「捕まってよかった……」──愛知県郊外のとあるマンションの一室。パソコンの画面に向かい、テレビ番組 の映像編集作業に励むのは岡崎さん(20)。
【写真】現在ワンルームで同居している2人、罪と向き合う少年に当時の心境をインタビュー
一心不乱に働く彼にとって、映像の仕事は1年ぶり。そんな彼は昨年末、少年院から出所したばかりだった──。
現在、岡崎さんは家賃3万5000円の六畳一間のワンルーム に身を寄せている。世帯主は映像制作会社の社長であり、彼の上司でもある林龍太郎氏(55)。親子ほど年の離れた2人は、今年2月から同居生活を送っている。
上司と衣食住をともにする岡崎さんは、周囲の人の信頼を裏切り続けた過去がある。なぜ、林氏は裏切られても彼を映像制作者として雇うのか。2人を直撃すると、意外な答えが返ってきた──。
2人の出会いは2023年9月、愛知県内の少年院だった。当時17才の岡崎さんは店舗荒らしや空き巣を繰り返し、2度目となる少年院に入っていた。
林氏はお笑いコンビ「ガッポリ建設」の室田稔(コンビは昨年末に解散。現在は個人で活動中)として活動する一方、約10年前に東京から愛知県に移住し、ケーブルテレビ局「稲沢CATV」(2025年4月に独立)に勤務。地上波のレギュラー番組やBSよしもとで放送されている『ビスケットブラザーズの行けばわかるさ! ~三重街道中ひざくりげ~』などを制作。岡崎さんはテレビの制作現場で働くことを希望し、少年院の出所を間近に控えていた際に採用面接を受けた。採用を決めた理由を林氏が語る。
「今の若い人たちは採用してもすぐに辞めていってしまうので、荒波に揉まれてさまざまな経験をしてきた彼なら大丈夫ではないかと思いました。大きな声で挨拶もできたので、いいなと。
過去といえども窃盗を犯した非行少年を迎え入れることに、局内で反対の声もあがりましたが、会社や従業員らに説明して採用しました。本人の映像の仕事をしたいという意思もあり、弁済金の返済のために銀行口座を私が管理し、1年間スマホを持たせないなど、厳しい環境に身を置いて悪い仲間たちとの関係を断ち切らせたいとも思いました」
2023年10月、岡崎さんは17歳でケーブルテレビ局に正社員として入社した。人当たりのよさで街頭インタビューやカメラ機材も器用に使いこなし、仕事の覚えは早かった。従業員らとも打ち解け、社会人生活も慣れてきた頃、事件が起きた。林氏が振り返る。
「彼が約束を破って無断でスマホを持っていることがわかりました。嫌な予感がして『おまえ、自分の口座からお金を引き出したりしていないよな?』と問いただすと、100万円以上を引き出していたことを認めたんです。
そのスマホを売って弁済に回せと言っても『嫌です』というので、『いい加減にしろ!』と、ボコボコにしました」
非行少年だった岡崎さんと、彼を支える林氏を追い続けたドキュメンタリー番組『盗るな 撮れ~罪と少年とケーブルTV~』(CBCテレビ)は、2024年5月に放送され、ギャラクシー賞の奨励賞を受賞 した。それから月日が経ち、林氏と岡崎さんには新たな展開が待ち受けていた。
入社から約1年後、岡崎さんはケーブルテレビ局を退社していた。当時の心境を岡崎さんが明かした。
「慣れない仕事で忙しく、厳しい環境でちょっと気持ち的に落ちていたこともあって、休みの日も家から出られなくなっていました。会社に行きたくないっていう気持ちが強くなり、それがきっかけで2024年の秋にテレビ局を辞めました。それから働かずに友達と遊んでたんですけど、友達についていってホスト体験もしました。1日に2時間入るだけで1万円もらえたりするので驚きました」
別世界だったホスト仕事も長続きはせず、10回ほど出勤して辞めた。
「無収入の状態が続いて、家賃も払えないし、明日の食事もどうしようというカツカツの状況になっていました。どうしようと考えたときに、自分のなかで一番手っ取り早かったのが窃盗でした。
息詰まった生活に耐えられなくなって再び盗みをして捕まりました。すごく迷惑をかけた林さんのことが思い浮かび、申し訳ないなと思いました」(岡崎さん)
3度めの逮捕──。少年院では朝7時に起床し、長期の11か月間、自身と向き合った。林氏は離れていく岡崎さんをあえて止めなかった理由を明かした。
「辞める少し前から、彼の行動がちょっと乱れ始めてるなっていうのは感じてたんですよ。いろいろ声はかけてみたけど、やっぱり若いから楽しい方に行こうとしていて、彼の生き方も尊重しなければいけないし、それを無理に止めることはできなかった。
でも、人生はそんなに甘くないから、やれるもんだったらやってみろっていう気持ちで、突き放しました。少年院から出た人には保護司がつくんですが、その方から彼が『捕まりましたよ』って聞いて、やっぱりと思いましたけど」
2024年12月22日、林氏のもとに一通の手紙が届いた。差出人は岡崎さんだった。
《どうしていいのかわからず茫然としています。もう諦められるなら諦めたいです。でも、この先も窃盗を続けるのも嫌なので、諦められないです(略)まだ、働いてスマホを持たず貯金を使っていないときは、ちゃんとやれていたと思います。それは稲沢CATVで働いていたからだと思います。林さんとかの協力が大きかったと思っています。仕事自体は今までで一番やりがいがありました》
彼の直筆で後悔やお詫びの言葉が綴られていたが、手紙を受け取った林氏は「まだ反省してないと思って手紙を読んでも何も感じなかった」と語った。だが、少年院から出所した岡崎さんに再び手を差し伸べたのは、林氏だった。
「彼を慈善事業やボランティアで見ているつもりはないです。彼はあの若さで社交的に話せて、テキパキしているし、泥棒だったからか、機械の作業も手先が器用なんですよ。能力も高くて自分よりも上のものを持っていから、評価してるんです。期待はしているんですけど、彼自身は若くて自分の実力の使い方もわかってないだろうから、それをいい方向に導いていければと思います。
一緒に生活をするなかで彼が『あまり知られていないけど、少年院の9割は家庭環境に問題がある子が多いんです』と話してくれたこともあって、以前よりも心の距離は近づいたと思います。次に何か罪を犯したときは、刑事事件として累犯で5年近く刑務所に入れられてしまう可能性があるそうで、もう捕まってほしくはないですね」
2人が出会って2年半、岡崎さんが林氏への思いを明かした。
「今は逮捕されてよかったと思っています。捕まっていなかったら、罪を重ねていたかもしれません。林さんには、僕が窃盗を犯してからも声をかけてもらったりとか、見捨てないで気にかけてくれるところは、本当にありがたいなと思っています。
上司でもあるんですけど、人との関りを大切にしている方で尊敬もしていますし、生活でも結構関わってるんで、まあ、父親みたいな存在でもあります。僕は実体験に基づいているドキュメンタリーが好きで、いつかそういったものを撮りたいなと思っています」
取材の最後、彼はこう語った。「もう盗りたくない」──。その言葉を信じたい。