人がいるのは、自由だし、個々人の判断だ。しかし、その決断に対して『ワクチンは毒だ』と言う人たちが多く、今も増えている。そこは力を入れてやりたいと思っている」と答える。「我々は、一般の方でも『検証して欲しいものがあればお寄せください』と言っている。基本的には私たちで選ぶが、そういう意見を参考にすることもある。『旧統一教会を避けていた』ということは全くない。もっと多様なものを取り上げるべきというのは本当にその通りだ。旧統一教会だけではなく、さまざまな問題に関して取り上げたいと思っている。ぜひ編集部内でもまた話し合いたい」 亀松氏は「多くの人が絶対的に正しい情報を求めすぎているのではないか」と指摘。「むしろ、情報は『間違っている場合が多いもの』を前提に受け取るべきではないか」と述べる。「大学で学生に『虚構新聞』という嘘しか載っていない新聞の記事を見せて『これについて論評しなさい』と課題を出したことがある。そうしたら学生は、一生懸命その記事を読んで論評してきた。明らかに文章もおかしくて、見出しに虚構新聞と書いてあるのに、多くの学生がその内容を信じた。関西大学という関西の有名私立大学で、知的能力も高いのに、普段しっかりした人ですら見抜けない。『学校の先生も間違ったことを教えるよ』ということを教えないといけない。当然、新聞にも間違いはある。僕はこれがすごく重要だと思う」 国によって歴史や事実に対する見方が変わるが、国際ニュースを扱うときはどのように、どのような立場でファクトチェックをするのか。 新聞記者時代、海外特派員などを経験してきた古田氏は「もちろん人によって見え方が違う歴史はあるが、検証できる事実もある」と話す。「例えば分かりやすい事例は、ウクライナ侵攻だ。ブチャで虐殺事件が起こって、ロシア軍が撤退した後に死体が散乱していた。それに対してロシア軍に批判が起こったとき、ロシア側は『でっち上げだ。我々が撤退するまでは遺体はなかった』と言った。その後に世界中のメディアが検証を始めて、ニューヨーク・タイムズやBBCが衛星写真を使って、ちゃんとロシア軍がいたときから遺体が道路上にあったと証明した。その後、監視カメラの映像や住人が撮っていた動画もあわせて、ロシア軍のどの部隊が虐殺したかまで明らかにした。これこそが調査であり検証だ。これは人によって見え方が違うなんて話ではない。人それぞれが持っているストーリーには人の解釈があるので、それを我々がチェックすることはない。ただし事実は事実だから、その部分はチェックする。まずは検証できるところからやっていきたい」(「ABEMA Prime」より)
日本でもおよそ3カ月前、情報の真偽を検証し、ネットの言論空間の健全性を維持することを目的に、日本ファクトチェックセンター(JFC)が誕生した。まだまだファクトチェック文化が未熟な日本。ニュース番組「ABEMA Prime」では、今後の課題について議論を行った。
発足して3カ月、日本ファクトチェックセンター編集長の古田大輔氏は「今40本だ。この3カ月間は日本で最もファクトチェックの記事を出した期間になる」と話す。
「ただ、これは『JFCがすごい』ということではない。むしろ、日本のファクトチェックが世界と比べてここまで遅れてしまったことをよく示している。僕ら自身はまだまだ小さい。始まったばかりで改善すべきところがたくさんある」
古田氏によると、もともとの議論は2020年にあった総務省の有識者会議から始まっているという。
「今ネット上で広がっている偽情報・誤情報にどのような対策を取るのか。例えば法律で規制する国もある。でも、日本においては法律で規制すると表現の自由や報道の自由に対する足枷になりかねない。だから民間で取り組もうという議論があった。そこからセーファーインターネット協会を中心としてプラットフォームの対策の委員会を作った。そこで2年間議論をして出てきた結論が、みんなで支援をしてファクトチェックセンターを作ろうだった」
日本ファクトチェックセンターは、Googleやヤフーが2億円を超える支援を行い、誕生した。なぜ民間企業が支援する形になったのか。
「ファクトチェックはお金にならない。もし検証した情報が有料だったら、嘘の情報のほうが無料なので拡散されてしまう。だから、無料でやらないといけない。かつ広告を載せるのも難しい。ファクトチェックのコンテンツがたくさん読まれてお金を稼げるのかというと稼げない。逆に大手のスポンサー企業からお金をドンともらって、資本をドンと入れてもらってやっても影響が大きいから、公平さが保てなくなる。今回我々はGoogleさんとヤフーさんのお金が入っているが、これは寄付で、資本関係ではない。世界中に300を超えるファクトチェック団体があるが、みんなお金で苦しんでいる。その中でお金を安定的に得ながら、かつ独立した組織を作るにはどうしたらいいのか。2年間議論を重ねたうえでできた形がこれだ」
元朝日新聞記者、ニコニコニュースやDANROの編集長を歴任した関西大学特任教授の亀松太郎氏は日本ファクトチェックセンターの活動をどのように評価しているのだろうか。
亀松氏は「やっていること自体は非常にすばらしいことだと思う」としたうえで「名前が良くない」と指摘する。
