著名な社会学者が、勤務先の大学キャンパス内で襲われた事件。発生から、1カ月余りが経過したが、未だに、容疑者逮捕に至っていない。防犯カメラに映った、あのニット帽の男は、どこへ消えたのか。
去年11月29日火曜日、午後4時17分ごろ。東京都立大学のキャンパスで事件は起きた。「凶器を使用した傷害事件が発生しました。犯人はいずれかの方向に逃走しています」。これは警視庁が地域の防犯・安全のために配信しているメールの内容だ。
第一報の段階では、被害者は誰なのか、情報が錯綜していた。ただ、被害者が大学職員とみられるという話は耳に入っていた。キャンパス内での通り魔的な犯行なのか。その後、「切られたのは教授の宮台真司さん。重傷で病院に搬送」という情報が舞い込み、事件の見立てが大きく変わってくることになる。
宮台さんは、男に、首や頭などを切りつけられ、腕などには身を守る際にできる防御創が、多数、残されていた。全治6週間の重傷。手術は2日間であわせて6時間ほどを要したという。執拗に切りつけられているところからすると、動機は怨恨なのか。はたまた言論に対する暴力なのか。
宮台さんは、逃走中の男について、「面識はない」と説明しているという。”言論人”として知られる宮台さんだけに、これまでにも、度々、殺害予告などを受けてきたとのこと。男は何を思い犯行に及び、どこに逃走したのか。
そんな中、警視庁捜査一課は、事件から14日目の12月12日に公開捜査に踏み切った。防犯カメラに映っていたのは、マスク姿に、オレンジ色のニット帽を被り、黒っぽいリュックにジャージ姿の男。
犯行後、男は、現場近くの門ではなく、その横にある植え込みを抜け、住宅街に消えていったという。大学の門を通らず、”裏道”を使ったことになる。
現場は八王子市の都立大学(旧首都大学東京)の南大沢キャンパス。京王相模原線・南大沢駅を出てアウトレットを抜けたところにある。敷地は東京ドーム約9個分と広大で、筆者は大学時代に部活動の練習試合で訪れたことがあるが、その際も、グラウンドまで道に迷った経験がある。
そんな場所でも、容疑者の男は、現場の近くの門の場所を把握し、通りぬけることができる”裏道”まで知っていたことになる。捜査関係者も「土地勘があり、以前にも出入りしていた可能性がある」と指摘する。初めてこのキャンパスに来て、突発的に、犯行に及んだ訳ではないだろう。
事件の数時間前には、キャンパス内の防犯カメラに、特徴の似た男が、宮台さんが授業を行う予定の施設の方に向かって歩いて行く姿が映っていたという。男が、用意周到に、襲撃計画を練っていた可能性が高いとみるのが自然だ。
そして男は今どこにいるのか。公開捜査の開始当初、捜査関係者は、「マスク姿とは言え、目元が分かり、180センチ以上という大柄な体格で、知人ならば、すぐに分かるだろう」と情報提供に期待をよせていた。
ところが、これまでに200件以上の情報が寄せられているものの、犯人の特定につながるような手がかりはないという。
事件捜査にとって”最大の武器”となっている防犯カメラも、これまで威力を発揮していない。去年、東京・赤羽の高齢者施設で起きた殺人事件で、捜査一課は、防犯カメラのリレー捜査などの末、容疑者の男を、北海道まで追跡。スピード逮捕に至った。ところが、今回の事件では事情が違うという。
現場周辺は、まさに”郊外”と言える地域で、都心と比べて、防犯カメラの数が圧倒的に少ないという。実際、現場周辺を取材すると、商店なども少なく、住宅街に入ってしまうと防犯カメラは、ほとんど見当たらない。
さらに防犯カメラに映っていたとしても、すでに暗くなっていたり、カメラの型が古く、鮮明な画像が残されていないそうだ。また自転車で逃走している可能性もあり、予想もしない場所に逃走しているかもしれない。
ある捜査関係者は、「防犯カメラがなければ捕まらないと思われたくない」と解決に向けた決意を口にした。事件の真相を明らかにするため、そして宮台さんが安心して外出、言論活動ができるようになるためにも、容疑者の逮捕が待たれる。【情報提供:警視庁南大沢警察署042-653-0110】
(フジテレビ社会部・警視庁担当 山口祥輝)