【専門医が解説】失神、心筋虚血、腎機能低下…命にかかわる危険な「低血圧」が日本で増加している理由

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お昼の情報番組『ミヤネ屋』(日本テレビ系)の生放送中、レギュラーコメンテーターとして出演していた亀井正貴弁護士の呂律がまわらなくなり、MCの声かけにも反応できなくなって退出。スタジオに緊張が走った。後に明かされた原因は「低血圧」だった。
「少し休めば治る体調不良」と軽く見られがちな低血圧だが、医療現場の見方はまったく異なる。
五良会クリニック白金高輪理事長の五藤良将医師は「血圧低下は脳や心臓、腎臓への血流が不足する危険な状態です。失神や転倒、最悪の場合は命に関わることもあります」と警鐘を鳴らす(以下、「」は五藤医師)。
一般的に血圧は「高いと危険、低いぶんにはよい」と思われがちだ。近年は予防医学の観点から、より厳格に血圧を管理する流れが強まっている。だが、臨床の現場では、下がりすぎた血圧こそ救急対応が必要になるケースが少なくない。
「一過性なら、立ちくらみや倦怠(けんたい)感で済むこともあります。しかし、低血圧が持続すると失神による転倒や骨折、心筋虚血、腎機能低下など、深刻な事態につながります。特に高齢者では、骨折をきっかけに寝たきりになることもあります」
血圧は全身の臓器に血液を届ける圧力だ。下がりすぎれば、生命維持そのものに影響する。なぜ今、低血圧に陥る人が増えているのか? 大きく3つの要因があるという。
「近年、高血圧治療では130/80mmHg未満を目標とするケースが増えています。脳卒中や心筋梗塞予防には有効ですが、高齢者ややせ型の方、腎機能が低下している方だと、薬が効きすぎることがあります」
五藤医師はこう続けた。
「高齢者は血管のしなやかさが低下し、臓器へ血液を送り出す力も弱くなっています。そのため、上の血圧が110mmHgや100mmHg程度でも、人によっては脳や腎臓、筋肉などに必要な酸素や栄養が十分に届かなくなることがあります。数字だけ見て安心とは言えません」
「高齢になると喉の渇きを感じにくくなります。そこに室内の乾燥、発汗、食欲低下、利尿薬の服用などが重なると、本人が気づかないうちに体液量が減ってしまう。すると循環する血液量が減り、血圧も下がりやすくなります。夏だけでなく、春や冬にも脱水は起こる。喉が渇いてから水分をとるのでは遅いのです」
「糖尿病の罹病歴が長い方、パーキンソン病の方、長期臥床(ちょうきがしょう。入院などで長期間ベッドなどに横たわっている状態)後の方は、立ち上がった瞬間の血圧を保つ調整機能が弱くなります。その結果、起立性低血圧が起こりやすくなります」
朝起きた直後や、トイレで立ち上がった瞬間の転倒事故が少なくないという。
「高齢者には、食事後に消化管へ血液が集まって全身の血圧が下がってしまう食後低血圧も珍しくありません。食後の強い眠気やふらつきは要注意です」
近年の高血圧治療で重視されているのが、早朝に血圧が急上昇する「モーニングサージ」の抑制だ。起床前後は交感神経が活発になり、脳梗塞や心筋梗塞が起こりやすい時間帯とされる。
「早朝の血圧上昇を抑えることは重要です。しかし、薬を強めると今度は日中や夜間に血圧が下がりすぎるという問題が起こります」
血圧が下がりすぎた結果、日中のふらつき、食後の強い眠気、夜間トイレ時の転倒、明け方の立ちくらみが起きる。
「現代の高血圧治療は“朝は下げたい”、でも“夜は下げすぎたくない”という綱渡りなのです」
主流となっているのは、ARB(血管を収縮させるホルモンの働きを抑えて血圧を下げる薬)、Ca拮抗薬(血管を広げて血圧を下げる薬)、利尿薬(余分な水分や塩分を輩出して血圧を下げる薬)などを併用する治療だ。
心不全や慢性腎臓病の患者だと、ここにSGLT2阻害薬(尿に糖水分を出し、心臓や腎臓を守る薬)やMRA(体内に塩分と水分を貯めこませるホルモンの働きを抑え、心臓や血管の負担を減らす薬)が加わることもある。
「たしかに血圧管理の精度は向上しましたが、裏を返せば複数の作用で一気に血圧が下がるリスクもあります。特に、利尿薬+SGLT2阻害薬+猛暑日の発汗は注意が必要です」
以下の症状が見られた場合、単なる疲れと決めつけてはいけない。
・立ちくらみ
・冷や汗
・視界が白くなる、狭くなる
・食後の強い眠気
・朝起きた瞬間に倒れそうになる
・意識が遠のく感じがある
「低血糖や不整脈と見分けがつきにくいこともあります。一度でも失神しかけた経験がある方は早めに受診してください」
五藤医師が勧める予防の基本は次の通りだ。
・起床後1時間以内と就寝前に血圧を測る
・上の血圧が100mmHg未満の日が続けば相談
・こまめな水分補給(1日1.2~1.5L目安)
・急に立ち上がらない
・食後30分~1時間は無理に動かない
・極端な減塩・低栄養を避ける
疲れやすい、朝がつらい、食後に眠くなる–そんな不調を年齢のせいにしている人は多い。しかし、その背景に危険な低血圧が潜んでいることもある。
五藤医師は最後にこう語る。
「高血圧ばかり気にされますが、下がりすぎもまた危険です。特に薬を飲んでいる方、高齢の方は一度見直してほしいですね」
血圧は、高いだけでなく低すぎても危険。その常識が、これからの日本ではますます重要になりそうだ。

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