「『日本ファクトチェックセンター』だと、全てを包括的にチェックする機関のように見えてしまう。実際、発足直後に炎上的なことが起きた。その時の原因の1つは名前にあったのではないか。先ほど40本というお話があったが、たしかに日本のファクトチェックの団体としては非常に多いかもしれない。ただ、日々流れている偽情報・誤情報の数からしたら圧倒的に少ない。あと何よりも、この団体はGoogleやヤフーというプラットフォームが中心となっているセーファーインターネット協会が設立した団体だ。対象も基本的にプラットフォームの情報に限定する。もう少し限定的な名前にした方が誤解されなかったのではないか」
取り上げる記事はどのような基準で選んでいるのだろうか。
古田氏は「基準は本当に難しい。間違った情報はたくさん流れている。その中でどれを選ぶのか、正解はない」という。
「ファクトチェックで一番難しいのは『何をファクトチェックするか選ぶこと』と言えるくらい難しい。明確な基準はないが、編集部では『広さと深さと近さを考えよう』と僕は言っている。もともとWebライターのヨッピーさんに倣った言葉だ。広さは影響範囲だ。例えば港区に関する話題と東京都に関する話題があったら、どちらを先にやるか。影響範囲が広いので東京都だろう。深さは、例えば風邪に関する情報とコロナに関する情報が流れていたら、どちらを先に検証するか。コロナだろう。イギリスに関する話題と日本だったらどちらか。日本だ。まず、広さ・深さ・近さの3軸から考える。例えばTwitterで2000リツイート、5000いいねいったら、そのツイートが数十万人に見られている基準になる。その数十万人が間違ったものを見ているのであれば、検証する。そういう感覚だ」
取り上げられた40本のラインナップを見た亀松氏は「だいたい3分の1が新型コロナ関係だ」と指摘。その上で「特にワクチンに関するチェックが多い。もちろん重要だというのは分かる。一方で、40本の中に旧統一教会絡み、あるいは山上徹也容疑者に関するものは1本もない。今、世間を騒がせているニュースはいろいろあるが、なぜコロナもしくはワクチンに偏っているのか」と質問した。
古田氏は「世界的にワクチンに関する誤情報が再び増えている。定点調査をするために、LINEのオープンチャットやTelegramで誤情報を拡散させる人たちのグループに入っているが、数が激増している。これは何とかしないといけない。実際に今、日本だけではなく世界でもワクチンのブースターショットに対して拒否感を覚える人たちがすごく増えている。『副反応がきついので受けたくない』という人がいるのは、自由だし、個々人の判断だ。しかし、その決断に対して『ワクチンは毒だ』と言う人たちが多く、今も増えている。そこは力を入れてやりたいと思っている」と答える。
「我々は、一般の方でも『検証して欲しいものがあればお寄せください』と言っている。基本的には私たちで選ぶが、そういう意見を参考にすることもある。『旧統一教会を避けていた』ということは全くない。もっと多様なものを取り上げるべきというのは本当にその通りだ。旧統一教会だけではなく、さまざまな問題に関して取り上げたいと思っている。ぜひ編集部内でもまた話し合いたい」
亀松氏は「多くの人が絶対的に正しい情報を求めすぎているのではないか」と指摘。「むしろ、情報は『間違っている場合が多いもの』を前提に受け取るべきではないか」と述べる。
「大学で学生に『虚構新聞』という嘘しか載っていない新聞の記事を見せて『これについて論評しなさい』と課題を出したことがある。そうしたら学生は、一生懸命その記事を読んで論評してきた。明らかに文章もおかしくて、見出しに虚構新聞と書いてあるのに、多くの学生がその内容を信じた。関西大学という関西の有名私立大学で、知的能力も高いのに、普段しっかりした人ですら見抜けない。『学校の先生も間違ったことを教えるよ』ということを教えないといけない。当然、新聞にも間違いはある。僕はこれがすごく重要だと思う」
国によって歴史や事実に対する見方が変わるが、国際ニュースを扱うときはどのように、どのような立場でファクトチェックをするのか。
新聞記者時代、海外特派員などを経験してきた古田氏は「もちろん人によって見え方が違う歴史はあるが、検証できる事実もある」と話す。
「例えば分かりやすい事例は、ウクライナ侵攻だ。ブチャで虐殺事件が起こって、ロシア軍が撤退した後に死体が散乱していた。それに対してロシア軍に批判が起こったとき、ロシア側は『でっち上げだ。我々が撤退するまでは遺体はなかった』と言った。その後に世界中のメディアが検証を始めて、ニューヨーク・タイムズやBBCが衛星写真を使って、ちゃんとロシア軍がいたときから遺体が道路上にあったと証明した。その後、監視カメラの映像や住人が撮っていた動画もあわせて、ロシア軍のどの部隊が虐殺したかまで明らかにした。これこそが調査であり検証だ。これは人によって見え方が違うなんて話ではない。人それぞれが持っているストーリーには人の解釈があるので、それを我々がチェックすることはない。ただし事実は事実だから、その部分はチェックする。まずは検証できるところからやっていきたい」
(「ABEMA Prime」より)

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