「住みたい田舎」首都圏1位の市で何が…移住者たちが 市議が社長を務めた建設会社を集団提訴したワケ

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夢の田舎暮らしに、思わぬ落とし穴があった。
「私の家には検査済証がないから売ろうにも売れないし、宿泊施設などへ用途変更することもできない。親や親戚もいない移住先の欠陥住宅で暮らし、ストレスを抱えたままローンを払い続けるしかないのか……」
そう嘆くのは、9年前に千葉県いすみ市に移住した主婦Aさん(56)だ。東京で30年間バリバリ働いた後に「のんびりと新しい事業をやりながら、ゴルフをして過ごしたい」とセミリタイアの地として2017年4月に千葉県いすみ市に移住を決意した。6歳下の夫も一緒の新生活だ。
いすみ市は雄大な太平洋に面し、温暖な気候で冬の降雪がなく、海の幸にも恵まれており、『田舎暮らしの本』(宝島社)の「2025年版 住みたい田舎ベストランキング 総合部門」で首都圏エリア「第1位」に輝いている。いすみ市側も都心からの移住を推進し、市をあげて移住者を歓迎している。
当初、いすみに新たに建てる新居の設計・施工は、大手ハウスメーカーに依頼していた。だが、移住に先んじて購入した中古住宅のクロスの張り替えやウッドデッキを担当した地元の建設会社XのB社長(当時)から、Aさんは熱心に営業を受けていたという。
「僕はいすみの市議会議員だから一生、力になる」「ハウスメーカーは建てっぱなしになるが、地場の会社なら安心」
B社長の情熱にほだされてX社と契約。2022年4月、土地・建物込みで4900万円の自宅が完成した。同時期に新規事業用の物件の建築もX社に依頼していたが、「いずれの建物からも不具合や法令違反が次々と見つかりました」とAさんは嘆くのだった。
「たとえば設計図では20僂箸覆辰討い訐垢蠹擇実際には4僂靴なく、大雨が降るたびに隣の田んぼからの浸水に備えなければならなくなりました。あるはずの断熱材が入ってない箇所も複数、見つかりました。そのせいか、私の家は夏は暑く、冬は寒いのです。耐火用石膏ボードが未施工となっている箇所も確認されました」(Aさん)
一級建築士に新居の現地調査を依頼すると、完了検査未了、防火認定違反、図面との不整合などの問題点を指摘されたという。「市の条例で禁止されている蛇腹ダクトが設置されていたそうで、建築士が行政側に確認したら火災予防条例違反でした」とAさんは下を向くのだった。
2025年3月、Aさんは「違法建築・欠陥住宅 被害者の会」を設立。今年1月16日、「被害者の会」のメンバー3名が「法令違反や構造上の欠陥がある物件を建てられた」などとしてX社やB市議を相手どり、総額約3900万円の損害賠償を求めて千葉地裁に提訴した。今回の提訴で原告はAさんを含め4人と1法人の計5軒となった。
「単なる個人間の建築トラブルではありません。複数の被害者が存在し、地域の安全性、地方自治の在り方にも深く関わる重大な社会問題であると考えています。人口3万人の小さな街で声をあげることに不安を感じ、“事を荒立てたら、住みづらくなってしまう”と泣き寝入りしている人もいるのです。
私の自宅の場合、引き渡し後に行われる一年点検が行われず、自分たちで調査して欠陥や不具合が判明しました。調査結果を受けてX社から2024年6月に『きちんと直す』との説明がありましたが、その後、現地確認と協議を何度お願いしてもBさんは一度も現地確認に来ることはなく、話し合いも協議も行われませんでした。弁護士を通じて連絡しても、長期間返答がなかった。
12月にやむをえず、調査を担当した建築士と直接協議にうかがいましたが、『弁護士が入っているから話せない。帰ってください』と追い返されました。その後、解決金24万円を提示され、『納得できなければ裁判を』と連絡がありました。X社は2025年4月、私に対して債務不存在確認請求を提起しましたが、私が反訴すると取り下げました。夢の田舎暮らしが、悪夢の訴訟生活に一転したのです」(Aさん)
Aさんにとって一番の問題は、冒頭で触れたように検査済証が未取得であることだ。検査済証とは建築基準法に違反していないことを証明する書類。通常の手続きを踏めば引き渡しの際に発行されるべきものが、Aさんの家にはない。
「建築行政の不備で、引き渡し時を過ぎると検査済証は発行されず、法制上、後に再発行はできません。そうなると違反建築物と見なされ、転売も用途変更もできなくなる。検査済証のないAさんの自宅は違反建築物なので、増改築工事や改修工事、大規模リフォーム、リノベーションもできません」
そう指摘するのは、一級建築士で日本建築検査研究所の岩山健一氏だ。四半世紀にわたり、欠陥住宅の検査に当たってきた住宅検査のエキスパートの岩山氏は、集団訴訟に踏み切った5世帯の図面、検査済証および契約書すべてに目を通し、実際に物件の調査も行ったという。岩山氏が憤る。
「一般の人が確認しない天井裏の石膏ボードの未施工など、昭和の建売物件で見られた意図的な手抜きに近いものが散見されました。見えないところで建築資材を削り、カネを浮かそうとしたのではないか。B社長(当時)は現職市議でもあるのに、防火認定違反に火災予防条例違反と遵法精神が欠けている。酷い施工と言わざるを得ません」
訴訟団の弁護士を務める鬼束忠則氏が続ける。
「新規の移住者をカモにするかのような手口で、都心からの移住を推奨しているいすみ市としても、このような事例を野放しにすることは市の発展を阻害(そがい)し、評判を落とすことにつながる。いすみ市の信用にも関わる問題なので、行政の姿勢も問われます」
Aさんの主張、岩山氏らの指摘は事実なのか。顧客に集団提訴された事実をどう受け止めているのか。被告となったB氏はこう答えた。
「(今回提訴した3名は)8年前に建てた人たちなんですね。それ以外では苦情とかは一切、ありません。通常、問題があればまず当事者に連絡し、話し合いで解決をはかります。それでも決裂したときに訴訟となります。
しかし、今回は何の連絡もないまま、いきなり訴状が来て、(提訴の)会見なんですね。だから、こちらとしては話ができない。問題解決ではなく違う目的だと感じます。困惑しています」
ーー「手抜き工事をした」という指摘があるが?
「そういう話になると弁護士さんが入ってますので、答えられなくなります」
B氏の代理人、秋野卓生弁護士はフライデーデジタルの取材に書面で回答した。
新たに訴訟提起された3軒については、まだ訴状が届いておらず《見解を述べることはできかねます》としたうえで、先行するAさんとの訴訟については《指摘事項のいずれもが瑕疵に該当しないものと認識しており、その旨主張を行っております》と答えた。
例えば、Aさん宅で使われているダクトが「火災予防条例違反である」という指摘については《同条例の法令解釈に反するものであって認められるものではないものと考えています》と否定。Aさんの自宅の検査済証が未発行となっていることについても《主たる原因は、A氏側の事情に起因するもの》と反論した(書面内でA氏は実名)。
真っ向から食い違う双方の主張。取材の最後にAさんはこう呟いた。
「田舎で静かに暮らしたかっただけなのに。この街に移住してよかったのだろうか……と考えない日はありません」
いすみ市のHPには《幸せ、安心、笑顔あふれるまち いすみ》と記されている。Aさんをはじめとする移住者にその言葉はどう響いているのか。
取材・文:岩崎大輔

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