ニュースのその先を考える記者解説。今回のテーマは、「2050年には1000万人死亡?サイレントパンデミックとは?」です。日本テレビ社会部・厚労省担当の雨宮千華記者が解説します。■死者数は全世界で年間1000万人にも――「サイレントパンデミック」…聞き慣れないですがどういうことでしょうか?直訳だと「静かな大流行」となりますが、実はいま、感染症にかかったときなどに処方される「抗菌薬」が効かない細菌、つまり薬の力に耐える性質をもった、「耐性菌」というのが世界中でじりじりと増えているんです。
身近な例をあげると、こどもを中心に激しいせきが続く「百日せき」。去年、日本では感染者数が過去最多となりましたが、専門学会の調査で、採取した百日せき菌のうち、およそ8割がこの「耐性菌」だと判明しました。「耐性菌」に感染した赤ちゃんが薬が効かず、死亡するケースも起きています。いま、「百日せき」に限らず、様々な細菌の「耐性菌」が世界中で増えていて、仮にこのまま対策をとらなかった場合、2050年の「耐性菌」による死者数は全世界で年間1000万人にのぼるといわれています。これはがんの死者数より多く“ひそかな感染の拡大”という意味で「サイレントパンデミック」と呼ばれているんです。■一部の病原菌が薬に打ち勝つため変化――なぜ「耐性菌」が増えているのでしょうか。大きな理由は、「不適切な抗菌薬の使用」です。病気にかかった私たちの体内には無害な細菌もたくさん存在していますが、病原体となる細菌が入り込んでいます。病原菌退治のため抗菌薬を飲みますが、このとき実は、無害な細菌も一緒に退治してしまうんです。そして、抗菌薬を使っているうちに一部の病原菌が、薬に打ち勝つために変化することがあります。これが「耐性菌」です。周りの菌が減った環境では、体内の「耐性菌」は増えやすくなります。そして増えた「耐性菌」が人から人へ広がっていくというわけなんです。■“ムダに増やさない”ことが大切――では「耐性菌」を作らないためにはどうしたらいいのでしょうか。細菌も生き延びるため様々な工夫をしますから、「耐性菌」が生まれるのを完全に防ぐことはかなり難しいんです。そのため、“ムダに増やさない”ことが大切になります。例えばインフルエンザや単なるかぜなど、細菌ではなくウイルスが原因の病気なのに、抗菌薬を飲んで、耐性菌を作る機会を増やしたり、5日飲む薬を3日でやめると、病原菌が完全に退治されず、余計な耐性菌を生むことにつながります。薬を適切に飲むことが、余計な耐性菌を増やさないために重要なんです。■薬の開発には多大な労力とお金――「耐性菌」に勝てる新たな薬は開発されているのでしょうか。実は、製薬企業にとって、新たな「抗菌薬」の開発は儲けにつながりにくいという問題があります。まず、薬の開発には多大な労力とお金がかかります。抗菌性のある物質を探すのも大変ですし、一般に、開発には十年単位の時間がかかります。しかし、こんなにコストをかけて開発しても、薬はすぐには売れません。新たな「耐性菌」が生まれたときに備えて、その薬は大事にとっておきたいためです。また、売れる時がきてもいずれはそれに打ち勝つ「耐性菌」が生まれてしまうため市場に出せる期間も未知数となります。こうした理由から、開発のモチベーションを持てず、新たな開発をやめる企業が世界で相次いでいて、日本政府もいま、製薬会社への支援など、対策に乗り出しています。■薬を適切に服用を――雨宮さんがこのニュースで一番伝えたいことはなんでしょうか。それは、「自分たちの未来のために、薬を適切に服用する」です。この問題、健康なときには自分事として考えにくいかもしれないのですが、仮に薬の開発スピードが新たな耐性菌の出現に間に合わなければ、将来、人類は大きな危機に直面します。それを防ぐには、余計な耐性菌を生み出さないこと、つまり、薬は言われた日数を飲みきったり、ウイルスが原因の病気で「抗菌薬」を使わないなど、私たち一人一人の心がけが必要です。
ニュースのその先を考える記者解説。今回のテーマは、「2050年には1000万人死亡?サイレントパンデミックとは?」です。日本テレビ社会部・厚労省担当の雨宮千華記者が解説します。
――「サイレントパンデミック」…聞き慣れないですがどういうことでしょうか?
