誰もが疲れ果て、一刻も早く目的地へ着きたいと願う混雑した電車内。そんな余裕のない空間では、ちょっとした配慮が救いになる一方で、非常識なマナー違反が激しい衝突を招くことも少なくありません。
日本民営鉄道協会の最新調査「2025年度 迷惑行為ランキング」では、1位の「周囲に配慮せず咳やくしゃみをする(34.7%)」が前年の50.5%から減少する一方で、スマホの操作や荷物の持ち方への不満が上昇するなど、車内マナーへの関心は移り変わりを見せています。
お腹の張りが気になっていたため、できるだけ安静にしていたかったという。
「電車が駅に止まる度に乗客が増えて、少しずつ混雑していきました。そんな中、『苦しい……助けてください』という細い声が聞こえました」
近田さんは顔を上げ車内を見渡した。すると、20代くらいの男性が、座席の前をゆっくり歩きながら訴えていたのだ。男性は野暮ったい服装に、気の弱そうな顔つきをしていた。
立っている人の視線はスマートフォン。座っている人は目を閉じている状況だったそうだ。そして、その男性はふらふらと歩きながら、ついに優先席の前にきた。
「他の席にはサラリーマンたちが座っていました。見る限り健康そうな人で、妊婦の私だけが“優先席に座る理由がはっきりとわかる”感じだったんです。でも、誰も席を譲りませんでした」
少し迷った近田さんだったが、その男性に「座りますか?」と声をかけた。
◆席を譲り、ずっと立ち続けることに…
しかし、厚生労働省の検討会報告書や東京都の施策資料等でも、当事者から「マークを付けていると嫌がらせを受けた」「舌打ちをされた」といった声が課題として報告されています。本来、安心を与えるためのシンボルが、時にトラブルを招く不安要素になっているという悲しい実態があるのです。