直訳だと「静かな大流行」となりますが、実はいま、感染症にかかったときなどに処方される「抗菌薬」が効かない細菌、つまり薬の力に耐える性質をもった、「耐性菌」というのが世界中でじりじりと増えているんです。
身近な例をあげると、こどもを中心に激しいせきが続く「百日せき」。
去年、日本では感染者数が過去最多となりましたが、専門学会の調査で、採取した百日せき菌のうち、およそ8割がこの「耐性菌」だと判明しました。
「耐性菌」に感染した赤ちゃんが薬が効かず、死亡するケースも起きています。
いま、「百日せき」に限らず、様々な細菌の「耐性菌」が世界中で増えていて、仮にこのまま対策をとらなかった場合、2050年の「耐性菌」による死者数は全世界で年間1000万人にのぼるといわれています。
これはがんの死者数より多く“ひそかな感染の拡大”という意味で「サイレントパンデミック」と呼ばれているんです。
――なぜ「耐性菌」が増えているのでしょうか。
大きな理由は、「不適切な抗菌薬の使用」です。
病気にかかった私たちの体内には無害な細菌もたくさん存在していますが、病原体となる細菌が入り込んでいます。
病原菌退治のため抗菌薬を飲みますが、このとき実は、無害な細菌も一緒に退治してしまうんです。
そして、抗菌薬を使っているうちに一部の病原菌が、薬に打ち勝つために変化することがあります。これが「耐性菌」です。
周りの菌が減った環境では、体内の「耐性菌」は増えやすくなります。
そして増えた「耐性菌」が人から人へ広がっていくというわけなんです。
――では「耐性菌」を作らないためにはどうしたらいいのでしょうか。
細菌も生き延びるため様々な工夫をしますから、「耐性菌」が生まれるのを完全に防ぐことはかなり難しいんです。
そのため、“ムダに増やさない”ことが大切になります。
例えばインフルエンザや単なるかぜなど、細菌ではなくウイルスが原因の病気なのに、抗菌薬を飲んで、耐性菌を作る機会を増やしたり、5日飲む薬を3日でやめると、病原菌が完全に退治されず、余計な耐性菌を生むことにつながります。
薬を適切に飲むことが、余計な耐性菌を増やさないために重要なんです。
――「耐性菌」に勝てる新たな薬は開発されているのでしょうか。実は、製薬企業にとって、新たな「抗菌薬」の開発は儲けにつながりにくいという問題があります。
まず、薬の開発には多大な労力とお金がかかります。
抗菌性のある物質を探すのも大変ですし、一般に、開発には十年単位の時間がかかります。
しかし、こんなにコストをかけて開発しても、薬はすぐには売れません。
新たな「耐性菌」が生まれたときに備えて、その薬は大事にとっておきたいためです。
また、売れる時がきてもいずれはそれに打ち勝つ「耐性菌」が生まれてしまうため市場に出せる期間も未知数となります。
こうした理由から、開発のモチベーションを持てず、新たな開発をやめる企業が世界で相次いでいて、日本政府もいま、製薬会社への支援など、対策に乗り出しています。
――雨宮さんがこのニュースで一番伝えたいことはなんでしょうか。
それは、「自分たちの未来のために、薬を適切に服用する」です。
この問題、健康なときには自分事として考えにくいかもしれないのですが、仮に薬の開発スピードが新たな耐性菌の出現に間に合わなければ、将来、人類は大きな危機に直面します。